2019年2月中旬
戦闘兵器である若葉に私たちの実力を見せてやろうという目的で行われた模擬戦闘であるが、友奈と私の戦いは延期されることになった。
『大社』本部へ行っていたひなた、千尋が神樹様から恐ろしい神託を授かったからだ。
神託の内容は「近日中にバーテックスの総攻撃が行われる」というものであった。そして、この総攻撃はかつてない規模の大攻勢であることが告げられた。
今回ばかりは「戦死」という言葉が全員の頭の中に浮かんだ。
だが、私たちには「逃げる」という選択肢は選べないのである。なぜなら私たちは『勇者』だからだ。
「総攻撃か……」
「この間の攻撃が総攻撃じゃないのかよ~」
若葉とタマが総攻撃と聞いて嘆く。
「あの規模で前哨戦となると、次の攻撃では数倍の敵が来るって考えた方がいいな」
「ええ。おそらく前回の数倍の敵の襲来を覚悟した方がいいかもしれないわね」
前回の攻撃を思い出し、渋い顔をする私と千景であった。
「若葉、分かっていると思うけど……」
「悠岐さん、私もそこまでバカではない。今回は本当に作戦と連携が必要だ」
前回の戦いで、脳筋の若葉も物量という攻撃の恐ろしさを思い知ったようである。
ここにいる6人の勇者の力を合わせて何百倍もの敵を殲滅する必要がある。だから綿密な準備が必要だ。
「前回の戦いで途中から私たち行っていた交代制を今回の戦いでも採用したいと思います」
「私もそれは考えていた」
「おそらく持久戦になると思いますので、3つのチームを組みたいと思います。1つ目は若葉さん、悠岐さんの大火力チーム。2つ目は友奈さん、千景さんの連携力が高いチーム。3つ目は丸亀城の防衛と、後方援護を行う私、タマっち先輩チームです」
丸亀城を拠点とし、6人の勇者を3つのチームに分けて戦力を運用する作戦である。
連携力が高く、囲まれても戦うことが可能な友奈・千景が星屑などの雑魚の敵を掃討し、二人が負傷、疲労した場合は若葉・私が交代で出撃する。また、進化体が出現した場合は4人同時に出撃して対応することが決められた。
杏と球子は拠点である丸亀城の防衛と、旋刃盤、クロスボウで援護を行う役割が与えられた。
今回ばかりは進化体も大量投入されてくると推測されるため、精霊の力も出し惜しみはできないだろう。
丸亀城の中には、救急用の道具や戦闘糧食(うどん)を大量に用意することが決まった。
さらに、バーテックスの奇襲や「矢」型の進化体の遠距離攻撃を警戒して、丸亀城そのものも強化されることも決まった。
「とりあえず、私と杏は戦闘面の作戦をさらに練ることにする」
若葉と杏は作戦を考えるため、教室で香川の地図などを確認していた。
「じゃあ、私と千尋は丸亀城強化のための使い捨て装甲板を防衛隊から取り寄せてくるよ。確か何枚か残っていたはずだから。あとは、救急用の道具もいろいろ用意しよう」
私たちは防衛隊から利用できそうな武器や道具を調達しに行くことにする。
「わたしは『大社』にある簡易結界のお札を用意します」
ひなたは『大社』相手に神樹様の力が宿った結界を張る道具を用意することになった。
「じゃあ、私とぐんちゃんは休憩用のうどんとかを用意するね」
「うどんとカセットコンロ、うどんの薬味を買いに行けばいいわね」
「カセットコンロならタマが持っているぞ。キャンプ用品だからな」
他の3人は休憩時に必要な道具を揃えに行くようである。うどんは、私以外の体力や士気が回復する魔法の食べ物である。
私は私で食料を用意しておこう。
襲撃が行われるという神託を告げられた翌日、私たちは四国防衛隊善通寺本部に来ていた。
「ええ!あの装甲板が欲しい。流石に難しいな……全部壊れてしまったしな」
「そこを何とか……」
主力戦車の複合装甲を利用した装甲であるため製造が難しいようである。神樹様の加護を付与するために莫大な時間もかかるため、ホイホイと作れるものではない。製造されて保管されていた分はすべてバーテックスとの戦いで壊れてしまっている。
何とか交渉して、旧式戦車の装甲を利用した使い捨て装甲板を数セット確保することに成功した。
因みにこいつらは、防衛隊がまだ自衛隊だったころに『勇者』の力ではなく、自衛隊の力でバーテックスを倒すために造られた兵器だったらしい。今は予算と人員の無駄ということで計画は廃棄されているが、それなりに利用できそうな兵器が各地の駐屯地の倉庫で眠っているらしい。
「あとは救急系の道具を用意すれば大丈夫かな」
お父さん達に必要なモノを用意してもらうように交渉し、私たちは丸亀城に戻った。
丸亀城に戻ると、若葉とタマに、骨付鳥の店に行かないかと誘われたので、私と千尋、それに家で一人でゲームをしていた千景も誘って行くことにした。
「初めて来たが、美味しいな」
「だろ~?この町のグルメはうどんだけじゃあないんだな~」
「ご飯が、進むぞ!」
「本当ね。来てよかったわ」
「みんなよく食べるね……」
私と若葉とタマは何皿もお替りをして、骨付鳥を食べる。外見では小食そうな千景もガッツリと食べており、勇者の食欲旺盛さに千尋が若干引いていた。
タマと若葉は「おや」か「ひな」のどちらの美味しさが上かで揉めていたが、私にとってはどちらも美味しいのでどうでもよかった。
しかも二人が同じ店に来ていた小さな子共に喧嘩がしてはいけないと注意まで受けていた。
みっともないぞ……
「それにしても若葉やタマ、千景の知名度は高いみたいだね」
「あれだけ顔を出しているから仕方がないだろう」
因みに私は名前だけしかメディアでは報じられていないので、一部の人しか知らない。防衛隊の方針でメディア露出は控えろと言われているからである。
私がいろいろとやんちゃできたのも、顔が割れていないからである。
「軽率な行動は控えるべきね……」
千景の冷たい目がタマと若葉を貫く。
「「すいませんでした……」」
襲撃があることが告げられてから丸亀城は慌ただしくなった。
『大社』の職員が結界を張り巡らす準備をするために、走り回っていた。また、使い捨て装甲板を用意するために防衛隊の職員も東奔西走していた。
「さて、こんなもんだろう」
勇者、巫女の8人も天守閣の最上階の部屋を『大社』の職員と共に改造していた。私と若葉は救急用の道具や戦闘中の食料などが整理していた。
「まて、千景。流石にゲームは無理だ」
「私にとっての休憩はゲームをすることよ」
「友奈、GO!」
「ぐんちゃん。それはだめだよ~」
「ああ、高嶋さん待って……」
友奈が千景のゲームを没収する。流石に戦闘中は遊ぶ暇はないと思うぞ……
「タマ、寝袋って必要なのか……」
「これは最高品質の寝袋だぞ。今はもう手に入らない海外のアウトドアメーカーの最高級品だ!体力が一瞬にして回復するぞ」
「タマ、そんな大事なモノが私たちの血で染まってもいいのか」
「げげ!それは勘弁だ~」
タマは横になれるスペースを作っていた。私たちは多かれ少なかれ怪我をするだろう。タマの宝物を汚すのはさすがに気が引ける。私がそのことを確認すると、すぐに撤去していた。
とりあえず保健室のベッドを移動してこようか。
「この射角なら大丈夫かな」
杏は、射撃ポイントを綿密にチェックしていた。そのほかにも彼女は対バーテックスの戦闘行動なども策定しており、一番忙しそうにしていた。私や若葉などの他のメンバーとも相談しながら、作戦を練っていた。
数日かけて丸亀城は、戦闘用の城へと変わっていった。
「千景が妙にミリオタっぽかったのはゲームの影響だったのか」
「ミリオタではないわ。ちょっと興味があるだけよ」
『敵潜水艦を発見』
無機質なアナウンスがスピーカーから発せられる。
「あぁぁぁ、こいつらゴキブリみたいに湧いてくる……」
「ふふふ、これがこのゲームの面白いところよ」
「ゲームバランスが崩壊している……」
「あなたもまだまだクソゲーマスターを名乗るには早いわね」
「私はそんな称号を名乗った覚えはない……」
私は千景と共に名クソゲーをプレイしていた。先ほどまで千景は、若葉と名作ゲームの協力プレイをしており、二人の雰囲気は和気藹々としていた。
何この差……
その後も二人で舌をかみ切りたくなるようなゲームをプレイしていた。
「なあ、千景は『勇者』になってよかったか?」
「愚問ね。当たり前よ」
「そうか」
千景の戦う理由は私にはわからない。だけど、彼女は戦闘に対して積極的だ。だからこそ、若葉のように一人で突っ走ってしまう可能性があるかもしれない。
「私は乃木さんのように一人では戦わないわよ。そこまで自惚れてはいないわ。高嶋さん、それに乃木さん、悠岐さん、伊予島さん、土居さんの5人と協力しないと、バーテックスは倒せないわ」
その気持ちを察したのかどうかはわからないが、一人で戦うつもりはないと宣言した。
「そうか……なら安心だ」
結局クリアはできなかった。私の精神の方が持たなかったからだ。千景は何度も攻略しているらしい。
もうプロだよね、彼女は……
千景とゲームを行った翌日、ひなたと千尋が英気を養うために、食事を振舞ってくれた。
「できましたよ~」
丸亀城の食堂には勇者6人が座っており、配膳される食事を楽しみにしていた。そして振舞われた料理はうどんであった。
「香川の名店の人に来ていただいて、作ってもらった最高級の一品です。召し上がってください」
「「「「「いただきます」」」」」」
6人が同時に湯気が立ち上るうどんをすする。
「こ、これは」
「美味しい」
「おいしすぎるぞ」
各々語彙力を失いながらうどんを啜る。人は本当に美味しいものを食べると無言になるらしい。私も別にうどんは嫌いでもないし、むしろ好きな方であるから喜んで食べた。
数分で全員汁の一滴も残さず食べ終わると、調理室から千尋が出てくる。
「悠岐、次の戦いは頑張ってね」
そう言って私の前に出されたのは、どんぶりに入った一杯のラーメンであった。しかもただの醤油ラーメンではない。徳島ラーメンでもない。私の一番の好物の京都ラーメンであった。
「こ、これはあの名店の……」
「そう、悠岐が大好きだったあの店を再現したラーメンだよ。流石に細かいところまでは再現できなかったけどね」
スープに浮かびあがるほどの背油と、柔らかい面は間違いなく京都のラーメンである。
「京都出身の人や、四国中のラーメン店の人達と協力してつくったんだよ」
「あ~千尋、愛しているぞ」
私はすぐに麺を啜り、スープを飲み干す。見た目はこってりしているのに、不思議と飲めてしまう。不思議な感覚に酔いしれることができるのがこのラーメンの特徴であった。
「3年ぶりの味だ……」
私の食べっぷりに影響されたのか他の勇者たちもラーメンを食べたいと千尋に注文する。これも想定していたのか、すぐに5杯分が用意され、全員食べることができた。
それぞれの感想は、
「前々から勧められていたが、いざ食べてみるとうまいな」と若葉
「見た目と違ってスープまで飲めてしまいます」と杏
「ご飯と合わせて食べてもうまいかもな」とタマ
「おいしいわ。でもかなり健康に悪そうね……」と千景
「でもまた食べたいね」と友奈
と呟いており、高評価のようだった。
今までうどんばかり布教されてきたから、これからはラーメンの反撃の時が来たのかもしれない。
こうして楽しい食事の時間が過ぎていった。
夜、『勇者』6人と『巫女』2人が若葉の部屋に集まっていた。
決起集会を行いたいことのことで、若葉が全員を集めたのである。
「壁の外で警戒をしている防衛隊の人から先ほど情報が入った」
一応全員のスマホにも共有されていることだが、若葉が再確認を行っていた。
「バーテックスが瀬戸大橋付近で集結中とのことだ。おそらく早くて明日、遅くても明後日までには四国へと侵攻してくるだろう」
「敵の数は数えきれないらしい。だが、明らかに前回よりも多いことはたしかだ」
「次の戦いは長く、苦しいものになる」
精霊の力も利用しないといけないだろう。そうなれば肉体、精神へのダメージは大きくなるだろう。
「前回、私は自分の力を過信しすぎていた。そして、みんなの力を信用、信頼できていなかった」
「この通りだ、すまなかった」
若葉がそういって私たちに頭を下げてきた。
「だから、次の戦いではみんなで戦いたいと思う。そして、誰一人として欠けることなく教室に戻ってこれるようにしたい。そのために、私はリーダーとして、『勇者』としての義務を全うするつもりだ」
「だから、みんなも協力してほしい」
私たちの回答は当然
「「「「「当たり前だ(です)」」」」」
‘Yes’だ。
こうして私たちは戦いへの士気を高めるのであった。
翌日の朝、戦いが近いので日課のトレーニングは休みにしていたが、早起きが習慣になっていたこともあり、私は朝早くに起床してしまった。
二度寝するのも面倒なので、軽く散歩がてら外の空気を吸いに行く。
外に出ると、冷たい風が身体を震わせた。
「寒い……やっぱりやめようかな」
予想以上に寒かったので、部屋に戻ろうとすると、隣の部屋のドアが開く。
「悠岐、おはよう」
「千尋?おはよう……」
「どうせ悠岐のことだから、朝起きて散歩でも行くかと思ってね。早起きしていたんだよ」
「わかりやすいなあ、私は」
二人で散歩をすることになった。
朝早くの丸亀の町は静かであった。
「悠岐、『約束』、覚えてる?」
「忘れるわけないよ」
「そう……」
「誰も死なせない。絶対に生きて帰るから」
「お願いね……必ず帰って来てね」
「ああ……」
散歩を終えると、すでに太陽も登り、朝食の時間になっていた。着替えをするために一度自分の部屋に入る。
その時、私はふと思ってしまった。
「別にこの戦いが最後ってわけではないんだよね……」
勝手に私たちはこの戦いが最終決戦のように思いこんでいる。だけど、この戦いはあくまで防衛戦のようなものである。まだ、敵の本拠地も叩けていない。あくまで防衛をしているだけなのだ。
だけど、戦って戦って戦い続ければ、いつか敵の親玉が出てくるはずだ。
「その時まで死ぬわけにはいかない」
そう、死ぬわけにはいかないんだ。
丸亀城は要塞化されています。
次話から原作上巻の山場に突入です。