Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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経過観察

 フランス領トゥール

 

 

 マントルまで続いていそうな巨大な穴、夜空の暗闇よりも深い暗黒、這い出すは異性起源種と呼ばれる侵略者。

 ついこの前までは、人類は追い出される側であった。

 が、今やその立場は逆転し人類が敵の根城を犯すがために、日夜構わず攻勢に打っていた。

 ロワール川には、ロケット支援艦艇が並び横殴りの暴風雨の如くロケット弾を放つ。

ロ ワール川よりも内陸側、つまり敵の勢力圏内には自走240連装ロケット弾発射器 MCLから放たれたロケット弾の雨が休む暇なく放たれていた。

そ の死の雨粒の下を一歩一歩着実に進み続ける巨人の群れ、他の一般的な戦術機と違い強硬な装甲、両肩に樽のような大型弾倉を背負い、まるでイボイノシシの鳴き声のような音を発するガトリングモーターキャノンに火を灯していたのはA-10CサンダーボルトⅡの群れ、ロケット弾の雨を潜り抜けたBETAを36mm弾の斉射でひき肉に変えていく。

 すると、ロケット弾の爆炎と砂埃で先の見えない世界から一陣の光が差し込んだ。

 それは、ゆっくりと無防備に前進するサンダーボルトⅡの胸部を優しく溶かす。

 崩れ落ちる仲間の戦術機、一秒後には自分がそうなっているかもしれないとの恐怖が、A-10乗りの心を染め上げようとした。

 だが、彼等には希望があった。

 この欧州でその名を馳せた勇猛果敢な風の使者達、彼等が今、光源の発した場所で戦っているからだ。

 

「泥の中でも気高く歌えッ!ボッシュ(頭の固いドイツ野郎)に横盗られるな!」

 

 フランス陸軍第13戦術竜騎兵連隊第131戦術機大隊に所属する一輪の薔薇、ベルナデット・ル・ティグレ・ド・ラ・リヴィエールは小隊の仲間を激昂しながら、自らの愛馬、ラファールが保持する四門の突撃砲から36mm弾を前面に放つ。

 接近していた要撃級4体を挽肉に変えると、ベルナのラファールは足を大きく屈め跳躍ユニットから僅かに火を灯し、サイドステップ。要撃級の後方に隠れていた光線級の群れに120mm弾を放ち滅した。

 

「10時、要撃級3!」

 

 ベルナが声を発するより速く、三機のラファールが保持する長刀、フォルケイトソードを振りかぶり吶喊していた。

 薪を割るかのように全力で振りぬかれたフォルケイトソードは、要撃級の体を両断し、血潮を巻き上げる。

 風に流され霧のような返り血の中、幽鬼のようにメインモニターを光らせるラファールの姿は疾風の名に相応しく、近寄りがたい雰囲気を醸し出す。

 

「さすが、四丁拳銃!雷鳴ますます高くってところかしら!」

「当然よロレーヌ5!私のガンスリングは長刀使いに引けを取らない」

 

 ベルナは仲間の賛辞に耳を気持ちよくさせながらも、コントロールパネルを叩き、次弾を突撃砲に込める。

 ベルナが一瞬目配せする程度のデータ、だがそれがベルナ達竜騎兵の実力を物語っていた。

 それは、推進剤の残量である。

 第13竜騎兵連隊の推進剤残量は、戦闘開始から殆ど減ってはいなかった。

 それを可能としていたのは、フランス陸軍の戦術である。

 大陸奪還を目指すフランス軍は、戦闘可能時間を一秒でも伸ばすために、主脚走行をメインとした戦術を構築していたのだ。

 跳躍ユニットはあくまでオマケ、その程度しか使わない。

 BETAとの混戦において難易度の高い手法をあえて使うことで、他国よりも長く戦い、欧州において一番初めに国土を奪い返すと言う栄誉を手に入れようとしていた。

 その時、ベルナの乗るラファールから仲間の危機を知らせるアラームが鳴り響く。

 

「!?」

 

 網膜投影システムに即座に映し出されたのはロレーヌ5が初期照射を受けている知らせだった。

 

「へ……、ど、どこから!?」

 

 ベルナはすぐさまロレーヌ5の姿を捉え、ロレーヌ5の周囲を索敵する。

 脳は冷静に心は激情を携えて、目を血ばらせ瞬きすることなく探し出す。

 

「見つけた!」

 

 コンピュータが見つけ出すよりも早く、光線級を見つけたベルナは突撃砲を構え引き金を引こうとした。

 が、36mm弾は放たれない。

 

「くっ!」

 

 ロレーヌ5の機影が僅かに光線級の射線上に入りIFFが作動してしまっていたのだ。

 ロレーヌ5は跳躍ユニットに火を灯し光線級の眼から逃げ延びようとするが、光線級の命中率はほぼ100%であり、不可能に近い。

 周囲に壁になりそうなBETAもいない。

 ロレーヌ5のラファールの装甲から煙が立ち始める。

 この間僅か2秒、突撃砲のみで突撃前衛を務めるベルナだからこそ出来る芸当、だが今このときはその力が役にたたない。

 戦友の死を見なくてはならないのか……。

 どうすれば、助けることが出来るのか……。

 心ではそう思いながらも、職業軍人のベルナの脳は冷静に残酷にロレーヌ5の穴埋めをどうするかを考えていた。

 それは、一種の諦めとも逃避とも取れる。

 だが、ベルナはその残酷に慣れてしまっていた。

 ただし、慣れているからこそ、戦友の最後を目に焼き付けようとした。

 その時、突如として現れた赤い流星がロレーヌ5の鼻先を通り吸い込まれる様に光線級を穿った。

 その正体は曳光焼夷弾であり、IFFを切った状態で針の穴を通すような精密射撃をやってのけた人物に心当たりのあったベルナは、一瞬緊張していた体の筋肉を緩める。

 

「……ふん、遅いのよ」

「我々はこれより、ポイントC3に存在するBETAを殲滅する。各機行動に移れ」

 

 悟りを開いたかのような落ち着いた低い声が、コックピット内に響いた。

 いや、実際はヘッドセットから聞こえただけであるが、そう思える程の声を発した人物、ツェルベルス大隊隊長、ヴィルフリート・アイヒベルガー少佐が深く信頼できると言うことであろう。

 貴婦人の如く慎ましく、僅かに口角を上げる。

 

「我等ツェルベルスの黒き狼王に目をつけられたのが運の尽きね」

 

 イルフィが乗るEF-2000タイフーンは地面と水平に飛行し、手に持つ槍のような中隊支援砲Mk-57から次々と57mm弾を放っていく。

 曳光焼夷弾は赤い線を引きながら、次々とBETAに風穴を開けていく。

 それはまるで、BETAが自らイルフィの射線上に姿を現しているかのように、手際よく美しかった。

 イルフィはラファールの姿を見つけると、まるで背を合わせるように降り立った。

 

「ずいぶん手こずっているようね?」

「フン……」

「な、なによ……。言い返さないの?」

「……ありがとう」

「へっ……?」

「ボーっとしなさんな、次が来るわよ」

 

 ベルナのラファールとイルフィのタイフーンが共にBETAに向き直る。

 ここに今偶然にも、昨年のテロを阻止した英雄である二人、双銃士が揃うこととなった。

 そして二対の風は異性起源種を破滅させるがために、深い深い闇に向け砲弾を放った。

 

 

2001年2月23日

エヴルー要塞基地 医務室

 

「度重なる戦闘による疲労ですね。栄養剤を処方しますので、それを飲んで今晩ゆっくり休めば大丈夫ですよ」

 

 蛍光灯の光の下、薬品の混ざり合った独特の刺激臭、それをあたかも神聖な場と演出するために白一色で統一された一室。

 まるで神父のような微笑みで、そう話すのはエヴルー要塞基地に派遣された医務官であり、医務官に向かい合うように椅子に座っていたストーとストーの後ろに立っていた和真は胸をなで下ろす。

 

「念のために、トイフラワー小隊全員、簡単な検査をしましたが全衛士皆疲労は蓄積されていましたが任務に支障をきたすレベルではありませんでした。トイフラワーの皆さんにも、ストーさんと同様の栄養剤を渡してあります。今、隣の病室でお休みになられていますよ」

 

 そう笑顔で告げる医務官に和真は礼を伝えるとストーを引き連れ、医務室を後にした。

 医務室のすぐ隣に存在する病室の扉を開くと、室内からリズムよい寝息が三つ聞こえてきた。

 和真が一人一人様子を伺うように病室内を進む。

 等間隔で横並びに並べられた味気ないベッドには、三浦園子、藤澤月子、竹宮千夏が寝ていた。

 和真は三人の安らかな寝顔を確認すると、満足そうに笑い、一番奥のベッドにストーを誘導した。

 和真は、ストーにベッドに腰掛け待つように促すと、ミネラルウォーターを買いに病室を後にした。

 そして、再び病室に帰ってくるとベッドの隣に丸椅子を用意し、ドシリと腰掛けた。

 

「ほら、早く薬を飲んで寝なさい」

「……」

 

 ミネラルウォーターを手渡し和真はそう言ったが、ストーは手渡されたミネラルウォーターを見つめるだけで、何か思いつめたような表情をしていた。

 そして、ペットボトルがへこむ程握りしめると、勢いよく顔を上げた。

 

「ねえ和君、少しお話ししたいことが」

「まずは、薬を飲んで横になってからだ。そしたら、ストーが眠るまでの間、話を聞いてやるから」

 

 ストーは和真の瞳を見つめる。

 黄色人種特有の黒い瞳の色、どこか奈落を思わせるその瞳のさらに奥、和真の心の奥底を読むことが出来ない。

 ストーは今更ながらに、和真に対してESPの力を使うことが出来なくなってしまったのを悔やんだ。

 そして、表面上から読み取れる和真の想いは、言うことを聞かなければ話を聞かない と言っているのを察すると、観念したかのように薬を口に含み水を使い一気に胃に流し込みベッドに横たわった。

 静かな時間が二人の間を流れていく。

 ストーは何か言葉を探すように、微かに口元を動かしていた。

 そして、のど元までスッポリと覆う布団の隙間から片手を物欲しそうに出す。

 和真は、まるで幼子をあやすかのように優しくその手を握りしめた。

 

「ねぇ、和君……。怖いよ……」

「なにがや?」

 

 和真の口調が変わる。

 昔のそれは、ストーの心を落ち着かせる。

 まるで、第一町にいるかのように安心させてくれる。

 だが、その口調があまりに心地よ過ぎたのか次第に眠気がストーの全身を支配し始めた。

 ストーは、抗うように閉じる瞼を開けようとする。

 

「……かず……くん……が、また……どこかに……いっちゃう……気が……」

 

 そして、ストーは深い眠りの世界に強制的に導かれることとなった。

 ストーの様子を見ていた和真は、何も言わずにストーの手を丁寧に解くとストーの頭を一撫でした。

 そして、一人静かに病室を出る。

 病室の外では、いつの間にかMPが二人まるで門番のように立っていた。

 

「彼女達の護衛を頼む」

「「はッ!」」

「誰一人として中には入れるな。良いな?」

「「了解ッ!!」」

 

 和真はそうMPに伝えると歩みを進める。

 

「睡眠薬の効果は後1時間30分……」

 

 腕時計を確認した和真は、歩く速度を増した。

 

 

 まるでお祭り騒ぎをしているかのような喧騒。

 百鬼夜行もびっくりの人の群れ、路上で嘔吐する人間、女を口説く人間、殴り合いを始める人間、肩を組み手を掲げる人間。

 多種多様な俗物をしり目に、和真は比較的小さく静かな雰囲気を持った店に入る。

 そして店の一番奥に用意されたテーブルに座ると、ウェイターに水を注文した。

 和真が用意されたグラスに水を注ぎ、少し口に含ませ潤わせると、タバコを咥え火をつけた。

 吐き出す紫煙の先、空席であるはずの対面の席にはいつのまにか、見目麗しい女性が腰掛けていた。

 

「お待たせしました。五六中尉」

「時間が無い、さっさと始めようか。メアリー」

 

 まるで幽霊のように突然現れたメアリーにウェイターは驚きながらも、オーダーを取りに来る。

 メアリーは何も頼まずにウェイターを遠ざけた。

 

「それで話とは?」

「まずはこちらをご覧ください」

 

 メアリーがそう言って手渡して来たのは紙の束だった。

 和真はそれを、速読していく。

 

「それは今の所総司令部しか知らされていないモノです」

「そんな物を良く用意出来たな」

「五六中尉には、見せておく必要があると思いましたので……」

 

 和真は捲り続ける紙の中から気になるものを見つけた。

 

「これは本当か?」

「なにがですか?」

「2700mm電磁投射砲……、こんな物が存在しているのか?」

 

 メアリーは和真の質問に淡々と答える。

 

「HI-MAERF計画の落とし子から流用したそうですよ?」

 

 HI-MAERF計画とは、アメリカがBETA由来の未知の物質G元素を発見、その中のG11が抗重力反応を示したことから、重力制御理論を構築、アメリカ議会で戦術機が対BETA戦力として有効なのか疑問の声が出始めた頃、今までは不可能と考えられてきた超火力を保持する決戦兵器を開発することをアメリカ国防省が後押しし、開始された計画である。

 

「だが、HI-MAERF計画はサンタフェ計画―――G弾の完成によって闇に葬られた筈……」

「まだ細々と意地悪く続けていたみたいですね。スカンクワークス最高責任者、クラレンス・リッチ氏が2700mm電磁投射砲の最終調整を指揮するそうですよ」

「HI-MAERF計画にロックウィードは初期から関わっていたな。なるほど……。それより、ここに書いてある通りなら、2700mm電磁投射砲には多分にG元素が使用されているようだが?」

「その様ですね……」

「ならば、BETAの標的になるのは……」

「そうですね、配備されるフランス領ヴァンドームになります。ですが、実射するのは、ブロアハイヴを制圧するときのみ、BETAの残存などその時にはたかがしれていることでしょう」

「だが、お前はそう思っていない」

「はい、先ほど申したのは、総司令部の考えです。我々の考えはそうじゃない」

 

 メアリーはそう言うと、テーブル越しに身を乗り出し和真が手に持つ紙の束を捲っていく。

 

「これを見て下さい」

 

 そしてそのデータを見た時に、和真の血は沸騰しそうな勢いで憤った。

 描かれていたのはただのグラフ、そのたった一つのグラフが和真の怒りを呼び起こす。

 

「……エヴェンスク基地で、ダルコ司令官やラトロワ中佐と見た波形と類似している。……つまり、八万ものBETAを運び込んだ何かが、エヴェンスク基地の皆を死に追いやった何かが、この地にいる」

「はい、その可能性が高いと上層部は睨んでいます」

「ならば、ヴァンドームにそいつが現れる可能性が高いな。そして、総司令部はブロアハイヴ殲滅を優先し、この事を見ない振りをしている。可能性の問題だからだ。上層部の意見はどうだ?」

「五六中尉がおっしゃるように、可能性の問題です。準備は整えておくが、行動に移すのは出現してから―――だ、そうですよ」

「後手に回るのか……」

「仕方ありません、本来25日から始める予定のトゥール攻略戦は前倒しで今夜から始められています」

「おいおい、当初の作戦通りに進める手筈だろ?あの地区には国連軍が配置されている。勝手なことは出来ないだろ?」

「それだけ、現場では時間が無いと感じている者が多いと言うことでしょう。そして、現場指揮官がそう判断したのです。後方国家の心の準備など、彼等には無駄な時間でしかない。……我々としては、困ったことですが」

「そして指揮の乱れとそれによる作戦失敗を恐れた総司令部は、俺達のケツを叩き数多の要塞陣地が手薄になることを承知で、ハイヴ攻略に向かわせる」

「はい、ですのでヴァンドームに回せるだけの戦力をすぐに抽出することは不可能です。よって後手に回らず負えない、と言うことです」

 

 和真は、タバコの先端にたまっていく灰を灰皿に叩き落とし、再び咥え直す。

 

「スゥ~~、ハァ~~……。エヴェンスクと同じなら、後手に回った時点で負けが確定している。が、それは普通ならばだ。……異質なモノを使えば、後手に回ろうとも対処出来る。……上層部は、アレを使うんだな?」

「はい」

「それなら、アイツがイギリスにいたのにも納得がいく。……それで、俺を呼び出したのは、この情報を知らせるためか?」

 

 メアリーは、和真の問いに対し養子媚態を振りまく。

 

「あなたなら、どうするのかなっと思いまして……」

 

 和真はタバコの火を消すと、笑みを作った。

 その笑みは負の感情を乗せていた。

 

「俺に社長から声が掛かっていないと言うことは、俺をブロアハイヴ攻略に回すということだろ。……でもな、今回に限り俺はそれに従うつもりはない」

「じゃあ、どうするの?」

「決まっているだろ?俺に課せられた任務をこなし、尚且つ私的な復讐もさせてもらうさ」

「そんな事、あなたに出来るかしら?」

「さぁね。でも、そうしなければ虫の居所が悪すぎる。それに、今の俺達になら、それが出来るかもしれない」

 

 半ば確信しているかのように言う和真に対し、メアリーは楽しそうに笑った。

 そして、メアリーは和真から紙の束を受け取りバッグにしまうとウェイターを呼んだ。

 

「シェリーを一つ、あなたは?」

「なら俺は、ブルームーンを」

 

 注文を聞いたウェイターが下がる。

 和真は、何食わぬ顔で二本目のタバコに火をつけた。

 そして、シェリーとブルームーンが用意されると、和真は何も言わずにブルームーンを飲んだ。

 

「……女が白ワインを頼んだのに、カクテルですか?」

「俺は、俺の今の気分から飲みたいものを頼んだだけだ」

 

 メアリーは少し、眉を寄せた。

 彼女がそうしたのには訳がある。

 シェリー酒、それを女性が頼んだと言うことは、一つの事を意味していた。

 それは、今夜はあなたにすべてを捧げます。と言う意味である。

 つまりは、メアリーからの夜のお誘いであった。

 それに対し和真の返答はブルームーンである。

 ブルームーン、その意味は、出来ない相談である。が、これを女性が頼んでいた場合、もう一つの意味があり、それは、あなたとお付き合いしたくありません。と言う意味になる。

 和真は、メアリーに対し二つの意味で返答したのである。

 簡単に言ってしまえば、メアリーのお誘いを、和真は興味が無い、早く帰れと言ったのである。

 女としては、気分を害するのは当然とも言えた。

 だが、和真はそんなことなどお構いなしにブルームーンを飲み干すと、札をテーブルに置き、席を立つ。

 

「それじゃ、失礼するよ」

「……残念ですね」

 

 和真は足早に店を出ると、その途中で路地裏に体を滑り込ませた。

 

「クッフッフフフフ……、イッヒヒ、……ハハッハハハハ」

 

 肺から漏れ出す息が、声帯を刺激し、奇妙な笑い声を生み出していた。

 

「フフフ……、まさかこんな早くに、アッハハハハ……、機会が訪れるなんて」

 

 和真はなんとか、奇妙な笑いを口を手で塞ぐことで抑えると、帰路につく。

 

「フフフフフ……、邪魔させるものか。誰にも邪魔を!」

 

 その笑みはただの笑みとは呼べなかった。

 はた目から見れば、精神異常者以外のなにものでもなかった。

 

 笑顔には二通り存在すると言う説がある。

 一つは、有益なモノを取り込む際に口角が上がることによる笑顔。

 母乳を接種する赤子の口角が上がるのはこのためと言われている。

 二つ目は、有害なモノを吐き出す際に歯をむき出しにして吐き出すようにするために、口角が上がると言うモノである。

 今の和真は、二つ目の笑みを作り出していた。

 つまりは、体内から有害な何かを吐き出そうとしていた。

 だが、当の和真自身がそれを堪えようと喉を絞っている。

 その事に、本人は気が付かず。

 ただ確かに、体の中の何かはそれを拒絶しようとしていた。

 

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