勇者の記録   作:永谷河

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千尋と私と約束と

2018年10月某日

 

バーテックスの戦いが終わり、いろいろな雑務が終わったある日、私たち勇者に特別休暇が与えられた。若葉たちは各々休暇を楽しむようだが、私と千尋には休暇の前にやるべきことがあった。今はその場所へと向かっている最中だった。

 

私は千尋と共に四国防衛隊の本部に来ていた。黒塗りの高級車から降りると、制服を着た職員の案内で、本部の建物に入っていく。

 

『四国防衛隊』

 

・第14旅団を中心とした陸上自衛隊。

・呉から退避して生きた護衛艦部隊と徳島、小松島の航空基地、舞鶴から退避してきた悠岐の父親達を中心とした海上自衛隊。

・数は少ないが土佐清水や、別の地域から退避した航空機部隊を中心とした航空自衛隊。

・海上の安全及び治安の確保を主任務としている警察機関の海上保安庁。

・四国4県の県警察の一部。

 

3年前にバーテックスの攻撃から逃れた四国の自衛隊や四国へと退避した自衛隊の残存部隊等が中心となって創られた組織である。名目上は四国防衛を主任務としており、旧海自、海保は『壁』の外でバーテックスの警戒を行っていたりと勇者達にも関わりのある組織である。

ただし、現状四国に脅威となるモノはバーテックスのみである。そして、対バーテックスに関して全権を有しているのは『大社』である。本来であれば存在意義を問われる組織であるが、『大社』の権力の強大化を恐れた旧自衛隊、海保、警察幹部や政治家の思惑もあり、規模を縮小されながらも組織として維持されていた。さらに、対バーテックスの要である『勇者』と『巫女』が所属している組織でもある。その『勇者』と『巫女』というのが私と千尋である。『巫女』に関しては千尋のほかに数人所属している。

『勇者』である私の父親は、旧海上自衛隊の幹部だ。そして私の親友である千尋も強力な力を持つ『巫女』である。そのため、私たち二人は四国防衛隊の『勇者』、『巫女』として活動を行うことになった。

『大社』に対バーテックスの要である『勇者』を独占させたくないという思惑も私たちが防衛隊に所属している理由に含まれるだろう。

もちろん『大社』としては、防衛隊のような実力組織とは関わりになりたくないというのが本音だろう。しかし、私が『勇者』の力を、千尋が『巫女』の力を使って『大社』に協力する代わりに、『大社』の持つ、対バーテックス用の装備や情報を四国防衛隊に提供してもらうという関係を築くことができていた。

 

「『大社』のような宗教色の濃い組織と、自衛隊や警察系の武力も持つ組織。どっちを信頼するかだよね」

 

「どっちも過度に信頼しすぎるとろくでもないことになるから、バランスが大事だな」

 

宗教結社に対して日本人はあまりいい反応を示さない。『大社』が受け入れられているのは、神道という日本人になじみ深い宗教であることと、現状では対バーテックスのみでその権限を行使しているだけだからである。

一方の自衛隊や警察組織に対してもいい反応を示さない人々はいる。それは仕方がないことだし、謙虚に過ごしていくしかない。

 

大きな会議室に入ると、中には父親や日高さん、西本さんといった旧海上自衛隊の知り合いや、旧陸自、旧空自、旧海保、警察関係者、政治家といった、四国のお偉いさんが終結していた(一部はテレビ越しであったが)。

 

「山田悠岐様、秋山千尋様。本日はお越しいただき、誠にありがとうございます」

 

私と千尋が高級そうな椅子に座り、会議が始まるのを待っていた。

十分ほどすると、予定の時間通り会議が始まった。

 

「では、2018年○月□日に行われた対バーテックス戦の詳細報告をお願いします」

 

西本さんの言葉と共に、私の父親である裕紀と私、千尋が立ち上がる。私たちは高校生なので、こういった会議のルールや言葉使いが完ぺきではないので、報告の詳細は父親が行うことになっていた。

父親が先日のバーテックス戦の戦闘の詳細を報告し始めた。私は当事者だし、千尋も私から散々聞かされているので、特に目新しい報告はなかった。

 

「以上が『勇者』の初陣であります」

 

父親の報告が終わると、全員が手にした報告書を見る。ここから私に質問が飛んでくる時間だ……

予想通り、私には進化体バーテックスについてや他の勇者の事を聞かれた。

バーテックスの話が終わると、あとは四国内の治安状況といった話になったので、私と千尋は会議室から退出し、別の部屋で待機していた。

 

「は~。やっぱり年上の人達と話すと疲れるよね……」

 

「みんな私たちを気遣ってか滅茶苦茶優しい言葉で話しかけてくれるけどねえ」

 

15歳の少女に威圧的な態度で迫るほど人間ができていない人達ではなかった。ましてや二人は組織維持の要であり、自分たちの、四国の生活を守る守護者である。蔑ろにできるはずがなかった。

今日私たちを定例会議に呼んだのも、純粋に『話』が聞きたかったからだろう。

 

「悠岐さん、お久しぶりです!」

 

二人が待機室にいると、巫女服をきた女の娘が入ってきた。

 

「渚ちゃん!元気だった~」

 

「渚ちゃん。お久しぶりですね」

 

彼女の名前は和田渚。中学1年生の13歳で、長い栗色の髪の毛が特徴的な可愛らしい少女である。彼女の両親も旧陸自の一員であったため、『巫女』として『四国防衛隊』に所属することになったらしい。いつもは『巫女』として、千尋と共に神樹様の神託を受けている。あとかわいい。

 

「バーテックスとの戦闘お疲れ様でした」

 

「いいよ~それが私の役目だからねえ~」

 

渚ちゃんの柔らかい髪の毛をもふもふしながら彼女を可愛がる。私や千尋だけでなく、みんな彼女を可愛がっていた。

 

「あとで、食堂でご飯食べませんか?」

 

「「賛成~」」

 

3人で話をしていると休憩に入ったらしく、父親と日高さん、山崎さん、西本さんの、舞鶴組が部屋の中にやってきた。

 

「悠岐。いろいろお疲れ様。こっちの都合に付き合わせてしまって申し訳ないな」

 

「いいよ。私もその辺は覚悟しているから」

 

父親とは面と向かって話したのは自分が入院した時以来だった。久しぶりに夕食でも一緒に食べようかと思ったが、今日もお偉いさんたちとの会合などで忙しいらしい。

 

「それじゃあ、私たちは食堂でご飯を食べてくるよ」

 

「わかった。あと、今日はどうするんだ?」

 

「今日、明日は千尋の実家で過ごすよ」

 

「そうか。すまんな、そばにいてやれなくて……」

 

「私は大丈夫。それよりも暴飲暴食と運動不足の方を何とかしてよね」

 

「うっ!善処するよ……」

 

私は父親の立派なお腹を指でつつく。生活習慣病になっても知らないぞ。

父親達と別れた後は、千尋と渚ちゃんと食堂に向かった。相変わらず二人はカレーうどんを注文していた。

 

「悠岐さん達の活躍はいろいろ聞きました。すっごく活躍したそうですね」

 

「若葉と友奈が一番頑張っていただけだよ。私はそのサポートをしただけ」

 

私たちが食堂で昼ご飯を食べている間も、遠目で防衛隊の職員、隊員が見てくるのがわかった。

私たち『勇者』の活躍は『大社』によって大々的に報道されている。「最後の砦」だの、「人類の救世主」だのとセンセーショナルな内容であった。リーダーの若葉に至っては顔写真付きで報道されている。本人が「私の顔だけで、四国の人が元気になるのであれば構わない」と言っていたからいいのかもしれないが過熱しすぎではないだろうか。

 

「若葉ちゃんはいいとしても、千景ちゃんや杏ちゃんは目立つのは好きじゃなさそうだしね。過熱しすぎなければいいけど」

 

「そうだな。希望には絶望が伴うものだ。それに若葉も千景も美人だからな。変な虫が付きかねない」

 

「悠岐さんも十分写真映えすると思いますが……」

 

「悠岐や私、それに渚ちゃんにちょっかいかけたら四国の治安組織を敵に回すってことだからたぶん大丈夫、かも」

 

「何にせよ、芸能人や政治家になったつもりで、気を付けて日常を過ごす必要があるな」

 

有名になればなるほど、他人をバカすることで、快感を得る屑に狙われる可能性が高くなる。そういう屑から守るために、後輩達にはネットの接続を制限したほうがいいかもしれない。SNSや掲示板なんかは屑の集まりだし。

 

昼食後は渚ちゃんと少し遊び、夕方になる前に、千尋の実家へと向かった。黒塗りの高級車に載せてもくれたこともあり、夜になる前に千尋の実家に行くことができた。

 

 

千尋の実家は四国の田舎にある家だった。千尋の祖母と、母親の姉の家族が農家を営んでいる。みな優しい人たちだった。千尋のことを可愛がっており、私の事も家族のように扱ってくれる。

美味しいごはんを食べ風呂に入ろうと思ったら、千尋から一緒に入ろうといわれ、特に断る理由もないので、風呂に入る。

 

「あ~、丸亀城の風呂とは違ってこういう風呂も風情があっていいな~」

 

丸亀城の寄宿舎での風呂は、個人用のシャワーを利用するか、銭湯のような浴場を利用していた。千尋の実家の風呂は、檜の風呂で私と千尋が入るのがやっという大きさであった。

身体を洗い終えて、湯船につかっていると、千尋が湯船に入ってきた。

 

「ちょっと、狭いよ」

 

「これぐらいいいでしょう。それに女の子同士だし」

 

対面して座られると、どうしても千尋の胸部に搭載されている立派な連装ミサイルが目に入る。

 

「それにしても何を食べたらこんなに大きくなるんだ?」

 

「え~うどんだよ」

 

「即答されても……というかそれならタマや若葉だって大きくなるんじゃない?」

 

「冗談、冗談。まあ遺伝かな」

 

そういえば千尋の母親も、その姉も大きい山を持っていた。遺伝か……

 

「そういう悠岐だってそれなりのモノを持っているじゃないの」

 

そういって千尋が私の胸を触ってくる。それは嫌味にしか聞こえないぞ……

私の胸で遊ぶのをやめると、腕や足に残っている傷跡や痣を彼女は優しく撫で始めた。私は、一般人よりも治癒力の高いが、それでも先日のバーテックス戦で負った細かな傷は完治していなかった。

 

「悠岐、私には『無理をしないで』なんて言えない。でも死んでほしくない。私の前から消えないでほしいよ」

 

彼女の両親はなくなった。多くの友人を失った。だからこそ誰かを失うことを恐れているのだろう。だが、それは私も同じだ。

 

「もう誰も死なせないし、私はバーテックスを殲滅するまでは死ねない。もちろん千尋も若葉たちも死なせないし、四国も守り通して見せる」

 

「悠岐……」

 

「そのために私は3年間戦い続けた。すべてを訓練に費やした」

 

私は3年間、『大社』の鍛練、それに自衛隊の訓練を受け続けた。生き残るため、死なないため、みんなを守るため。生き甲斐であったソフトボールもしばらくやっていない。バットもボールも握っていない。

 

「私は生まれたときから『勇者』になる運命だった……。いや、宿命だったのかもしれない。だけど『勇者』としてどのように生きるかは決められてはいないと思う」

 

私が『勇者』になったのは宿命だったのかもしれない。変えようがなく、生まれつき勇者になる未来だったのかもしれない。

だが、運命は自分の意思や行動によって、いかようにも変えることができる。

 

「悠岐の運命は悠岐のモノだよ。それに私の運命も私のモノ」

 

「そうだな」

 

私がこの戦いで死ぬ運命なら、その運命を変えればいいだけの事だ。私だけではない、みんなの力で。

 

「でも、私は悠岐と共にバーテックスと戦うことはできない。私は『巫女』だから」

 

『巫女』の役目は神樹様からの神託を授かることである。千尋とひなたはその力が非常に強いこと、私たち勇者と親しい者だったこともあり、丸亀城で『勇者」と共に過ごしている。しかし、『大社』や防衛隊には『巫女』が何人も存在しており、彼女たちも修業を行っているのである。

だが、『巫女』には、バーテックスと直接戦う能力は与えられていない。あくまで神託を授かり、修行を行い、信仰心を高めることで、神樹様の力を高めることしかできないのである。

 

「千尋だけじゃない、ひなたや渚ちゃん、真鈴といった多くの『巫女』が私たちと共に戦っていると私は思う」

 

「だけど、どんなに頑張っても傷つくのは『勇者』のみんな。だからね、悠岐。約束して」

 

「約束?」

 

「必ず、生きて私たちの下に帰ってきて」

 

「生きて帰る……」

 

よく考えてみればその『約束』をしたことはなかった。私たちの間の『約束』は、絶対に破ってはいけない大切な儀式だ。

 

「当たり前だ。私は死ぬつもりなどない。それに誰一人として殺させない」

 

「ありがとう。約束の指切りしましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

二人で湯舟から立ち上がる。体から水滴が流れる中、私たちは約束の指切りを行う

 

「「指切りげんまん、嘘ついたらはりせんぼんのます、指切った」」

 

この後に「死んだら後免」という「命ある限り約束を果たす」という覚悟を示したフレーズが入る。だが、私たちは死ぬつもりはない。

 

「さて、のぼせる前に上がるか」

 

「そうだね。あと、友奈ちゃんにマッサージ習ったんだ。耳かきと一緒にやってあげるよ」

 

「期待しないで待ってる」

 

「む、結構筋がいいって褒められたんだからね」

 

その後、布団の上で千尋のマッサージを受けたが、しばらく動けなくなるほど上手だった。千尋曰く、友奈の腕はさらに数段階上とのこと。耳かきもかなり気持ちが良かった。他の人にやってみたらと言ったら、私だけにしかしないとのこと。うれしい。

 

マッサージの後はすぐに消灯して寝ることになった。布団に入ってもすぐには眠れないため、千尋と話し始めた。

 

「そういえばみんなどうしているんだろう」

 

「休暇の過ごし方か?」

 

「そうそう。ひなたちゃんは若葉ちゃんと一緒に遊んでいるらしいけど」

 

「あの二人らしいな。タマと杏は高松でショッピングを楽しむって言っていたな」

 

「へ~。千景ちゃんと友奈ちゃんは?」

 

「それが……」

 

千景は地元に帰省したらしい。私と千尋は彼女の複雑な事情をある程度は知っている。

 

「実家って……千景ちゃん大丈夫なの?」

 

「一応友奈についていくようには提案していた」

 

千景はかなり嫌がっていた。たぶんだけど、自分のつらい過去を親友に見せたくはないのかもしれない。友奈も千景が嫌がっていたこともあり、ついてはいかなかったようだ。

 

「千景ちゃん、大丈夫かな」

 

「正直胸糞悪い話ではあるが、専門家でない私が関わることができない。唯一彼女を助けることができるのは友奈だと思う」

 

「それは違うと思うよ。私たちには千景ちゃんの気持ちを理解できても共感することはできない。だけど共に戦い、寄り添うことはできると思うの。だから、味方であることを伝え続けるしかないよ」

 

「共に寄り添う、か」

 

色々考えていたら眠くなった。千尋はもう寝ているらしい。私も寝るとしよう。

また明日からバーテックスとの戦いの日々が始まる。だからこそ日常を大切にしないといけないのかもしれない。

今後はみんなでお泊りをしたいものだ。

 

 

翌日から、いつも通りの日常が始まった。リフレッシュできたこともあり、みんな元気だった。

千景や杏がこれまでにないほど積極的に訓練に励んでおり、休暇中に何かあったのかもしれない。これなら次は大丈夫かもしれない。

 

そして数日後、バーテックスがやってきた……

 




現在のターニングポイント

・『大社』に縛られにくい主人公、組織の存在
・千景の事情をある程度知っている主人公達
・友奈、千景の故郷の事情に勘づくのが速くなる
・友奈の精霊行使の負担を半減する主人公
・千景と杏の仲がゆゆゆい時空レベルまで引き上げられるキッカケ



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