Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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バレンタイン作戦7

 

 

 

 辺りを静寂が支配していた。

 

 夥しいまでに積もった肉の城、溜池となった血流、所々に点在する満身創痍の戦術機達、その中心でまるで祝福されているかのように一本の光の帯が、悪魔のような風貌の戦術機に降り注ぐ。

 肩で息をするかのように少し猫背となった戦術機は、右手に巨大な肉片と血糊だらけの剣を把持し、左手には体と切断された要撃級の頭部を握りしめている。

 背には巨大な機械の翼を抱え、排熱され生まれた蒸気がその姿をより幻想的に悪魔的に魅せる。

 

 余りに一方的だった。

 

 まるで虫かごの中で戦わされているかのように逃げ場は無く。

 自らの安全のために、目の前の存在を撃滅する。

 この空間だけで、地球規模で行われているBETAと人間との種族間戦争を一から十まで経験した気分となった。

 その結果は人類の勝利、この場に生きているBETAはいない。

 

 それでも、こう考えてしまう。

 

 この場でもっとも活躍したあの戦術機は、本当に我らの味方なのだろうか。

 

 もしくは、ただ生死を賭けた闘争を求め続けている狂戦士なだけなのだろうか。

 

 一通り排熱を終えた件の戦術機、ネフレ社所属のF-22ラプターは、戦車級の肉片を体から落としながら、方向転換する。

 各国の戦術機達の跳躍ユニットから微かに聞こえる暖気の音、その少し甲高い機械的な音をかき消すように、和真のラプターが一歩踏み出した。

 要撃級の頭部らしき感覚器の欠片、それが踏み潰された。

 足を持ち上げる。

 足底に張り付いた形態を変えた肉と血が重力に従って零れ落ちる。

 左手に持った要撃級を投げ捨てるように放り、さらに歩みを進める。

 

 動かない、嫌動けない。

 

 流石と言うべきか、アメリカ陸軍、フランス陸軍、そして我らがツェルベルス大隊の隊長は、負傷した機体と衛士を今作戦から外し、後方のホールに待機しているオーストラリア軍に引き渡している。

 

 迅速な行動だ。

 

 だが、それのせいで今野に放たれた狂犬の如き存在が、私達に向け一直線に歩みを進めている。

 指示は特にない。

 仲間内で通信から談笑をしていたが、その皆が黙り込んでいる。

 あの戦術機には、オーラがあり過ぎるのだ。

 もはやそれは畏怖に近い。

 相手が一歩進める度に、一歩後退った。

 そんな私に向け、同期の仲間の一人であるイルフリーデ・フォイルナーが優しく語り掛けてくれた。

 

「……大丈夫よルナ、怖くない」

 

 ツェルベルス大隊第二中隊第一小隊砲撃支援を任せられているルナテレジア・ヴィッツレーベン少尉は、その声を聞くことで肩の力が少し抜けた気がした。

 そして軽口でもって応答しようとしたとき、イルフィは皆がギョッとするのをよそに、狂犬に声をかけた。

 

「お疲れ様です和真さん!でもダメですよ。一人で欲張っちゃ、私達の分も残して置いてください!」

 

 ルナテレジアは一瞬軽い目眩を覚える。

 相手は急激に名を広めた生きる英雄の一人、さらには階級も自分達よりも上の中尉、さらにさらに彼は国連軍ネフレ出向組で所属すら違う。

 そんな相手になんて無礼な。

 

「ちょ……イルフィ……」

 

 私が諫めようとしたところで、また別の声が上がる。

 

「アンタ、残弾のチェックは出来ているのよね?随分派手にやっていたけど、これからの本番に弾が無いなんて泣きついてきても、融通しないから」

 

 そこのところよろしくと辛辣に締めくくったのはフランス陸軍のベルナテッド少尉だった。

 彼女とは顔見知りだったことからこう言った相手にも物怖じしないのは分かっていたが、公私はしっかりしている印象だっただけに驚きだった。

 すると、ネフレ社のラプターは足を止めた。

 

「へ……?」

 

 気が付いた時には、ネフレ社のラプターが右手上腕部に取り付けられていたスラッシュアンカーを向けていた。

 そして射出。

 真っすぐに鈍く光る刃が迫る。

 

「な、なんでわたくしなのですか~~~ッ!!」

 

 叫んだ。

 それはもうこの世の理不尽を訴える様に、腹の底から叫んだ。

 が、スラッシュアンカーはルナテレジアのタイフーンの頭部ギリギリ掠らない距離で通り過ぎた。

 ルナテレジアの露出した頭部から顔に一筋の汗がつたり、それを皮切りに全身が発熱したかのように汗を吹き出す。

 衛士強化装備服がその異常を検知した音を発したと同時に、乾いた声帯が動いた。

 

「えっと……」

 

 恐る恐る伸びるスーパーカーボン製のワイヤーの先を見る。

 するとその先端には串刺しにされた戦車級がいた。

 戦車級は串刺しにされた程度では死なずなんとか逃れようともがいていた。

 巻き戻されていくスラッシュアンカー、それと同時に血みどろの戦車級が巻き戻されるように頭部横を通過していく。

 巻き散らかされた血飛沫がタイフーンの頭部バイザーを赤に染め上げる。

 その赤の世界で見えたのは、刃を抜かれた戦車級が勢いよく踏み殺されたところだった。

 それを見て、私は大きく息を吐き出した。

 

 和真は、ぼうっと突っ立っていたタイフーンにへばり付いていた戦車級を殺すと、再度周囲を索敵する。

 

「アレで最後だな」

 

 和真はそう呟くと、やいのやいのうるさいイルフィに視線を移す。

 

「イルフィ、うるさい。それと、索敵は怠るなよ」

 

 和真がそう言ってやると、イルフィは顔を赤くしてプルプルしている。

 

「無様ね……」

 

 止めとばかりにベルナッテッド少尉がそう呟けば、大きな笑いが生まれていた。

 

 和真はイルフィ達との軽口を終わらせると、隊長陣との作戦会議に参加していた。

 遅れて到着したアメリカ軍、先んじて戦闘を始めていた西ドイツ軍にフランス軍、意外な事にまともな戦闘を可能とする残存機数は同程度となっていた。

 少数精鋭による奇襲を得意とするツェルベルス、ベテランの域に達した衛士を数多く在籍させ、優秀な衛士による数の戦略を展開していた竜騎兵連隊、先の戦闘には遅れての参戦ではあったもののラプターを駆る第66戦術機甲大隊、単機での働きをしたトイ・ボックスのラプター、ハイヴ内での戦闘の最適解が導き出された瞬間だった。

 作戦会議を終えた和真に四つのウィンドウが開く。

 それはイルフィとベルナ、さらにイルフィと同企画の衛士強化装備服を着る女性衛士の二人だった。

 薄い緑色の髪を持つ、お淑やかな雰囲気を持つ衛士が先に口を開いた。

 

「突然すみません。……先程はありがとうございました。わたくしはツェルベルス大隊所属のルナテレジア・ヴィッツレーベンですわ」

 

 次に、騎士のように厳格な雰囲気を持つ紫色の長髪を持つ衛士が口を開く。

 

「同じく、ヘルガローゼ・ファルケンマイヤーです。……イルフリーデが世話になりました。さぞ苦労されたことでしょう」

 

 ヘルガローゼがそう苦笑すると、和真は同じく苦笑した。

 

「あぁ、イルフリーデ少尉はお転婆が過ぎるからな。度々制御が利かなくてね。いつ、ツェルベルスに苦情を入れてやろうかと考えていたんだ」

 

 和真がそう言うと、イルフィが口を大きく開けて抗議した。

 

「な、なにを言っているんですかッ!?私頑張りましたよね?頑張ってましたよ!」

 

 そう言うイルフィに和真は嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

「おいおい、どこのだれだったかな。仮にも上官に買い物袋を持たせ、あまつさえその上官のソフトクリームの殆どを奪い取っていった鬼畜は?」

 

 和真がそんな話を事細かに説明口調で言ってやれば、ヘルガローゼは痛そうに額を押さえながら謝罪の言葉を述べ、ルナテレジアは頬に手をあて困ったように笑った。

 すると、今度はツェルベルスの各面々の顔が急に浮かび上がりイルフィをからかい始め、イルフィはそれに弁明を必死になって始めていた。

 そんな中で、ルナテレジアは和真に先程助けてもらったことへの感謝を再び述べた。

 それに対し和真は気にしなくていいと言いながら、少しだけ考えて話始めた。

 

「ルナテレジア少尉のポジションは、インパクト・ガードだったな。広い視野と情報分析を求められるポジションだ。気を抜くなとは言わないが、そこには段階を持たさなければならない」

 

 和真がそう言うと、ルナテレジアは小さくなりながら「はい……」と答える。

 そんな姿に和真は笑いながら次から気を付ければいいと言う。

 

「その……。中尉はこの環境下でどのように正確な索敵を行っているのですか?」

 

 ルナテレジアがそう言うと、和真は恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「なに、俺は他の人よりも数段と臆病なだけだ。だから常に考えている今この時に起きうる最悪の状況、その先の攻略への道標を……。そうやって人よりも多くの戦場に身を置いてからは、常にコイツと相談し合いながら行える全ての索敵方法を常に試している」

 

 さらに和真は索敵の方法などをルナテレジアに伝えていく。

 目線の位置や空気の感じ方、各種センサーの微妙な変化とノイズの差異、まるで抗議のように伝えられていくそれはルナテレジアにとって新鮮な情報が多くあった。

 そして次第に熱が入って行く抗議の最中、和真は気が付けば静かになっていることに気が付いた。

 それは、周囲にいる衛士達が和真の話しに耳を傾けていたからだ。

 それに気がついた和真は、頬を掻く。

 

「はぁ……。俺もまだまだだな」

 

 和真がそう呟き次々と眼前に浮かぶ顔達を消して行く。

 最後にベルナのウィンドウを消そうとした時だ。

 彼女と目が合った。

 それは一瞬だった。

 彼女はその瞬間悲しそうな表情を作っていたが、ウィンドウを閉じられてしまったために、その心情を確認することなど出来ない。

 それでも、和真は彼女が何を言いたかったのか理解していた。

 恐らく謝罪だったのだろう。

 何に対してのなんて無粋な事は言えない。

 それでも、人の機微に人一倍敏感な彼女は分かっていたのだ。

 

 和真が以前の和真でないことに……。

 

 

 

「では、メインホール制圧作戦を行う」

 

 ウォーケン少佐がそう力強く宣言すると、各々が配置につきだした。

 和真も所定の位置に向かう。

 その中で、イルフィとベルナの顔が浮かび上がった。

 

「どうした?これから大一番の仕事なんだ手短にな?」

 

 和真がそう言うと、イルフィとベルナはまるで双子かのように声を合せた。

 

「死なせませんからね!」

 

「死ぬんじゃないわよ!」

 

 そう力強く言われた和真は一瞬キョトンとした顔をした後にどこか照れくさそうに、しかし笑い方を忘れてしまったかのようなくしゃりと顔の皺を作る。

 そして吐き出した声はどこか晴れやかだった。

 

「ありがとう……。大丈夫、なんて無責任な事は言わない。それでも、俺の眼が届く範囲にいる皆は俺が守るから……、やりきってみせるから……」

 

 和真はそう言うと、通信を閉じる。

 これ以上はいけない。

 今まで張りつめさせていた空気を逃がしてしまう。

 年端もいかない少女達に甘えるな。

 和真はそう自分に言い聞かす。

 そして体内の緩んだ空気を押しつぶすように、先の作戦会議の内容を思い返す。

 

 

 

「では改めて紹介しよう。彼は、この場の戦場に置いて最も勇敢な衛士の一人五六和真中尉だ」

 

 ウォーケンがそう言うと、和真は眼前のウィンドウの先にいる二人に頭を軽く下げる。

 

「国連第九方面軍ネフレ社出向組トイボックス小隊所属五六和真です。中尉の身ではありますが、我が方面軍においてこの場での最高責任者が私であるため、ウォーケン少佐に無理を通してこの場に参加させて頂きました。よろしくお願いします」

 

 和真がそう言うと、西ドイツ軍のアイヒベルガー少佐とフランス軍のゲグラン少佐は返事を返す。

 そして会議は続く。

 

「では、それぞれオービットダイバーズが敷設した有線通信にてCPに連絡は入れてくれたモノと考えるが、地上の様子は各々変わりないと言う先程の情報と変わりないと言うことでよろしいか?」

 

 ウォーケンが再度確認すると、アイヒベルガー少佐とゲグラン少佐がそれぞれ返事を返す。

 

「その通りだ」

 

「私達が入って来たゲートは、すでに占拠が完了している。さらに言えば、地上のBETAも光線級がその数を減らしたことから空爆が機能し始め、ものの見事に数を減らしているとのことだ。私達がゲートからハイヴ内に進行した時と比べ戦況は好転していると考えている。さらに言えば、私達がハイヴ内にて遭遇したBETA数とウォーケン少佐達が遭遇したBETA数の違いから見ても、このハイヴは戦力を出し尽くしたと考えている」

 

 ゲグラン少佐の報告に各々頷き肯定した。

 

「で、あるならば日本の明星作戦と同様、反応炉の活動を停止させさえすればBETA共は敗残兵と化す」

 

 そう言ったアイヒベルガー少佐に続きウォーケン少佐が口を開く。

 

「アイヒベルガー少佐の言う通りだ。反応炉さえ停止させてしまえば、BETAは統制を失ったかの様に散り散りとなる。そしてその時に考えられるルートは、リヨンハイヴに向かうルート、ブダペストハイヴに向かうルート、ミンスクハイヴに向かうルート、最後に行き場を失ったBETA群が海を渡りグレートブリテン島に向かうルートだ」

 

 その最後の選択肢は考えたくないのか各々眉を顰める。

 

「だが、そうならないために国連軍を中心に防衛ラインを下げさらに広げている。現在報告されている状況から考えても防ぎきれないことは無いと思う」

 

「自国の衛星を多数持つウォーケン少佐に確認したい」

 

 アイヒベルガー少佐の問いに、ウォーケン少佐は答える。

 

「他のハイヴからの増援の可能性はどう考えている?」

 

「今現在我が軍の監視衛星、並びに観測部隊からの情報によれば、アイヒベルガー少佐が危惧するところの動きは無いようだ。楽観的に見るべきでないのは理解しているが、一番近場に存在するリヨンハイヴは、貴軍ら欧州連合軍が目を光らせている。突発的に発生するとなればリヨンハイヴが一番可能性が高いが、精強な欧州連合軍がミスをするとは私には思えない。そのため、我々は可及的速やかにこのブロアハイヴを制圧しなくてはならない」

 

 そう締めくくったウォーケン少佐は段取りの説明に移る。

 

 その内容はアメリカ軍が用意したバンカーバスターを使用し、メインホールの天井つまり今いる地面に穴を空ける。

 そこから西ドイツ軍、フランス軍が用意したS11を投下、メインホール内のBETAを粗方殲滅し、よしんば反応炉を機能停止にさせる。

 確認並びに残存BETAの殲滅のために、今現在無事に済んでいる二個大隊の内、一個大隊をこの場に残し、もう一個大隊をメインホール内に降下させる。

 メインホール内の状況に合わせ、この場に残った大隊から応援を降下させる。

 BETAを殲滅し終えた後、反応炉の確認をし、機能停止していれば反応炉の情報を集められるだけ集め撤収し、反応炉が生きていた場合は、和真のS11ミサイルを叩き込むか欧州連合軍の残りのS11を使用し、完全に機能停止に追い込むと言うものであった。

 

 これらは明らかに恵まれた環境だった。

 歴史上もっとも恵まれたハイヴ攻略になるかもしれない程に―――

 故にか、楽観的ではないが切羽詰まってもいない現状。

 焦りを抑制することが出来る猛者だからと言うだけではない。

 少し余裕のある状況にあるのは確かだった。

 だが、和真は言わねばならなかった。

 今までの会話や状況分析に長けている者達だからこそ、この情報は共有するべきであると感じた。

 その結果焦りを生んでしまうかもしれない。

 焦りが全てを狂わせるかもしれない。

 それでも、この人達を信じて口を開こうとして、閉じた。

 

 嫌、そうじゃない。俺は俺の復讐と願いの成就のためにこの人達を利用しようとしているのだ。

 今この場での最優先事項、それの成功率を下げあまつさえ危険に晒すかもしれないにも関わらず、秒の単位を縮小するために、焦らせようとしている。

 だがそれで良い。

 それで良いのだ。

 その焦りから生まれたミスはすべて俺がカバーすればいい。

 そんな事出来ないって?

 今の俺ならそれも可能だ。

 

 次のステージに進んだ俺なら―――。

 

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