Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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グラビア撮影

 2001年2月10午後12時00分

 イギリス領・イングランド南東部・イーストサセック州・ブライトン

 

 

 雲一つない晴天。

 だがしかし、遥か彼方から嘗め回すように覗き込む太陽の温もりは、オゾン層にでも防がれているのかと勘違いを起こさせてしまいそうな肌寒さ。

 温度は16度、湿度は67%。

 季節にあった服装をしていれば快適なのだが、今のストー達にとっては快適とは言い難かった。

 

「どうして、今、このタイミングで、水着にならなければいけないの~ッ!!」

 

 ベルナの虚しい叫びは荒々しいイギリス海峡の高潮に揉み消された。

 

「流石は一大保養地、ブライトン。前面にはイギリス海峡、背後にはサウス・タウンズ丘陵のチョークの崖、海岸平野に沿って点在するホテルに劇場などの娯楽施設!素晴らしいッ!!愛するあの人との熱いひと時を提供するシーサイド・リゾート、輝かしい村ブライトン。謳い文句に嘘偽りは無かった!」

 

 一眼レフのカメラを振り上げオルソン大尉は高らかに叫んだ。

 そんな上官を無視し、ストーはベルナの肩に優しく手を乗せた。

 

「これも仕事だから……」

 

 傍から抗議するのを諦めているのか、ストーは困ったように微笑んだ。

 

「さ~む~い~!」

 

 イルフィは、肩を抱きしめ身を震わせ寒さを外部に訴えていた。

 

「言わないで、よけいに寒くなる」

「それでも、寒いものは寒いのよ~!」

「この程度、気合と根性でどうとでもなるッ!!」

 

 イルフィとベルナが身を震わせている隣で、マリアは空元気で声を張り上げる。

 美少女4人は、気温が16度の中水着姿にされていた。

 これは本来の任務のスケジュールに組み込まれていたことである。

 欧州友好の証として、そして兵士の士気高揚を目的としたグラビア撮影会をすることとなっていたのだ。

 寒さにめげてしまいそうになっていたイルフィは、気を紛らわせるためにオルソン大尉に話しかけた。

 

「オルソン大尉」

「なんだね?」

「どうして、今の季節に撮影するのですか?」

 

 オルソン大尉は、サングラスをクイッと持ち上げ位置修正をすると、真剣に話し出した。

 

「そもそも、今回の我々の任務は、マリア王女の護衛並びに欧州主要三カ国と国連の友好を示すためだ」

「はい」

「今回撮影された写真は、プロパガンダとして大々的にいく。つまりは、欧州中にばら撒くと言うことになるわけだ。そのため、撮影された写真の中から審査に審査を重ね厳正に選ばれた物を使うことになる。そして、欧州すべての国に同時に宣伝するため、時間がかかってしまい、それらの作業が完了するのが、夏頃になる。よってこのタイミングで水着撮影をするのだ。理解してくれたかな?」

「は、はい~……」

 

 オルソン大尉の押しに飲まれ、イルフィは力無く返事を返すことしか出来なかった。

 

「イルフィ、文句を言わずに協力してくれれば一時間しないうちに終わる予定だ」

 

 オルソン大尉の半歩後方から和真がお気の毒にと言った表情で労いの言葉をかける。

 

「それに、その分早く終われば、遊びの時間が取れるかもしれないぞ?」

 

 和真のその言葉を聞いたイルフィは瞳を輝かせ、やる気を漲らせた。

 イルフィがやる気になったのを確認したオルソン大尉は、皆に指示を出すために集合させる。

 イルフィ、マリア、ストー、ベルナが和真とオルソン大尉の前に横一列に並び聞く体制に入ると、オルソン大尉はマリアに断りを入れる。

 

「すみません、姫様。さまざまな表情を撮影したいため、気分を害されるような要求をするかもしれません。ですが何卒、ご協力の程、よろしくお願いします」

 

 マリアはお姫様の顔になると、優しく笑い答えた。

 

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「ありがとうございます。……それよりも、流石ですな姫様。率直にもうしますと、私が今まで見てきた被写体の中でも一二を争う美しさです。これは、今から腕がなりますな!」

「まぁ、嬉しいですわ!」

 

 オルソン大尉は、初めにマリアの水着姿を褒めるとストー達も同様に褒めだした。

 やる気を出させているのだろう。

 和真はそう思い口を挟まずにいた。

 すると、オルソン大尉が肘で和真を二回突いた。

 

「女性の水着を褒めるのは男の務めだぞ?」

 

 和真は、これは任務でありそんなことをわざわざ言う必要は無いと考えていたが上官の命令には従うしかないと、視線をストー達に向けた。

 横一列に並ぶ美女たちを左端から順に見ていく。

 

「イルフィは、黄色のビキニか。パンツの絵柄はツェルベルスの部隊章かな?うん、イルフィらしく元気な感じで可愛いと思うよ」

 

 イルフィは、着痩せするタイプであったようだ。ホルタービキニ姿となった彼女は、普段のあどけなさを脱ぎ捨て、女を十二分に強調していた。

 パンツの三頭獣の絵柄も、大人の雰囲気を出すのに一役買っているようだ。

 

「ありがとうございます!」

 

 その無防備に笑う姿に、和真もつられて笑顔になる。

 

「姫様の黒のビキニも凄く御綺麗ですよ」

 

 マリアは黒の三角ビキニを着ていた。

 砂金のように輝く巻き髪と白い肌とは対照的な黒のビキニを着ることで、お互いの良さを活かしている。

 小振りでありながらも形の整った胸が黒の三角ビキニによりスレンダーなマリアを艶めかしく見せている。

 

「あ、ありがとう……」

 

 和真に素直に水着姿を褒められたマリアは、頬を紅に染め和真を上目づかいで見つめた。

 その瞬間、和真は昨夜のマリアの裸体を思い出し同じく顔が紅潮する。

 が、和真はそれを気合でねじ伏せた。

 咳払いをしながら視線を一つずらす。

 そこには、ニコニコ顔のストーが待ち構えていた。

 恐らく早く和真に褒めて欲しいのだろう。

 瞳をキラキラと輝かせている。

 だが、それとは打って変わり和真は深い溜息を零した。

 

「ストー、その水着は自分で選んだのか?」

「機能性を重視してみました!」

 

 ストーはそう言うと、胸を張る。

 その姿を見た和真はひどい頭痛に襲われたかのように頭を抱えた。

 

「お前の体系でスク水なんて……、犯罪だろ……」

 

 ストーは、何故か旧スク水を着ていた。

 ストーの大きな胸がはち切れそうな程に自己主張し、ビキニと違い肌の露出は少ないがその分ラインがくっきりと見え、エロさを倍増させている。

 元の世界の常識を持つ和真からすれば、今のストーは大変危険な存在であった。

 

「ストー……」

「うん!」

「可愛いよ、可愛いけどな……、次に水着を着る機会があれば、俺が選ぶからな?」

「うん!」

 

 そう元気に無邪気に笑うストーの姿に和真は苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 そして、最後に残ったベルナに視線を移す。

 

「ベルナらしいね。似合ってるよ」

「ふんッ!」

 

 ベルナは、ピンクのワンピースの水着を着ていた。

 ベルナの幼児体型にピンクのワンピースは、異常なまでに似合っていた。

 これに浮き輪があれば完璧に子供にしか見えない。

 和真は微笑ましい気持ちになり、ベルナを見る。

 すると、ベルナは不機嫌に言い放った。

 

「いつまでもじろじろと見るな変態」

「へ?」

「血走った目で見るんじゃないわよ。気持ち悪い」

 

 その言葉に和真はカッチーンときてしまう。

 そもそも和真は幼児体型には興味が無い。

 和真の好みのタイプは、巨乳で大人な女性だ。

 ベルナと正反対なのである。

 それにもかかわらずこの言いよう。

 和真は言い返す。

 

「悪いな、俺、子供には興味がないんだ」

 

 和真がそう言うと、ベルナはフンと鼻を鳴らし見下すように言い放つ。

 

「鼻息荒げて言うセリフじゃないわよね、それ?」

 

 和真が鼻息を荒げていたのは、興奮していたからではない。

 上官の命令にしたがい、普段使わない部分の脳味噌をフルに使い無難な褒め言葉を並べたことによる僅かな苛立ちに、ベルナが油を注いだからだ。

 和真は自分が特殊性癖持ちに見られたくないと言う想いと、自分が今のベルナの水着姿に抱いた感想を体を使って表現するべく行動に移った。

 和真は、ベルナの目の前まで移動する。

 

「なによ?」

 

 ベルナが不機嫌に見上げるのを余所に、和真はベルナの両脇に腕を入れ持ち上げた。

 

「ちょッ!!」

 

 突然のことにベルナが驚く。

 それすらお構いなしに和真はベルナを空高く放り投げた。

 

「高い、たか~~い」

 

 はじめ自分が何をされたのか理解しきれていなかったベルナだが、それを理解し始めると全身を紅潮させた。

 重力に引かれ、再び和真の腕に収まる。

 そして再び放り投げられる。

 

「高い、たか~~い」

 

 ベルナは、怒りに震えたまま和真を見る。

 和真は喜色満面に空を飛ぶベルナを見ていた。

 その時、ベルナの頭の中で大切な線が一本千切れた。

 再び重力に引かれ和真の腕に収まる。

 和真はまだ止めようとはしない。

 腕に力を籠め、ベルナを空高く放り投げる準備を始める。

 そして、全身のバネを腕に集中してベルナを投げた時にそれは起こった。

 

「ふんッ!!」

「高い、たか~ガハッ!!」

 

 ベルナの爪先蹴りが、和真の下顎を蹴りぬいたのだ。

 和真の投げるタイミングに合わせて蹴りぬいたベルナは、華麗に着地する。

 それとは対照的に、和真は後頭部から砂浜に突っ込んだ。

 ビーチに顔を埋め痙攣している和真を見下ろしながら、ベルナは腕を組み鼻を鳴らす。

 

「ふんっ!」

 

 ほんのりと頬が紅潮している意味を知るのは、付き合いの長いイルフィのみであった。

 

 

 

「マリア様、視線をこっちに!リヴィエール少尉、もっと挑発的にッ!!フォイルナー少尉、大人の色香を意識しろ!シェスチナ少尉は、胸を強調して!」

 

 さまざまな機材が持ち込まれ、それを扱うスタッフの人数も増え本格的なグラビア撮影が行われている。

 ストー達は撮影当初緊張によりどこかぎこちなかったが、オルソン大尉の巧みな話術により、その気にさせられ今ではどこぞのアイドルになり切ったかのようにポーズを決め、進んでカメラのレンズに自らを写していた。

 和真は邪魔にならない位置から、水際で寄り添うようにして背を合わせポーズをとる美少女四人を見ていた。

 

「なかなか様になるじゃないか」

 

 和真は感心したように呟く。

 そして、そっと視線をずらし風景を眺めるように頭を左側から右側に180°回した。

 

 ざっと30人くらいか……。

 

 和真はその一度の動作で、マリア達の護衛の人数と潜伏場所を特定する。

 

 前に出てきているだけで30人なら、総数は50人くらいか。

 まぁこれだけいれば大丈夫かな。

 

 和真は、マリアが狙われたテロの事を思い出す。

 あれだけのことがあったのだ、今回の撮影会が行えることは本来ありえないことでもあった。

 だがしかし、イギリス王室が今回の撮影会のためにマリアの外出を許可したのだ。

 そればかりか、町で遊ぶ時間も与えられている。

 恐らくは、ふさぎ込んでいたマリアに息抜きをさせるためと、町に出ることに対してのトラウマ対策の一環だろう。

 恐怖が身に付く前に、楽しい思い出を上書きするということだ。

 

「まったく、護衛のために駆り出された人達には同情するよ……」

「そうでもありませんよ、五六様」

「セバスチャンさん」

 

 和真が振り返ると、そこには歳を感じさせない背筋をまっすぐに伸ばした初老の男性、セバスチャンがいた。

 

「ここに集まっている皆は、先日のテロの際マリア様や民間人を十分に守り切れなかったことを少なからず悔やんでいます。ですから、今回の護衛任務、勇みことすれその逆の感情を抱く者などおりません」

「汚名返上ってところですか?」

 

 和真のその言葉に、セバスチャンの眉がピクリと動く。

 

「……名誉挽回でございます。王室や民衆以外からの評価など、我々にはどうでもよいものです」

 

 少し怒気を含んだセバスチャンの言動に対し和真はどこ吹く風を決め込む。

 

「でも、あのテロ以降も王室はイギリス近衛の価値を下げていないと思いますが?」

「いえ、この評価は自分達で決めたものです」

 

 その言葉を聞いた和真は、納得し頷いた。

 

「なるほど、だから名誉挽回ですか……。すみませんでした、セバスチャンさん。俺はあなた達のプライドを傷つけた」

「いえ……、わかって頂けただけでも、嬉しく思います」

 

 和真が頭を下げると、申し訳なく思ったのか、セバスチャンも頭を下げた。

 

「五六様、申し訳ございませんが私はこれで一端失礼させていただきます」

 

 セバスチャンはそう言うと、和真の前から歩み去る。

 その背を眺めながら、和真は腕時計を確認し撮影が終わる予定時間まで余裕があるのを確かめると、タバコを取り出し咥えると火をつけた。

 タバコの煙が潮風に乗り、海を眺める和真の全身を包み込む。

 和真は煙たそうに眉間に皺を寄せながらも、タバコの火を消そうとはしない。

 和真はおもむろに両手を腰に移動させる。

 両手の指先が触れたのは冷たく固い物質。

 ククリナイフの柄を確かめるように、一本一本絡ませていき握りしめる。

 

「今度は……大丈夫……」

 

 脳内でシミュレーション、マリア達が今この時にテロに巻き込まれたと想定。

 次々と最悪の状況を考えては潰していく。

 その過程の中で、なんどもテロリストを斬殺していく。

 脳内の和真は躊躇せず一刀のもとに切り捨てていく。

 感情が昂っていくのを理解する。

 腹の底から、なにか熱いものが胸部までを包み込み、全身を温め、脳に大量の血液を送り込む。

 和真の瞳は、薄汚れた翡翠のように輝いていた。

 和真はいつの間にか脳のリミッターを切っていたのを知り、慌てて元の世界に帰還しようとする。

 その時、和真をなぞの浮遊感が支配した。

 まるで、マリオネットにでもなったかのような感触だ。

 自分の体が別のだれかに奪われていくかのように、感覚が薄れていく。

 火が付いたままのタバコは、震える和真の唇から離れて落ちる。

 

「う……くっ、……あっ」

 

 なんとか口を開け、無理やりに酸素を肺に押し込んだ。

 その瞬間に今までの感覚から解放され、元の時間に帰還する。

 和真は貪るように空気を吸い込む。

 そして、両の手を握っては開きを三度繰り返す。

 自分の意志で体が動いているのを確認すると、疲れた様に二酸化炭素を吐き出した。

 

「はぁ~~~~……、なんだ、今の……」

 

 和真は先ほどの感覚がヴェルターに搭乗しているときに、無理に操縦権を奪われたときと酷似していると気づく。

 そして、慌てて鞄の中からナノマシンを抑える錠剤を取り出し個数を数えることなく口に放り込んだ。

 

「ガタがきているってことでいいのか?」

 

 その問いには、誰も答えを与えてはくれない。

 

「和く~~~ん!!」

 

 遠くからでもはっきりと分かる優しい声が、和真の鼓膜をくすぶった。

 和真は悟られぬように、笑顔を作り片手を上げる。

 大規模掃討作戦まで、残り時間も少ない。

 このことは、それが終わってからにしよう。

 和真はそう決めた。

 

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