Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
2000年2月14日14時00分
バレンタイン作戦は、マリア・ヴィクトリア・メアリー王女の演説後、士気が下がり切る前に開始されていた。
BETA集結地は、フランス領オルレアン、ブロア、トゥールの三か所。
オルレアンBETA群に対処するのは、エヴルー要塞陣地を中心に展開するネフレ軍、オーストラリア軍、アメリカ軍。
ブロアBETA群に対処するのは、ラヴァル要塞陣地を中心に展開するイギリス軍を中核とする欧州連合軍。
トゥールBETA群に対処するのは、ナント前線基地を中心に展開するドイツ軍、フランス軍、カナダ軍、国連軍。
また、各戦線の機甲兵力の穴埋めにはアフリカ連合から増援が寄せられた。
この、近年では類を見ない大規模作戦の狼煙は国連宇宙総軍による軌道爆撃であった。
高度200km、低軌道周回上には鋼鉄の鳥が遊覧飛行を続けていた。
「よ~しお前等、花束は用意したか? 歯磨きは? 口臭チェックと身嗜みの確認はOK? 今日は記念すべきバレンタイン・デー、俺達クソ野郎共の熱く、重く、うっとおしい愛とほとばしるパトスを伝えに行くぞ」
国連宇宙総軍第一軌道爆撃艦隊隊長は、ユーラシア大陸を眼下に虚無の空間に向け声を発する。
「隊長、俺の愛は可愛い子ちゃん達に届きますかね?」
虚無の空間に小窓を開くようにして現れた顔はニヒルな笑みを携えた新入りのHSST乗りだった。
確か、彼はフランス出身だったか。
ならば、この作戦に対する意気込みは他者以上のものであろう。
「安心しろ、きっと届くさ、よかったな今日で貴様も童貞卒業だ」
隊長が部下が欲しがっていた言葉を紡ぐと同時に雑音交じりの音声と新たなサブウィンドが姿を現した。
『こちらOSP-1400、第一軌道爆撃艦隊聞こえるか?』
我等が母港からの通信だ。
眼下には、オーストリアが見えている。
「感度良好、良く聞こえる」
『間もなく爆撃予定宙域に入る、準備の程は?』
管制官からのその言葉は、いよいよであるということを意味しており、空気の無い宇宙空間ですら感じ取れる部下達の滾る昂揚感が最高潮に達する。
「抜かりなく……、マザー聞いてくれよ! 愛しのあの子を犯してやりたくて野郎共はうずうずしてやがる」
隊長のその言葉に管制官は機械的にではあるが、力強く答える。
『了解した。作戦終了しだい精のつく物を食わせてやる』
「そいつはありがてぇ!」
HSSTが目覚まし時計のように煩わしい音を発しながら、作戦開始時刻だと知らせる。
隊長は考える。
いつもそうだった。
自分達が駆り出される作戦は、いつも自分達から始まり失敗し続けてきた。
軌道爆撃隊が出るような作戦は、ハイヴ攻略規模だからだと言い訳を言うつもりは毛頭ない。
だから、死の鳥なんて揶揄される時も不幸を招きよせる死神だと後ろ指さされた時も甘んじてきた。事実だからだ。
自分達が出る作戦は、悉く人類が敗北する。
初期の軌道爆撃なんてモノは90%以上が光線級に撃ち落され、重金属雲を張るくらいしか意味がない。
それでも、それは確かな人類側の宣戦布告であり、開戦の狼煙であることに変わりはない。
万人にとって死の笛を鳴らすのが、自分達の仕事。
だがしかし、HSST乗りは希望を無くしたことなんて一度も無い。
この一撃が、人類勝利の篝火であると信じている。
だからこそ、隊長は部下達に言うのだ。
「第一軌道爆撃艦隊は、これよりフランス領オルレアン、ブロワ、トゥールに展開するBETA群に対して軌道爆撃を開始する。……勝つぞッ!!」
「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」
同時刻エヴルー基地格納庫
和真達は、衛士強化装備に着替え格納庫隅の一角で作戦内容の再確認を行っていた。
「では、トイ・ボックスはトイ・フラワーに臨時編入、指揮権はこちらで良いですね?」
トイ・フラワーの小隊長を務める藤沢月子が、和真に問いかける。
「了解です」
「はい、では呼称は私をフラワー01、02を千夏さん、03を園子さん、ボックス01を和真さん、02をストーさんとします」
「「「「了解」」」」
「次に作戦内容を簡単におさらいします。
現在BETA密集地として本作戦の攻略目標であるフランス領オルレアン、ブロア、トゥールですが、すべてフェイズ1相当であると仮定しています。BETA総数は70万から100万体であるとされています。
まず、第一段階で低軌道場からの軌道爆撃を行います。AL弾と通常弾をワンセットとした場合4度行われることとなっています。
第二段階では、重金属雲濃度が80%になると同時に、展開中のMLRS(自走多連装ロケット砲)を中心とした砲撃部隊、機甲部隊からの面制圧が行われると同時に、戦術機と攻撃ヘリによる漸減邀撃作戦を開始、前衛の突撃級を可能な限り削減し、中衛のBETA群を地雷原に誘導、陣地構築はすでに完了していますので、ここで残りのBETAを刈り取ります。
第三段階では、後方に展開している戦術機部隊による長射程砲撃により、後衛の要塞級並びに重レーザー級をしとめます。取りこぼしたBETAに対しては、展開している戦術機部隊が即時対応しこれにあたります。
作戦が破綻、もしくはBETAの猛攻により自陣に穴が開いた場合には、各要塞陣地に待機しているメルカバMk4を中心とした機甲部隊と36mm固定ガトリング砲の分厚い正面火力がこれを迎え撃ちます。
本作戦は、国連軍が総指揮をとることになっています。そのため、臨機応変な対応はすべて現場任せになってしまう可能性が大いにあるとのことです。
注意点としては、作戦域と多数用意されている要塞陣地との距離が離れていることです。これは補給が難しくなることを意味していますので、密集格闘戦はなるべく行わずにと言うことと、各要塞陣地正面は、カズィクル地雷原と化しています。主脚走行をすると串刺しですので注意して下さい。
私達の任務は取りこぼしたBETA群の殲滅になりますね。……以上です。なにか質問はありますか?」
真っ先に声を発したのは園子だった。
「月子」
「はい、なんですか園子さん?」
「あたし達がネフレ軍として参加するってのは確定だけど、ネフレ軍のどの部隊に編入される予定だ? まさか、この一個小隊で行動しろなんて……ことは……」
園子は、月子の表情がだんだんと申し訳なさそうになっていくのを見て察し、頭を抱えた。
「園子さんすみません、そのまさかです。私達は、遊撃隊として運用されます」
そう謝る月子に園子は逆に申し訳なさそうにしてしまう。
「あぁごめん、月子を攻めるつもり言ったんじゃないからさ」
「はい、わかっています」
「でも、そっかぁ~……、貧乏くじ引かされたか」
そんな二人を千夏が慰める。
「まぁまぁ、たかだか一個小隊だし無茶な命令はこないでしょ?」
そんな三人を黙って見ていた和真の肩をストーが申し訳なさそうに叩いた。
「和君……」
「なんだ?」
「この作戦ってある意味セオリー通りだけど、こんな予定通りに進むのかな?」
「今回は、他の作戦とは違って人類側に好条件が揃っているからな。楽観視はいけないが、やりやすいことに変わりわない」
「???」
頭に?マークを作るストーに今度は和真が頭を抱えた。
「今作戦の攻略目標は?」
「オルレアン、ブロア、トゥールに集結しているBETA群の殲滅だよね」
「そうだ、今回鍵を握るのは、この三か所の位置だ。ストー、この三か所に共通しているのは?」
「えっと……、川の近く?」
「そう、この三か所はロワール川に隣接している。しかも、ご丁寧にでっかい門をオルレアンとトゥールに作り、ブロアはフェイズ1ハイヴ相当だ。しかも、これらは、ロワール川を挟んで内陸部側であり、門がそれ以外に作られている兆候が見られない。つまりは、BETAが人類側に手出しをするには、ロワール川を渡るしか手段がない。ようは、間引き作戦の時とやることは一緒だ。しかも、ロワール川はナント前線基地に展開している国連軍の艦隊が抑えている。トゥールを攻める部隊は補給などの面で大助かりだな」
「あれ、ってことは……」
「まぁ、まだ説明されちゃいないが園子さんのカンは当たってるってことだな。俺達が一番の貧乏くじだ」
つまり、この作戦では潤沢な支援を受けることが出来るトゥールから順に北へ攻め上がると言うことであり、そのための欧州連合内での対BETA戦の主力であり数多くの第三世代機を保有するドイツ、フランス、カナダ軍をナント前線基地に集中させているのだ。
ラヴァル要塞陣地に配置されている欧州連合軍との連携も容易である。
それに比べ、ラヴァル要塞陣地との距離も離れておりもっとも内陸のオルレアンを攻めるエヴルー要塞陣地に配備されているアメリカ、オーストラリア、ネフレ軍にとっての負担は大きいものとなる。
逆を言えば、物資の心配などせずに暴れることの出来る金満な連中を配置させたということでもあり、全体を見れば適材適所だったりする。
その時、要塞陣地全体を小さな揺れが包み込んだ。
「軌道爆撃が開始されたな」
和真がそうつぶやくと、園子は和真の肩を強引に抱き寄せ先輩風を吹かせる。
「後30分もすれば、第一陣の作戦開始だ。あたし達の出番ももうすぐなわけだけど、ビビってる?」
和真はうっとおしそうに、園子の腕をどかす。
「ビビッてませんよ!そうですね。では、準備を始めましょうか」
2000年2月14日18時00分
エベルノン
「そっちに抜けたよ園子!」
「任せときな!!」
「千夏さんのフォローお願いします」
「分かりました月子さん、ストーは左、俺は右から刈り取る」
「了解!」
オルレアンより湧き出たBETA群は、作戦通りにシャルトル地雷原に誘導され数多の殺戮兵器に犯しつくされ、屍の山と化していた。
ただし、敵BETA群の個体数があまりにも多かったがために、撃ち漏らしたBETA群は西進を始める。
和真達は、そのBETA群をしとめるためにフランスを駆けずり回っていた。
和真は自分に与えられた戦術機、セイカーファルコンを十二分に扱っている。
ラプターは青騎士との傷が癒えておらず、今兄貴達の手により修復中である。
その間に作戦が始まってしまったがために、急遽予備として用意されていたセイカーファルコンを与えられることになった。
千夏の前方からは、突撃級の群れ左右からは要撃級が固く尖った前腕衝角を振り上げる。
千夏は、跳躍ユニットを前面に展開ロケット噴射し急速後退すると同時に突撃砲から36mm弾をばら撒く。
入れ替わるようにして、ストーの赤いヴァローナと和真のセイカーファルコンが躍り出る。
前腕衝角を36mm弾の盾にしている要撃級は無視、その先から砂埃を巻き上げながら猛然と進む突撃級。
その側面をジェットモーターの推力を殺さないままに、背部兵装担架から大鎌のような大剣フォルケイトソード2を手にしたストーのヴァローナは、先端の鎌のような部分の後方からロケットモーターの火を吹かせ、紙を切るかのように突撃級の柔らかい側面の肉を切り裂く。
と、同時に和真のセイカーファルコンが同じくフォルケイトソード改を持って突撃級に止めを刺す。
ジェットモーターを吹き続ける跳躍ユニットを強引に動かし、側宙、千夏のヴァローナに向かおうとしている要撃級を頭上から叩き割る。
真っ二つに引裂け崩れ落ちる要撃級、和真とストーは、一秒のずれもなくやってのけた。
ストーの網膜投影システムに和真の顔が映る。
「俺の言った通り、特に問題は無かったろ?」
ストーはその言葉に、笑顔を作り頷いた。
2000年2月14日19時30分
仮設補給要塞陣地ドルー
和真達は、推進剤の補給を受けるために仮設補給要塞陣地ドルーに身を寄せていた。
次の出撃は四時間後、この四時間の間に仮眠と食事、シャワーを済ませる。
和真は、食事をさっさとすませるとセイカーファルコンの元に向かう。
このような場所の仮眠室は部隊ごとに分けられているとかそんな贅沢は無い。
仮眠室は一室のみ、しかも雑魚寝である。
その一室を、何千人と利用するのだ。
戦術機の足元の方が断然落ち着いて静かに眠ることが出来る。
また和真は、シャワーにも行きはしない。
女連中は、悠遊として向かっていったが哀れなものだと和真は哀悼を捧げる。
「コップ一杯の水で、どうやって体を洗えばいいんだか……」
だがそのコップ一杯の水が、命を繋ぐことも和真は知っていた。
人間は追い詰められれば追い詰められただけ、気持ちの切り替えを行うことが難しくなる。
端的に言えば、戦場帰りの人達は常に興奮状態となり、まともに仮眠をとることすら出来なくなる。
催眠暗示や薬物は金がかかりすぎる。
そのための水である。
気持ちをリセットさせるための、シャワーである。
だが、今はそこまで追い詰められていない。
そのために、和真はシャワーに行く必要が無いと判断したのだ。
和真は、タバコを取り出し火をつけた。
「ふぅ……」
砂とBETAの血で汚れたセイカーファルコンの足元に座り込むともたれかかり、紫煙を肺一杯に吸い込み吐き出す。
ここが、戦場のオアシスだからか知らないが、基本的には道を歩く人達に焦りの色は見えない。
眩しく感じるほどにあたりを照らすライトが心情を現しているようだ。
どこを見ても、戦争一色で軍服や銃、人の頭ほどの砲弾、戦車、戦闘ヘリ、そして戦術機。
遠くの地からは、微かな爆音が子守唄のように響く。
「もう、四年か……。そんなに、たっていたのか……」
映画やアニメの中だけの世界、それが当たり前でそう信じていた世界。今目の前に広がるのは、そう言ったモノばかりだ。
そして、自分もすでにその一部。
「……歳をとるわけだ」
そう黄昏ながら紫煙を吐いていると、柔らかい落ち着く声が和真の耳に届いた。
「お疲れ様」
声の主はストーであった。ストーは、腕の中に毛布を抱えている。
「ストー、トイ・フラワーの皆とシャワーに行ったんじゃないのか?」
和真がそう聞くと、ストーは恥ずかしそうに腕に抱いていた毛布に顔を埋めた。
「……知らなかった」
「あぁ……」
和真は思い出す。
ストーが今まで経験してきた戦場とは比較的女子が多く恵まれていた戦場であったと。
最前線では、風呂、寝室、トイレすべて男女共同である。
ドルー仮設補給要塞陣地も例外では無い。
そして、ストーが参加した長期戦は、樺太と日本斯衛軍との時だけである。
この二つの戦場はどちらも特殊過ぎたということであろう。
和真は理解すると、自分の隣を叩いて促した。
ストーは、しつけられた犬のようになんの疑いも無く言う通りに行動する。
和真の隣に腰掛けたストーは、不安げな瞳で和真を見つめた。
「ストー、こんな風に恥ずかしがっていられるのも、落ち着いていられるのもそう多くないぞ?」
「……うん」
しょんぼりとするストーを見ていた和真は、笑みを作った。
「わかっているなら、それでいい。気の抜けることはやれるうちにやっておくべきだからな」
和真がそういうと、ストーは何故か頬を紅くした。
「だから、……和君のそばに、来たの」
ストーは言うと同時に和真の肩に頭を乗せようとして、慌てて振り戻した。
「どうしたんだ、ストー?」
「きょ、今日、シャワー浴びてないから、臭うかもと思って……」
赤い顔をしながら、身を縮込めるストーの頭を強引に引き寄せた。
「か、和君?!」
ストーの顔は、リンゴのように真っ赤になる。
「気にしなくていい、ストーの体臭が気になったことなんて一度もない」
「で、デリカシーがないよッ!!」
和真は、頬を膨らませるストーの手から毛布を手に取り広げる。
「なんだ、一枚しかないじぁないか?」
「あ、余って、なくて……」
照れたり、怒ったり、焦ったり、見ていて本当に飽きないな。
察しがついていた和真はなにも言わずに一枚の毛布を広げ、ストーに被せてやる。
「衛士にとって、体は資本だ。大切にな」
すると、ストーは上目づかいで和真を見つめ毛布を掴み上げた。
「……なら、和君も一緒に入って」
一瞬ためらう和真であったが、ストーの瞳の力強さに負けることにした。
「……わかったよ。そのかわり、すぐに寝ろよ?」
「うん!!」
ストーは元気に頷き喜ぶと、和真との密着度をさらに増すために体を寄せる。
そして和真の肩を枕代わりにすると、すぐに寝息を上げ始めた。
「早いな」
和真は、ストーの頬を優しく撫でる。
「なんでだろうな……」
心が、落ち着く―――。
「お前は、温かいな……」