勇者の記録   作:永谷河

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帰還

2019年5月中旬

 

二人の巫女に下った神託の内容は、バーテックスの侵攻が再開されるという内容であった。

そのため、勇者たちは、急遽遠征を取りやめて四国へと帰還したのであった。

帰還後は『大社』へ今回の遠征の報告を行うなど、多忙な日々を過ごしていた。

 

帰還後、『大社』は勇者たちの遠征の結果を四国中に報道していた。

 

「な~にが‘諏訪地区は無事’だよ。胸糞悪い」

 

「『大本営発表』ってやつだよ。私たちは70年前と何一つ変わっていないね。」

 

球子はうどんがまずくなると言いながらテレビのニュースを見ていた。悠岐も70年前に日本が行った情報統制と同じやり方だと思った。情報統制は必要であると悠岐は考えていたが、無理やりにでも明るいニュースを報道しないと四国の人々に希望を与えられないレベルまで達していることに危機感を覚えていた。

 

(もし私たちが敗北したら、四国は恐慌状態に陥るだろうな。そしてその結末は……)

 

人間同士で争った場合の末路は、今回行った遠征で見ていた。

 

「ご馳走様」

 

遠征後で一番変わった勇者は郡千景であった。ツンツンしているところは変わっていないが、話しかけにくいオーラが出ていることに気づいている人は気づいていた。

 

「ごちそうさん!」

 

球子が汁を飲み干すと同時に立ち上がり、食器を片付ける。

 

「あんず、少し急いだほうがいいぞ」

 

「タマっち先輩。一応午後の授業は休むのでそこまで急ぐ必要はないですよ」

 

「あれ?そうだったっけ?」

 

「もう、ちゃんと人の話を聞いてください」

 

二人は午後の授業を休んで病院に行くと言っていた。2月の戦いのダメージを調査するためである。他の4人の勇者も病院で診察を受けていたのであった。検査結果は問題なしであった。

 

(たぶん二人も異常はないだろう)

 

それよりも悠岐が気がかりなのが千景であった。遠征後、詳しく言えば大阪を出たあたりから様子がおかしいように感じたのである。

 

(後で聞いてみるか……)

 

この時、千景の様子がおかしいと気づいていたのは悠岐だけではなかった。彼女の親友である友奈も彼女の異常に気付いていた。他にも勇者の状態を把握するように努めていたひなた、千尋の巫女コンビも気づいていた。

 

 

午後の授業の後、亀城の広場で、一人の少女が大鎌を振っていた。

勇者の郡千景であった。彼女が訓練をしていると、後ろから赤い髪がトレードマークの高嶋友奈が静かに近づいていた。

 

「ぐんちゃん!だ~れだ」

 

友奈は千景の眼を手でかくし、ベタなことをやっていた。

 

「高嶋さん、私を騙したいのであれば、せめて私の呼び方を変えるくらいの努力はして……」

 

「あっ、忘れてた……」

 

「もう……」

 

二人がいちゃついていると、城の角から二本の缶ジュースを持った悠岐が現れた。

 

「千景、一緒に一杯どうだ?って友奈?」

 

「あれ、悠岐先輩?」

 

突然の悠岐の登場に二人が困惑していると、城の入り口から二人の少女が出てきた。

 

「千景ちゃ~ん、ちょっとお話ししよう」

 

「千景さん。少しお時間よろしいでしょうか?」

 

千尋とひなたの巫女コンビであった。

 

「千尋にひなた?何でここに?」

 

「千尋さんにヒナちゃん?悠岐さんが呼んだんですか?」

 

「私は呼んでいないぞ?」

 

「私たちも千景さんに御用があってきたのですが……」

 

友奈、悠岐、千尋とひなたの目的は不明だったが、一つ共通点があった。

 

「もしかして私に用?」

 

「「「「うん(はい)」」」」

 

「……ここだと長話はできないし、場所を移しましょう」

 

「でしたら喫茶店はいかがですか?」

 

ひなたが提案する。勇者たちにとって喫茶店とは、丸亀場内に設置された職員専用の店である。夜にはバーになるらしく、大社の職員がよく利用している店であった。

 

「いいね。どうせなら貸し切りにしよう」

 

「私も賛成かな、ぐんちゃんは?」

 

「まあ、別に構わないわ」

 

千尋も友奈、千景も賛成のようである。

 

「そういえば若葉はどうする?」

 

「若葉ちゃんは少し所用があるみたいで、今は城にいません。残念ですが……」

 

球子と杏は病院から帰っていないので誘うことはできない。ならば若葉と思ったが彼女は別件で用があるようだった。どうも『大社』に遠征の事でいろいろと聞かれているらしい。

 

5人は喫茶店に移り相談会という名の女子会が始まった。

ひなたは緑茶、千尋はコーヒー、友奈はコーラを注文していた。

 

「ぐんちゃんと悠岐先輩はどうします?」

 

「ああ、私たちはこれを飲むぞ」

 

「そうね。だいたい二人で遊ぶときはこれを飲むわね」

 

そういって二人のコップに注がれたのは黒っぽい液体であった。

 

「「ドクターペッパーだ」」

 

二人の愛用の飲み物である。何とも言えない味と微妙な知名度が特徴の清涼飲料水であるが、悠岐は普通に好きで京都にいる頃から買い置きして飲んでいた。千景は、厨二病をこじらせていた時に愛飲していたらしく、今でもその時の名残で飲んでいる。

 

「へ~コーラっぽいけど違うんだね。ぐんちゃん、もらっていい?」

 

「いいわよ。高嶋さんも好きになれるはずよ」

 

友奈はそう言い、コップに注ぎきれなかった缶の残りを味見する。

 

「う~ん、微妙な味……」

 

渋い顔をして、自分の注文したコーラを飲み干す。千尋も悠岐に飲まされた経験があるのか、友奈に「美味しくないよね~」とひどいことをいう。

 

「まあ、万人受けするものではないからな……」

 

5人がコップの飲み物を半分ほど飲み、世間話で場を暖まったため、悠岐たちは本題に入ることにした。

 

「それで、何があったんだ?」

 

「え?それって……」

 

「『大社』の人間にはわからないだろうけど、私たちには隠せてないぞ……」

 

悠岐は、千景に火の玉ストレートの如く、単刀直入に彼女の様子がおかしくなっている原因を聞いた。

 

「千景さんの様子が遠征から帰って来てから少し変わったことです」

 

「正確に言うと、大阪を出たあたりからだけどな」

 

「それは……」

 

ひなたと悠岐が千景に不調の原因を聞いていた。

 

「個人的なことよ。高嶋さん達に迷惑は掛けれないわ」

 

「ぐんちゃん……」

 

(しまったなあ……これは少し急過ぎた)

 

4人で相談に乗るという形は、場合によっては詰問ととらえてしまう可能性もあった。

 

「まあ何かあったら個別で相談してくれ。ひなた、千尋行くぞ」

 

「え?でも……」

 

「そうですね。私たちはお暇しましょう」

 

悠岐とひなたが千尋を連れて喫茶店から出ていく。その時、一枚の紙を千景にわからないように友奈のポケットに入れていた。

 

「千景ちゃん、大丈夫なの?」

 

「千景は基本的に友奈にしか心を開いていない。それなのに4人で一気に話しかけたら逆に心の扉は閉まられてしまうよ」

 

「そうですね。ここは千景さんは一番信頼している友奈さんに任せるべきですね」

 

「残念だけど、私たちは彼女の信頼を心から得れていないらしいな」

 

悠岐が千景とよく交流をしていた理由の一つに、彼女の信頼を勝ち取るためであった。1年ほどかけてゲームをしたり、世間話をする程度には仲良くなったが、心の悩みを打ち明けるほどの信頼を得ることはできなかった。もちろん悠岐は千景を可愛い後輩だと思っており、100パーセント打算的な気持ちであったわけではない。

 

(まあ、友奈に打算的な感情はないからな)

 

悠岐は千景の複雑な事情を知っている。そのため、千景は悠岐の持ってしまう同情心を敏感に感じ取っているのかもしれない。

悠岐はどうしても千景を庇護の対象として見てしまっているのである。

 

 

千景の親友である友奈は、彼女が苦しそうな顔をしているのを見るのが本当につらかった。

 

「ぐんちゃん。最近苦しそうな顔をする時があるけど、どうしたの?」

 

「高嶋さん……」

 

「大丈夫。私はぐんちゃんの味方だよ?」

 

友奈が震える千景の手の上に、自分の掌を乗せる。

 

「高嶋さん……私は怖い」

 

「怖い?」

 

「勇者の力があれば、何でもできると思っていた。名声も、評価も、愛情もなんでも手に入ると思っていた。だけどね、勇者でもどうにもならないことってあるのよ……」

「諏訪の勇者はバーテックスに殺された」

「私たちが2月にあんな思いをしながら戦ったのに、敵はもっと強力になって四国にやってくる」

「この戦いに終わりなんてないのよ!」

「私たちは戦い続ける。そう、死ぬまで……」

「高嶋さんだってそう思うでしょ?」

 

「それは……」

 

「私は嫌だ!死にたくない、殺されたくない。あんな惨めに死ぬのは嫌だよ……」

 

今まで貯めていたものがあふれ出たように泣き始める。

 

「うっ、あぁぁぁぁ……私は、私は……」

 

しゃくりあげながら涙をこぼし、「死にたくない」と呟き続けていた。

友奈はそんな千景の頭をなでながら、彼女が落ち着くのを待っていた。

暫くすると千景は落ち着き、呼吸も元に戻っていた。

 

「ぐんちゃん。私がぐんちゃんを守るよ」

 

「高嶋、さん?」

 

「もしぐんちゃんが怖いなら、戦わなくてもいい。私は、私たちはぐんちゃんを責めないよ」

 

「でも、私は高嶋さんを守るって決めたのに。それなのに死にたくないの。戦いが怖いの!」

 

「大丈夫。私がぐんちゃんを守るから。だから安心して」

 

「高嶋さんは怖くないの?」

 

「私だって怖いよ。でも誰かが、勇者のみんなが、ぐんちゃんが……。苦しんでいる顔を見ていたら恐怖なんて吹き飛んじゃうよ」

 

「高嶋さんは強いのね……」

 

「だから、安心して!絶対に守るから」

 

「信じていい?約束よ?」

 

「うん!じゃあ指切りね~!」

 

二人は指を合わせ、『約束』の儀式を行う。

 

「高嶋さん……」

 

「涙を拭いて。ぐんちゃんに泣き顔は似合わないよ」

 

友奈は千景の涙をハンカチで拭った。

 

 

夕焼けに染まる丸亀城の天守閣の頂上に悠岐は座っていた。

 

「せんぱ~い!」

 

「友奈。昼はいろいろありがとう」

 

「いえいえ~」

 

「ほら、飲むといいぞ」

 

悠岐が友奈に差し出したのはドクターペッパーであった。

友奈は笑顔でそれを受け取ると、プルタブを開けることなく、制服のポケットに入れた。

 

「それで、千景はどうだった」

 

「梅田の地下街のことや白鳥さんの事でかなりまいっちゃてるのかな?」

 

悠岐が友奈に渡した紙には、場所と時間がかかれていた。悠岐が、ここで今日の話の内容を聞きたかったからである。

千景の悩みは「死にたくない」という生存欲求に基づいた、きわめて人間らしい悩みであった。

 

「そうか……」

 

「うん」

 

「なら千景を守らないとな」

 

「約束したもんね。約束は守らなきゃ!」

 

二人は千景を守る同盟を結んだ。

 

 

(友奈に何かあったら千景は壊れてしまうだろう……そうならないためにも、私が友奈を守らなければ……)

 

悠岐は、千景の友奈への依存度が上がり、いつか破局を迎えてしまうことを危惧していた。

友奈はただでさえ、他人の為に自分を軽視しがちである。それが仲間の勇者の為になれば、命すらかけてしまう可能性がある。

 

「友奈と千景を守りながら戦わないとな。いや、若葉やタマ、杏もだ」

 

(それに千尋を残して私は死ねないしな)

 

そう考え、悠岐は夜のトレーニングに繰り出した。

 

 

バーテックスの襲来はすぐに訪れた。

 

 




千景はここで友奈と『約束』をしてしまいます。
さて、友奈がこのまま戦い続けたら……
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