Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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バレンタイン作戦6

 

 

 

 

 

 オーストラリア陸軍第七旅団ロイヤル・オーストラリア連隊第六大隊の隊長を務める男、オリバー・バウアー少佐は、少しだけ昔の事を思い出していた。

 

 それは、遠い過去のことの様で、つい最近のことの様に思い起こせる。

 

 陸軍本部の位だけが取り柄の男に命令されケアンズ基地に到着したのは、陽気な晴天降り注ぎ、ビーチでXXXXGOLDのビールを片手に肌を焼きたい、そう思わせる気持ちのいい日だった。

 ケアンズ基地は、オーストラリアに置いて、貧富の格差が劇的でそして近年急成長を遂げている都市だ。

 西に車で2~3時間飛ばせば、難民収容所が目に入り、東に2~3時間行けば立派なビル群が出迎えてくれる。

 そういう、オーストラリアの光と影がネフレ社を間に挟んで握手している場所である。

 気持ちよくなりたいと思う気持ちと、こんな場所からはとっとといなくなりたいと思う気持ち、どちらにしろ仕事をするまで身動きできない職業なため、ふつふつと湧き上がる様々な欲望を堪えるしか出来ない。

 

 はぁ……と、オリバー・バウアーは溜息を吐くと共に、神に許しを請う。

 

 おぉ神よ。貪欲な我をお許しください。

 

 オリバー・バウアーの今日の仕事内容は、ネフレ社付の国連軍衛士との模擬戦であった。

 所属が国連軍となっているが、誰もそんな事を信じてはいない。

 彼らはまさしくネフレ社が保有する戦力であった。

 格納庫内に並ぶ数多の戦術機、まるで博物館のようであると思わせる程に多種多様、様々な国の戦術機並びに兵器が並んでいる。

 高々一企業がそれほどまでの戦力を有することを認められているのは、今や一次産業の殆どを、ネフレ社が牛耳っているからに他ならない。

 万年テロリストを含めた複数国家に狙われているのだ。

 そうなってしまうのも致し方無いのかもしれない。

 不満はオーストラリア軍内部にも積もりに積もっている。

 だがしかし、強大になりすぎたある種独裁国家よりも質の悪い者達と友好関係を結んでいなければならない身の上としては、時たまに親善試合のような教導をネフレ社側からの要請によりしなければならないのだ。

 そう考え、遊んでやるかと始めた模擬戦と言う名の教導。

 結果は、言いたくはない。

 だが、そこで光る者を見つけた気がした。

 教導していたのか、はたまた教導されていたのか、そんな模擬戦を終えて帰路につこうとしていた時だ。

 

「国連軍第九方面軍ネフレ社出向組の五六和真少尉であります。すみませんが、これよりデブリーフィングを行うのですが。ご出席頂きたいのです、よろしいでしょうか?」

 

 そう声をかけて来た強化装備を身に纏った少年。

 背格好に顔の作り、典型的なアジアンよりも幾分幼く見えた衛士がそう声をかけて来た。

 その瞬間、背筋に力が込められた気がした。

 電気信号が体中を駆け巡り、脳が発するより早く答えを述べていた。

 不思議な感覚だった。

 だが同時に熱心に聖書を読んでいたためか、すぐに理解も出来ていた。

 

 これが選ばれた子なのだと―――。

 

 泣いていたのだろう目尻を赤くさせながら、下手糞な英語で少年を目の前にそう思った。

 

 

 次にその光る者と遭遇したのは、ムアンパンガー群のBETAを殲滅した後だった。

 戦術機空母の上で泣きながら、銀髪の女に抱きしめられていた少年と呼ぶに相応しい見た目の衛士、自身の部下でもない衛士がどうなろうと知ったことでは無かったが、どうもその時は、ホッとしている自分がいることに気が付いた。

 

 

 三度目にその光る者と出会ったのは、ケアンズのビーチでだった。

 傍らに、銀髪の少女を連れて歩く少年と青年の間に見える光る者は、少し変わって見えた。

 何気なく声をかけてみると、その光る者の目元には深い隈が出来上がっていた。

 慕っていた上官を無くした時の自分の顔と似ていたので、そういう事かと納得し、会話を進める。

 何か先輩として助言出来ればと思っていたが、その必要は無かった。

 

 光る者……。

 嫌、五六和真少尉は衛士として前を向いていた。

 

 自力で乗り越えたのかと考えたが、傍らの少女が彼の手を握りしめていた。

 それを見て、酷く劣等感を感じたのは当然であろう。

 だが、良い女に好かれる男と言うのは、往々にして大成するものと相場が決まっている。

 だからそこ、この男もいつかそうなるのだろうと希望を見た。

 

 見ていたんだ―――。

 

 それが、なんだこれは―――?

 

 

 

「凄いですよ隊長……。あのラプター、俺達の戦いやすいフィールドを作りながらBETAを殲滅しています……。信じられない、アレが合流してから進行速度が劇的に増しています。なにより、こちらに被害がまったく出ていません」

 

 部下の声を聞きながら、そんな事は分かっていると脳内で呟いた。

 まるでBETAの大群の中を泳ぐように進み気が付いた時には俺達とヤンキー共の射線上にBETAが均等に進むようにBETAを半殺しにしている。

 時には、単機では到底不可能な数のBETAを血祭りに上げ、それを無傷でやり遂げる。

 敵に一切に躊躇いを見せず、盤面の駒を進めるように常に最適な行動をとり続ける。

 俺含め、ウォーケン少佐も部下を鼓舞するが特にこれと言った命令は出していない。

 そんな必要が無いほどに、戦場が整えられていく。

 

 俺は、目元を擦る。

 

 何度も擦る。

 

 それでも、もう見ることが出来ない。

 

 彼の登場はまさに奇跡だ。

 

 彼が味方でいてくれるなら、諸手を挙げて喜ぶべきだ。

 

 それでも、俺の心は晴れない。

 

 なぜなら、ウィンドウ上に現れ、作戦会議を進めている青年になった彼には、も

う光を見ることができなくなっていたのだから―――。

 

 

 

「では、その様に―――。よろしいか、バウアー少佐?」

 

 和真は眼前に浮かぶ三つのウィンドウに浮かぶ男の一人にそう告げる。

 

「あ、あぁ……」

 

 オリバー・バウアー少佐がそう生返事を返すと、アルフレッド・ウォーケン少佐が訝し気に眉を顰める。

 

「バウアー少佐、本当に大丈夫なのか?これより先は、反応炉が存在するメインホールまで一本道だ。本作戦では貴軍の活躍無くして成功はないも等しい」

 

「心配されずとも作戦内容は理解しているよウォーケン少佐。我らオーストラリア軍はこのホール並びにオービット・ダイバーズを死守し、アメリカ軍並びに、五六中尉の帰還ルートを確保し続ける。……本来であれば、我らも攻略側に回りたかったのだがな……」

 

 オリバー・バウアーはそう悔しそうに言った。

 和真はそれに頷き返す。

 オーストラリア軍の衛士達は本当によくやっている。

 第二世代のホーネットでここまで来たのだ。

 驚嘆に値するレベルである。

 だが、衛士にやる気があっても機体がすでに混戦に耐えられる状態ではない。

 ならばこその、退路の確保を申し出た。

 オーストラリア軍はここまでに、一個小隊失っている。

 後方国家の衛士をこれ以上減らすべきではないとの俺とウォーケン少佐の意見を取り入れて貰えた。

 ただし、この作戦が成功した暁には、オーストラリア軍の尽力が大いに役立ち、それがなければ不可能であったと、報告することを条件にしている。

 G元素の件も、俺がいることでアメリカ軍がねこばばするなんて思わないだろう。

 なにせ、合流するのに、最大限のアピールをし、尚且つここまでの道中に嫌と言う程力を誇示してやった。

 さらには、目を光らせていると暗に伝えてやれば、馬鹿な真似は出来はしない。

 だが、それもある種杞憂であったと言える。

 バウアー少佐もウォーケン少佐も傑物だ。

 今の戦場の状況に置いて何を優先すべきか俺が言うまでもないことだった。

 こう言ったところで、年の差と言うか階級の差を思い知らされる。

 

「では進むとしよう。この作戦を終わらせるために……」

 

 ウォーケン少佐はそう言うと、味方を鼓舞する演説を始める。

 それを片耳に挟みながら、和真はバウアー少佐にプライベートチャンネルを繋いだ。

 

「なんだ?」

 

 バウアー少佐の顔が浮かび上がる。

 少し疲れているのだろう。

 または、アメリカ人特有のくどい演説を聞かされて辟易としているのかもしれない。

 バウアー少佐の表情は優れていなかった。

 

「―――これより、私達はメインホールに進み反応炉を完全破壊します。が、それはあくまで机上で生み出された対策マニュアルに従ってのことです。完璧ではない」

 

 和真がそう切り出すと、バウアー少佐は眉間を揉み解し、視線を強くした。

 

「なにが言いたい?」

 

 和真はフッと小さく笑う。

 

「いえ……、ここまで来て少し心配になってしまったのです。私は……、この難解を解決出来るのか……、そこまで強くなれたのか、ってね」

 

 そこでオリバー・バウアーは深く、それは深く溜息を吐いた。

 

「強いさ……。中尉、貴様はあの頃よりも格段に強くなった。神の御業を賜ったのか、悪魔と契約したのではないかと思わせる程に、貴様が無理だと投げだすなら、俺達では到底太刀打ち出来ない危機なのだと思わせるくらいに、貴様は強い」

 

 バウアーはそう断言した。

 今までの活躍もそうだが、それだけの力を得ていながら、未だに上を目指すのか。

 末恐ろしいとはこのことかとバウアーは苦笑う。

 

「帰りの道は確保し続ける。貴様は、あの強かな衛士達のように遅れて現れて難題を軽く終わらせるくらいで丁度いい。―――それが、英雄の特権だ」

 

 だから―――と、その先は言わなかった。

 言わずとも良いような気がした。

 和真は儚げに笑うと感謝の言葉を述べ通信を閉じる。

 それを見届けたバウアーは背もたれに全体重を預け、コックピット内の狭い空間内で空を見上げる様に首を持ち上げた。

 

「……女々しい奴」

 

 そう呟くと同時にウォーケン少佐の演説も終わった。

 

「良し、行くぞッ!!」

 

 

 

 進軍隊形はウェッジワン、急先鋒を務めるのはアメリカ陸軍のヒル中尉のラプター。

 和真は隊の中心位置、司令官のウォーケンの隣、メインホールを前にしてBETAの猛攻撃を受けると考えていたが、思いのほかそれも散発的であり、数が集うよりも前にメインホールを押さえたいこちら側としては願ったり叶ったりであった。

 

「五六中尉、少し良いか?」

 

 着実とメインホールへ向けて進軍を進める中、ウォーケン少佐が和真に語り掛けて来た。

 

「はい、何でしょう?」

 

「貴官の搭乗するラプターに関してなのだが、同じラプターに乗る身としてやはり同型機とは思えない戦火だ。それに先程受けた説明では、その殆どの装備が試作品で出来ていると、不安ではないのか?」

 

「あぁ……、こんな所まで同行させていただいといてなんですが、結構不安ですよ。ですが、私はテストパイロットです。不安ですが、それが仕事ですから仕方が無いと諦めています。……不具合などのネガは粗方本社で潰していますので、少しは安心できますがね」

 

 和真がそう言うと、ウォーケン少佐はおどけて見せた。

 筋肉質な大男が両肩を持ち上げて片眉を下げニヒルに笑うその姿は、どこぞのハリウッドスター並みに様になる。

 

「そう言えば、ネフレ社の第一町では、人工の砂浜があると聞いたが本当か?」

 

「はいその通りです」

 

「俄かには信じられないな……。太平洋のど真ん中で作り出してしまうねんて」

 

 ウォーケン少佐が真剣にそんなことを言うので、和真は可笑しく思いながら語っていく。

 

「実はあそこにある砂は、偽物なんです」

 

「なんと!」

 

「ふふっ……。あれ、合成食材を作り出す際に生じたゴミの山なんですよ?たまたま肌触りと色合いが似ていたがために、今では立派な観光名所の一つです」

 

「そうか……。ハワイなどは軍事要塞かしてしまったために、綺麗な砂浜なんてものは過去だからな。サンドビーチなど、夢物語だ。……そうか、次に機会があればぜひ家族で行かせてもらう」

 

 和真は自然と明るい声で話す。

 

「えぇ、喜んで。事前に連絡を寄越して下されば、街一番のホテルも用意しておきます。これでも、ネフレ社ではそれなりの役職に就いていますので、お任せください」

 

「おぉ、それはありがたい!」

 

 ウォーケン少佐がそう言うと同時に和真の眼前に数多のウィンドウが開いていく。

 それはアメリカ陸軍の仲間達だった。

 

「なら俺も頼みます!彼女とのデートすっぽかしてしまって困っていたんです!」

 

「私もお願いします!ゆっくりと肌を焼きたいの!」

 

 俺も私もとその声は広がっていく。

 その光景に和真は本当に嬉しそうに笑っていた。

 そして、ウォーケン少佐の声一つでそれらがすべて消えたその時だ。

 

「少佐ッ!」

 

 先頭を進むヒル中尉が声を荒げる。

 確認出来たのは、咆哮の音と微弱な振動波、さらにノイズばかりだが、オープン回線が誰かの声を拾っている。

 

 ―――戦争だ。

 

 ウォーケン少佐が叫ぶ。

 

「こちらでも確認した。戦闘場所はおよそ眼前のカーブを抜けた先200メートルだ。これは、先んじてハイヴ侵攻を行っていたドイツ軍、もしくはフランス軍であると思われる。この波形から混戦になっていると思われるが、窮地に陥っているのは我らが同胞である。よって、足の速い五六中尉を先頭にヒル中尉の第二小隊が先行、続いて我らが続き道を切り開く。よろしいな?」

 

 最後の問いかけは誰に投げた物なのか考えるまでもない。

 和真は、脚部のスラスターと跳躍ユニットに火を灯し飛び上がると、アローユニットを展開し、ロケットモーターを回転させる。

 

「了解!ヒル中尉、向こうの指揮官との交信は任せます!」

 

「応ッ!暴れようぜ!」

 

「はいッ!」

 

 アローユニットに火が灯り、即座に体を押さえつけるような重力が襲う。

 それを気にも留めず最速最短で戦場に向かった。

 カーブを抜けた先、トンネルの出口を思わせる口がぽっかりと開いたそれは、光のカーテンが蓋をしているように先が見えない。

 和真は、コントロールパネルを叩くと即座にラプターのカメラの光量を外界のそれに変更する。

 すると、その先に広がる光景はまさしく外界の戦場だった。

 光のカーテンを潜り飛び出すと、数多の声が鮮明に鼓膜を叩く。

 それは混戦になっていることを意味していた。

 和真は即座にこの空間が今まで来たホールよりも広い事を確認さらに、頭上に微かに青空が見えることからシャフトに出たのだと理解する。

 高度を50メートル上昇させ、上空からG11突撃砲と120mm水平線砲を構え発砲。

 眼下で戦うラファールとタイフーンに襲い掛かるBETAに次々と命中させていく。

 さらにBETAが這い出してきているのが、三つ口を開けているドリフトの入り口の一つであるのを確認すると叫んだ。

 

「あの先に味方はいるのか!?」

 

 発砲を続ける手は止めない。

 それでなくても壁を伝いよじ登ってきている戦車級が飛び掛かってくるのだ。

 それらを両上腕部に取り付けられているスラッシュアンカーを蛇のように射出し串刺しにしながら回避もし、正確無比に眼前のBETA共を射貫いて行く。

 一気に心のボルテージを上げ、神経を研ぎ澄ませる。

 

「その声、和真さんッ!?」

 

 どこか疲れを感じさせるが、声質ですぐにわかった。

 

「イルフィか!?」

 

「はいッ!」

 

 和真が聞きたかったのはその元気の良い返事ではなかったのだが、そこはどこか抜けているイルフィである。

 血生臭い戦場で、喜色を孕んだ良い返事を返す。

 すると、今度はどこか冷めた声が聞こえた。

 

「あんたが言ってるルートの先には味方はいないし、入って来る奴も出て行く奴もBETA以外にいないわよ」

 

「了解した。ベルナッ!」

 

 和真は射出していたスラッシュアンカーを巻き戻し眼下に向けていた突撃砲と水平線砲を体の外側に伸ばすように向けると、回転しながら発砲、手当たり次第に向かって来ていた戦車級を打ち砕いて行く。

 そして体制を整えると、アローユニットの両翼に備え付けられていたS-11ミサイルを一発放つ。

 飛び出したミサイルは、真っ逆さまに重たい頭を重力に引かれさらにケツに火を灯し音速を超え落下、途中で向きを変え、BETAが湧き出すドリフト内部に入って行くと数秒後に爆発、ドリフトから爆風に押されたBETAが飛び出してくるがそれは威力の証であり、狭いドリフト内で、指向性があるS-11を爆発させたのだ、効果など語るべくもない。

 さらにダメ押しにもう一発放つと、それはドリフト入り口付近で爆発したのだろう。

 内壁が崩れる音が響く。

 ともすれば、後はこのホール内のBETAに気を付ければよいだけだ。

 

「どちらがカゴの中の鳥か、教えてやるよッ!」

 

 和真はそう叫ぶと、突撃砲と水平線砲を格納し、ガンブレードを抜き放つと眼下の混戦にその身を埋めて行った。

 

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