2015年7月30日 審判の日
ー未来は決まったものではない。運命は自らが築いていくものだ。少なくとも私はそう信じているー
2018年7月30日 12時00分
山田悠岐は明石海峡大橋の主塔の上から荒廃した本州を見ていた。約300mの高さからは明石市だけでなく、神戸市、大阪の方まで見渡すことができる。人間の活動が失われたことで大気は不自然なほど透き通っていた。
「生存者はいないか…」
自衛隊の人から借りた高性能な双眼鏡を除くと、そこには荒廃した大地が広がっていた。つい3年前まで活気に満ち溢れていた街とは思えない荒廃ぶりだった。この光景を見ることができるのは京阪神地区だけではない。きっと世界中で見ることができる光景であろう。
四国にいる人間ならだれでも思い出すことができるだろう。3年前のあの日、人類が経験した絶望と屈辱を。
あれは忘れもしない真夏の出来事だ。今日と同じ真夏の快晴の日だった…
2015年7月30日 20時00分
当時中学1年生だった山田悠岐は、家の近くの小学校に避難していた。中学校に入学した4月から3ヶ月が経過し、難しくなった勉強や部活動に慣れてきたころだった。ちょうど定期試験も終わり、夏休みを満喫している最中だったが、その日は朝から世界中で同時多発的に災害が発生し大混乱に陥っていた。地元である京都府京都市も震度6クラスの地震に見舞われ、近くの小学校に避難していた。
京都で大きな地震が発生することは稀であり、家でゲームをしていた悠岐は驚いた。すぐに避難先の小学校に避難したものの夜になるまで余震が続き、揺れに襲われるたびに体育館からは悲鳴が上がるが、幸い倒壊するほどの揺れではなかった。あたりを見渡すと、クラスメイトが家族と身を寄せ合いながら避難している姿が目に入った。
「お父さんは大丈夫かな…」
悠岐の父親は舞鶴の海上自衛隊で護衛艦に乗っている。詳しいことは知らないが、基地祭などで立派な制服を着た自衛官の人から敬礼されていたところを見ると相当地位が高い人だと思っていた。
母親は専業主婦であったが、所用で朝から大阪に行っており避難所に一人で過ごすことになっていた。
災害の影響で電話がまったく通じないため、両親の安否がわからなかった。父親は間違いなく安全だと思うが、母親はどうなっているのか全く分からなかった。
「悠岐!大丈夫だった?」
悠岐が一人でスマホをいじっていると後ろから声がかけられた。
彼女が振り返って顔を見ると、心配そうな顔をしたクラスメイトがいた。
「何だ、千尋か…」
悠岐はソフトボール部に所属していたが、不運なことに彼女のクラスには同じ部活のクラスメイトがおらず、本人の生真面目さやスポーツバカっぷりも相まって、友人があまり多くなかった。その中で秋山千尋は悠岐の数少ない友人だった。
「今、SNS見てるんだけど、京都だけじゃなくて世界中で地震とか起きてるらしいよ」
「私もネットニュースで見たけどひどいみたいだね」
「日本は災害に強い国だからこれぐらいの被害で収まっているけど、海外はもっとひどいみたいだね…」
千尋が見せてきたスマホの画面には倒壊した超高層ビル群が映っていた。
「早く収まるといいなあ…」
「そうね」
悠岐は適当な返事をしながら、スマホをいじるのをやめた。
「それよりも昨日の野球みた?」
「みたみた!檻の球団には頑張ってほしいよねえ…」
バリバリの運動少女である悠岐と、ギャルっぽい千尋が仲良くなった理由は、二人の趣味がスポーツ観戦、それも野球観戦が趣味だったからだ。
悠岐はチーム応援というよりは選手が好きで応援しているタイプの人間だったが、千尋は彼女と同名の選手がいた大阪の球団を熱心に応援していた。
友人関係も5年生の時に彼女が香川から悠岐のクラスに転校してきてからの付き合いだった。家も近所だったためすぐに仲良くなった。
「優勝候補オリ○クス ボソ」
「今度バッセンで130㎞をヘディングさせるわよ」
ただの死球である。普通に痛い。
「すいません」
「よろしい」
二人が会話を繰り広げていると、悠岐のスマホが鳴り響く。
「ん?誰からだろ」
画面を見ると非通知設定の番号であった。
普段なら非通知設定の番号は無視するのだが、状況が状況だけにすぐに通話を開始した。
『悠岐か?』
これの主は父親だった。無駄にいい声であるため忘れるわけがない声だった。
『お父さん!そっちは大丈夫なの!?』
『大丈夫だ。今舞鶴にいる。そっちは?』
『私は大丈夫。でも電話がつながらなくて…』
そもそも中継局?が機能していないのか、つながりもしなかった。父はどのような手段を使ったのだろうか。
『自衛隊の電話を使っている。悠岐は無事で安心したよ。お母さんは?』
『お母さんは今朝から大阪の方に行っちゃたよ。電話もつながらないし…』
『わかった…お父さんの方から連絡を取ってみる。いいか、そのまま避難所で過ごしておきなさい。もう自衛隊や消防がいろいろ動いているからな』
『わかった。お父さんも気を付けてね』
『心配いらないよ。すぐに会えるようにお父さんも頑張るから。あまり長い時間電話できないからね。お母さんと連絡取れたらまた電話するよ』
そういって父の電話は途切れた。この辺は父親が自衛隊でよかったと思えるところだった。
「お父さん?」
「うん。なんか自衛隊の電話を使ったみたい」
「さすがだね~」
取り敢えず父親の安否がわかっただけでも安心できる。たぶん母親も元気で避難していることだろう。
地震が起きてからずっと体育館の隅で座っていたせいか体がカチカチになっていたこともあり、外の空気を吸いたくなっていた。公立の小学校の体育館にエアコンがあるわけもなく、熱気のこもった熱中症になりそうだった。
「ちょっと外に出てくるよ。このままだと熱中症になっちゃう」
「私もついていくよ。確かに暑いからね。それに余震も少し収まってきたし」
千尋も暑さと退屈さでストレスがたまっていたらしく、悠岐の提案にのった。
二人は外に出て校庭の方へ歩いていく。すでに夜であったが雲一つない夜空だった。電気が止まっていることもあり、美しい星空が広がっていた。
「きれ~い!おばあちゃんの家があるところみたい!」
「確か…四国の方だったか?」
「うん。香川県の山奥」
香川県といえばうどんである。悠岐は京都のラーメン(京都ラーメンというと薄口のお上品なラーメンをイメージするが、脂が浮かぶくらいのこってりと濃厚なスープが特徴なラーメンである)が大好きだったが、その話を千尋にするとうどん・ラーメン戦争がいつも起きる。野球、政治、宗教そして麺類の議論はいつも戦争が生まれるのである。
話しながら校庭を散歩していると突然大きな揺れが二人を襲った。今日起きた地震の何倍も激しい揺れであった。立っていることもままならず、思わず座り込んでしまった。隣にいる千尋も四つん這いになって揺れに耐えていた。揺れは1分ほど続き、次第に収まっていった。
「すごい揺れだったね。震度7あったかも…」
千尋が服についた砂を払いながらいまだに腰を抜かしたままの悠岐に手を差し伸べる。
一方の悠岐は、得も言われぬ不気味な感覚に襲われていた。
「気持ち…悪い…」
突然襲ってきた吐き気と不快感を口に手をやりながら我慢する。しかし腕には不気味なほど鳥肌が立ち、真夏の暑い夜であるのにもかかわらず、悪寒と冷や汗が止まらない。一瞬何かの病気を疑ったが、本能がそうではないと告げている。
「悠岐、あれ見て…」
友人が指をさす方向は満点の星空だった。
(あれは、星?)
それはシロアリの如く夜空をうごめく「何か」だった。鳥でも、飛行機でもない。目の錯覚でもなかった。
しばらく呆然と見つめていると「何か」は大きくなっていた。
(大きく?違う!あれは…)
「空から降ってくる‼」
悠岐が叫んだ瞬間、校庭に不気味な「何か」が降り注いだ。校庭に止めてあった消防の車を押しつぶして現れた「何か」は、真っ白な生き物のようなものだった。生き物とは思えないほど白く、巨大で、巨大な歯をむき出しにした口のような器官をもっていた。茶色いあいつよりましではあるが、生理的に不快感を覚える「何か」は外で作業を行っていた消防や警察の人たちをかみ砕き、その白い肌を鮮血に染めながら暴れまわっていた。
「なによ、あれ…」
千尋が呆然と目の前の光景を見ていた。周りを見渡すと体育館や教室を食い破りながら侵入する「何か」と共に悲鳴や怒号が響き渡る。それと同時に悠岐の足は動き出していた。
「千尋!ついてきて」
悠岐は友人の手をつかむと返事も言わせぬまま校門へ走り出した。しかし校門付近には「何か」が蠢いており、突破するのは不可能だった。
「出口だったら第三出口があるよ!そっちに行こう!」
悠岐がどうしようか悩んでいると千尋が提案をする。その声は不安と焦りが混じっていたいが、恐怖で我を忘れてはいなかった。二人はここの小学校出身だったこともあり、学校の構造には詳しかった。第三出口は普段と閉じられている出口だったが行事の時や災害時に解放される出口だった。あそこは狭いうえ、建物の陰に隠れているため白い化物に見つからないだろう。
建物の陰に隠れながら出口に向かうとそこには「何か」はいなかった。そのまま外に出ると道路に白い影が見えたため、すぐに近くの家の庭に隠れる。
「このままどうするの!?」
少なくとも打開案はなかった。「何か」は容赦なく人や建物を破壊していた。あの怪物を倒せるのは父の所属している自衛隊や軍隊ぐらいだろう。どこかに隠れてやり過ごすのが賢い選択肢だった。幸いすぐ避難先の小学校の近くには神社と古墳があり林もあった。そこに逃げ込めばしばらくは姿を隠せるはずである。
「神社の方へ行こう!」
悠岐の提案に千尋も賛同し、二人はすぐに神社のある丘へと向かう。隠れながら行動したため普通なら10分で着く場所にある神社に30分以上もかかった。
神社につくと、社務所が破壊されていたが、本殿は破壊されていなかった。
「とりあえず神社の奥の方で隠れておこう」
本殿前の広場から本殿へ足を進めた瞬間、空から白いモノが落ちてきた。地響きを挙げて落ちてきた「何か」は二人をかみ砕こうと、猛烈な勢いで突進と仕掛けてきた。
「危ない!」
悠岐は化物から逃げるためにジャンピングキャッチの要領で飛び込み回避することができた。
「きゃああああああああ‼」
うまく回避した悠岐と異なり、千尋の方が逃げるタイミングが遅れたらしく、かみ砕かれることはなかったが、突進を受けたことで後方に吹っ飛んでしまった。彼女は吹っ飛んだ衝撃で動けないらしく、苦しそうに呻いていた。
「くっそおおおお‼」
思わず私は第二撃を加えようとする怪物に手元にあった石を投げる。
まだ中学生1年生とはいえソフトボール選手が投げる石を食らったにもかかわらず、「何か」には傷一つつけることはできなかった。
倒れている人間よりもうるさい人間を始末しようと考えたのか化物は悠岐の方に再び突進と仕掛けてきた。
「ッ‼」
これも間一髪で避けたが、いつかは食い殺されるだろう。また、今は一体であるがすぐに何体も湧いてくるだろう。
(クソッ!クソッ!クソッ!)
もう終わりだと思い動くのを止めようと考えた瞬間どこからともなく声が聞こえてきた。
‘戦い続けろ’
(戦い続けろ?武器もない中でそんなこと言われても無理だよ…)
‘戦う覚悟を示せ’
‘さすれば道は開ける’
(うるさい!こんな化物相手に戦えるわけない!)
‘戦い続けろ’
‘生きろ、そして戦え’
悠岐は化物の攻撃を回避しながら頭に響き渡る声に言い返していた。極限状態での幻聴だと考えていた。
‘私たちが力を貸してやる’
‘お前の力を見せてみろ’
(もう体力は限界だ…)
千尋は気絶しているようで、ぐったりとして動かないようである。化物が彼女に興味を示したら食い殺されるだろう。
「ははは、もうお終いだ…」
空から白い「何か」が降り注いだ。その数は十体以上。二人の運命は決したも同然だった。
‘戦え。戦い続けろ’
‘この国を…守れ‼’
(わかったよ…)
(どうせ死ぬなら戦って死んでやる…)
「戦ってやるよ‼だから私に力を貸してくれ‼」
‘お前の意思は受け取った’
‘さあその手を伸ばせ’
悠岐が声に従い手を伸ばした瞬間、まばゆい光が神社を覆う。
「これは…」
悠岐の手には70センチほど太刀が握られていた。切れ味のよさそうな刀身は夜だというのに鋼色に輝いていた。
刀に見惚れていると、一体の化物が倒れている千尋を食い殺そうと突進を仕掛けていた。
「千尋に、触るなあああああ‼」
ただバットを振る感覚で刀をフルスイングすると、恐ろしいほど簡単に白い体を切り裂いた。
すると目の前にいる少女が脅威だと感じたのか化物どもは一直線に悠岐に向かってとびかかってきた。
「死ね」
悠岐は映画や剣道でみた刀の使い方をまねしながら冷静に一体ずつ斬り捨てていった。刀なんて握ったとこもない悠岐であったが、まるで数十年来の相棒のように刀を使いこなし化物を斬り捨てた。
すべての化物を斬り終わることには、あの巨体は死体も残さず消え去っていた。
「千尋、千尋!大丈夫ッ?」
倒れている友人の下に駆け寄り呼吸や脈を確認する。幸いにも気絶しているだけのようであった。
悠岐は千尋を担ぐと神社から逃げていった。
人ひとり抱えて十数分歩くことは、本来、中学生一年生の少女では不可能なことである。しかし刀を手にしてから体が軽く、力に満ち溢れていた悠岐にとってこの程度のことは楽勝だった。
しばらく歩くと頑丈そうなコンクリ造りの家が見えてきたため、その家に逃げ込んだ。
家主は相当慌てて逃げたようで鍵はかかっていなかった。
(これから、どうしていこう…)
悠岐は、化物どもに気が付かれないように電気を消した真っ暗な部屋で途方に暮れていた。
「うぅ…」
一時間ほど襲撃を警戒していると、気絶していた千尋が目を覚ました。
「起き上がってはだめ」
起き上がろうとする彼女をとめ、ソファの上で寝かしておく。
「確か、あの時化物に襲われて…」
「事情は後で話すよ。今はもう少し休んでて」
「…わかった」
千尋は悠岐のいうことに素直に従うと目を閉じた。しばらくすると穏やかな寝息が聞こえるようになった。
「はあ…」
大きなため息とともに猛烈な眠気が悠岐を襲った。眠ってはいけないと思いつつも意識は遠のいていくであった。
バーテックスですが、「何か」は自分に敵意が向かっていない場合に、怪物、化物は自分に敵意が向いている場合に使っています。
主人公:意外にいなかったスポーツ大好き真面目少女。
パートナー:ギャル風のスポーツ観戦大好き少女。