Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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余韻

 プラスチックを押し込む乾いた音がした。

 それは、押された状態で固定され数多の電子機器を作動させる。

 プロジェクターのレンズから光が生まれ映像を映し出した。

 映し出されたのは戦場の映像、大人が逃げ回る子供を追いかけ捕まえるかのように目に見えて力の差が理解出来てしまう。

 その映像を見つめる四人の人物は両目の瞳孔を開け情報を貪り食らう。

 プロジェクターのファンの音が支配する部屋の沈黙をはじめに破ったのは浅黒い肌に黒の混じった金髪の男、第65戦闘教導団インフィニティーズの小隊長、キース・ブレイザー中尉であった。

 

「さて、先のブラウエライター鎮圧任務で我々の代わりに大仕事を成した衛士の駆るラプターの記録映像を今我々は観賞中な訳だが、貴様達の意見を聞かせてくれないか?」

 

 キース・ブレイザー中尉が手元で開いていたノートパソコンを静かに叩くと映像が切り替わり、鎌のような長刀を二本手に持つラプターが民家の壁を蹴りつけ飛び掛かり、対する巨大な西洋剣を持つタイフーンは振り下ろされる長刀に絶妙のタイミングで刃を交じり合わせていた。

 先程の映像とは打って変わり、力が拮抗した者同士の戦いに見える。

 映像内の二機の戦術機を動物で例えるなら、熊と豹と言った所だろうか。

 喉元を食らいつこうと豹のような動きをするラプターに、どっしりと構え的確に攻撃を放つ熊のようなタイフーン。

 脳内で暴れまわる戦術機をマスコットキャラクターの動物のように愛くるしい姿に変えてしまえば、凄惨な映像も子供が大好きなコメディーに早変わりだ。

 インフィニィ04のシャロン・エイム少尉は自慢のピンクブロンドの髪を指で弄びながら笑いを堪える。

 それに気が付いたのか、シャロン・エイムの前の座席にどっしりと座る筋骨隆々とした大男ガイロス・マクラウド少尉が皆に聞こえるように尋ねた。

 

「どうかしのか、シャロン?」

 

 ガイロスの声を聞いたシャロンは、しまったと舌を可愛らしく出した。

そ してすぐに表情を引き締め答える。

「いえ、なんでもないわ」

 

 だが、キース・ブレイザーは艇の良い切っ掛けであるシャロンを逃がさない。

 

「シャロン・エイム少尉、君の率直な意見を聞かせてくれないか?」

 

 逃げられないことを悟ったシャロンは、率直にと言うキース・ブレイザーの問いに素直に答えることにした。

 

「正直なところ、ネフレ社が用意してきたラプターは我々の使用するラプターをより強化された物であると考えていますし、そう信じたい」

 

 そう、同じ性能の戦術機であるとは到底思えない。

 ラプターと言う戦術機と一番長く付き合ってきた。

 だからこそ、シャロンは今映像で流れているようなことは出来ないと言った結論にたっした。

 もし、もし仮にだ。

 映像の中のラプターが自分達のラプターと同性能だとするのなら、中の衛士の腕がずば抜けていることを意味し、【戦技教導部隊を教導する部隊】であり、対ステルス戦術機戦の研究を行う自分達よりもラプターを使いこなしているということになる。

 

「……確かにな、我等よりもラプターを使いこなす衛士が存在しているとなれば、沽券に関わる」

 

 キース・ブレイザーは意味深にそう口にした。

 その顔には、新たな研究対象が見つかったと言った言葉が書いてあった。

 

「いや、そのどちらもだ」

 

 一瞬静まり返る室内の空気を壊したのは、シャロンの隣の席に腰掛ける男レオン・クゼ少尉であった。

 レオンは瞳を鷹のように鋭くさせ画面を食い入るように見ていた。

 

「ネフレ社のラプターは確実に強化されている」

「どうしてそうハッキリと言えるの?」

 

 シャロンはレオンに尋ねる。

 

「ネフレ社のラプターは俺達のラプターよりも、反応速度が2秒……いや、1.5秒早い、それに間接強度もかなり強化されている」

 

 ガイロスが関心したように言った。

 

「俺達の中で一番ラプターを振り回しているレオンが言うんだ。間違いないだろう」

「そうなると、そんなラプター相手に善戦しているあのタイフーンの方が異常だってことね」

 

 困ったように答えるシャロンにガイロスが当たり前のように答える。

 

「だが、ラプター本来の戦いをすれば苦戦する相手ではない」

「それはそうだけど……」

 

 キース・ブレイザーは挑発するかのようにレオンに問いかける。

 

「レオン、貴様ならネフレのラプターをどうやって倒す?」

 

 その問いかけに再び室内を静寂が支配した。

 

「……あのラプターの衛士は跳躍ユニットの扱いが異常にうまい。しかも、全身に目がついているかのように行動している。同条件下でと想定するなら、まともなやり方では勝てる見込みは低いと考えています」

「なら貴様は、この衛士に負けると?」

「勝ち負けのスポーツなら勝てる可能性が低いだけです。生き死にの戦争なら、まともじゃない戦術を使えば勝てます」

「戦術機の扱いでは一歩及ばずとも、ステルスの扱い、戦術なら我等の方が数歩先を行っていると、そう言いたいのだな?」

 

 キース・ブレイザーが尋ねるとレオンは、薄く挑発的に笑う。

 

「それに、このラプターに乗る衛士の技量が決して届かない場にあるわけではない」

 

 レオンのその言葉にキース・ブレイザーも誰も気が付かないほど小さく口角を持ち上げる。

 

「その通りだ。今回の一件で見ることが出来たこの動きも戦術も、等しく我らの糧以外のなにものでもない。喜べよ?これで我々はまた一つ強くなれた」

 

 インフィニティーズの衛士達は自然と自らの部隊章を見つめていた。

 そこには、無限を意味するクロスが描かれている。

 終わりなき成長、無限、それを見つめながらシャロン・エイムは思った。

 また、忙しくなると。

 

 

 霧に塗れた朝焼けを、和真はウェストミンスター橋を渡りながら眺めていた。

 テムズ川を横断するウェストミンスター橋の上を霧が絶え間なく流れていく。

 霧のせいで数メートル先が微かに見える程度であり、切れ目からたまに太陽の光が差し込む。

 万人がまるで雲の中を歩いているかのような錯覚を覚えるだろう光景の中で和真はそれが別のものに見えていた。

 

「死んだ先の光景は、きっとこんなものなのだろうな」

 

 悴む手を国連軍BDU(野戦服)に擦りあわせるようにして、ズボンのポケットにしまいこむ。

 オスロでの任務を終えた和真は、ウェストミンスター橋まで車で送り届けられた。

 本当は、バッキンガム宮殿前までの予定であったが和真はドライバーに我儘を言ったのだ。

 火照った血潮が冷気にさらされ覚めていく。

 体の中の獣を檻の中に押し込める。

 これで宮殿につくころには、いつもの自分に戻っているだろう。

 和真は少しばかり安堵した。

 そうして、ウェストミンスター橋の半分を渡り切ったところで和真は足を止める。

 和真は驚き目を大きく開けていた。

 和真が見つめる5メートル先には、緑色に輝く二つの光。

 霧の中を鬼火のようにゆらゆらと漂う。

 鬼火が近づくにつれ人のシルエットが浮かび上がる。

 纏う霧を肩で切るようにして現れたのは一人の少女だった。

 平然と立つ少女にたいし和真は驚いたままだった。

 何故なら、少女の瞳の輝きは自分のそれと同じ物だったからだ。

 

「キシ、キャハハハ!」

 

 気味の悪い声を発しながら少女が笑いかけてくる。

 腰を隠すほどに伸びたボサボサの炎の様に赤い髪を無造作に垂れ流し嘗め回すように上から下へと和真を見る。

 そして、一人数度頷くと軽快に片手を上げた。

 

「よお!」

「……」

 

 和真はそれにたいして無言で返す。

 手はすでに腰のククリナイフに添えていた。

 

「あれ?」

 

 赤い髪の少女は、上げていた手を顎に添え首を傾げる。

 そして閃いたと言わんばかりに左掌に右手の拳をポンと打ち付けた。

 

「あぁッ!初めましてだったな。アタシとしたことが忘れちまってたぜ!」

 

 少女はそう言うとキシシと笑った。

 それに対して和真は再び無言で返す。

 警戒を解くそぶりを見せない。

 自らの身長よりも頭一つ分小さい少女に対して和真は恐怖していた。

 

「また無視かよ連れない男はモテないぜ?まぁ、……それよりだ」

 

 一瞬の出来事だった。

 

「ッ!!」

 

 気が付けば鼻先に女の顔が存在していた。

 見たくもない緑色に輝く瞳が覗き込む。

 

「お前、さっき逃げようとしてただろ?」

 

 和真の黒い瞳と緑色に輝く鋭い瞳が交差し、目を逸らすことが出来ない。

 

「なにを……ッ」

 

 和真は絞り出すようにして何とか言葉を発した。

 

「わかるのさ、わかっちまうのさ、同類だからな」

 

 少女はそう言うと、弓のように目と口を細め歪める。

 ピエロの仮面のような顔をしながら、心底楽しんでいるようであった。

 

「反応はまぁまぁだな」

 

 少女がいつのまにか手に持っていたナイフが和真の胸元近くでククリナイフに受け止められていた。

 寸分違わず心臓を目指すナイフの鋭い刃先がククリナイフに妨げられ、鉄の擦れる音が静かに消える。

 

「……」

 

 少女は無言のまま瞬き一つせず、まるで呼吸するかのように自然にナイフを返しククリナイフを払いのける。

 そして、人の目には捉えられない速度で和真の首目がけて振り下ろす。

 だが少女は、和真の顔を鮮血で染め上げることなく動きを止めた。

 少女の動きよりも早く和真がもう片方のククリナイフを少女の首に押し付けていたからだ。

 和真は瞳を緑色に光らせ、振りぬく体制のまま動きを止めていた。

 それは明らかな殺害予告であった。

 

「瞳孔開けてピーピー鳴いてんじゃねぇよ……発情期か?」

 

 同じ色をした瞳が交差する。

 熱した殺意と冷めた殺意が、交わり中和されていく。

 

「キシシシ、そうそれだぜ。その方が良い、その方が楽になるぜ」

 

 次第に霧が晴れ、太陽の光がウェストミンスター橋にさし始める。

 時刻は午前5時40分、町が動き出そうと伸びを始める時間帯だ。

 

「まぁそう興奮すんな、アタシは一つ忠告をしにきただけだ」

 

 少女はそう言うと、眉ひとつ動かさずに首元のククリナイフを二本の指でどかせる。

 そしてナイフを太股の内側の鞘にしまい込み、まるで和真のことなど敵ではないと言わんばかりにさらに顔を接近させる。

 

「抑え込むな、利用するんだ……」

 

 少女は鼻先がぶつかり合いそうな距離でそれだけを呟くと滑り込むように、和真の右横に移動した。

 

「アタシの名前はギャンブルだ。じゃな」

 

 ギャンブルと名乗った少女はそう言うと、和真とは反対方向に向け走り出していた。

 一人ウェストミンスター橋に取り残された和真は、握りしめるククリナイフを見つめる。

 

「トイ・キングダム……」

 

 ネフレ最強の部隊、トイ・キングダム。

 そのうちの一部隊であるギャンブル中隊の隊長ギャンブル。

 人の体では出来ない動きに、ギャンブルと言う名前、なにより緑色に光る瞳。

和真は途中から少女がどういう立場の人間かを理解していた。

 していたからこそ、怒りが沸き起こった。

 

「……この苦しみから、逃げるなって、そう言いたいのかよ……レオ」

 

 和真はそう呟くとククリナイフを腰の鞘にしまい込む。

 そして、洗うように両手で顔を覆い隠した。

 

「ふ、フフ、ハハハ……、いいやろう……、レオがそう言うならそれが正解なんやろ?なら、そうするさ。そうすることで夢が叶うなら、いくらでも」

 

 

 バッキンガム宮殿に戻った和真は、門前に立つイギリス近衛軍の門兵に声をかける。

 

「今戻った……」

 

 門兵は、和真の姿を確認すると何も言わずに門を開いた。

 門兵の顔を確認することも、感謝の礼儀を言うでもなく無言で脇を過ぎていく。

 この時の和真の頭の中では一つのことがらが支配していた。

 

「ストーになんて言おうか……」

 

 ストーに心を覗かれないようにするには、どうすればいいだろう。

 ESPの力とは非常にやっかいだ。

 考えをすべて見られてしまう。

 それはつまり、数刻前の出来事も知られる可能性もあると言うことである。

 和真は気だるそうに前髪を右掌で掻き揚げる。

 傷み始めた和真の髪が指の隙間から零れ落ちていく。

 零れ落ちた髪を払いのけることもなく、疲れた瞳で眼前のそれを眺めた。

 ゆらゆらと振り子のように揺れている。

 それが、過去と現在と未来の自分を現しているような気がした。

 どこに逃げようとも、どこに立ち止ろうとも、どこに進もうとも、決められた結果から逃れる術は無い。

 そう言われているように錯覚する。

 和真は一人思考の海に耽りながら、バッキンガム宮殿内に姿を消した。

 

 

 第一町ネフレ社内社長室

 

 第一町を一望することが出来るネフレ社の最上階に存在する社長室。

 そこで高級な革製のイスに腰掛けるレオは、スケジュール帳のような物を真剣に見つめていた。

 

「うん、予定通り予定通り」

 

 スケジュール帳のような何かをパタンと閉じるとミアリーが姿を現す。

 

「どうかしたのかい?」

 

 ミアリーは表情一つ変えずに答える。

 

「ギャンブルが五六中尉に接触しました」

 

 報告を聞いたレオは、なんてことないかのように答える。

 

「ふ~んそっか、まぁタイミングは任せていたし構わないよ」

 

 レオは言い終わると同時に親に褒めてもらえることが分かっている子供の様に期待した瞳をミアリーに向けた。

 

「それともう一つ、このような報告が欧州よりございました」

 

 ミアリーはそういうと、一枚の紙を手渡す。

 

「どれどれ―――ッ」

 

 その紙には、近日行われる大規模BETA掃討作戦の現時点での変更点、BETAの現時点での総数、そして一つの波形が書かれていた。

 それは作戦域近くの地面に埋め込まれている振動センサが拾った波形データであった。

 

「ノイズが交じり正確性に難が残るものの、間違いないかと……」

 

 レオは机に置かれているノートパソコンを操作し、一つのファイルをクリックしデータをディスプレイに表示する。

 それは、BETAの地中進行の振動パターンの一つであった。

 ファイル名は、エヴェンスク最終防衛線と書かれていた。

 それをじっくり観察するとレオは破顔させた。

 このパターンの振動が検知された数日後にエヴェンスクはBETAに攻め落とされた。

 しかも、今現在そこはH26:エヴェンスクハイヴとなっている。

 つまりは―――。

 

「……いるかな?」

 

 レオは、何気なくミアリーに問いかける。

 

「いると思われます」

 

 ミアリーも何気なく返す。

 まるで、今日の晩御飯のメニューを聞いているかのように。

 だが、その内容はそんな会話に納めることが出来ないほどに重いものであった。

 

「反応炉を持ったBETAが―――」

 

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