勇者の記録   作:永谷河

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勇者たちの休息

2019年1月初旬

 

バーテックスの初襲来から数か月が経ち、すでに新しい年を迎えていた。バーテックスとの戦いがいったん落ち着き、『巫女』の神託でもしばらく襲撃が行われないことが告げられたこともあり、『大社』が慰安の為に、温泉旅行を提供してくれた。

温泉の候補地としては、松山の道後温泉や高松の塩江温泉があるが、丸亀から近い場所の方が緊急時に対応しやすいということで高松の温泉宿が選択された。

バスや列車に乗って、長旅を楽しむのも旅行の楽しみのうちの一つと豪語していた千尋や、愛媛の温泉に行きたがっていた杏達は残念がっていた。

旅館は『勇者』一行で貸し切りになっており、広い露天風呂や、旅館施設が貸し切りになっていた。気を使わなくていい反面、少し寂しい気もするが、仕方がないだろう。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁ~~~~」

 

「悠岐、汚い声を上げないの」

 

私が大浴場につかり、中年のおっさんのような声をあげていると、その声に引いた千尋が注意をする。

 

「いいじゃないですか。千尋さんもこういう場所でリラックスしておけば~」

 

「若葉ちゃんも悠岐を甘やかさないで」

 

温泉の気持ちよさにすっかり蕩けきっている若葉が頭に手ぬぐいを乗せた古き良き温泉スタイルでお湯に浸かっていた。

 

「温泉若葉ちゃんも可愛いです」

 

「ひなたちゃん。流石に写真撮影はNGだよ……」

「わかってます。ですが歯がゆいです……」

 

しばらく温泉につかっていると、脱衣所の扉が開き、ぞろぞろと4人の少女が現れた。タマ、杏、友奈、千景であった。

 

「おお~これはすごいぞ」

 

「タマっち先輩。まずは身体を洗わないと……」

 

「うーむ、それもそうだ」

 

4人はシャワーが置いてある場所へ向かっていた。

 

「若葉。背、伸びた?」

 

「あ、やっぱりわかりますか。ちょっとだけ伸びていました」

 

「成長期だねえ……」

 

「悠岐さんも背丈大きいじゃないですか」

 

若葉は大体160センチよりちょっと大きいかなってくらいである。中学2年生の平均身長よりも大きいが本人は特に気にしてはいないらしい。ひなたが小柄なので、隣に並ぶと男女のカップルのようにも見える。

 

「まあ両親が結構大柄の人だったからね」

 

「そうなんですか」

 

そんな話をしていると、隣に小柄な少女が近づいてきていた。

 

「う~ん。高校生組は二人とも大きいのか……」

 

タマであった。身体を洗っている間、杏の双子山を登頂していたらしい。言い方が非常にセクハラおやじ風である。

 

「私はともかく、千尋のを揉んだら千景と一緒にクソゲーRTAをやってもらうからね」

 

「ヒッ!あれはもう勘弁だ~」

 

そういってタマは杏の方へと帰ってきた。撃退完了。

 

「クソゲーって」

 

「いろいろあったのだよ」

 

舌を噛み切りたくなるようなクソゲー、マゾゲーをなぜか千景は結構持っているので、それを利用したRTAを行うことである。一度千景と私とゲームなら任せろというので一緒に連れてきたタマと共に、とある作品を走破したことがある。タマは二度とやりたくないと泣きながら帰って行ったことを覚えている。

 

「あれはあれで趣があるのに……」

 

「ぐんちゃん?」

 

私たちの話を聞いていた千景が、あの時のことを思い出している。千景もいろいろな意味ですごいと思う。

 

「悠岐さんってお風呂だと眼鏡外していますけど、みんなの顔とか見えるんですか?」

 

「私はかなりの近視でね。今もほとんど見えないよ。声やシルエットで判断している」

 

杏が、私がいつも使っている眼鏡がないこと違和感があるのか、私の「眼」について聞いてくる。そういえば話したことはなかったな。

 

「それだと戦闘の時や運動の時に邪魔になりません?」

 

「いろいろ眼鏡に工夫がしてあるから大丈夫。それに勇者の力を利用すれば見えるようになるから」

 

「そういえば私も前までよく体調を悪くしがちだったのですが、最近はそういうこともないです」

 

「まあ、これも神樹様の加護ってことかな」

 

杏も含め、身体に何かしらの異常があった者が、それが治っている。

ぼーっと空を眺めていると、私の胸部を触ろうとしてきた不届きものがいたため、拘束してくすぐりの刑に処してやった。

近くで笑いつかれて倒れているタマを片目に露天風呂から上がり、冬の外気で火照った身体を覚ます。

 

「ああ、気持ちがいい……」

 

その後も温泉を楽しんでいると復活したタマがサウナを見つけ、サウナにどれだけ長くいられるか勝負を持ち掛けられた。ちなみに一番長くいたのは友奈だった。というかサウナで我慢大会を開いていたら、『大社』の人に危ないから辞めろと滅茶苦茶怒られた……

 

 

温泉から上がると食事の時間までは自由時間である。私と若葉、千景と友奈、タマと杏の3組でペアを組み、温泉卓球大会を開くことになった。ひなたは撮影班、千尋は審判をすることになった。

 

「ただの卓球じゃあ面白くないな」

 

「それなら古今東西卓球をやりませんか?」

 

ただの卓球だとつまらないと感じたのか、杏が古今東西卓球を提案してくる。

古今東西卓球とは、自分が球を打つ際に、古今東西のお題にこたえるという運動神経と、教養が必要なゲームである。

 

「罰ゲームも決めた方がいいな」

 

「ならハイポート走「もっと可愛い罰ゲームで」……ごめんなさい」

 

私の罰ゲームは大変不評らしい。

 

「なら、壁ドンで!勝ったチームの人が負けたチームの人に壁ドンをするか、されるか決める権利で!」

 

「壁ドンって」

 

壁ドンとは、壁を背にした女性の脇に手をつき『ドン』と音を発生させ、腕で覆われるように顔を接近させ、恥ずかしいセリフをイケボで相手の耳元で囁く行為である。隣の部屋がうるさい時に、壁を蹴りつける行為のことも壁ドンというらしい。

私は、不良が相手にガンつけながら足で相手の逃げる先をふさぐ行為も壁ドンの亜種だと思っている。

千景や若葉、タマは少し抵抗感があったようだが、私と杏が「負けるのが怖いのか?」というと全員ラケットを持ち、臨戦態勢に入った。ちょろい。

 

「お題はみんなで決めようか」

 

千尋の提案で、私たち6人がそれぞれ自分の得意分野を書き、中身がわからない箱に入れる。

全員が箱の中に紙を入れ終わると、千尋がゲーム開始を宣言する。

 

「それじゃあ5点先取で行くよ」

 

「「「「「了解」」」」」」

 

千尋審判のルール説明と罰ゲーム説明が行われ、第一戦目が始められる。第一戦目は私・若葉チームVS友奈・千景チームである。いきなり強敵である。

 

「それじゃあ始めるね。最初のお題は……天王星の衛星の名前!はじめ!」

 

千尋のお題設定と共に若葉がサーブを放つ

 

「アリエル!」(若葉)

「ウンブリエル!」(友奈)

「チタニア!」(私)

「え!えっとエンケラドス!」(千景)

 

千景が打ち返すが、若葉はそのボールを手で受け取る。

 

「ぐんちゃん!エンケラドスは土星の衛星だよ!」

 

「くっ……ってわかるわけないじゃない!」

 

「さあ次にいくよ!」

 

千景の不当アピールを無視し、千尋が次のお題を発表する。

 

「お題は……世界の黒人大統領の名前。なお2015年時点のものとする。はじめ!」

 

今度は友奈からサーブが始める。

 

「ケニア共和国大統領、ウフル・ケニヤッタ」(友奈)

「コンゴ民主共和国大統領、ジョセフ・カビラ・カバンゲ」(私)

「お、オバマ大統領」(千景)

「タンザニア連合共和国大統領、ジャカヤ・ムリショ・キクウェテ」(若葉)

「南アフリカ共和国大統領、ジェイコブ・ズマ」(友奈)

「ナミビア共和国大統領、ヒフィケプニェ・ポハンバ」(私)

「え、えーと」

 

千景が、答えがわからず、ピンポン玉をスルーしてしまう。これで2点目だ。

 

「友奈・千景チームのポイントです」

 

「ええ!なんで千尋!」

 

「ナミビア共和国の大統領は、2015年3月からハーゲ・ガインゴブ大統領になっています」

「ああ~そうだった……」

 

「残念だったね~」

 

敵チームの友奈に慰められる。結構友奈もやるな……

 

「なんであなたたちわかるのよ!」

 

これくらいは一般常識だと思うけど。畜生、初歩的なミスを犯してしまった……

次に集中だ。

 

「次いくよ!お題は、歴代沢村賞受賞者。受賞年と共に答えよ。はじめ!」

 

よし、これは得意分野だ!私がサーブを打ち、ゲームを始める。

 

「福岡ダイエーホークス、斉藤和巳、2003年」(私)

「東北楽天ゴールデンイーグルス、岩隈久志、2008年」(千景)

「埼玉西武ライオンズ、松坂大輔、2001年」(若葉)

「オリックスバファローズ、金子千尋、2014年」(友奈)

 

ここから2000年代、1990年代と年代が古くなりながら、それぞれの年代を代表した投手名が次々と挙げられていった。

 

「国鉄スワローズ、金田正一、1956年」(私)

「……」(千景)

 

千景が無言でボールをキャッチする。ただ私と若葉に喜びはない。仕方がない、なぜなら……

 

「この勝負引き分け」

 

1947年~2014年の受賞投手を、全員言ってしまったのだ。これでは勝負の判定のしようがない……

 

「さあ、勝負はこれからだぞ!」

 

この後、「アメリカ海軍、フレッチャー級駆逐艦の名前」や「日本の城の名前」、「日本の私立大学名」の古今東西が行われ、私たちが3連勝をして、勝利した。

千景が2回連続でミスをしてしまったことが一番の敗因で、かなり悔しそうな顔をしていた。

 

「じゃあ私は千景に壁ドンをしようかな」

 

「それなら私は友奈にしよう」

 

若葉が友奈を指名したためか、若葉に対する千景の顔が恐ろしいことになっていたが、たぶん問題ない……はず。

その後、私・若葉チームはタマ・杏チームと戦ったが、負けてしまった。「世界の登山家の名前」や「直木賞受賞作家」など、向こうのチームに有利なゲームとなってしまっていた。一応古今東西のお題はランダムなんだが……

 

「ああ~悠岐さんか、若葉さん。どっちに壁ドンしてもらいましょう。タマっち先輩、先に決めていいですか?」」

 

「あー、私はあんずが決めなかった方で壁ドンされるでいいぞ~」

 

さんざん悩んだ結果、杏は私を選んだようで、タマは自動的に若葉に壁ドンをされることになった。

 

 

最終戦は友奈・千景VSタマ・杏チームだったが、勝敗は5対4で友奈・千景チームが勝利した。始めは古今東西が苦手な千景を有する友奈・千景チームが4連敗を喫するなどかなり不利だったが、ゲームに関する問題が連続して出題されたり、タマのケアレスミスが重なり、5連勝して二人は勝利したのであった。

千景は杏を壁ドンすることになり、友奈はタマに壁ドンされることになった。

 

「なんだかこれって杏だけが得しているような……」

 

卓球に熱中していると時間を忘れてしまうようで、すでに食事の時間を大きく過ぎていた。急いで部屋に戻り、豪華な食事を私たちは堪能した。

 

「ああ。カニなんて久しぶりに食べたなあ。毎日食べたいぐらいだ」

 

「おいしかったよね。こういう贅沢はたまにするからより感動を味わえるのよ」

 

「確かにそうだな。毎日食べたら飽きるしね」

 

私が先ほどのカニ鍋の感想を千尋と話していると、千景がどこからともなく黒い箱を取り出した。というかゲームの本体を取り出していた。

 

「やけにでかい荷物を持っていると思ったら……」

 

「あら?久しぶりにやらない。実況パワ○ルプロ野球」

 

「千景が強すぎて相手にならないよ」

 

「悠岐さんは私のオリジナルチーム使っていいわよ」

 

「まあそれならいいかな」

 

私と千景は対戦を選択し試合を行う。操作がうますぎて、手も足も出ない状況であったが、途中千景がトイレの為に席を立った。すぐに私は試合を中断して、オリジナル選手のデータを見る。

 

「うーん、高嶋友奈ばかり。あ、でも私や若葉、それにタマや杏もいるな」

 

郡千景が投手で、高嶋友奈が捕手として作成されていた。あと私の能力値高!パワーSかい……

 

「うーん。ここまでは予想の範疇だなあ」

 

「何が予想の範疇ですって?」

 

「いや、千景ならもっと厨二病、って千景さん……」

 

後ろには黒いオーラを纏った千景がいた。

 

「死になさい」

 

「ぎゃっ!」

 

枕で顔面をフルスイングで打ち抜かれた。千景はそのまま友奈の方に行き、友奈と二人でゲームを再開していた。流石に悪かったって……

ふらふらしていたので、千尋を見つけると、そのまま膝枕をねだる。

 

「それは千景ちゃん、怒るわよ」

 

「後で謝るよ」

 

二人でイチャイチャしていると、若葉と千景たちがトランプや将棋、ボードゲームを始めた。私たちもそれに参加したが、圧倒的実力を持つ千景にことごとく蹴散らされてしまった。

あと、寝る前に、恒例行事の枕投げを行った。なぜか今は『勇者ゲーム』というらしい。私・ひなた・杏・友奈チームと若葉・千尋・タマ・千景チームに分かれて、大きな広間で勇者ゲームを始めた。

全員に枕が行き渡ると、若葉が豪速球を私に向かって投げつけてきた。私はその枕をキャッチすると、バックホームをする要領で力の限り枕を投げつける。

 

「みんな、隠れろ!」

 

ちゃぶ台も後ろに隠れ、私の枕から隠れる。

 

「悠岐、もう少し手加減して投げてくれる?」

 

ひなたのお願いに相手チームの全員がうんうんと頷く。

 

「じゃあ右手で投げるよ」

 

「そうしてくれるとありがたい」

 

若葉も私の剛速球に冷や汗を掻きながらゲームを再開する。結局私は後方から枕で狙撃をしつつ、若葉たちの突撃を躱し、その隙をついて杏が相手陣地のフラッグを奪った。

 

「これで私たちの勝利です」

 

杏の言葉ととのに私たちは勝利宣言を行う。

みんな汗だくになって枕投げを行ったこともあり、もう一度温泉に入りなおした。

風呂から上がった後も、いろいろなゲームをして遊び、杏や友奈がうとうとし始めたこともあり、消灯となった。

消灯してからは恒例の怪談話をしたが、杏の話がうますぎて死ぬかと思った。それもあってか千景やひなたは自分の親友に抱き着きながら寝ていた。

 

一方の私は全員寝たのを確認した後、高松の町に繰り出していた。

 

「と~しはつ~らつ~」

 

「いよ!ね~ちゃんいい声」

 

私は高松の場末のスナックで酒に酔いながら歌っていた。ウィッグを被り、メイクをばっちり決め、眼鏡をコンタクトに変えれば全く別人になれる。

こうやって酒に酔って歌を歌うのが最近の密かな楽しみであった。私の部屋の合鍵をみんなに渡さないのは夜中の外出を千尋に勘づかれないようにするためでもある。

別に毎日酒を飲むわけではない。それに泥酔するわけでもない。ただ酔っぱらうという感覚が無性に楽しいのだ。あと未成年なのに酒を飲むという背徳感も。

 

「偉い別嬪さんね~歌もうまいし姉ちゃん芸能人?」

 

「え~秘密」

 

「おいおいそりゃねないよ」

 

見ず知らずのおっさんと野球の話で盛り上がっていた。しばらく飲み明かし、ほくほく顔で旅館に帰り、変装を解いて、あらかじめ用意していた別の部屋に入る。

酒の匂いで千尋たちにばれると面倒なため、酔いを醒ますための部屋を用意していたのだ。

 

「ふ~。楽しかった」

 

部屋の電気をつけると、そこには浴衣を着た二人の少女が仁王立ちして私を待っていた。

 

「悠岐さん。お話があります」

 

「悠岐。私たちが怒っている意味、分かるよね」

 

「な、なんでばれた……」

 

私は二人が見たことがない顔で怒っているのに怯える。

すると千尋は自分のスマホの画面を私に見せつける。

 

「GPS!?スマホは置いていったはず」

 

「スマホじゃないよ。悠岐のこれ」

 

千尋は私の愛用する財布のキーホルダーを手に取る。もしかして……

 

「これね、発信機が入っているの」

 

「最近、悠岐さんが夜どこかに出かけていると相談されまして。私愛用の発信機を貸してあげました」

 

「あぁぁぁぁ……」

 

こうして私の夜の楽しみは奪われたのであった。

二人のお説教の後、『大社』によるお説教、そして父親によるお説教を受け、怒られまくった。

本来であれば法律違反で警察に補導されても可笑しくないが、『勇者』であること、反省していること、初犯であったこともあり、捕まることはなかった。

千尋が怖かったのでもう二度とやらない……

 




絶対に未成年はお酒を飲んではいけません。法律違反でもありますし、成長が阻害されます。悠岐は月一程度で飲んでいたらしいです。なのでアル中ってわけではないです。中学生が大人にあこがれて飲んじゃう的なノリです。
あと、未成年にお酒を提供すると、提供した側にも責任が追及され、他人にも迷惑をかけます。辞めましょう。

高校生で酒って飲めるの?と思いますが、悠岐は外見が大人っぽいので年確されないと確実に大人にみられます(変装をしているので)。

一応クリスマスとか新年の話もしようと思いましたが、番外編で書こうと思います。

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