天体の破壊者   作:シンラテンセイ

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Garbage to the garbage box.

 大国・ミスルギ皇国

 

 今やミスルギ皇国では盛大なパレードが催され、多くの民衆が賑わっていた。

 その中心に居座るはアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ

 

 アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ 

 容姿端麗・才色兼備・文武両道を誇るミスルギ皇国第1王女である。

 高貴で礼儀正しき王女であり、その美貌は非常に人気が高い。

 今の彼女は国民から愛され、人気の絶頂期を迎えていた。

 

 それはアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの生の側面

 彼女に限らずこの世界に生きとし生ける全ての人類は狂気を覗かせる歪んだ側面を有していた。

 

 無論、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギも例外ではない。

 彼女は、幼少より歪んだ常識を植え込まれ、ノーマ根絶を思想とする哀れな道化である。

 彼女のノーマへの差別意識は非常に高く、家畜と同類だと断じる歪んだ一面も併せ持つ。

 洗礼の儀でノーマ根絶を理想とした世界の建築を宣言しようと彼女は決めていた。

 

 

 ノーマは憎むべき猛獣であり、反社会主義者

 忌むべき存在は排除しなければならない。

 

 それがこの世界に敷かれた絶対の掟

 人々の深層心理に根付く歪んだ思想

 

 しかし、彼女自身も禁忌の人種であった。

 

 その事実が洗礼の儀が執り行われた際、兄・ジュリオによって暴露される。

 彼女が皇女としての人生が終わり、ノーマへと断定された瞬間である。

 

 我が身に降りかかる禁忌すべき真実を受け入れることが出来ないアンジュリーゼに迫り来る銃弾から庇い、一人の女性が地に伏し、血のカーペットを作り出す。

 

「……護りたかった、貴方を真実から……。生きるのです、アンジェリーゼ、何があろうと生きて……」

「いや、嫌!お母さま、お願いします、死なないでください……!」

 

 愛する我が子の未来を想い、ミスルギ皇国・皇后、ソフィア・斑鳩・ミスルギの生は終わりを告げた。

 

 涙を流し、母の遺体にすがりつく。

 眼前に広がる惨状に広がる受け入れ難い光景を幾度も否定し、己の無力を、我が身に降りかかる理不尽を嘆いた。

 

何故、何故?

 

何故、母が死ななければならない?

 

何故、私がノーマとしてこれ程の理不尽に晒さなければならない?

 

 涙は枯れ、四肢は拘束され、母の遺体は無造作に処理される。

 駆け巡るは自責の念と理不尽に対する憎悪、そして何も出来ない自分自身に対する怒り

 

 己の許容量を超える思考の果てに彼女は涙ながらに母親を見下ろした。

 血に濡れ、自分を庇い息絶えた愛する母を

 

 

 彼女は、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギは望んだ。

 母を救う力を

 

 ノーマとして迫害を受ける一人の少女は願わずにはいられなかった。

 母の救済を

 

 哀れな道化である皇女は傲慢にも欲した。

 母を死から救う存在を

 

 アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギは生まれて初めて心の底から求めた。

 世界で万能とされ、絶対の象徴であるマナではなく、母を救う超常の力を

 思想や固定観念、世界の掟を捨て、ただ純粋に愛する母を救う存在を切望した。

 

 この世界、この世界でなくとも構わない。

 

 

誰でも構わない、母を助けて……!

 

 

 一人の少女の望みは、愛する者を救いたいという儚くも、何よりも美しい想いは――

 

 哀れな少女が願い、傲慢にも求めた求めは――

 

 

 

 奇しくもその声は聞き入れられた。

 

 

 

 

 

 

 

- その願い、叶えましょう -

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、黄金の輝きがドーム状に広がり、ミスルギ皇国全土を震撼させた。

 その光は瞬く間に世界全土を包み込み、世界の果てに行き届く。

 

 惑星を、世界そのものを震撼させ、極光は天へと立ち昇る。

 視認できる程のエネルギーが現れ、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの願いを聞き入れた。

 

 膨大な光の本流が集束し、人の形を創り出していく。

 光の粒子が、光の糸が集まり、輪郭へと集束していく。

 

 極光から現れるは首元にはリングを下げ、珍妙な杖を有する長身の男性

 周囲の誰もが驚愕するなか、その者は静かに地面に降り立った。

 

 

 

「私を呼んだ(・・・)のは貴方ですか?」

   

 髪は黒にして、瞳の色は真紅

 端正な顔立ちから伺えるは慈しみと温もり

 

 その佇まいは洗練され、その身からは今なお光の粒子を放出している。

 彼(か)は宙に浮遊し、アンジュだけを見据えていた。

 

「母を、私の母を助けてください……!」

 

 アンジュは縋り付くように、突如として現れた男性に懇願する。

 光り輝く存在、ウィスは慈しむように微笑を浮かべ、杖を振るった。

 

 

 

 

 

 その後、一人の少女の求めにウィスは応えた。

 その場で死したソフィア・斑鳩・ミスルギを蘇生させ、アンジュの求めにシルヴィア・斑鳩・ミスルギ及びジュライ・飛鳥・ミスルギを抱え込む。

 

 その後、ウィスがジュリオ・飛鳥・ミスルギを除いたアンジュ一家を引き連れ、ウィスが杖を地面へと軽く打ち鳴らす。

 

 途端、眩いまでの白銀の光が周囲に迸る。

 

 その光はウィス達の周囲を円を描くように循環し、包み込み、その輝きを強く増していく。

 白銀の光は強く迸り、幾度も循環し、周囲を幻想的に照らし出す。

 

 やがてその白銀の光は途轍もない速度で天へと上昇し、ミスルギ皇国から突如消え失せる。 

 次なる目的地は"アルゼナル"

 

 

 

 此処よりこの世界は正史のレールを外れ、異分子を内包した歴史を紡いでいくことになる。

 行きつく先が光か、闇か、それは誰にも分らない。

 

 同時刻、世界の何処で一人の"調律者"が笑みを深めた。

 

 

 

 

 

 

 

♰

 

 

 

 

 

 

 

 アルゼナル

 

 ローゼンブルム王家管轄にて世界で唯一の対ドラゴン用軍事基地であり、絶海の孤島にアルゼナルは位置している。

 構成員が全て女性で構成され、門(ゲート)から現れる謎に包まれたドラゴンの侵攻に対抗すべく命を削ることを生業とする職場である。

 

 そんな中、アルゼナルの基地内は一触即発の雰囲気と化していた。

 エマ監査官及び、この場に集うアルゼナルの面々は驚愕を隠せない。

 

 ウィスとアルゼナルの総司令官であるジルが一方的に睨む形で対面していた。

 

「もう一度、言います。彼女達に真実を話してください」

「悪いが部外者は黙っていてもらおうか」

 

 ウィスの追究に動じることなく、ジルは平静を貫き通す。 

 

「白を切るつもりですか?」

 

 剣呑とした雰囲気が増す。

 

「マナにより区別される人間社会、万能の象徴であるマナ、マナを有さない人間とドラゴンの戦い、マナを持たざる者への異常なまでの排斥観念、何一つ不自由のない世界……」

 

「偶然にしては出来過ぎています」

「赤の他人の貴様が余計な詮索はするな」

 

 まるで創作物の様に均衡が保たれている。

 射殺す様な殺意溢れる眼光で此方を睨み付けるジルへとウィスは緩やかな足取りで近付いていく。

 

「貴方が過去に何を経験したのかを知る由もありませんし、興味もありません。ただ、彼女達に真実を隠すのは許されることはではありません」

 

「私が言いたいことは一つ」

 

 

 

 

 

「他人を巻き込むな」

 

 

 

 

 

 ウィスの存在に圧されたジルは無意識に後方に僅かに後退する。

 しかし、ウィスは瞬きの瞬間には眼前に佇み、ジルの額へと掌を置いていた。

 

 振りほどこうとするも己の身体は地面に縫い付けられた様に動かない。

 まるで頭の中を直接覗き込まれているような感覚がジルの体を支配していた。 

 

 ウィスの口が動いた瞬間、彼女の心が悲鳴を上げる。

 

 

 

「ノーマ、マナ、アルゼナル、ヴィルキス、リベルタス……」

 

 瞳を閉じ、ウィスはこの世界の真実を紐解いていく。

 ジルの心の奥底に封じていた秘密が暴かれ、白日の下に晒されていく。

 

「DRAGON、通称Dimensional Rift Attuned Gargantuan Organic Neototypes、次元を越えて侵攻してくる巨大攻性生物の存在……」

 

 

止めろ、これ以上私の心の中を覗くな……!

 

「ドラゴンの正体は人間が変異したモノであり、彼らを狩るのがアルゼナルの使命……」

 

 周囲の息を吞む音が聞こえる。

 

 

止めろ、止めてくれ……!

 

「アレクトラ・マリア・フォン・レーヴェンヘルツ、これが貴方の本当の名前ですか」

 

 ジルの意志に反して、彼女の身体はその場から一歩も動けない。

 

「そして、この世界を裏から支配するは"エンブリヲ"なるモノの存在……」

 

 言い逃れは許さないとばかりにウィスの紅き瞳がジルを見据える。

 

これ以上の私の過去を、心を覗かないでくれ……!

 

「貴方とエンブリヲとの因縁……」

 

 ウィスは盛大に大きな溜息を吐き、ジルを解放する。

 ジルは精根尽きたように崩れ落ち、大量に汗を流す。

 

「何ともまぁ、腐った世界ですね」

 

 放心し、突如の急展開に理解が追い付かない周囲の人間を無視し、ウィスは決断を下した。

 

 

 

「決めましたよ」

 

 

 

 

 

 

 

「エンブリヲを滅ぼしましょう」

 

 この言葉がこの世界の運命を大いに左右する。

 そして、ジルとの一方的な交渉を終えた瞬間、門(ゲート)が開き、ドラゴン達による侵攻が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

♰

 

 

 

 

 

 

 

 スクーナー級やガレオン級、ブリッグ級を含んだ多種多様なドラゴンから門(ゲート)から姿を現す。

 

 しかし、ドラゴン達は皆一様に異常を感じ取っていた。

 普段ならば偽りの地球の人間達が攻撃を仕掛けてくる頃合いにも関わらず、今日は怖ろしい程に静かだ。

 見渡す限りの青空が広がり、此方の侵攻を阻む者など存在しない。

 

 

 

 

 

「お取り組み中のところ、失礼します」

 

 突如、宙を飛翔するドラゴン達の耳に敵である人間の言葉が響く。

 見れば珍妙な魔導士の如く服装に身を包み、杖を手にした男が宙に浮いていた。

 

「早速、本題に入らせていただきますが、貴方達の本拠地へと案内してくれませんか?」

 

「此方はエンブリヲを消す前に、貴方達に"私"という戦力を提供し、貴方達は貴方達の願望を私に周知させることでお互いに益を得る。私はエンブリヲの抹殺を、貴方達は貴方達の望みを叶える。win-winの関係というやつです」

 

 簡潔に此方の事情と望みを話したつもりだが、相手からの反応は芳しくない。

 どうやら人語は通じていないようだ。 

 

「ふむ……」

 

 軽く咳払いしたウィスは人語でない言葉を口ずさみ、ドラゴンとの意思疎通を図る。

 交渉が続くこと数分、漸くウィスの主張が聞き入れられ、ドラゴンと共に門(ゲート)へと姿を消えていった。

 

 地上からウィスとドラゴン達の遣り取りを見ていたジル達は呆然と門(ゲート)が閉じるのを見上げることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

♰♰♰♰

 

 

 

 

 

 

 

 門(ゲート)を潜り抜け、ウィスは平行世界の地球へと足を踏み入れていた。

 平伏の姿勢を取りながら、ウィスはアウラの民の指導者と対面する。

 

「貴方が我ら一族の大願を叶えると?」

 

 ウィスは首肯する。

 

「本当に始祖アウラ奪還に加え、エンブリヲを撃ち滅ぼすと?」

「ええ、私はエンブリヲを消し、貴方達はアウラ奪還だけでなく、長きに渡る争いに終止符を打つことが出来る。win-winの関係ではありませんか?」

 

 ウィスはどこまでも泰然自若とした態度で応える。

 

「……」

 

 正直なところ、大巫女は迷っていた。

 嘘を吐いているようには見えない。

 ましてや此方を謀ろうとしているようにも見えない。

 

 仮にウィスが述べていることが真実ならば、win-winの関係だ。

 だが、初見の相手と同盟を築くには如何せん決定打に欠ける。

 

「大巫女様、ここはこの者を試すようというのはどうでしょうか?」

 

 そこに口を挟むは一人の女性

 近衛中将を務める巫女姫であり、アウラの末裔にしてフレイヤの一族の姫、サラマンディーネだ。

 

「サラマンディーネよ、この者を"試す"とは?」

「この者が我々の大願を成就させるに相応しい力を有しているか否か確認すべく、試練を与えることが最善かと」

「成程……」

 

 こうしてサラマンディーネの申し出は可決され、試練という名の無理難題がウィスに課されることになった。

 ウィスに課された試練は人の身では解決が不可能なモノばかり。

 

 しかし、ウィスはその無理難題をこともなく突破し、同盟を結ぶことに成功する。

 

 信用を得たウィスは偽りの地球に帰還すべく、飛翔する。

 その背中に大巫女を、サラマンディーネ、ナーガとカナメを引き連れ、光速で門(ゲート)を潜り抜けた。

 

 地上では嘗ての人類の営みが栄え、生命力が溢れている。

 緑が生い茂り、どこまでも広大な大地が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

♰♰♰♰

 

 

 

 

 

 

 

 一条の閃光が白銀の光と共に地上へと降り立つ。

 眼前には紅茶で喉を潤し、足を組んだ長身の男が此方を歓迎していた。

 

「これはこれは、顔馴染みの方々がお揃いで」

 

 その男は前髪を揺らし、嫌悪感を抱く笑顔でウィスを見つめる。

 ウィスの背後に佇むアンジュとジル、タスク、サラマンディーネ一行には見向きもしない。

 

「ようこそ、異世界の住人、ウィスよ」

「貴方がエンブリヲですね?」

「いかにも」

 

 エンブリヲは自分に酔っていると感じざるを得ない芝居がかった様子で腕を広げる。

 

「君と出会うのを心待ちにしていたよ」

 

 憎々し気にエンブリヲの名を口ずさむジルを腕で押さえつけ、ウィスは言葉を紡ぐ。

 

「初対面にしては随分と友好的ですね?」

「当然だろう?私はこの場に赴くまでの君の行動を全て視てきた。そこで確信したよ。君は私と同じ立場に居座る存在だと……」

 

 エンブリヲのキザった言葉は止まらない。

 

「私と君が力を合わせればこの世界をより良きモノに出来る。それは確定した未来だ」

「それは貴方の下につけという意味ですか?」

「いや、我々は同じ視点を共有出来る仲間だ。そこは対等な協力関係だと言ってもらいたいね」

 

 同じ志を持った同士だと言わんばかりにエンブリヲはウィスを見据える。

 

「より良き世界、そこには彼女達は含まれているのですか?」

「それは未定だよ。新たな世界への選別は私が行う」

「そんなことが許されるとでも?貴方は自身が神だとでも宣うつもりですか?」

「酷くチープな表現だ。そこは調律者と言って欲しいね」

 

 こいつはどこまで腐っているのか。

 ここまで腐敗し、嫌悪感を抱かせる存在は稀だろう。

 ウィスは辟易としながらエンブリヲを冷めた目線で射抜かざるを得ない。

 

「どうだろう、ウィス?君の返答を聞かせてくれるかい?」

 

 奴は断られることなど予想していない。

 奴は周囲の嫌悪と憎悪、殺意を軽く流しウィスの返答へと耳を傾けた。

 

 対するウィスの応えは……

 

 

 

 

 

 

 

「良いことを教えてあげましょうか?中途半端な力を身につけ、身の程を弁えない愚か者の末路は死あるのみですよ?」

 

 明確な拒絶の意志であった。

 ウィスは右手の人差し指を向け、エンブリヲを破壊する。

 否、既に破壊していた。

 

 ウィスの指先が光った瞬間にはエンブリヲの身が爆発する。

 爆炎が立ち昇り、エンブリヲはクレーターに横たわり、その屍を晒していた。

 

 

 

「私に歯向かうつもりかね?」

 

 復活を遂げたエンブリヲが無数に現れ、周囲一帯に分身という形で取り囲んだ。

 見れば物言わぬ屍と化したエンブリヲの死体が消えている。

 周囲には増殖したエンブリヲが口を揃え、此方を見下していた。

 

「カサカサと増えるのがお好きなのですか?」

 

 ウィスの左腕に微風が集束し、アンジュの頬を撫でる。

 中指と人差し指を揃え、ウィスが天に向かって突き上げた。

 

 

 

 途端、周囲の音が消える。

 ウィスを中心に烈風が吹き荒れ、広範囲の大地が微塵も無く消滅した。

 

 大地が更地と化し、大樹が粉微塵と砕け散る。

 天へと爆風が突き抜け、鼓膜を揺るがす程の音が波及した。

 

 アンジュ達が恐る恐る瞳を開ければ周囲の全てが消えていた。

 大地が、大樹が、エンブリヲが、その全てがその姿が消えている。

 

 

 

「分からないか?私は不死身だ。幾ら殺そうとも無意味だ」

 

 しかし、エンブリヲが死ぬことはない。

 ゾンビが如く復活を遂げ、前方へと姿を現した。

 

 恐らく奴の本体は人という定型の存在ではなく、魂そのものを異なる場所に格納しているのであろう。

 その不死性が奴の絶対的な自信の根幹を担っているようだが、不死性に利点など何一つ存在しない。

 

 不死身であろうとも然程問題はない。

 生命力が強いか、弱いかの違いだ。

 要は精神が死ぬまで殺し続ければ良いだけの話なのだから

 

 

 

 ウィスが前方へと掌をかざす。

 ウィスの掌から途方もないエネルギーが解き放たれ、エンブリヲを消滅させる。

 

 辺り一面が消し炭となり、焦土と化した。

 莫大なエネルギーの奔流がエンブリヲを消し飛ばす。

 

「無駄だと分か……」

 

 後方に復活を果たしたエンブリヲを指差し、爆発四散させる。

 臓器が惨たらしく周囲に飛び散る。

 

「言ったはずだ。無駄……」

 

 眼前に復活を遂げたエンブリヲの手首を掴み取り、空中へと勢い良く投げ飛ばす。

 ウィスの身からエネルギーが迸り、その身を気功波が襲う。

 瞬く間に宙にて爆死し、その身は花火へとなり果てた。

 

 またしても復活を果たしたゴキブリオの心の像を撃ち抜き、亡き者へとし、幾度もウィスはエンブリヲを殺し続ける。

 

 遠方へと姿を現したエンブリヲへと一閃

 天へと突き上げた人差し指と中指を振り下ろし、見渡す限りの大地を裂斬させ、エン/ブリオとする。

 

 腹部を拳で貫き、空へと殴り飛ばし、人差し指と中指を突き立てることで爆殺させる。

 エンブリヲの肉片が汚く飛び散った。

 

 汚い花火だ。

 

 ウィスによる虐殺は止まらない。

 

 

 

 

 

 粉微塵の灰とすることによる焼殺

 

 ミキサーのように全身をバラバラにすることによる分裂死

 

 周囲に分裂して現れた際には手をかざすことによる消失死

 

 眉間を射抜くことによる即殺

 

 頭部を破壊し、首を切断し、腹に風穴を開け、足を消失させ、全身を隈なく蜂の巣のように射抜くことによる殺害

 

 時には圧倒的なエネルギーによる圧殺

 

 時には全身を縛り付け、手足を強制的に四方へと弾き飛ばす八つ裂き

 

 ウィスはありとあらゆる方法で奴を幾度も殺し続けた。

 

 

 幾百と作業を終えた頃からだろうか。

 エンブリヲの余裕の相貌が崩れ始めた。

 

 明らかに精神に支障をきたし、恐怖の表情を浮かべ始めていた。

 決死にも迫る表情でエンブリヲが呼び寄せた鉄屑によるレーザーがウィスを襲う。

 

 

 

「埃をまきあげるだけですか?下らない力ですね」

 

 しかし、全くの無傷

 ウィスには毛ほども効いていない

 

「今度は私がお手本を見せてあげましょう」

 

 ウィスがその紅き瞳を開き、前方を射抜いた瞬間、エンブリヲの身を途轍もない衝撃が襲う。

 アンジュ達にはウィスの紅き瞳が光ったように見えた。

 

 途端、エンブリヲの腹部が大きく凹み、陥没し、内臓が破裂し、吐血する。

 後方に吹き飛び、大地を抉り、砂利まみれとなり、その肉体を破壊されていく。

 見渡す限りの大地が更地と化し、即座に復活を遂げたエンブリヲが呆然とした様子で佇んでいた。

 

 この場からの逃亡を図るエンブリヲの手を掴み取り、膨張死させる。

 醜い嬌声を上げるエンブリヲの姿は体内から膨大なエネルギーが溢れ、爆散した。

 

 血液が、内臓が、四肢が醜く周囲に飛び散る。

 エンブリヲの足が無残に地面に落ち、肘から先の腕が血のカーテンと共に転がった。

 

 時空が歪み、エンブリヲが鉄屑の姿が虚空へと掻き消える。

 アンジュ達が気付いた時にはエンブリヲはこの場からの逃走に成功していた。

 

 

 

「逃げましたか」

「推測の域を出ませんが、エンブリヲは此処とは異なる時空へと跳躍したのですわ」

 

 サラマンディーネの予測は的を得ており、エンブリヲはマナが存在する"偽りの地球"・サラマンディーネ達が住む"もう一つの地球"とは異なる次元へと逃亡していた。

 

 

 

「さて、それでは出かけましょうか」

「は?」

 

 それは誰の呆けた声であったのか、分からない。

 

「エンブリヲの花火を見にですよ」

「……は?」

 

 二度目の呆けた声がその場に響いた。

 

 既に、エンブリヲの逃げ隠れた座標は特定している。

 例え、此処とは異なる位相に存在する世界であろうとも、この世界に存在しているのならば問題なく特定が可能だ。

 

 座標を特定し、強制的に次元に穴を開け、ウィスは飛翔していく。

 白銀の光を伴い位相を移動し、アンジュ達を乗せたキューブと共に移動する。

 

 終始圧倒されるアンジュ達を引き連れ、ウィスはエンブリヲに引導を渡すべく、"時空の狭間"へと飛翔していく。

 エンブリヲの死が刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

♰

 

 

 

 

 

 

 

 エンブリヲ

 

 その正体は約1000年の時を生きた傑物であり、世界最高峰の素粒子研究所であるオリジナルのアルゼナルの研究員である。

 

 エンブリヲは新たな世界を求め、有人次元観測機ラグナメイルの開発を皮切りに別世界への進出へと行動を開始する。

 しかし、ラグナメイル「ヒステリカ」に機乗の最中に発生した局地的インフレーションによりシステムが暴走し、別次元の位相に存在する時空の狭間に飛ばされてしまう。

 

 時空の狭間

 

 時空の狭間にて無限の時間を手に入れ、不老不死となったエンブリヲはラグナメイルによる別世界への干渉と理想の妻探しを始めることになる。

 

 時空の狭間は時の流れが完全に停止した世界であり、全宇宙から孤立し、特異点でも辿り着くことが不可能な場所である。

 

 本来ならば時空跳躍システムが開放されたヴィルキスのみが辿り着ける場所であり、万が一にも人類が辿り着く奇跡など起こりえない。

 そして、その空間に存在するエンブリヲの本体とヒステリカの双方を同時に消滅させることこそがエンブリヲを完全に葬る方法であった。

 

 しかし、今この瞬間、ウィスという異分子が無理やり次元と次元の壁を破壊し、時空の狭間へと姿を現していた。

 それを迎え撃つは6機のラグナメイル、全てエンブリヲが使役する機体である。

 

「エンブリヲはこれだけのラグナメイルを……!」

 

 ジルが驚きに目を見開く。

 サラマンディーネを含めたこの場の全員が数の暴力に驚愕していた。

 

「まあまあの数ですね」

 

 だが、ウィスはこの程度では動じない。

 

「所詮、塵は幾ら集まろうと塵ですよ?」

 

 周囲に膨大なまでのエネルギーが集束し、周囲を神秘的に蒼く照らし出す。

 ウィスを中心に円形のエネルギーが凝縮されていき、やがてウィスの左手の掌へと集束していく。

 

「無駄な足搔きですね。今、楽にしてあげます」

 

 ウィスは一点に集束させたエネルギーを握り締め、此方に突貫する一機のラグナメイルへと射出する。

 射出されたエネルギーを迎え撃ち、ラグナメイルが斬り捨てようと帯剣を振りかぶった。

 

 

 

 途端、アンジュ達の視界を爆発的に膨張したエネルギーが埋め尽くした。

 突貫したラグナメイルを瞬く間に消滅させ、そのエネルギー波は眼下に浮遊する残る5機のラグナメイルを押しつぶした。

 浮遊する大地に佇む本体のエンブリヲも例外なく圧し潰し、破壊する。

 

 ウィスが掌をかざし、エネルギーを集束させる。

 駄目出しとばかりにもう一発眼下へとエネルギー波を放ち、完全に6機のラグナメイルと本体のエンブリヲを消滅させた。

 

「これで残るは貴方(・・)だけですね」

『貴様、よくもやってくれたな……ッ!』

 

 EM-CBX001ヒステリカがウィスの眼前に現れる。

 その正体は過去の次元跳躍が原因でエンブリヲの精神そのものと融合したエンブリヲのもう一つの肉体

 エンブリヲは既に人としての姿を捨てていた。

 

 ジルは、サラマンディーネは、アンジュは、ウィスと共にこの時空に辿り着いた全員があれ(・・)が憎きエンブリヲそのものなのだと直感的に感じ取っていた。

 

「貴方は人類が自らの足で進むためには邪魔でしかないんですよ」

 

 世界では独りよがりの理想と悪意により、今なおノーマは虐げられている。

 マナは人類を停滞させる足枷に他ならない。

 

「貴方が抱いている理想は所詮自分本意のエゴで塗り固めているに過ぎません」

 

 虐げられ、無念のうちに命を散らした人々の痛みを知るがいい。

 

「もう貴方には消えてもらうことにしました。この惑星と共にね」

 

 ウィスが静かに右手の人差し指を掲げ、指先にエネルギーを集束させる。

 眼下のエンブリヲのヒステリカの両肩に膨大なエネルギーが集まり、破壊と死をもたらす竜巻状の破壊光線が解き放たれた。

 

 アンジュ達が迫りくる破壊と死の化身から恐怖を感じ、ウィスを見詰める。

 しかし、ウィスが焦ることはない。

 

「貴方の様な輩がこれ以上存在するのは不愉快ですからね」

 

 収斂時空砲(ディスコード・フェイザー)が迫る。

 破壊と死の権化があと一歩の所まで迫った瞬間……

 

 

 

 ウィスの右手の人差し指に集束していたエネルギーが爆発的に膨れ上がった。

 エネルギーの塊が周囲を神秘的に照らし出し、天へと届かんばかりに膨張し、その大きさを巨大なものにしていく。 

 

 既に優に天を貫かんとばかりに膨れ上がり、際限なく膨れ上がった。

 それはいとも簡単にエンブリヲが放った収斂時空砲(ディスコード・フェイザー)を呑み込み、その姿を顕現させた。

 

 光球が際限なく巨大化し、やがて太陽の如く大きさへと膨れ上がる。

 それは正にもう一つの太陽

 

 背後に佇むジルが、サラマンディーネが、アンジュが、タスクが、エンブリヲが、その場に集った全ての者が言葉が出てこなかった。

 理解の範疇を越えた目の前の現象に 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、綺麗な花火が上がりますよ」

 

 ウィスが冷徹な瞳でエンブリヲを見下ろし、その指先を下に振り下ろした。

 

 天から太陽の化身がエンブリヲを襲う。

 エンブリヲに抵抗の意志など無く、その身を為す術無く膨大なエネルギーの本流に焼かれた。

 

 EM-CBX001ヒステリカのメッキが剝がれ、溶解し、ひしゃげ、四肢が為す術無く引き千切れていく。

 EM-CBX001ヒステリカを構成する腕が、足が、装甲が消失し、エンブリヲの精神が機体から離れていく。

 EM-CBX001ヒステリカ(肉体)が滅び、精神だけの存在と化し、刻一刻と存在が瓦解していくエンブリヲは走馬灯を垣間見ていた。

 

 

 

 素粒子研究所であるオリジナルのアルゼナルの研究員として生を謳歌していた自分

 不老不死となり、新世界の幕開けを信じて止まなかった自分

 旧時代の遺物と化した地球からアウラを奪取し、マナを根幹とした世界を構築した自分

 ラグナメイルによる別世界への干渉を行い、理想の妻探しを夢見た自分

 

 

 

 一体、何時、何処で自分は間違えたというのだ。

 何が足りなかったのだ。

 

 これまで自分が欲しかったモノは全て力尽くで手に入れてきた。

 世界は自分を中心に廻り、調律者として自分こそが世界の君臨者なのだと信じて止まなかった。

 

 理想世界として創造したマナ世界を循環させ、世界をより良き世界へと調律するためにノーマを切り捨て、有効活用してきた。

 そうだ、此処までは全てが順調であった。

 

 全てが崩れ始めたのは突如、"ウィス"が自分の前に現れてからだ。

 奴は容赦無くマナの世界を破壊し、幾度も自分を虐殺し、遂にはこの時空の狭間にまでいとも簡単に姿を現した。

 

 半狂乱の状態でEM-CBX001ヒステリカを遣い、抵抗するも全くの無意味

 収斂時空砲(ディスコード・フェイザー)さえも奴は歯牙にもかけることなく、それ以上の絶対的な力で此方を滅ぼした。

 

 まるで路上の石ころを踏み潰すかの如く

 これまで自分が絶対的な力でタシャを潰してきた様に自分は滅ぼされている。

 何故、こうなってしまったのだろうか。

 

 

 

 生命の灯も風前の灯火

 肉体が滅び、精神も瓦解し、魂が剝き出しの状態となったエンブリヲは生まれて初めて圧倒的な挫折と恐怖を感じた。

 そして、過去に幾度も踏みにじり、食い物にしてきたタシャと今の自分の状態を重ね、哀れみの情を抱く。

 最後の最後まで因果応報の報いを受け、無慈悲に滅ぼされる自分を笑うことしか"エンブリヲ"という存在は出来なかった。

 

「は、はは……」

 

 灼熱のエネルギーにその身を飲み込まれたエンブリヲは口元を歪め、壊れた様に笑いながら眼下の時空の狭間へと落ちていった。

 

 時空が歪み、眼下の大地から極大の極光が立ち昇る。

 次元が瓦解し、時空が崩壊寸前の状態と化していく。

 エンブリヲと共に落ちたエネルギーは難無く時空の最奥へと辿り着き、この時空の核を破壊した。

 

 視界が極光が埋め尽くし、超新星爆発によりエンブリヲは余りにも呆気なく消滅した。

 その衝撃波は宙に浮かぶキューブを大きく揺らし、キューブ内で終始、事態を見守っていたジル達の脳裏にその光景を深く焼き付かせた。

 

 こうして憎き相手、エンブリヲは余りにも呆気なく滅ぼされた。

 ジルは怨敵であるエンブリヲの死を不覚にも綺麗な花火だと思わざるを得なかった。

 

 

 

 こうして世界は本来あるべき姿を取り戻し、エンブリヲ無き世界へと移り変わることになる。

 世界は漸く正しきレールを走り、人類は自らの足で未来へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- エンブリヲ亡き後のアルゼナル -

 

 頬を腫らしたジルがウィスと対面する。

 

「その何だ、ウィス……」

「……?」

 

 恥ずかし気に頬を染めながら、ジルはウィスを見据えている。

 アンジュ達は固唾を呑みながら、2人の様子を見守る。

 

「エンブリヲを打倒してくれたことに感謝する……」

「私が勝手にエンブリヲを滅ぼしただけですから、気にすることはありませんよ。それよりも……」

 

 ウィスの姿が掻き消え、アンジュの身が浮き上がった。

 腰を抱えられる形で持ち上げられたアンジュは呆けた声を上げる。

 

「うぇ……!?」

「どうやらこの中で一番歪んでいるのは貴方のようですから、"社会勉強"に行きますよ、アンジュ」

 

 混乱するしかないアンジュを抱え、ウィスは杖を軽く打ち鳴らし、天へと飛翔していく。

 白銀の光を伴い、ウィスはアンジュと共にアルゼナルを後にした。

 

 アンジュの受難は終わらない。

 




こんな誰もがハッピーエンドでも良いではないかと
一人の死者もなく、誰一人の犠牲もなく、幸せを享受する展開は素晴らしいものだと思います




ただし、エンブリヲ、テメーはダメだ
自称、調律者だか何だか知らんが、綺麗な花火と化していく大地に貴様の墓を建ててやる
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