勇者の記録   作:永谷河

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バーテックスとうどん

2018年10月下旬

 

二回目の襲撃によって負ったケガも治り、検査入院していた千景も退院し、丸亀城にはいつもの日常が戻ってきた。

 

「そういえばなんで杏は戦えるようになったの?」

 

初めての戦闘では変身すらできなかった杏が、前の戦いではその射撃能力をいかんなく発揮して、活躍していた。

 

「ちょっとした心の変化ってやつだよな」

 

「この前の休暇で高松に買い物に行ったんです。その時にたくさん人がいたんですけど、この人達は私たち『勇者』の力を頼りにしているって考えたら頑張らなくちゃって思ったんです」

 

バーテックスに対抗できる力を持っているのは私たち『勇者』だけである。四国の数百万人の運命を私たちが握っているといっても過言ではない。

 

「それに、今まで私はタマっち先輩に助けられてばかりでした。初めて会った時、初めての戦闘の時も。だけど、もしタマっち先輩がピンチになって倒れて、その時に私は怖いからという理由だけで動けなかったら私は一生後悔する……。そう思ったら不思議と力が湧いてくるんです」

 

「あんず~タマは嬉しいぞ~」

 

身近な友人を守るために戦う。この意志だけで十分だ。

前にタマから私は、戦う理由を聞いていた。彼女は初めての戦闘でもバーテックスの大群を恐れることなく戦い、戦えない杏や千景を守っていた。

彼女の戦う理由は杏を守るためである。もちろん四国を、人類を守るために戦うという理由もしっかりと持っている。

自分にはない女の子らしさを持つ杏の事を絶対に守るべき存在と考えているらしい。私からしたらタマも十分可愛い女の子だと思うけど……

タマは杏がいるから戦える。杏はタマがいるから戦える。だからこそ、どちらかが欠けることは絶対に防がなければならない。

二人は抱き合いながら片耳イヤホンで音楽を聴いていた。傍から見れば、彼女たちは仲の良い姉妹である。

 

「本当に仲がいいんだな……」

 

「あの二人は寄宿舎も隣同士でよくお互いの部屋を出入りしているしね」

 

「そうなのか」

 

「因みに若葉ちゃんとひなたちゃん、千景ちゃんと友奈ちゃんもお互いの部屋の合鍵を持っているぐらいだよ」

 

千尋の謎情報を聞く。仲がいいなあ……

 

「悠岐は基本的に家にいないことが多いから合鍵持っていても面白いことがないのよね~」

 

「私はいろいろ忙しいんだ」

 

私は基本的に寄宿舎の部屋は寝泊まりにしか使っていない。勉強は丸亀城内の図書館を利用すればいいし、食事は食堂でとればいい。あとは外でひたすら訓練をするから寄宿舎に私物はあまり置いていない。

 

「確かに悠岐先輩っていつも学校にいる気がする……」

 

「そうね。朝早くから運動しているし、夜遅くまで訓練しているわね」

 

千景と友奈も心当たりがあるのか私たちの会話に参加してくる。

 

「信じられないかもしれないけど、これが悠岐の部屋よ……」

 

千尋がスマホで写真をみんなに見せる。なんだなんだと若葉やひなた、タマ、杏もスマホの写真を見に集まってくる。

 

「別に恥ずかしものは置いていないぞ」

 

私の部屋には見られて恥ずかしいものは置いていない。生活に必要なものしか置いていない。

ちなみに私の部屋の感想は以下の通りである。

 

「いや、これは……」とひきつった顔の若葉

「悠岐さん。いくらなんでもこれはひどいと思います」と先ほどまで浮かべていた笑みがなくなった顔のひなた

「さすがのタマもこれはないと思うな」と苦笑いのタマ

「花の女子高生の部屋とは思えません……」と目をつぶりながら結構辛辣なことをいう杏

「ちょっとこれは擁護できないなあ」と天使のほほ笑みのまま私を見捨てる友奈

「恥ずかしいものを置く以前の問題だわ」と真顔で部屋の写真を見つめる千景

 

全員一致で酷評だった。

 

「まず家具がベッドとクローゼットしか置いていないのがおかしい」

 

「そしてフローリング一面にトレーニング用具が置かれているのも女子力を下げる要因ですね」

 

「キッチンにプロテインの袋しかないのは悲しすぎます」

 

千尋、ひなた、杏の女子力高い組の酷評である。

 

「一人暮らしの男性でももっといい部屋に住んでいるぞ……」

 

「プロレスラーの部屋みたいだな」

 

若葉、タマの女子力低い組にも酷評される。

 

「そこまで言うことないでしょう……」

 

無性に恥ずかしい気持ちになったので、私は逃げるように教室から出てトイレに向かった。

しばらくして教室に戻ると、後日私の部屋の模様替えを行うことが全員一致で決まった。ひどい……

 

 

私の部屋が他の7人に酷評された数時間後、午後の授業が終わった後、バーテックスが進行してきた。3回目の侵攻である。

丸亀城が、香川が、四国が静止し、樹海化が始まる。

樹海化が終わると、そこはそろそろ見慣れ始めた光景だった。

 

「前の襲来からまだ少ししか立っていない」

 

「そうだね。敵も本腰を入れて叩き潰しに来たのかもね」

 

スマホには今回の敵の規模が通知されていた。

 

「今回のバーテックスの規模は大体前の襲撃と同じくらい。進化体は「矢」型が一体いるみたい」

 

「あの遠距離攻撃の進化体か……厄介だな」

 

猛烈な弾幕の中を突っ込んでいく気はさすがに私も若葉も起きない。

 

「なら私の『七人御先』で」

 

「千景。今回は精霊は使ってはダメ」

 

「どうして!あの力があれば……」

 

「前回の使用から時間が空いていなさすぎる。あれは肉体的だけではなく、精神的にもダメージが入る」

 

ただでさえ不安定な千景の精神をより一層不安定にしかねない。小さな積み重ねが致命傷になることもあるのだから。

 

「でも……」

 

「今日はそれなりに対策も考えてきているから。それにゲームでも強い技を連続して使いすぎると必ず悪影響って起きるでしょう?」

 

「……わかったわ。確かにあれだけの力を連続で使ったらデメリットも多そうね」

 

「ありがとう。千景」

 

千景の説得はできた。今回は襲撃の規模も少ないし、精霊は使わないでいいかな?

 

「ん?あれを見てください」

 

クロスボウを構えて、周辺を警戒していた杏が何かを見つけたようだ。

彼女が指さす方向を見ると二足歩行のバーテックスが高速でこちらに接近してきていた。

 

「なんというか気味の悪いデザインだな」

 

人間の胴体から下半身だけを残した姿であり、奇抜なデザインであった。しかし樹海の根や蔦、建物といった障害物を軽々とよけ、猛スピードでどこかに向かっていた。

小さいから探知から逃れていたのかもしれない。

 

「おいおい、あいつ神樹様のところに行こうってんじゃないよな」

 

タマの考えは正しいかもしれない。バーテックスによって神樹様が攻撃を食らえば四国は終わりである。

 

「止めるぞ!」

 

「まてい!」

 

若葉が突撃しようとしていたところをタマが止める。

 

「ここはタマに任せたまえ」

 

「こんなこともあろうかと『これ』を用意してきたぞ」

 

そういってタマが懐から取り出したのは一袋のうどんであった。

 

「「「「こ、これは!!」」」」

 

「そう、これは讃岐うどんの申し子吉田麺蔵が丹精込めて作った究極の一品、『うどん』だあー!」

 

「こ、これならいけるぞ」

 

タマは全力で二足歩行のバーテックスの前に一袋のうどんを投げる、がバーテックスはそれを無視し、猛スピードで通り過ぎていった。

 

「う、嘘だろ……」

 

「「「「バカな!!」」」」

 

「バカはお前ら全員じゃい!!」

 

コントをしている場合か!5人とも脳みそまでうどんでできているんじゃないのか……

 

「だってうどんが、うどんが」

 

「うどんはどうでもいい。あれを止めるぞ」

 

うどんにこだわるタマを諫め、対策を考える。

 

「遠距離攻撃で倒してみたほうがいいかもな」

 

「若葉の意見に賛成だ。二足歩行のやつを接近戦で戦っている間に「矢」型に攻撃されたらひとたまりもない。タマと杏が攻撃を行って、残りのみんなは二人を星屑や「矢」型から守るって感じでいいかな」

 

私と若葉、友奈、千景が「矢」型のバーテックスや星屑の攻撃から、遠距離攻撃ができる勇者を守り、杏とタマには進化体の相手をしてもらうという作戦であった。

 

「さすがに盾役がいないとあの弾幕から二人は守れないわ。その辺はどうするの悠岐さん」

 

「案ずるな。タマの武器だけでは防御不足だと思っていてな。防衛隊と大社に新装備を造ってもらった」

 

「「「「「新装備??」」」」」

 

私がそういい、近くにあった樹海化から免れていた建物の屋上に設置してあるコンテナから新しい装備を取り出した。

 

「悠岐先輩、盾ですか?」

 

かなりの大きさで、分厚く、重量感のある盾を私は両手で持ち上げていた。

 

「盾だ。これでバーテックスの攻撃はそれなりに防げるぞ」

 

もともと四国にあった戦車の装甲を利用して制作された盾であった。複合装甲と外装式モジュール装甲で構成された盾であり、非常に重い。勇者の力で強化された私の能力でもこれを持ち上げて俊敏に動くことはできない。

ただ、神樹様の加護を受けており、星屑のかみ砕き程度では全く傷がつかない強度を有している。

 

「攻撃が来る!」

 

「矢」型のバーテックスの射程に入ったのか、高速の射出体がつぎつぎと私たちのいる場所へと着弾する。巨大な盾の後ろに隠れた6人の勇者にはその攻撃は届かなかった。

着弾と同時にすさまじい衝撃が走る。4人の勇者が支えながら攻撃から耐えていた。

さすが主力戦車の高速の砲弾をはじき返すために造られた装甲だ。勇者の力と神樹様の加護が加わればこれぐらいの攻撃なら大丈夫そうだな。ただ、あまり時間は掛けれない。

 

「あんまり時間をかけると、星屑が近づいてくる。あと進化体がさらに生まれる可能性がある。速く二足歩行型を……」

 

杏とタマの二人はクロスボウと旋刃盤をつかって進化体を攻撃するが、俊敏な軌道で避けられてしまう。

 

「そろそろ不味いぞ」

 

「やばっ!」

 

定期的に盾の外に出て近づいてきた星屑を倒していた若葉と悠岐が盾が壊れ始めているのを見て顔を青くする。少しでも油断すると「矢」の攻撃が行われるため、勇者たちを苦しめていた。

 

星屑と遠距離攻撃のバーテックスで私たちを足止めし、移動速度の速いバーテックスで神樹様を攻撃する。

 

「タマっち先輩、いくよ」

 

「あんず、いくぞ」

 

二人の掛け声と共にタマの手から旋刃盤が投げられる。そのコンマ数秒後に金色の矢が杏のクロスボウから放たれた。

高速で回転した旋刃盤は二足歩行の進化体に目で追えないほどの高速で迫るが、それを軽々とバーテックスはよける。しかし外れた旋刃盤のワイヤーに杏の放った金色の矢が命中し、軌道が修正され、バーテックスに命中した。

高速で回転する旋刃盤によって切り裂かれ、真っ二つになった二足歩行の進化体は消滅した。

 

「若葉、悠岐!倒したぞ!」

 

「よし!総員、突撃!!」

 

「Ураааааааа!!!!」

 

「おおおおおおお」

 

すでにかなり傷ついていた盾を友奈と千景二人でも持ち上げ、弾幕の中に突入する。攻撃が盾に集中している間に、タマと杏の援護をしてもらった私と若葉が進化体の後方へ一気に突入する。一人ロシア兵がいたぞ……

 

「こいつの弱点は前にしか攻撃手段がないことだ」

 

「それを補う反射を持つ進化体はここにはいない」

 

「「死ね!!」」

 

背中の建物を足場に一気に進化体に肉薄する。足場にした建物が衝撃で壊れたが、コラテラルダメージだ。神樹様のための致し方ない犠牲だ。

一気に亜音速まで加速した私と若葉は納刀した刀から高速で抜刀する

 

「一閃緋那汰!」

 

「桜花!」

 

若葉が放った左からの斬撃と私が放った右からの斬撃によって「矢」型のバーテックスが切断される。

バーテックスの消滅する様を見ながら樹海の蔦の上に立つ。

 

「若葉に合わせてやってみたけど、結構これ、フィードバックがひどいな……」

 

「戦装束が無ければ腕がちぎれていたかもな」

 

私は左手が、若葉は右手の装束がズタズタに引き裂かれていた。力も入らないため、手がぶらぶらしている。また、身体が露出していた方の部分には結構深い傷が付いていた。

 

「これ、音速超えていたかも」

 

「なら飛ぶ斬撃も打てるな」

 

「「はっはっは」」

 

二人で笑っていると、残りの勇者4人が星屑の残党を倒し終わってたようだった。

 

「なんとか勝てたね~」

 

「あの盾重すぎるわよ……」

 

さすがに盾は放棄してきたのか、疲れた顔をしながら友奈と千景がやってきた。遅れてタマと杏も集まる。タマの手にはちゃっかり投げ捨てたはずの袋詰めのうどんが握られていた。

 

樹海化が解けると同時に、私と若葉は病院行きとなった。盾を持ち続けた千景と友奈も手がしびれていたらしく、診察を受けることになっていた。

 

 

戦いから数日後

 

「悠岐、はい、あ~ん」

 

「もううどんは飽きたぞ……」

 

「明日はちゃんとラーメンにしてあげるから……」

 

私は肩が脱臼したようで、しばらく腕をつかうことは禁止されていた。正直すでに動かすことはできるのだが、千尋に絶対に動かすなと念を押されたため、使っていない。利き手の左手が使えなくなっため、食事を千尋に手伝ってもらっている。ただ、毎日うどんは勘弁してほしい。

 

「若葉ちゃん、最高級釜揚げうどんですよ」

 

「ありがとう、ひなた。うん、美味しい!」

 

「これは讃岐うどんの申し子こと吉田麺蔵さんが(以下略)ですからね」

 

私と同じく肩を怪我した若葉が、ひなたにうどんを食べさせてもらっていた。相変わらず熟年夫婦のような雰囲気を出している。若葉は毎日うどんを食べているがうどん王国の王子様にはご褒美だろう。

 

「はい、ぐんちゃん。あ~ん」

 

「た、高嶋さん、恥ずかしいわ」

 

「大丈夫だよ~みんなやっているよ」

 

「あ、ありがとう」

 

手のしびれが中々とれないため、箸が握れない千景にすでに回復した友奈が食事を口元に運ぶ。千景もなんだかんだで状況を楽しんでいるようだった。

 

そんな状況を羨ましそうに見る二人がいた。杏とタマである。

 

「なんかピンク色の空気が見えるぞ~」

 

「ああ~ひな×わか、ちひ×ゆう、ゆう×ちか、いいです」

 

「なんかあんずが怖いぞ」

 

二人は先日の戦いで負傷をしてなかったため、普通にうどんを食べていた。

 

「タマっち先輩。‘あ~ん’しましょうか?」

 

「んな!わ、私は別にうらやましくはないぞ」

 

「も~そういって。ほら、熱々のうどんをどうぞ」

 

「うぅぅぅ、って熱!」

 

「あ、冷まし忘れていました」

 

「あんず~!」

 

二人もイチャイチャしていた。

 

こうしてしばらく平和な時間を過ごした。

 

あと、盾が壊れましたと防衛隊と大社の人に報告したらかなり青い顔をされた。開発費を聞いたら卒倒しそうになった。でも結構使えたからまた使えるといいけど……

 




ロシア兵になった勇者は誰でしょう。
ヒントはCoDとかのゲームをやっている方です。
後、悠岐はゲームは好きですがソフトやハードは持っていません。気分転換に千景や千尋と偶に遊ぶくらいです。

あと樹海で建物をぶっ壊していますが、解除されれば建物は治っています。少なくとも本作では。
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