武蔵ちゃんがハンター試験を受ける話 2
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第1次試験が始まってからおよそ8時間。
武蔵は階段を登りながら、少し息を切らしつつも平気な顔をしているハンゾーと話を続けていた。
「隠者の書ねぇ……」
「そこには幻の秘術が書かれているらしくてな。なんでも、それさえあれば国一つを滅ぼすも繁栄させるも自由だとか、億万長者になれるだとか、はたまた手にしたものを呪うだとか……言ってみりゃ眉唾物の存在だな」
「なるほど。……そういうのって何処にでも有るものなのね」
形式は違えど満願が叶うとは、カルデアのマスターが探索をしている聖杯に近いものがある。
「ちなみに。それを手にしたらどうするの?」
「……さぁな?」
「決めてないの?」
「おう。この世にあるオレのご先祖が書いたとされる幻の書を一目見て、んでもってあるべきところ……すなわちオレの故郷の土蔵に入れといてやりたいんだ。それ自体を使ってなんてものは、特になくてな」
ハンゾー曰く、幼い頃から寝物語の代わりに話されていたその巻物の話。
数百年前に盗賊団とやらに盗み出されて以降、里の者たちが代を重ねて追い続けていた巻物。それを、ハンゾーの代で取り返して有るべきところに戻す。
「いい夢ね。そういうの、憧れちゃいます」
「なんだよ、アンタも目標があるから試験受けてんだろ?」
「……そうね。ま、私がここにいるのも天の神様の思し召しなのかも」
———空に至りてなお、その剣の鍛錬を怠らず、かしら?
武蔵の小さな独り言は、周りの人間の声にかき消されていた。
しかし、ハンゾーの人並みならぬ聴覚だけはそれを聞き取っていて。
「見ろ!出口だ!」
「おぉっ!やっとだ!」
「武蔵、アンタ……やっぱすげぇな」
ハンゾーのつぶやきは、武蔵の耳には入らなかった。
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階段を登りきった先はヌメーレ湿原。
霧が酷く、人をペロリと食べる化け物がうじゃうじゃといる危険な土地である。
そこでもまた、マラソンは続いていた。
「で、まだ続くってわけ?」
「……先頭集団の方に行こう」
「同感です。……あの目立ちたがり屋のちんどん屋、うまい具合に試験を盛り上げてくれやがってるわね」
目立ちたがりのちんどん屋、すなわち44番のヒソカである。
試験前では受験生1人の腕を切り落とし、更に先程は試験官に武器のカードを投げるなど、武蔵としてはあまり好きではない類の人間だ。
属性・悪で、自身の享楽のためならば人の矜持を踏み躙るタイプの人間。それがヒソカに対しての感想である。
「武蔵は特に避けとけよ。アイツ、お前のこと結構見てただろ」
「えぇ、わかっています。……ま、私はそう簡単にやられるつもりもありませんが……彼結構強そうなんだよね〜」
鯉口をかちゃん、かちゃんと切ってみる。
「お前……なかなかアレだよな。モノ好きっつーか」
「あはー……ま、まぁ私は剣士な訳で。あの人の人間性とか抜きにすれば、純粋な強さだけでみたら是非戦ってみたいものですね」
「超人大バトル……観戦してみたいが巻き込まれたかねぇな。死体すら残らないだろうよ」
「それは大袈裟ですけど?!」
なんだかんだで何事もなく、一次試験をくっちゃべりながらもクリアする武蔵なのであった。
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ハンター試験の二次試験。それは、クッキングの時間である。
試験管はブハラとメンチの2人。太っちょの概念を遥かに凌駕する大漢ブハラと、スタイルのいい女メンチ。
そして———課題の料理は、寿司である。
「よぉっしゃあ!これはオレたち勝ったも同然!武蔵、ここは共闘といくぜ!」
「じゃあ私は米を炊いておきます!食べれる魚お願いねー!」
「まーかーせーろー!」
米を綺麗に洗い、そして土鍋に水と入れて炊き込み蒸らす。
女伊達らに剣士として名を馳せている武蔵としては、炊事は不慣れなものの手順だけは知っていた。
旅をしていると、こういうのも必要となるのである。
綺麗な水を用いて米を手で洗い、それを何回か繰り返していく。ある程度水の濁りが無くなったら水を計り入れ、そして土鍋を火にかけていく。
しばらく火の番をしていれば、次第に腹が鳴る匂いがしてくる。
かつて旅の中で教えてもらった言葉———「赤子泣いても蓋とるな」
その言葉通りに、武蔵はぐうと鳴った自分のお腹を無視することにした。
「ハンゾーくんがきっとお魚をいっぱい釣ってきてくれるんだから。そしたら塩焼きにしてお腹いっぱい白米と一緒に食べてやるんだから……うぅ、お腹すきました!」
幸いにもガリに混じって、おしんこも揃っている。多少自分で食べたっていいだろう。うん。
ちなみに、現在武蔵の周りに受験者は1人もいない。
……皆、魚を獲りに行ったようだが……?
「あの受験生……刀を腰に刺してるあの子。随分と古風な米の炊き方するわねぇ。ポイント高いけど」
「そうだねぇ、目の前に炊飯器あるのにわざわざ釜で炊くなんて。あぁ、お米の炊くいい匂いが……」
試験官の2人は武蔵の手腕を見つめながらも、ごくりと唾を飲み込むのであった。
* * * *
「こっ……れが、魚!?舐めてんの!?」
「釣れたやつがこれなんだよ!」
ハンゾーの持ってきた魚は、常識的な魚とはかけ離れたものでした。
米が充分に炊きあがって蒸らしている最中、意気揚々と他の受験生達の集団とともに帰ってきたハンゾー。
彼は取れた新鮮川魚を意気揚々とまな板の上に並べる。そして———
「釣れたぞ!」
「アホかー!」
深海魚のようなもの、チュパカブラのようなもの、UMA、触手、邪神のようなもの、足の生えたもの……
種類は多いが、これは魚ではない。魚ではないのだ。
「あのね、これが魚ですって?アホなの?」
「そんなにいうならお前が釣ってこい!」
「ハァァアン?私は!ちゃんとお米を!炊いたのです!魚はあなたに任せたでしょ!?」
「なんで炊いた米を茶碗についでるんだよ!寿司だぞ!?」
「お腹空いたんです!!!!!!」
フー、と2人は肩をがならせながらも喧嘩をするものの……一呼吸置いたハンゾーは、釣ってきた魚の中でも食べれる部位がやや多そうな、一般的な川魚に似たものをひっ摑んだ。
「食えれば同じ、だ。捌いて米の上に載せて握りゃあ同じだろ」
「……えぇそうね、全くもってその通り。聞いた話によれば、全身が目玉のゲイザーなる化け物だって煮て焼けば食べれちゃうんですもの。多少手足が付いてたって……」
ぬるりとした体に、人間のおっさんのような手足。なんなら毛深い。
「いややっぱ気持ち悪いでしょこれは」
「しのごの言うなよ武蔵!手足をもげば普通の魚だ!」
「私は……うーん、こいつ捌いてみます。アナゴに似るかもしれないし」
そうして、2人は颯爽と(ヒトアシツキイワナモドキの)寿司と、(ドクナシドクドクシイカワアナゴの)寿司を試験官の女の前に出したのであった。
ひとくち、ふたくちと寿司を口に放り込んで咀嚼。アガリを啜ってごくりと飲み込み、試験管メンチの出した答えは。
「……うーん、2人ともニギリが固くてまずい! やり直し!」
「「ハァァァァアア!?」」
「ニギリが硬い!?」
「こんなの、魚切ってコメの上に乗せるだけじゃない!?」
「コメに酢を混ぜて、スシは醤油につけて食えば味なんて似たようなもんだろ!?」
2人とも、メンチから頭にゲンコツを食らってしまった。
「アホなのあんた達!?大声で!答えを!言うな!
握り寿司(にぎりずし)は酢飯の小塊に寿司種をのせて握った寿司であり、「早ずし」の一種である。握り[1]、江戸前寿司[2]、江戸ずし[1]、あずまずし[1][2]ともいう(Wikipediaより引用)
……だってことを大声で言っちゃうのよ!失格にするわよ!?」
「……なるほど、米を炊いて酢を混ぜるのか……」
「魚を切って米にのせる……なるほど」
「この黒いソースをつけて食べるのだな」
「ほらーー!!もう!!言わんこっちゃない!あんたたちのせいで全員が寿司の作り方知っちゃったじゃないのよー!」
「いやあんたの発言の方がよっぽどだろ!?なんだよWikipediaより引用って!?」
「あーもう!ハンゾー急いで作り直しましょう!他の受験生が寿司作りを始めちゃってます!」
こうして、なんだかんだで二次試験は合格者0名となってしまったのであった。
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「しかし、合格者ゼロはいくらなんでも厳しすぎるのではないかのう?」
「ネ、ネテロ会長!?」
というわけで。
二次試験の救済措置、と言われて出されたお題はゆで卵。
早々にお題をクリアした武蔵は、いままで食べたどの卵よりも美味しい卵に舌鼓をうっていた。
「うーーーんサイコー!ほっぺた落ちちゃう〜〜!
このトロトロ美味しいゆで卵をおかずにおにぎりなんて食べた日には……あーん美味しいー!」
先ほどの炊いた米をおにぎりにして腰から下げた武蔵は、早速ゆで卵をおかずにおにぎりを頬張るのであった。
先ほどまでの寿司の試験での失敗は何処へやら、今はニコニコでご飯を堪能している。
「あぁでも惜しむべきはこのゆで卵が煮卵であれば……と思ってしまう武蔵ちゃんなのです。きっとこのおにぎりに合うに決まってる!」
「煮卵、あるわよ」
「……むぅ?」
外れたところでいた武蔵の後ろには、少しばかりドヤ顔で卵を2つ持った試験管メンチの姿が。
彼女は地べたに座る武蔵の横に同じように座ると、自身の持っていた卵を武蔵に差し出したのであった。
「ふふん、あるわよ。煮卵」
「……くれるの?」
「ただじゃあげないわよ?」
「私、路銀とか持ってないですケド……?」
「お金ぇ?わたしにはそんなの、いらないわよ?それよりもこの場でいっちばん私の興味を搔っ攫ってるのは……」
メンチは、武蔵の腰をちらりと見た。
正確には腰にぶら下げたおにぎりを。
「釜で炊いたお米……目の前に炊飯器があるのにわざわざ火起こしして作ったのはスゴイわね!ということで、私はそのお米をこの煮卵と一緒に食べたい!」
「そりゃ寿司ですもの、お米を炊かなきゃ食べれないでしょう?」
その時メンチは思った。
あ、こいつ炊飯器知らないんだな、と。
「まぁそれはともかく……おにぎり、くれるの?」
「おこしに下げたおにぎりを、ひとつ私にくださいな……なんて、普段は私がオトモ側なんだけどなー?ま、いいんですケド!」
と武蔵は快くおにぎりを手渡したのであった。それと交換で、メンチは煮卵を武蔵へと差し出す。
そして煮卵をパクリと口に頬張る。
「あーん!やっぱり、おーいーしーいー!煮卵の味が……あーおいしいー!!」
「炊飯器では出せないこのおこげが堪らないわねー!美味しい……うーん、無骨だけど哀愁を感じさせる味わいっていうのかしら!そして煮卵が美味しいー!」
こうして、おこしに下げたおにぎりをメンチにあげた武蔵なのであった。
「しかし、腰から下げるといえばきびだんごと相場が決まってるんだけどねぇ」
「キビダンゴ?ってなにそれ?」
「私の国にある団子よ。犬や猿、雉にあげれば仲間になってくれるのよ」
「……操作系?いえ、なんでもないわ。ちょっと食べてみたいわね?」
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