Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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バレンタイン作戦5

 

 

 

 薄暗く仄かに淡い光が満たすトンネルの中を轟音が支配する。

 瞬く閃光、それらが灯ると同時に吐き出される鮮血の雨。

 元は蜘蛛の体に人間の上半身をくっつけた様な肉の塊を、第一世代戦術機一機分の効果な樹脂が塗りたくられた足裏で踏み潰せば、なんとも背筋に氷を入れられたかのような寒気を催させる。

 BETAの死骸の山を潜り抜け、さらに続くBETAの行列に現実逃避に似た思考を巡らしてしまいそうになるが、それすら無意味と操縦桿を握りしめトリガーを引いた。

 

「散会するな!常にエレメントを意識しろッ!!」

 

 清廉された声でそう叫んだのはアメリカ陸軍第66戦術機甲大隊の隊長を務めるアルフレッド・ウォーケン少佐であった。

 現在地は、国連軍が用意したハイヴ内部予想図面と照らし合わせてすでに3分の2は侵攻していた。

 これは先のヴォールグハイヴ侵攻の進行時間と比べれば驚異的な速度である。

 まさに奇跡と言って差し支えない程の事であった。

 それというのも、現在この場には、国連軍第5軌道降下兵団二個中隊に加え、オーストラリア陸軍一個大隊、さらにアメリカ陸軍一個大隊の計96機の戦術機が肩を並べており、さらに後続との連携を図るために降下兵団(オービット・ダイバーズ)には中継器の敷設を、オーストラリア軍にはスリーパードリフトなどの突発的なBETA出現に対する対応を任せ、アメリカ陸軍に関しては、一個中隊を後方に下げ、三個中隊で前方から押し寄せるBETAに対応させている。

 まれに見る恵まれた状況下でのハイヴ侵攻、銃弾も燃料もこの場にいる全軍が共通のパッケージを使用しているために潤沢といってよい状況。

 BETAにとっての最大の武器である数の暴力も通路幅という絶対的な制約の下では機能せず、鴨打も良い環境。

 だがしかし、部隊間に広がる疲弊と心労は、嫌がろうとも募る一方であった。

 

「クソっ、まだ湧いてきやがる!」

 

 最前衛を務めていた米軍衛士から吐き出すような愚痴が零れ落ちる。

 すでに何度も補給のためにローテーションを回してきたが、積み上げられていくBETAの死骸の山、それらを舗装するかのように移動させながら、尚且つ溢れ出すBETAに対処し、中継器を敷設しているオービット・ダイバーズを守らなければならない。

 奴らにも戦わせろとオーストラリア軍の隊長が進言するが、ウォーケン少佐はそれを一蹴した。

 

「彼らには、彼らの仕事がある。またそれは我等とて同じ事。オービット・ダイバーズが敷設した中継器がなければ帰りの道中すら検討も立たないなどと言う馬鹿げた状況に陥らなくて済む。これは、先のホール内にてそちらとの取り決めに則った正当な行為だ」

 

 そうウォーケン少佐が捲し立てればオーストラリア軍の隊長も黙るしかなかった。

 そうだとしても、オーストラリア軍の疲弊は目に余る状況であった。

 いつどこから出てくるかもわからないBETAに即時対応するために両翼に展開されている弊害か、またはそこまでBETAが出現しなかったからか、彼らは補給のためにと後退する機会を失っている。

 それは、常に壁一枚を挟んでBETAが出てこない様にと祈りながら進む事であり、さらに前方から押し寄せるBETAの頻度が増えたがために、中々進む事が出来ない苛立ちが心を圧迫していた。

 そして、その緊張の糸は糸も容易く解けてしまう。

 

「う、うわぁあああッ!!」

 

 一人のオーストラリア軍の衛士が、足元に転がる突撃級の死骸を乗り越えようと、壁側に機体を寄せた瞬間、まるで地割れでも起きたかのように壁の一部が割け、そこから伸びて来た無数の赤い腕に引き寄せられていく。

 

「ひ、ひぁあああッ!!」

 

 その戦術機に乗っていた衛士は恐怖の余り叫ぶことしか出来ず、示し合わせたかのような戦術機一機分の裂け目にゆっくりと引きずり込まれる。

 

「た、助けッ!隊長ッッ!!」

 

 死に逝く衛士は尚も叫ぶ。

 だがしかし、仲間の衛士はそれを見ていることしか出来ない。

 嫌、正確には脱出するようにと説得していたが、そんな蜘蛛の糸を手繰り寄せるだけの余裕がなかった。

 助けようにも敵は裂け目の中、助けようと攻撃すればそれはそれを塞ぐ形となっている友軍機にすべて当たってしまう。

 そのため、だれも銃口を向けてはいるが動くことが出来ない。

 そうしている内に気が付けば、叫び声もしなくなって、そうして捕らわれていた戦術機は体の後ろ半分を齧り取られた状態で崩れ落ちた。

 

「ちくしょおおおお!」

 

 何機かの戦術機が剥き出しとなった裂け目に36mm弾を集約させていく。

 特大の松明を灯したかのような炎がマズルフラッシュとなってスタブ内を色濃くさせる。

 

「この野郎ぉおおお!」

 

 無残に刈り取られた戦友の敵、今までに募りに募ったストレスの発散。

 それを合せて、ただひたすらにトリガーを引き絞る。

 

「撃ち方止めッ!撃つなァアッ!」

 

 オーストラリア軍の隊長が叫んだ。

 だがしかし、恐慌状態となった味方は、足を先を見据えることなく。

 己が行動を最適解と信じ、身勝手に戦争をする。

 罅割れが加速度的に広がり、中から戦車級のみならず要撃級も姿を現した。

 一機のオーストラリア軍の戦術機がBETAの死骸に足を取られる。

 それはまさに不幸としか言いようがなかった。

 

「ぐあッ!」

 

 戦術機は二足歩行の形態をとっている。

 これは間接思考制御を十全に発揮させるためと言う側面がある。

 しかし、中にいる衛士はコックピットに座った状態。

 いくら感覚的に戦術機を動かすことが出来ると言っても、そこには少なくない違和感がつき纏う。

 そのため、戦術機のOSには転倒時にそれを自動で防ぐ機能を盛り込んでいる。

 なによりも優先する事故の未然防止。

 その普段の訓練時には非常に頼もしい命綱が、今この時首を縛り付ける縄と化した。

 

「う、動かな―――来るんじゃねぇッ!」

 

 仮にもハイヴ突入組の衛士だ。

 いくら後方のオーストラリアからの派遣部隊だとしても、その腕と判断力は一級品のものがある。

 そのため、今しがた転倒しそうになった衛士は、このままでは要撃級の衝角に貫き潰されると予見した。

 そのため、自身の戦術機に反撃をさせようとスティックを操作するが、反応が返ってこない。

 そればかりか、敵が目の前に迫っているのに、呑気に膝を曲げながら上体を起こしていく。

 

 ―――事故は未然に防がなければならない。

 

 その命を優先するための処置が、死刑台だった。

 また一機の戦術機が姿を消した。

 オーストラリア軍はこの攻撃で一個小隊分の戦友を失うことになる。

 目の前の惨状を見て、震えあがるオーストラリア軍の衛士達は、それでも冷静な隊長とウォーケン少佐の声により、体制を整えることに成功する。

 しかし、その時には右翼側のオーストラリア軍はBETAの壁の先にあり完全に孤立していた。

 

「ぅあ……」

 

 誰かの呻き声の様なモノが響いた。

 それと同時に水飴の中を這いずるかのように行進を始めたBETA達。

 元仲間で有るはずの、死体と化したBETAを炉端の枯葉のように平気で踏みにじっている。

 その余りにドライな姿勢。

 軍属であるが故か、このような状況におかれているためか。

 その姿に敬意すら表しそうになる。

 しかし、その崇拝するべき対象は、人類の敵であり、イコールそれは神仏の害悪。

 心を殺し、眼前を赤く染め、息を顰めた。

 それが、後催眠暗示によるものと理解していても、諦めればそこで死んでしまう。

 

 そう、理解した―――。

 

 壁側に追いやられる形となったオーストラリア軍の一翼は、全機がほぼ同時に跳躍ユニットに火を灯す。

 BETAの壁は、僅か数十メートルだ。

 天上までは約百メートルはある。

 

 いける。

 隊形がくずれるとか、そんな事はどうでもいい。

 今はまず第一に身の安全を考える。

 

 そうやって、一機の戦術機が浮かび上がった。

 そう、今このハイヴ内部において空中と呼べる場所は人類のテリトリーだ。

 いくらBETAであろうと、地球のルール、即ち重力には逆らうことが出来ない。

 天上から降って来るBETAは今この場にいない。

 なら、ならばだ。

 上に逃げ場を求め、そこから絨毯に大量のシミを作ってやればいい。

 その判断は誰も口にだしていない。

 ウォーケンも、オーストラリア軍の隊長もオービットダイバーズも誰も口にしていない。

 だが、この場にいられるという、選ばれた衛士達はコンマ1秒かからず、同時にその考えを行動に移していく。

 だが、それを上回るのが異星起源種。

 突然のノイズ、続いて爆音。

 それは、一番早く行動に移していた仲間だった。

 

「な……なぁッ!」

「要塞級―――だと!」

 

 それはどこから現れたのか。

 まるでゴキブリのように、音も無く気配も無く、その巨体はそこにいた。

 

「くっ……お前達何をしていた!」

 

 珍しくウォーケンが怒気を強めて言った。

 それは未だに前線で戦うアメリカ軍の衛士に向けてだった。

 

「いや……俺達は……しっかりと……」

 

 ウォーケンは考える。

 このハイヴと言う埒外の場所。

 その壁面は電波を吸収し、音も逃がさない。

 さらには、頑強な壁は120mm弾でやっと凹みを作れるかどうか。

 今までそんな場所、広さに出て来た種類は精々が突撃級まで、それ以上の個体は見ていないし、聞いてもいない。

 それが常識だとばかり思っていた。

 だが違った。

 違っていたのだ。

 そればかりか、要塞級の接近にすら気が付かなった。

 今この場にいる衛士達は集中力が消えかかっている。

 それこそ、目の前のBETAにしか意識を向けられないほどに。

 

「クソッ!」

 

 だがそれでも、アメリカ陸軍の一個大隊を任せられるウォーケン少佐の脳は急速に回転していた。

 前衛を任せていた部隊を中衛にまで後退させ、左翼のオーストラリア軍と共に隊形を組みなおす。

 さらに、後衛のオービットダイバーズに中継機にて、一時後退も視野にいれているとの一報を入れさせる。

 その間も、中衛に構えていた部隊で右翼のBETAの壁に弾幕を浴びせ、だるま落としのようにBETAの壁を切り崩し、未だに浮いたままの部隊を救助するべく動く。

 だがしかし、要塞級がネックだった。

 動きは散漫、特筆すべきは俊敏な動きをする触覚のみであるが、仲間のBETAすら密集している現状況下に置いてその動きは鳴りを潜めている。

 ならば、逃げようと浮いている仲間を助ける弊害の要塞級を真っ先に潰せば良いと考えがちだが、要塞級の防御力がこちらの鉾をまったく通さない。

 要塞級の弱点は各部関節であると言うのは定説通りだが、それは開けた場所で邪魔する存在がいなければと言う条件がつく。

 要するに今このばにいるどの戦術機もまともな動きがとれない中で、図体がでかい要塞級の関節に射線を合せることが出来ないでいた。

 そして、要撃級に突撃級が大挙として迫る中で、スリーバードリフトから溢れ出してきた戦車級の対処で手一杯でもあった。

 オービットダイバーズは中継器を守るために、迫る戦車級の対処に追われている。

 オーストラリア軍もそれは同様で尚且つ仲間を救うために無茶な行動を取ろうとする者まで現れるしまつ。

 アメリカ軍にあっても、前方から迫るBETAと溢れ出したBETAに対処しつつ、なんとかして取り残された部隊を助けようとしているが、うまく動けていない。

 

 一手が足りない。

 後一手、この状況を覆すための一手が―――

 

 その時、オービットダイバーズの衛士からウォーケン少佐に一報が入る。

 それを聞いたウォーケンは引き金を引きながら眉を顰める。

 その内容は簡潔であった。

 

 曰く、救援はすでに向かっているとのこと―――

 曰く、それは単機であること―――

 曰く、その者が辿り着くまでの間だけ持ちこたえろとのこと―――

 

 その一報を聞いたウォーケンは瞬時に様々なことを考えるが、その余りに馬鹿げた内容にうまく声帯を震わせることが出来ない。

 

 もしや、合流する予定であったネフレ軍が?

 

 とも考えたが、それでも単機でハイヴに侵入なんてことはあり得ない。

 いくらこれまでの道のりを整地してきたからと言っても、100%ではないのだ。

 故に絶対にありえない。

 何かの間違いだ。

 そうまとめ上げたウォーケンは再度一時後退する旨を地上の部隊に告げるよう一報を告げて来た衛士に言い。

 自身は、ここに来て最初の究極の選択を告げようとオーストラリア軍の隊長に通信を繋げようとしたその時、それは起こった。

 突如として反り立つ壁を形成しようとしていた戦車級の群れが砕け落ちていく。

 それは120mm砲弾の散弾が何発も叩きつけられているからだ。

 目の前、前方から迫る敵に対処しなければならないこの場の衛士達には不可能。

 

 であるならば、それは第三者にしか成し得ないことで―――

 

 戦車級の壁が崩れ出すと、待っていたと言わんばかりに要塞級が触覚を振り回し、浮いた状態で身動きが取れずにいた戦術機を切断しようと触覚先端についている衝角を振り下ろす。

 が、それすら120mm弾に弾かれ、そして遅れて飛来した巨大な西洋剣が関節部を突き刺した。

 その両刃の巨大な西洋剣は刃体にチェーンソーでも仕込んでいるのか、要塞級は関節部から火花と淀んだ血を噴出させる。

 

 そしてそれは遂に現れた。

 

 視認出来たのは一瞬、なにやら角ばった戦術機であることだけであった。

 続いて轟音。

 それは音を吸収するハイヴ内であっても響いていると錯覚させ、それが急激な減速をした時のロケットエンジンの音と理解すると同時にウォーケン少佐の眼前に味方の戦術機を示すフリップが現れ、詳細情報が流れる。

 

「あれが、ラプター……だと……」

 

 そのラプターは背に戦闘機のような物を背負い、名の通り猛禽類のように翼を広げジェット噴流を両足から垂れ流し、しかし獲物を捕らえるかのように足底で要塞級の関節部に突き刺さる巨大な西洋剣の柄頭を踏み抜きさらに深く西洋剣をめり込ませていく。

 その数秒の中で繰り広げられた理解の埒外の数々に言葉を無くすも、ウォーケン少佐はそれを確認した。

 そこに記されていたのは、自身も騎乗している戦術機、ラプターの情報、所属はネフレ軍搭乗衛士の名は五六和真。

 

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