Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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マリア・ヴィクトリア・メアリー

 2000年2月14日12時00分

 

 

 淀んだ雲が見下ろす下界、生物の母である海を灰色に染め上げていたのは鋼鉄の群れ。

 世界各国から送り出された飢えた獣達が涎を垂らし、その時が来るのを今か今かと待ち望んでいた。

 有為転変なこの世界で、それでも変わらない想いを胸に待っている。

 ビスケー湾からケルト海を通りイギリス海峡を抜け北海まで、様々な国の艦船が大陸に睨みをきかせる。

 その睨みをきかせる遥か先、地獄門を潜り抜けさらに歩みを進めた先には人口の山が出来上がっていた。

 それは平面が続く寂しい世界の中でいくつも存在している。

 それらの山々と周囲一帯は、要塞陣地と呼ばれ仮設基地と化している。

 その要塞陣地の一つ、エヴルー要塞陣地にトイ・ボックスの姿はあった。

 舗装すらされていない、足裏に刺激を与え天然マッサージでもされているかのような荒れ果て草木の一本も生えていない道を和真とストーは歩いていた。

 左を見れば仮設テント越しにセイカーファルコンとスーパーホーネットの群れが曇天の下機体チェックを受けている。

 右を向けばメルカバMk4を中心とした戦車師団の姿が目に入る。

 上空を見上げればAH-2ローイファルク攻撃ヘリがメインローターを重く鳴らしながら編隊を組み飛んでいく。

 街の喧騒のような中を人々は駆け足で走り抜け怒声を飛ばしている。

 その中を和真とストーは邪魔にならないように気を付けながら悠遊と歩いていた。

 

「和君、エヴルー要塞陣地は以前から準備していたの?」

「そうらしいな。大陸奪還を目指している欧州連合がその足掛かりとして各地に要塞陣地を築いているって話は知っていたが、俺も驚いた。まさか、これほどとはな……」

 

和真はそう言うと、周囲を見渡し靴裏で地面をなぞった。

 

「だがそれもBETAとの鼬ごっこだっただろうな」

「それでも凄いよ! こんな立派な基地をすぐに作っちゃうなんて!」

「オール・TSF・ドクトリンなんて行っているイギリスだからな。兵站のために、工兵育成に全力を費やしたんだろ。この要塞陣地を見るに、野戦築城能力は他国と比べても群を抜いているしな」

「オール・TSF・ドクトリンって?」

「パレオロゴス作戦から続くBETA戦で欧州連合の機甲兵力の殆どが叩き潰されたんだ。で、当時の偉い人達が機甲兵力を整えるのに必要な工業力を戦術機に振り分けた。その狙いは、戦術機の高い機動力と多彩な兵器搭載能力を活かして戦術機を機甲兵力の代わりとする。それが、オール・TSF・ドクトリンだ」

「へぇ~~~」

 

 和真はそう話し終えると、歩く速度を増した。

 

 

 2000年2月11日

 バッキンガム宮殿門前

 

 

 和真達は、バッキンガム宮殿の門前で任務終了式を行っていた。

 

「現時刻をもって、マリア・ヴィクトリア・メアリー女王殿下、護衛の任を解く! マリア・ヴィクトリア・メアリー女王殿下に向け、敬礼ッ!」

 

 オルソン大尉がそう力強く声を発すると、背筋を伸ばし、軍靴を叩き合わせ、直立不動の体制をとった和真達四人はマリアに向け、息の合った完璧な敬礼をする。

 

「まず初めに、オルソン大尉をはじめ、私の護衛の任務に従事して下さった皆に感謝の意を伝えます。……本当に、ありがとうございました」

 

 マリアはそういう、口を開き二言目を話そうとしたが突然頭を振り乱すように掻き毟った。

 

「だぁああああッ! うまく伝えられねえッ!!」

 

 マリアは一人盛り上がりクールダウンすると、横一列に並ぶ和真達の前に一歩進み出た。

 そして、一通りの顔を眺めると、和真の反対側に立つイルフィの前に立つ。

 

「イルフィ、お前の明るさに俺はなんども救われた。……ありがとう」

「そ、そんな改まって言われると恥ずかしいなぁ……。でも、えへへ、ありがとう! 私もマリアと出会えて良かったよ……って、うわあ!!」

 

 マリアはイルフィが話し終えると、間髪入れずに抱き着いた。

 

「その気持ちを無くすなよ……」

「うん、わかった……」

 

 マリアは次に、ベルナの前に立つ。

 

「ベルナ、お前は一見冷たくてリアリスト過ぎる奴に見えるけれど、その実、誰よりも周囲に気を配って気遣いの出来る。そういうところが、有難かったし、嬉しかった」

「ふん……、当然でしょ? 私はプロなのよ? それでご飯食べてるの、感謝されるほどのことでもないわ」

 

 マリアはベルナの辛辣な言葉を浴びせられても嬉しそうに笑いベルナを抱きしめた。

 

「……死ぬなよ?」

「当たり前、そんなつもり毛頭無いわ」

 

 マリアは次にストーの前に立つ。

 

「ストー、お前は少し腹黒いけれど、お前の優しさや姿に俺は様々なものを学ぶことが出来た。……ありがとう」

「私の方こそ、ありがとう……」

 

 そう答えたストーをマリアは抱きしめる。

 

「……がんばれ」

「え?」

 

 ストーを抱きしめるマリアはストーの耳元に小声でそう呟いた。

 そして、勢いよく体を離すと足早に和真の前に立つ。

 

「……和真、ありがとう。おかげで俺は進むことが出来そうだ」

 

 マリアはそういうと、和真に握手を求めた。

 和真はその手を優しく握る。

 

「そうか……、頑張れよ!」

「応ともさッ!」

 

 和真とマリアの姿を静かに見ていたイルフィは、ベルナの肩を人差指で軽く叩く。

 

「ねぇねぇ」

「……なに?」

「あれって、そういうことで、いいんだよね?」

「分かり切ったことを聞かないで、……でも、そうね」

 

 ベルナはそう言うと、眩しいモノでも見るかのように優しく目を細めた。

 

「良い表情をしてる」

「うん♪」

 

 そうして、和真達は別れをすますと各々の古巣に帰って行った。

 

 

 2000年2月14日12時30分

 エヴルー要塞陣地内ハンガー衛士待機室

 

 

 無料の自販機、簡素な長椅子、少し大きめのテレビが並べられただけの室内は、様々な出身国の衛士が集まっていた。

 ほとんどの者が片手に、無料自販機から取り出した飲料水を持ち各々の時間を楽しんでいた。

 多種多様の人間達はだいたい二種類に出来てしまう。

 ベテランとルーキーにだ。

 長椅子に深く座りゆっくりと味わうように合成コーヒーを飲んでいるのはベテランの衛士。

 その隣で、長椅子に浅く座り小刻みに震えながらカラカラに渇いた喉を潤すためにかぶりつくように栄養ドリンクを飲んでいるのは、新任の衛士だと分かった。

 和真はそう言った人間達を眺めながら、壁沿いの長椅子に深く座る。

 

「和君、おまたせ!」

 

 ストーは、両手に持つ合成コーヒーの内の一つを和真に差し出す。

 

「あぁ、すまない」

 

 和真が合成コーヒーを受け取ると、ストーは和真の隣に深く腰掛けた。

 

「いっぱい人がいるね」

 

 コーヒーをちびちび飲みながらストーは和真に話しかける。

 

「2000年に入ってから一番でかい作戦だからな。この基地だけで数万人はいるな」

「ほへぇ~~~」

 

 間の抜けた関心を示すストーに若干笑みを作った和真は、すぐに厳しい表情に変える。

 

「でも人数が多いからって気を抜くなよ? 今回の作戦は、ある意味で難しいだろうからな」

「ある意味?」

「見てわかるだろ?あまりにもルーキーが多すぎる」

「うん、それは思ってた……」

「イギリスを守るために、後方国家から大部隊が派遣されてきているが、その弊害だな」

 

 後方国家から無限に思える物資や人員を派遣された欧州連合ではあるが、なにもありがたい事ばかりではない。

 例えば、碌に現地の軍と連携訓練を受けていない者達が大勢来たとしてもその者達は現地軍を圧迫するだけで邪魔にしかならない。

 盾にしてやればいいだけなのかもしれないが、後方国家の人間を盾にするなど政治が許さない。

 また、使い潰しが効く難民で構成された部隊だけでは足りないために潰しが効かない人間を後方国は派遣してきている。

 おそらく不測の事態が起きた場合、一瞬にして統制は崩れてしまうだろう。

 せめて、強力な催眠暗示を施してくれていれば助かるのだがそれは望み薄だろう。

 また、今回のバレンタイン作戦が長期戦になることは確実である。

 過酷な環境下で過ごすことに慣れていない人間は早々に潰れてお荷物になってしまう可能性もある。

 

「悲観的に考えていたら、溜息を零したくなってきた……」

「わざわざ悲観的に考えるからだよ」

 

 その時、部屋全体がざわめき立つ。

 

「おい、見ろよ!」

「どこの新型だ?」

「馬鹿野郎、今時ホイホイ新型発表しているところなんてネフレ社くらいしかねぇだろ」

「マジかよ、ついこの間セイカーファルコンを流通させ始めたばかりじぇねか」

「ソ連機みたいに厳ついナリしてやがんな」

 

 和真とストーはそのざわめきの原因を探るために、人垣をかき分けてハンガーを見下ろすことが出来る大きめの窓に向かう。

 

「ヴァローナだね。あれ、でも三機だけっておかしいよ?」

「聞かされてないのか?」

「???」

 

 和真が少し驚きながらストーに視線を向けると、ストーは頭に?をいくつも作っていた。

 すると突然、ストーの両目が塞がれる。

 

「だ~れだ?」

「うひゃぁあッ!!」

「あっはははは、良い反応だよ~。ストー!」

「だ、誰ですか?!」

 

 ストーが猫のようにフシャーと毛を逆立てながら、振り返るとそこにはトイ・フラワーの三人がいた。

 

「よっ!」

「お久しぶりです」

「はいは~い!」

 

 トイ・フラワーの衛士、三浦園子と藤沢月子それに、竹宮千夏がきさくに声をかける。

 ストーは三人を視界に納めると慌てて敬礼した。

 

「お、お久しぶりです!藤沢中尉、三浦中尉、竹宮中尉!」

 

 やや斜め上を見つめ敬礼するストーに対し、竹宮千夏は胸が触れ合いそうになるほどにずいっと体を寄せた。

 

「どうして、私が最後なのかなぁ~?」

「へっ、えっ、わあッ!!」

 

 突然目の前に現れた千夏に驚き手をワタワタさせるストーだが、日本柔道界の申し子である千夏にいとも簡単両の手を掴まれ、身動きを抑えられる。

 怯える子羊のように、及び腰になるストーの股の間に片足をすべりこませた千夏はストーの耳に優しく息を吹きかけた。

 

「ひゃぁいん!」

 

 艶めかしい声が衛士待機室内に響く。

 いつのまにか、ストーと千夏の周囲には暑苦しい人だかりが出来ていた。

 それを遠巻きに見ていた和真に園子と月子が話しかける。

 

「あれ、ほっといて良いのか?」

「人だかりが出来てしまいましたね……」

 

 その二人に和真は敬礼する。

 

「お久しぶりです園子さん、月子さん」

「たっく、そっちから挨拶しに来いよな!」

 

 園子はそういうと、和真の頭を乱暴に撫でた。

 

「ちょ、俺はいいでしょ!?」

 

 あぁいつものパターンか……。恥ずかしいな。

 

「そ、園子さん!」

 

 さすがです月子さん、この女から俺を救い出してください!

 

「次は私ですからね!」

 

 その声を聞き、和真はがっくりと肩を落とした。

 それから数分後、千夏から解放されたストーは乱れた着衣をただしながら、談笑にふけっていた和真達の元に向かう。

 

「おぅ、お疲れさん!」

 

 そう言った和真にストーは抗議の声を上げた。

 

「助けてよぉ~~!」

「千夏さんがいたから大丈夫だったろ?もし、興奮した男連中が襲い掛かってきてもあの人なら三秒で相手を落とせるさ」

「三秒はひどいんじゃないかなぁ~。私も一応女の子だよ?」

 

 そう言いながら、ストーの後ろから千夏が姿を現す。

 

「ははは、すみません。お久しぶりですね千夏さん」

「ん。よろしい!」

 

 千夏はそう言うと、それが当たり前であるかのように和真の頭に手を乗せ髪型が乱れる程に撫でまわした。

 

「千夏さん、あなたもですか……、勘弁して下さいよ……」

「撫でやすい位置に頭があったからね!」

「はぁ……」

 

 ストーはその光景を慈しむように眺める。

 どこか張りつめたような空気を纏っていた和真が子供の様に無防備でされるがままに甘んじていることが出来る人がいることに喜びを感じていた。

 

「それじゃあ、これ、先にしとこっか!」

 

 千夏がそう言って取り出したのは、五枚の紙と五本の鉛筆だった。

 

「チェックシートかよ。それ疲れるからやなんだよな~」

「園子さん大切なことなんですから!」

 

 手渡された紙には、星や丸といった記号が不均等に所狭しと描かれている。

 園子は近場で暇を持て余していた衛士を捕まえ指示を出す。

 その衛士がダルそうに和真達の輪に加わるとダルそうに声を発した。

 

「それじゃ、始めます。星―――。」

 

 和真達は、連れてこられた衛士が指定する記号に同時にチェックを入れていく。

 一呼吸のずれもなく、適当なタイミングで適当に選ばれていく記号たちを的確に潰していく。

 チェックシートとは、衛士間での簡易の連携確認で使用される物である。

 A4サイズの紙にちりばめられる様に描かれた記号の中から、指定された記号を選び出し、チェックをつける。この時、部隊間でずれが生じないか確認するのである。

 和真達は喧騒の中、驚異的な集中力をもって次々と記号を潰して回っていった。

 

「ふぅ、簡単にですけど連携の確認は出来ましたね」

 

 月子は嬉しそうに皆の顔を眺めながら言う。

 

「ま、私達なら当たり前だよね!」

 

 千夏が自信満々にウインクを飛ばす。

 

「まぁ、私らやストーは何度も樺太の方で実戦に出ているしこれくらいは出来るだろうけどさ。和真、お前が一発で合わせて来るのが驚きだよ」

「まぁ、皆とペースを合わせるだけだしね」

 

 そうドヤ顔で言う和真に月子が純粋に賛辞を贈る。

 

「和真さん、すごいですね!」

「まぁね!」

 

 胸を張りそう言った和真に園子がヘッドロックをきめる。

 

「なにを、偉そうにッ!!」

「グェ!」

 

 カエルの潰れたような声を聞き、月子が慌てて止めようとするが千夏がそれを制した。

 

「そ、園子さん!」

「まぁまぁ、和真も園子の胸に顔を埋められて喜んでるよ。あの胸に触れて嬉しくない男なんていないだろうからね」

「ち、千夏さ~~ん!」

 

 すると、ストーが突然声を上げた。

 

「見て見て和君、マリア殿下だよ!」

「へ?どこに……」

 

 いつのまにか静寂に包まれていた衛士待機室内、喧騒を生み出していた者達は引き寄せられるかのようにテレビを注視していた。

 

「―――貴重な時間を私のために用意して下さったこと、万感の思いです」

 

 マリアは、いつものドレス姿ではなく。イギリス軍兵装に身を包み祭壇の上らしきところに立ち、なにやら小難しい言葉の羅列を述べていた。

 

「そういや、演説をするとかどうとか言っていたな……」

 

 和真はそういうと、マリアの頑張っている姿だけに意識を向けていようと思った。

 どこぞの官僚に作成させた原稿を読んでいるだけだろうと、決めつけていたからだ。

 だが、和真の予想外は演説の終盤から始まった。

 

「―――ここからは、決められた言葉で無く俺の言葉を皆に聞いて欲しい」

 

 一瞬、ざわめきが巻き起こる。

 

「俺は、皆が思っているような人間なんかじゃない」

 

 カメラ越しに、なにやら揉めている様子が分かる。

 誰かが、マリアの突然の行動を止めようとしているのだろう。

 だが、それは一瞬映ったオルソン大尉により阻止される。

 

「1990年当時、俺はBETAから逃げて来る人達に対してなにもしない父様が自分達のことしか考えていない最低な人間だと思い込み。

自分の力で、この現状を変えようと避難民が多く集まっていたノルウェー領オスロに単身で行ったんだ。

そこで目にしたのは、今に絶望せずに明日に希望を見ている人達だった。

俺はその中でも、生きていくのが難しい戦災孤児達と共に、チームを作りストリートチルドレンをしていた。

毎日を生きていくのが精一杯で、イギリスにいたころには想像もつかないような生活だった。

それでも、皆笑顔だったし、俺も笑顔だった。

でも、そんな日常はある日突然BETAによって崩された。

街を襲ったBETAは軍によって殲滅されたけれど、運悪く街から離れた場所を住処にしていた私の仲間達は、小型のBETAの奇襲に合い。

……皆、死んでしまった。

―――俺は、ただ震えていることしか出来なかった。

……怖くて、死にたくなくて、怯えていたんだ。

そして、俺は安全なイギリスに連れて帰られた。

まだ、オスロにはたくさんの難民がいたのに、俺が女王だからと言う理由だけで、安全な場所を与えられた。

イギリスに戻ってから知ったのは、俺が保身ばかりを大切にしている人間だと、蔑んでいた父様が実は一番、民や避難民のことを考えいたと言うことだった。

そんな父様も志半ばで逝ってしまわれた。

……俺はただ己惚れていただけだった。

自分の力を過信していただけだった。

それに気が付いてからは、私は嘘に嘘を重ねて生きてきた。

どうすることも出来ない自分の無力さに嘆きながら、それすら嘘で塗りつぶしてきた。

でも、ある人が言ってくれたんだ! やりたいことをやってみろって! 夢を諦めるなって! そんな一人の言葉で、立ち直れるのかって皆は思うのかも知れない!でも、そいつはオスロにいたころの俺を己惚れているだけの俺を知っている人だったんだ。

そいつはバカみたいな顔で言ったんだ! 俺がこの世界を変えてやるって、皆が笑える世界にしてみせるって、そう言ったんだ。

俺は、その言葉を信じて見たくなった。

そんな無茶なことを、平然と言ってのけるそいつを信じてみようと思った。

そいつが、信じてくれた俺を、信じようと思った。

でも……、今の俺にはなにをすればいいのか解らない、力だって無い……。

でも、もう逃げない! 皆の背中を俺は見続ける。

そんなことしか……、こんなことしか、出来ない俺だけど……、どうか、皆ッ! 俺に力を貸してくれッ!! 俺は、この国を大好きな人達を失いたくないんだ!!」

 

 途中から涙を流し、自分でも何を言っているのか良く理解出来ていなかったマリアは、ただ思いのたけをぶつけることしか出来なかった。

 それが、今の彼女の全力なのだ。

 頭を下げたマリアは、顔を上げるのが怖かった。

 非難を浴びせられるかもしれない。

 自分のこの演説が士気を大幅に下げ作戦を失敗に導いてしまうかも知れない。

 その答えが、顔を上げた瞬間にわかる。

 だが、マリアは震える体に鞭を打ち重いなにかを取り払うかのように頭を上げた。

 マリアが見て聞いたモノは、マリアが考えていたような物とはかけ離れていた。

 

 静寂が衛士待機室を包み込む、だが頭を垂れ涙を流すマリアが顔を上げると同時にそれは、咆哮へと姿を変えた。

 何故かわからない。

 だが、身の底が震えたのだ。

 この震えを耐えられる人間など居はしない。

 その咆哮は、テレビの先からも漏れ出ていた。

 嫌、中継が繋がっている場所すべてから放たれていた。

 今、画面の中にいる情けない顔をした女の願いを聞き届けたと、獣共が叫んでいた。

 そのうねりは、獣の心を一つにした。

 皆のスタートラインが揃ったのだ。

 ベテランだとか、ルーキーだとか、関係が無い。

 今、この時、皆が、BETAを殲滅すると宣誓したのだ。

 

「和君」

 

 ストーは、無意識のうちに和真の手を握りしめていた。

 その手を和真は強く握り返す。

 

「あぁ、この戦い、勝ちに行くぞ!」

 

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