空を埋め尽くす無数の星々
星の数はまさに無限。
星のいくつかは重なり合い、より輝きを増していく。
それらは流星のように墜ち、大地を破壊する。
千尋とひなたが神樹様から授かった神託の内容である。
『星』は、星屑のことである。
無数の星屑と進化体のバーテックスが四国へと襲い掛かってくることを知らせる内容であった。
この神託を授かってからは、忙しかった。決戦に備え、様々な準備を行った。『勇者』も『巫女』も『大社』も『四国防衛隊』も、すべてが総動員(二重言葉)されたのであった。
そして神託を受けてから十日ほどで決戦の日は訪れた……
2019年2月下旬
決戦の日は、2月も終わりに近い日であった。四国で暮らしている人間のほとんどは、平穏な日常を過ごしていた。
そんな中、最大級の警戒を行っている組織があった。一つは『大社』である。そしてもう一つは『四国防衛隊』であった。
瀬戸大橋は明石海峡大橋と違って、いくつかの島を経由して本土へとつながっている。四国を守る結界は岩黒島という小さな島の中央を分断する形で貼られていた。瀬戸大橋そのものは岡山県側の入り口付近まで結界に守られているため、瀬戸大橋からからであれば壁の、結界の外を観測することが可能であった。
通常ならば、壁の外では沿岸警備隊などが警戒を行っている。しかし、バーテックスの集結に危険を感じたため、壁の外での警戒を行っておらず、結界が守られている瀬戸大橋からのみ観測を行っていた。
「敵の様子は?」
「相変わらず気持ち悪いぐらいいますね」
「これが四国に来るのか……」
数名の職員が壁の外を映す映像を監視していた。モニターには大量の星屑が蠢いている様子が映し出されており、見ているだけでも気分が悪くなる映像であった。
「『勇者』が心配だな……」
「先輩は『勇者』様にあったことがあるんですか?」
「一度な。本部にいったときに食堂で飯を食っていたよ」
先輩と呼ばれた男は、善通寺の本部に行った際に偶然、防衛隊に所属している『勇者』の山田悠岐を見たことがあった。
「どんな人でした?」
「普通の女の子だったよ。眼鏡を掛けていて。図書館とかで本を読んでいそうな感じの娘だったな」
「へ~。もっとゴリラみたいな人だと思っていました」
「乃木若葉や土居球子を見ていたらそんな発想は生まれないと思うが……」
乃木若葉といった『大社』に所属している勇者のことは、監視所にいる全員が知っている。それどころか、四国中の人間が知っているだろう。臨時政府の首班の名前はわからなくても、『勇者』の名前はわかるという人が今の四国では当たり前のように存在する。
暫く監視を続けていると、水島灘方面に集結していたバーテックスの集団が一斉に壁の方へと進み始めた。海と空を覆いつくすほどの大群が四国へと侵攻を開始したのである。
「おいおい、来やがったぞ」
「本部に連絡だ。敵の数は不明。白が九分に、空が一分!白が九分に空が一分だ!」
一応、全監視所の映像は本部でも確認できるが、万が一の可能性もあるため報告は怠らないようにする。
「頼んだぞ、『勇者』……」
バーテックス襲来の一報を受け、防衛隊の本部は慌ただしくなっていた。
「瀬戸大橋観測所から報告です。バーテックスの侵攻を確認しました」
「すぐに情報を大社と共有しろ。すぐに勇者たちに連絡を」
「了解です」
指令室のモニターには白い塊が壁に向けてゆっくりと進んでいる様子が見て取れた。
数分後、部屋に耳障りな音が響き渡る。モニターには『樹海化警報』の文字が映し出された。
「山田司令、樹海化警報が発令されました」
「そうか」
この司令室を監督する山田裕紀はこれから始まる戦いに身を投じる娘の身を案じていた。樹海化が始まれば、勇者以外は一切の干渉ができなくなる。戦いの結果は樹海化が解けた後にしかわからないのである。
(生きて、帰ってこい)
丸亀城では、いつバーテックスが襲来してもいいように最大級の警戒を行っていた。バーテックスの襲来はそんな警戒のなか始まった。
丸亀城内にサイレンが鳴り響いたとき、悠岐達は準備した部屋で待機していた。
「来たか……」
「敵の数は不明。白が九分に、空が一分か、実にわかりやすい表現ね」
若葉と千景がスマホに表示された敵の情報を見ていた。
「さて、行こうか」
悠岐が全員に呼びかけた瞬間、樹海化警報が鳴り響いた。
ここにして、西暦時代の人類とバーテックスとの戦争において「丸亀城の戦い」と呼ばれる激戦が始まったのであった。
樹海化が終わると、見慣れた世界が広がっていた。しかし、瀬戸内海の方を見ると空が真っ白に染まっていた。
「天の光はすべて敵か……いい得て妙だな」
「すさまじい数だな」
スマホのアプリには敵影が映し出されているが、敵が多すぎて表示することができなかった。
前回の数倍という規模ではなかった。少なく見積もっても6桁の敵がいると推測できた。
若葉と悠岐も大規模な襲撃が来るとわかっていたが、想像を絶する量の敵影を見て眉間にしわを寄せながら嘆いていた。
リーダー格の二人が険しい顔をしているとチームのまとめ役の友奈が元気な声をかけてくる。
「二人とも、険しい顔をしているよ。諦めたら試合終了だよ」
「そうだな、まだ戦いは始まっていないものな」
悠岐と若葉が頷く。
友奈の音頭で勇者6名が円陣を組む。組み終わると、若葉が話し始める。
「よし、みんな聞いてくれ。これから私たちは四国を守るために戦う。おそらく辛い戦いになるだろう。だが、みんなで戦おう」
私たちは戦友だ
言うなれば運命共同体だ
互いに頼り 互いに庇い合い、互いに助け合う
一人が六人の為に 六人が一人の為に
「さあ、武器をとれ!戦いの始まりだ!」
「「「「「オーーーーッ!!」」」」」
勇者たち6人の声が重なる。
決戦は始まった。
白い塊の軍勢、星屑の数が多すぎて遠目からはそのように見えるだけだが、その集団の中には進化体も混じっていた。
「12時の方向、「矢」型2体、「シールド」型2体確認!突出してきます」
杏のクロスボウの先には4体の進化体が悠々と丸亀城へと進んでいる姿が見えていた。
「私と悠岐さん、友奈と千景で迎撃に当たる。「矢」型を倒し終わったらシールド型はいったん放置する。千景と友奈も退避してくれ」
「「「了解」」」
「球子と杏は各人の判断で援護、防衛を行ってくれ」
「「了解」」
若葉が想定した作戦通りの指示を5人に与える。
「みんな、行くぞ!」
若葉と悠岐、友奈、千景の近接戦闘の能力の高い組が城から飛び出し、一気にバーテックスの下へと向かった。
途中、進化体から放たれた猛烈な弾幕に行き足が止まりかけるが、杏の正確な射撃で、4人に当たる直撃弾だけがビリヤードの如く弾かれていった。
「ひなたーっ!」
「桜花ー!」
悠岐と若葉が加速し、神速の抜刀を一体の「矢」型の進化体に叩き込んだ。
「勇者~パーンチ!!」
「彼岸に送ろう……落命死葬!」
友奈の手甲の一撃と千景の大鎌の一撃が別の「矢」型の進化体に叩き込まれた。
悠岐と若葉の攻撃で傷がついた進化体に、追撃の一撃として杏の金色の矢が降り注いだ。もう一体にも球子の旋刃盤が命中し、4人の勇者によってつけられた傷をさらに深めた。
「もう一回行くぞ」
「了解!」
再生する暇を与えず、追加の攻撃を4人の勇者が行い、そこに杏と球子が援護を行った。その結果、進化体は連続攻撃に耐えきれず粉々になって消滅した。
「それじゃあ私たちは一旦お城に戻るね」
「あとは任せたわよ」
遠距離攻撃が可能な進化体を倒したため、友奈・千景チームは一旦城へと退避することになった。
「任せてくれ」
「私たちが戻るまでに体力を回復させておいて」
二人が後方に下がっていくのを見ながら、正面の敵を見つめる。この間にも杏は次々と狙撃で星屑を撃墜していた。
二人は息を合わせ、城に迫る星屑の群れへと突入した。
本丸である城では、2人の勇者が城に近づく星屑を迎撃していた。
「タマっち先輩、3時の方向から敵が接近中です。迎撃を」
「わかったぞ!いっけーー」
指定された方向に旋刃盤を投げ、前線の二人を突破してきた星屑を屠る。
杏は、城に近づく星屑を迎撃しつつ若葉や悠岐を狙撃で援護していた。前線の二人は白い壁のような星屑のから突出してくる星屑の集団の中で暴れまわっており、彼女たちの隙を突こうとしていた星屑を狙撃で倒していた。
杏はこの戦いで、戦闘の推移や敵の動きの観測、前線の勇者の援護、城の防衛と非常に仕事が多かった。しかし、勇者の力で強化された思考能力や演算能力によって対処していた。
戦いが始まって半時ほどが経つと、前線の二人に疲労感が見られ始めた。
何とか事前に策定した防衛ラインの死守には成功していたが、あまりに数が多すぎたため、数が減っているようには見えなかった。
(全体的に侵攻スピードがゆっくり過ぎます。何かあるのかも……)
これだけの物量ならば四国中に星屑を展開することも可能であるが、バーテックスの主軍団は相変わらず瀬戸大橋~丸亀付近で停止していた。
杏は何が起きているのか、バーテックスの狙いを探っていた。
しかし、四国へと上陸する星屑の数が多く、『勇者』たちの迎撃をすり抜けた一部のバーテックスはすでに丸亀以外の方面にも侵攻を開始していた。
彼らが暴れまわれば、現実世界でのフィードバックが恐ろしいことになる可能性もあった。
「千景、友奈、任せたぞ」
「高嶋友奈、任されました!」
「乃木さん、悠岐さん、あとは任せてもらうわ」
交代した二人が城に迫りくる星屑の集団の中に突入していった。二人は城に近づく星屑を倒しつつ、丸亀以外の方面に向かう星屑を迎撃していた。
高松方面に向かう星屑も、愛媛方面に向かう星屑も、城の方に向かう星屑も迎撃しないといけないため、勇者にかかる負担が大きくなってしまうが、神樹様へのダメージを考慮すると無視することはできなかった。
千景たちが前線で奮戦している間、若葉と悠岐は城で体力を回復させていた。
「杏、やはりおかしいと思わないか?敵が本気で攻撃していないように思えるのだが」
若葉が敵の行動を訝しみ、後方から戦闘の推移を確認している杏に実際に戦っていて感じたことを話した。
「私も同様のことを考えていました」
「この城は強化されていますが、数万の星屑の攻撃には耐えられません。ですがバーテックスはすべての戦力で攻撃を仕掛けず、ずっと奥で固まっています」
杏の指をさす方向には白い壁のように密集した星屑が存在していた。
若葉も精霊の力をあの白い塊に対して使おうか悩んでいた。バーテックスがどのような攻撃を行ってくるかわからない状況では、切り札をやすやすとは使えないのが実情であった。
「恐らくですが、バーテックスは『精霊』の力を恐れています。あの力を使った場合、一人の勇者でおおよそ数千単位で星屑は倒せます」
「不用意に戦力を投入せず、あの白い壁の中で何かを行っているのではないかと考えます」
冷静な分析を行いつつも、援護射撃を行う杏であった。彼女は、前線の二人がピンチでないときは、用意した銃座の上にクロスボウを乗せ、重機関銃のように敵に向けて金色の矢を発射していた。
「どんだけ数がいるんだよ~」
「数えない方がいいよ。死にたくなってくるから」
球子と悠岐は、千景たちが戦っているさらに奥を見る。そこには積乱雲のように密集した星屑の集団が見える。
「十中八九進化しているだろうな」
若葉の言葉に城にいる全員が頷く。
「進化なら外でやればいいと思うんだけどな」
球子が疑問をぶつけてくる。
「いきなり進化体で突入して、精霊の力を使われて殲滅されたら困るからなのでは?」
「進化体一体つくるのに、相当数の星屑が必要だしな……」
正直なところ、バーテックスの考えなんて理解できないが、彼らに知性があることは確認されている。知性といっても人間のようなものではなく、戦闘用のプログラムのような無機質な知性ではあるが。
「なら今から精霊の力で殲滅してしまうか」
「う~ん、それはやめた方がいいと思うぞ」
「タマっち先輩に賛成です。あれだけの星屑を倒すだけでみんな消耗してしまいます。その後に進化体が現れた場合、対処できなくなります」
杏の意見が正しいと感じたのか、若葉も不用意に切り札の使用しないようにする。
「消耗戦でこちらが不利なんてわかりきっている。なるべく疲労や怪我をしないように戦う必要があるな」
若葉の言葉通り、雑魚の星屑たちで勇者を消耗させ、疲労したところを一気に進化体で攻撃してくる可能性があった。そのため精霊の力を使うまでは、なるべく消耗しないように戦う必要があった。
しかし、勇者を消耗させるための捨て駒といっても、1万程度の星屑が丸亀城へと迫っていた。
勇者6人に対しては無数ともいえる数である。
「悠岐さん、星屑が融合して進化体が生まれるんですよね」
「そうだね。基本的に数十~数百が融合して進化体は生まれるね」
「なら、進化体を大量に誕生させて、そこを精霊の力で一気に殲滅するのはどうでしょう?」
「いくら進化体を造るのに星屑を大量に使用するといっても、あれだけ星屑がいたら融合して減る数なんてたかがしれているでしょう……」
「それもそうですね。となると普通に数万の敵相手に消耗戦をする必要があるのか……」
「もともとそのつもりで準備してきたし、仕方がない。樹海が破壊されて、現実世界にダメージがフィードバックされるかもしれないけど、四国を守るための仕方がない犠牲だと割り切るしかない」
若葉と悠岐が、戦いが当初の予定通り、長丁場になりそうだと考えていた。
ムリをして勇者が戦闘不能になれば、神樹様にとっては大ダメージである。それならば、多少の犠牲を払ってでも、勇者の損耗を防ぐことの方が重要である。
小を切り捨てる覚悟が必要であった。
暫くすると、前線で戦っていた二人に疲労の色が見え始めたため、若葉達と交代することになった。
「千景、友奈。今回は、ほぼ100パーセント全員が精霊の力を使う。準備しておいてくれ」
「あと、作戦は‘ガンガン行こうぜ’から‘体力温存’に変更する」
若葉の言葉に二人は無言でうなずくと、城に戻っていった。
「さて、あとはバーテックスの様子を見ながら戦うしかないかな。
悠岐と若葉の二人は再び星屑の軍団に突撃は行わず、城へ向かう星屑に重点的に殲滅していった。
数時間にわたり、星屑の先兵との攻防が繰り返され、6人の勇者の顔に疲労が見られ始めたとき、星屑の集団に動きが見られた。
「皆さん!前方の集団に注意してください」
いち早く動きに気づいた杏が全員に指示を送る。
白い塊から、星屑たちを押しのけて巨大なバーテックスが次々と出現したのである。
「進化体出現しました!」
杏の支持する方向から、進化体の軍勢が迫りつつあった。「矢」型が4体、「シールド」型が4体を視認していた。
倒すための戦力が足らなかったため、放置していた最初の進化体(「シールド」型)を含めれば、合計10体の進化体が出現したのである。
4体の「矢」型は、前線で戦っている悠岐と若葉を攻撃しつつ、杏達がいる城の方にも無数の「矢」を発射し始めた。6人の身動きが取れない間に、6体の「シールド」型は、城の周りを囲むように動いていた。
「不味い、包囲されたぞ」
「この弾幕じゃあ攻撃なんて不可能だ」
若葉と悠岐は、樹海化を免れていた建築物にあらかじめ設置してあった使い捨て装甲板に隠れながら、敵が包囲網を完成させていく様子を見ていた。
「こちら悠岐、杏、応答せよ」
『杏です。私たちも弾幕で動けません……』
スマホを利用して、杏と通信を行う。『大社』の必死の努力によって、今回の戦いからスマホを介した樹海内の通信が可能となっていた。
4体の「矢」型の進化体から放たれた無数の「矢」は、6体の「シールド」型の反射を利用することで、四方八方からの攻撃が可能となっていた。
この状況を打開すべく、球子が精霊の力を使うと宣言した。
『タマに任せたタマえ!』
『タマの精霊の力であいつらを蹴散らすぞ』
球子の輪入道の力ならば広範囲の敵を蹴散らすことが可能である。しかし切り札をここで利用していいものかと悠岐は悩んでいた。
「球子、精霊の力を使ってくれ。今がその時だ」
「若葉、いいのか?」
「今使わないでいつ使う。このままだとじり貧だ。城もこの盾ももう持たないだろう……」
『いいんだな?タマの活躍を刮目しタマえ!』
「ああ、頼むぞ球子!」
球子は神樹様の概念記憶にアクセスし、一体の精霊を顕現させる。1月の戦いでも世話になった『輪入道』である。
普段はそこまで大きいわけではない旋刃盤が、球子の体躯をはるかに上回る大きさまで大きくなる。
「いくぞ、タマの魂を受け取りやがれ!!」
最終的に自分の身長の10倍以上の大きさになった旋刃盤を、球子は、全身を使ってバーテックスに向けて放った。
炎を纏いながら高速で回転して飛んでいく旋刃盤は、4体の「矢」を発射する進化体を切り裂くと、ズタズタに引き裂いた。旋刃盤は、近くで蠢いていた星屑を巻き込みながら意志を持ったかのように回転と移動を続けていた。「シールド」型の進化体に命中すると、高い防御力を有するシールドを突き破り、バラバラに切断してしまった。高速で回転する巨大な旋刃盤は丸亀城の周りで暴れまわっていたが、球子の操作によって、そのまま城から離れ、高松方面や愛媛方面に侵攻していた星屑の別動隊を焼き払い、切り刻んだ。
一人で10体の進化体と、数千の星屑を殲滅した球子であったが、精霊の力を全力で、長時間使用したフィードバックは確実に彼女の身体を蝕んでいた。
「ッ!」
口から吐血をすると共に、崩れ落ちるように地面に膝をついた。
「タマっち先輩!」
「タマちゃん!?」
「土居さん、大丈夫?」
近くで球子に近づく撃ち漏らしの星屑を迎撃していた3人の勇者が球子に駆け寄る。
「大丈夫だ!あんずも友奈も千景も戦いに集中してくれ」
「でも……」
「タマの根性をなめるな!!」
『悪いお知らせだ、進化体の追加が来たぞ』
『「角」型が数十体、「ムカデ」型も数十体、それに、あれは……蛇か?』
『それに「矢」型も確認できる。本気でこちらを叩き潰しに来たぞ!』
城から離れた場所にいた二人の勇者が、新しいバーテックスの侵攻を全員に知らせる。
二人の視線の先には見たこともないほど数で構成された進化体の集団であった。
見慣れた「矢」型の進化体バーテックス、明石海峡で苦戦させられた「角」型、「ムカデ」型、それに巨大な蛇のような体躯を持つ進化体が空を飛んで城へと迫ってきた。
その圧倒的ともいえる軍勢の近くには、無数の星屑が護衛のようにまとわりついていた。
「皆さん、進化体の後ろのあれを……」
杏が指示した方向を見ると、今まで白い壁に覆われていた中身が徐々にあらわになる。
「あれは……バーテックスなの?」
数千以上の、無数の星屑が融合し、超巨大な進化体が誕生をしようとしている光景であった。
「超大型の進化体です。あれが本当の切り札です!」
杏の言葉通り超巨大な進化体は、バーテックス側の最終兵器であった。
「満を超える星屑、百を超える進化体、そして超巨大な進化体……」
「あんなのどうやって倒すのよ……」
杏と千景が声を震わせながらつぶやく。今まで見たこともない巨大な敵に二人は怯んでいた。
「さすがの、タマも、あれは無理だ……」
巨大化した旋刃盤を操作して、星屑を掃討していた球子も息を絶え絶えにしながら圧倒的な敵の軍勢を見ていた。
「……諦めたら終わりだよ」
「みんな、力をあわせて戦おう!」
「私たちは四国の運命を背負っている。だからあきらめちゃだめだよ」
「みんなで勝とうよ!」
「勝って元気で教室で顔を合わそうって言ったよ!だから、勇気をもって戦おう。私たちなら勝てるよ!」
友奈が怯んでいた勇者たちを鼓舞する。彼女はどんな状況になっても絶対にあきらめない強靭な精神力と、果てしない勇気の持ち主であった。
『友奈の言うとおりだ。まだ私たちには切り札が残っている』
若葉が精霊の力の事を全員に伝える。
『あの進化体はまだ完成していない』
奥の方で存在感を放っていた超巨大進化体は、いまだに融合を続けている最中であった。ところどころにもろい部分や未完成の部分が存在していた。
攻撃が止んだ隙に、城に戻ってきた若葉がスマホ片手に天守閣の上に立っていた。その隣には悠岐も並んでいた。
その後ろには友奈に肩を貸されながら立っている球子が、肩を貸している友奈、その隣で大鎌を構えている千景、クロスボウを持った杏がいた。
「おかえりなさい、リーダー。それでどうするの?」
「あれを電撃的に叩く。最優先はあの大きな進化体だ」
千景に若葉がこれからの方針を説明する。
「あれを完成させるためにかなりの星屑を使ったみたいだな。何万もの雑魚を相手取る手間が省けた」
「この人、この状況をチャンスとか言っているぞ」
「さすが戦闘民族……」
若葉がにやりと笑いながら超巨大な進化体を見つめていた。その顔に球子と千景が引いていた。
「さすがにあそこまで行くのは骨が折れそうだ」
目標の前には少なくなっとはいえ、大量の星屑と進化体が進路をふさいでいた。
「それなら、タマの武器の上に乗っていけばいいぞ」
球子の巨大な旋刃盤の上に乗れば一気に目標に行けると考えた球子が旋刃盤を天守閣の近くに寄せてくる。
「他の進化体はどうしましょう」
杏が若葉に疑問をぶつける。進化体は他にも大量に存在する。
「私と悠岐さん、友奈、千景が超大型へ攻撃を加える。球子は、私たちが降りたらそのまま他の進化体へ攻撃を加えてくれ。杏は進化体を狙撃で仕留めてくれ」
「若葉さん、何気に難しいことを言いますね……」
「すまない。特に球子と杏には負担を強いてしまって」
若葉が二人に頭を下げる。
「タマが頑張ればそれだけ敵を倒せるんだろ?だったら頑張るだけだ」
「私の力で皆さんが守れるなら、なんだってできます」
「そうか、頼んだぞ……」
「お話はここまでのようね。そろそろ敵が来るわ」
「そうだな、勇者よ、私に続け!」
若葉の掛け声と共に、全員が球子の旋刃盤の上に乗りこむ。
6人の視界には無数の星屑、100を超える進化体、そして超大型の進化体が見えていた。
「最後の戦いだ、気合い入れるぞ!」
「「「「「オーーーッ!!」」」」」
6人の勇者を乗せた旋刃盤は高速で敵に突っ込んでいった。
あとがき
原作でもバーテックス側の戦術なんてわからないので、本作のバーテックスの襲来パターンもすべて適当です。
ちょっと数を多すぎてしまったかもしれませんが……まあ、こっちの勇者も強いので何とかなるでしょう。
今までは、『精霊』は使用しても短時間だったりするので、そこまで身体に悪影響は及ぼしていませんでした。しかし、ここからは長時間使う機会が増えます。さらに最上級レベルの精霊も利用していきます。
その分フィードバックも……
本文では登場しませんでしたが、悠岐以外の全員が戦闘糧食としてうどんをしっかり食べています。
勇者なら当然だね。仕方ないね。