Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
大陸全土の景色が一変していた。
世界を闇に染める暗雲の如き重金属雲が見渡す限りのすべての空を支配していた。
立ち昇る砂埃、降り注ぐ爆撃の雨、ありとあらゆる物を吹き飛ばしそうなミサイルとロケット弾の風。そして、血と炎―――。
2001年2月24日10:00より開始されたオルレアン制圧作戦は、一定の成果を収めていた。
軌道爆撃と、なけなしの機甲部隊による面制圧、海兵戦術機隊による橋頭堡の確保、ミサイルコンテナを背負った戦術機部隊によるさらなる面制圧による陣地構築、バレンタイン作戦が発令されてから生まれた英雄達の突入によりBETAの群れに切込みを入れ、アメリカ軍とオーストラリア軍が切込みから穴を広げ、ネフレ軍が補填していく。
多くの犠牲を払った、今なお払い続けている。
それでも、皆が気づいていた。
もう、後が無いと言うことに―――。
「そっちに行ったぞ、イーサン!」
「クソっ!」
イーサンが中隊長を務めるブラッド中隊はBETA群の中、孤立していた。
ロアール川から直線距離にして2kmの位置に目標とする大きな門が大地に口を開けている。
僅か2kmだが、その間には5万を超すBETAの群れさらに数を増やしつつある。
始まりから混戦、いつもの戦いをさせて貰えない。
ブラッド中隊の衛士達は、バレンタイン作戦の中で何度も命の危機に陥りそうな戦いを繰り返してきた。
それでも、眩暈を起こしてしまいそうなBETAの物量。
否応なく近接戦を強いられる。
BETAとの戦い方、そしてその恐怖を半ば克服しているブラッド中隊の衛士達でさえ、パニックに陥ってしまいそうなのだ。
昨日今日派遣された部隊、今までまともに前線に出なかった部隊などは、恐怖のあまりまともな統制をとれていないだろう。
それでも、1kmもの長い道のりを超えることが出来たのは潤沢な補給物資があったからだ。
前方に照準を合わせることなく引き金を我武者羅に引く。
これだけで、全弾なにがしかのBETAに命中していた。
無駄弾など、存在していなかった。
だが、ここにきてBETAの地中進行も合わせて押し込まれ出した。
後は、BETAの物量に押されBETAの波に飲み込まれ消える仲間が増えだした。
「後少しだってのに―――ッ」
イーサンは突き進む突撃級を回避すると、36mm弾を柔らかな横肉に浴びせる。
イーサンは仲間に激を飛ばす。
「後少しだ!もう目の前に補給コンテナが見えているだろうッ?耐えるんだ!」
その時、近くでBETA群と戦っていたシルバー中隊の中隊長の声が聞こえた。
「で、出やがっ―――」
そしてシルバー中隊のマーカーがレーダーから消える。
一気に緊張が増す。
数瞬……、数瞬で12機の機影が消えたのだ。
動揺がブラッド中隊を包もうとした。
だが、もう50m先に補給コンテナが見える。
跳躍ユニットを使えれば一瞬の距離、今は光線級の脅威が強すぎるがために使用を制限しているが、主脚走行でもすぐの距離である。
まるでオアシスを見つけたかの如く、補給コンテナに向かう。
が、その時宇宙からばら撒かれた補給コンテナは、戦車級の赤い波に飲み込まれた。
目に見える位置に補給コンテナは無く。
代わりにと、戦車級の群れが見つめて来る。
イーサンは即座に仲間に指示を出す。
「ちックショッ!CP、補給コンテナが喰われた!後退する許可をくれ!!」
「こちらCP、後退は許可出来ない。繰り返す後退は許可出来ない」
「馬鹿言ってんじゃねぇッ!シルバー中隊も全機がKIA(戦死)アクア大隊は俺達を残して壊滅している!補給もままならない中で、これ以上戦えと言うのは、俺達に死ねということか!?」
「補給に関しては、ネフレ軍が重要な戦域から適時動いている。苦しいのはどこも同じだ、陣形に穴を空ける訳にはいかない。よって、命令に変更は無い」
通信は無慈悲に閉じられる。
「ぐ―――」
叫びたい思いを寸での所で堪える。
自分はブラッド中隊の中隊長に任命されたのだ。そう言い聞かす。
その時、仲間が叫んだ。
「じ、重光線級だあッ!!」
進行方向から九時の方角に5体の重光線級が、黒く淀んだ瞳をブラッド中隊に向けていた。
前方には戦車級の群れ、後退は出来ず、重光線級に狙われている。
シルバー中隊もこのような状況下だったのだろうか。
すぐに気づくことが出来なかった己が不甲斐なさを呪いながら、それでも戦えと叫んだ。
「目標重光線級ッ、120mm弾、撃てぇ!!」
「死ねぇええええッ!!」
仲間の衛士達の絶叫、放たれた120mm弾は重光線級に届くまでに突撃級や要撃級の肉の壁に阻まれ、肉の壁を越えた120mm弾も重光線級の群れを殲滅するまでいかなかった。
一体の重光線級を水風船のように破裂させ絶命させた。
一体の重光線級は、足部を砕き地面に巨体を横たえさせる。
だが、後三体残っていた。
視界の先が、白く輝くのが見えた。
叫びながら120mm弾を放つ仲間達、だが極限状態にあるためか狙いが定まらない。
イーサンの体は、重光線級のレーザーがいつ来ても良いように自然と怖らばせる。
が、魚に足の生えたような重光線級の輝く一つ瞳に、次々と砲弾が突き刺さっていく。
砲弾はイーサン達のすぐ後方からだった。
発射時の発砲音がすぐ真後ろから聞こえたのだ間違いない。
だが、レーダーには味方の機影は映っていなかった。
「なにが……」
そう言うイーサンの声をかき消すように、放たれ続ける砲弾は次々と重光線級を穿ち続けた。
イーサンは戦術機のバックモニターを使用し、後方を確認した。
「ラプター……」
砂埃の中に、幽鬼のように佇んでいたのは戦域支配戦術機の異名で呼ばれる米国の至宝。
腕に持つ大きな支援砲を構えなおすと、いきなり現れたラプターは別の戦場に姿を消す。
「……あれが、ステルス」
イーサンは、その圧倒的な戦力を前に思わずそう呟いた。
「残弾、推進剤、機体ダメージ、問題なし」
和真は脳のリミッターを切った世界で、戦域地図とレーダーを確認し、オープン回線の声に耳を傾ける。
「あ、足がぁあああッ!!」
「た、隊長!置いていかないでッ!」
「よくも……よくもぉおおおッ!!」
回線に流れて来るのは、苦しむ人の声の嵐。
普段の和真ならば、短絡的に考えすべての人間を助けようと動いたはずである。
だが、今の和真は大局的に考え、あえてそれらの声を黙殺し、黙々と任務をこなしていく。
目の前を横切ろうとする突撃級に跳躍ユニットを吹かしたまま突撃、跳躍ユニットの使用を止め、慣性の力により突撃級に体当たりしてしまいそうになるが、和真は高所から飛び降りるように、両足の足底部を突撃級の横腹に押し付け速力を殺す。
ラプターにドロップキックをくらう形となった突撃級は、一瞬片側の足をすべて浮かせよろける。
その一瞬を使い、突撃級を壁にし、その先にいる重光線級に120mm弾を放つ。
重光線級が致命傷を負い、レーザーが撃てなくなったのを確認すると、踏み台にしていた突撃級を殺し、返り血を微かに浴びながら跳躍ユニットを起動、次の獲物の元に向かう。
その動きはまさに猛禽類のそれであり、ラプターの性能の高さを付近の衛士に見せつける。
「急に取り付けられた武装にも嫌な顔を一つせずに、素直に扱える。ラプター、お前は優等生だな」
兄貴により、急遽取り付けられたのは上腕部のスラッシュアンカー、両足側部に取り付けられた箱型ガンマウント内部の120mm散弾銃、そして背部ウエポンラックには、弾倉コンテナを装備し、腕には120mm水平線砲改の正式量産タイプの120mm水平線砲。
これだけの重装備でありながら、ラプターは和真の動きに合わせていた。
さらに、和真の戦績をずば抜けたものにしていたのは、和真がナノマシンの使用法を理解し始めたからである。
和真の体に流れるナノマシンには、数多の衛士の経験が記録されている。
今までの和真ならば、リリアとザウルの経験のみを読み込みリミッターを切った体で二人の戦い方と知識を模倣していた。
だが、今の和真はそれ以外の者達の経験すら、小出しではあるが引き出し模倣することが出来るようになっていた。
今の和真には、次にどのような行動をとればいいのかが理解出来ていた。
戦いながら、選択肢を選んでいるようなものである。
常に過去の力から最善手を選び行動に移し敵を瞬時に殲滅する。
和真の戦績は、戦術機一個大隊並であり、それを個人で成しえていた。
憎い、殺せ―――。
憎い、殺せ―――。
身体の節々から、怨憎が聞こえる。
志半場で潰えた命達、実験の糧とされた者達の声が怨府と化した和真の内部を染め上げる。
「うるせぇな、耳元で囁くんじゃねえ―――。望み通り、BETAを殺してやる。だから……、もっとだ……、もっと寄越せ―――」
感覚で分かる。
どこに着地し、どのような動きをすれば良いのか。
和真は、指示された場所に誤差±5㎝でダイレクトランディング、流れるように側宙、120mm水平線砲を肩部ガンマウントに納めると、両上腕部のスラッシュアンカーを飢えた蛇のように射出、地面を赤く染める戦車級の群れを串刺し刑に処す。
身体を捻り、反転しながら着地、両足足部の箱型ガンマウントから120mm散弾銃を抜き出すと、腕を振り上げ着地するラプターを挟み撃ちにしようとする要撃級の無防備な体に無数の弾丸を叩きこむ。
前面をミンチにされた要撃級は、鋭利な腕が剥がれ落ちかける。
さらにその要撃級を踏み台に飛び上ると、再度120mm水平線砲を装備し、遠方の光線級を狙撃する。
和真が正確に戦域を理解出来ているのは、ラプターの電子機器の優秀さのおかげである。
ラプターに装備されているレーダーなどのセンサー類は、CPと同等レベルであるとも伝えられている。
それほどまでの、情報分析能力を有しているラプターにしてみれば、いくら大規模な混戦で重金属雲が張りつめていたとしても、各地の戦術機が発するデータリンクのデータを収集し、統合し、簡素化することで暴れるに十分な情報を和真に提供することが優秀なのである。
和真のBETA撃破数の個人記録を塗り替えるほどのBETAを殺戮し、戦域の補給コンテナから推進剤の補給をしていた時、各部隊から門に到達した知らせが続々と戦場を飛び交った。
「よし―――、良いペースだ」
トゥールの方も、門の確保が出来たとの知らせはすでにHQから寄せられていた。
作戦は次の段階に移る。
フランス領ヴァンドーム
戦闘指揮所
様々な戦場の映像が、まるで取り囲むように設置されたモニターに映し出されている。
そのモニターを睨み付けるオペレーター達が口早に、戦況を伝える。
「オルレアン戦域、門の確保順調に推移しています!」
「トゥール戦域、西ドイツ陸軍ツェルベルス大隊3番門4番門確保、フランス陸軍第131戦術機大隊13番門から16番門まで制圧完了、その他の部隊も別門を制圧しつつあります」
その報告を、オペレーター達がいる場所よりも一段高い場所にいる三人は神妙な面持ちで受け止める。
「クラレンスさん、そろそろ宜しいか?」
指揮官にそう尋ねられたクラレンスは、顎を撫でながら頷く。
「準備は整っております大佐、後は……」
「姫様、宜しいですかな?」
そして最後の三人目である。マリア・ヴィクトリア・メアリーが力強くうなずく。
「では、お願いします」
マリアは、この戦いを終焉に導くかもしれない一矢を放つ笛を鳴らす。
「マリア・ヴィクトリア・メアリーの名において命じます……、2700mm電磁投射砲、発射準備に入って下さい!」
その一声を合図に、オペレーター達は各所に指示を出していく。
「2700mm電磁投射砲発射準備ッ!!」
「了解、発射準備ッ!」
「ブロアハイヴ周辺の重金属雲濃度70%!」
「超電磁モーター準備完了!」
「重金属雲濃度50%」
「ブロアハイヴモニュメント露出、監視衛星よりデータリンクを開始!」
「重金属雲濃度40%」
「2700mm電磁投射砲、装填完了!」
「装填完了確認、データリンク自動照準開始!」
「国連、アメリカ軍、欧州連合軍、ネフレ軍の軌道爆撃艦隊待避完了!」
「ブロアハイヴ周囲の残存光線級、規定値よりも大幅に下回っていることを確認!」
「ビスケー湾に展開中の、アメリカ大西洋艦隊、艦対地ミサイル発射準備完了」
「2700mm電磁投射砲照準完了!」
「2700mm電磁投射砲、発射準備整いました!」
マリアは、一度瞼を閉じる。
瞼の裏には、共に過ごした友人の顔が浮かんでは消えていく。
皆、生きていてくれ……。
俺も……戦うから……。
「この一矢が、世界を救う道しるべにならんことを―――。2700mm電磁投射砲、放てッ!」