勇者の記録   作:永谷河

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今回は説明回みたいなものです。


勇者と覚悟

2018年9月1日

 

諏訪との通信を行った翌日は9月1日。つまり新学期である。最近の学校では、もっと早くから新学期が始まったりするが、私たちの学校は9月1日からが学校のスタートである。

ただし私たち勇者に夏休みなど存在しないため、8月の間もお盆以外はほぼ毎日学校で補習と鍛錬を行っていた。社畜も真っ青である。

 

私は朝に日課のランニングを行ってから登校するため、いつも始業ギリギリで教室に入る。

教室に入ると、すでにほかの勇者や巫女たちは着席していた。

 

「悠岐さん、あと少ししたら遅刻です」

 

教室の一番前には金髪のポニーテールをなびかせた少女が座っていた。彼女の名前は乃木若葉。彼女は居合をやっており、顔つきも姿勢も言葉使いも凛とした少女である。素の部分は意外と可愛かったりする。14歳で中学二年生なので、私よりも二つ学年が下であるが、しっかりしている後輩である。一度共闘した事があり、使う武器が同じなので、私と結構相性が良かったりする。あとうどん好き

 

「朝の運動も素晴らしいことですが、無理は禁物です」

 

その隣には、優しそうな笑みを浮かべる黒髪の少女が座っていた。彼女の名前は上里ひなたである。優雅な立ち振る舞いと顔立ちも整っているので、和風お嬢様という言葉が似合う美少女である。若葉と同学年であるが、背丈は小さい。しかし、胸には立派な双子山を有している。若葉の幼馴染にして親友であり、二人の関係は微笑ましいが、彼女の若葉へ向ける目つきや行動が、友人のそれとは思えない時がある。彼女は勇者ではなく、巫女である。彼女もうどん好き。

 

「悠岐~!タマを見習って教室に一番乗りしてみたらどうだ~?」

 

教室の後ろに、私をいじる小柄な少女が座っていた。彼女の名前は土井球子である。身体の大きさは小柄だが、非常にパワフルである。アウトドアが趣味で、ロードバイクやキャンプ用品が彼女の家の中にはところ狭しと並べてある。男勝りな彼女であるが、髪を下すとものすごい美少女になるのは私の秘密にしておこう。本人が私にタマと呼べというので私は彼女をタマと呼んでいる。猫みたい。うどん好きである。

 

「悠岐先輩。おはようございます」

 

タマの隣には穏やかな声であいさつをするロングヘアーの少女が座っている。彼女の名前は伊予島杏である。彼女は中学一年生であるが、年齢は若葉たちと同じ14歳である。ひなたと同じく立派な双子山を有しており、よくタマの嫉妬の対象になっている。少し臆病な性格をしているが、読書家であり、非常に思慮深い一面があるため、割と脳筋が多い勇者メンバーの中では立派な参謀役を担ってくれそうである。あとタマと滅茶苦茶仲がいい。見ていて微笑ましい。うどんが大好き。

 

「悠岐先輩!おはようございます~。朝はお疲れ様です。私もぎりぎり到着でした~」

 

窓側の席で、元気いっぱいな声を上げる赤髪の少女が座っている。彼女の名前は、高嶋友奈である。彼女を表すなら天真爛漫にして人たらし、コミュ力の化物である。出会って数日で勇者メンバーや巫女たちと仲良くなれるコミュ力は才能としか思えない。話し上手でもあるが、聞き上手なのが彼女の慕われる要因なのかもしれない。見た目に反して、武道やスポーツが大好きなので、よく私と若葉と共に早朝ランニングに参加している。今日も一緒に走ったのだが、何故か彼女の方が先に学校についていた。なぜかうどんが好き。

 

「悠岐さん。遅刻は厳禁よ。年上なのだからね」

 

友奈の隣には、私に注意を促す美しい黒髪の少女が座っている。彼女の名前は郡千景である。クールな美少女であるが、ゲームがかなりうまい。野球ゲームでよく対戦するけど、歯が立たない。いろいろと事情が複雑であり、初めて会ったときはコミュ力化物の友奈以外に心を開いていなかったが、最近は他のメンバーにも心を開いてくれている。こう見えてうどん好き。

 

「やっはろ~!おそいよ悠岐。遅刻したら先生怒るよ~」

 

私の席の隣にはギャル風の少女が座っている。彼女の名前は秋山千尋である。京都からの私の友人であり、親友である。一見するとギャルでバカっぽく見えるが、おそらくこの教室内で一番頭がいい。見た目からは考えられないほど思慮深いこともあり、見た目とのギャップが激しい。私と同じ高校一年生であり、教室で一番の双子山を有している。彼女は勇者ではなく巫女であり、同じ巫女であるひなたとも仲がいい。最近はひなたに教わっているのか、最近耳かきの技術が上達している。もちろん私専用だが。小学5年生までは香川に住んでいたこともありうどん好き。

 

以上の5名の勇者と2名の巫女に私を加えた8名が丸亀城内の教室で授業を受けていた。

丸亀城というお城は、3年前までは観光名所として知られていた史跡であったが、現在は大社という組織が管轄する勇者育成機関となっている。とはいっても城の中を少しだけ改装した程度で、城としての外観は変わっていなかった。ただし、観光客は受け入れなくなったため、稀に観光に来た人が立ち入り禁止の文字を見て引き返していくのを見かける。

 

私が席に座ると授業を担当する先生が教室に入室し、午前中の授業が始まる。

若葉たちは中学生であり、義務教育の授業を受けているが悠岐と千尋は昨年中学校を卒業している。そのため、二人は中学生の数学や国語といった授業中は別室で高校生向けの授業を受けている。

新学期ということもあり、最初の授業は、バーテックス関連の授業であった。これは中学生組と同じ教室で受けることになっている。

授業内ではバーテックスについてや、現状の四国について復習が行われた。

 

西暦2015年7月30日。天の神と地の神が戦った結果、天の神が勝利し、同日中にバーテックスが地球上に出現し、人類への総攻撃が実施された。この攻撃によって人類の大半が死滅し、文明は崩壊した。残存した地の神や土着の神様たちは、より力を発揮するべく、四国へと集結し、神樹様として顕現した。

非常に宗教染みた話であるが、実際に勇者や巫女、バーテックスといった科学では説明できない現象が発生しているので、信じざるをえない。

神樹様に力を与えられた少女たち、それが『勇者』である。なぜ勇者というのかは正直わからないが、バーテックスを殺す力を持つ唯一の存在である。そして、勇者にはそれぞれ武器が与えられている。若葉の刀は『生太刀』と呼ばれており、何らかの神話とかかわりが深いのだろう。他の勇者の武器も似たようなものだった。私の武器は、古事記や日本書紀に登場するような日本神話とはほとんど関係ないので、ちょっと仲間外れ感が否めない。

この神樹様から授かった力と武器で神樹様を、四国を、人類を守るのが私たちの使命である。

千尋やひなたは勇者ではなく、『巫女』である。正直なところ詳しくは分からないが、神樹様の神託を受けたりするのが役目らしい。二人は巫女の力がとりわけ強いため、勇者たちと行動を共にしているが、巫女は他にも沢山いるらしい。

これらの神樹様や勇者、巫女を管理するのが『大社』という組織である。正直気味が悪い組織ではあるが、旧神社本庁系や宗教法人が合体して誕生したらしい。バーテックスが襲来したと同時にどっからか湧いてきたという話もあるので、化物に襲われる前から陰で活動していたのかもしれない。

四国の県議会や市議会、主要政党の支部が一体となって成立させた臨時政府は混乱する四国内の内政に精一杯で、バーテックスに対しては政治的解決が不可能であるとしたこともあり、バーテックス関連の全権が委任されている。そのため、この3年間で非常に強力な権力を有するようになった。

丸亀城を管理しているのも『大社』であり、バーテックス関連の授業は『大社』の職員が行っている。また、私たちの使う装備も『大社』の開発したものであり、邪見にはできないが、あまり深入りしたいとは思えない組織でもある。

 

授業内の映像では、自衛隊がバーテックス(星屑)に対して攻撃を行っている映像が流れていた。

 

「バーテックスに現代兵器、というよりも私たち人類の兵器は通用しません」

 

教師の言葉の通り、自衛隊は星屑に対して銃撃、砲撃、ミサイル攻撃、爆撃など、あらゆる攻撃を行ったが、全くの無力であった。私も舞鶴に行ったとき、湾内にいた護衛艦のほとんどが破壊されているのも見た。

因みに私や千尋が明石海峡大橋で見た自衛隊の砲撃は神樹様の力を使った砲弾だったらしい。莫大な労力がかかる割に、バーテックスにダメージを与えるだけで、消滅させることができないので、現在は生産していない。

自衛隊であるが、四国に残存した部隊を統合し、四国防衛隊として活動している。善通寺駐屯地を中心とした旧陸上自衛隊の第14旅団が中心であるが、悠岐の父親の舞鶴基地の幹部や、広島県呉市の呉基地から退避した護衛艦の乗員などの旧海上自衛隊も力を持っている。

 

「現在バーテックスに対抗できる力を持つのは『勇者』だけです。あなた方はこの四国を守る使命があるのです」

 

聞き飽きた言葉ではあるが、四国にいる数百万人の人間の命は、この6人の勇者に託されたといっても過言ではない。私たちが頑張らなければ、私たちが戦い続けなければ、四国は、人類は滅ぶ運命にある。

 

座学が終われば次は訓練である。

基礎体力向上のためのランニングや体幹トレーニング、それぞれの武器にあった武術や格闘技の訓練(私なら剣術)、座禅や滝行などの精神的な鍛練を受けている。成長期であるため、無理なオーバーワークは行わなかったが、それでも大変のモノは大変であった。

剣術だと居合をやっている若葉が一番強かったが、格闘技だと友奈が強かったりする。タマも千景も身体能力が高いので戦いの技術は向上しつつあった。杏は運動が苦手であったが、彼女の武器は射撃武器なので、そこまで問題ならないだろう。それにタマの武器が盾でもあるので、彼女が盾として戦えば大丈夫だろう。

 

訓練後は食堂でご飯を食べる。普段は各々が勝手に食べていたが、今日は若葉の提案で、みんなで食べることになった。千景やタマが不満を示したが、友奈や杏、千尋がみんなで食べるとうどんが美味しいという謎理論を展開し、全員で食べることになった。

 

食堂では大社の職員を含め、大人たちが数人いたが私たちが全員で食べたいというと、大きな机を開けてくれた。

おのおのが好きな食べ物を注文し食べる。今日は定食の気分なので生姜焼き定食を頼むのだが……

 

「なぜ毎回うどんなの?」」

 

「「「「「「「そこにうどんがあるから?」」」」」」」

 

恐るべき香川県人スピリッツ、って確か……

 

「千尋や若葉は分かるけど友奈って香川出身じゃないよね」

 

「私は奈良だよ~。でもこっちに来てから若葉ちゃんたちに美味しさを布教されちゃって」

 

「ラーメンの布教をすべきだった……」

 

「ゆ、悠岐先輩!私はラーメン好きだよ」

 

後輩にかばわれてしまった……

 

昼食中にいろいろと勇者内での確執が露わになったが、いつものことだったので、あまり深入りはしなかった。正直、この問題は戦いが始まれば解決すると思ったからだ。

だけど若葉はかなり深刻にとらえているだろう。結構細かいところまで気にする性格だから。

案の定昼食後に若葉から相談を持ち掛けられる。

 

「私は、リーダーには向いていないのだろうか……」

 

「リーダーって誰からも好かれればいいってもんじゃないよ」

 

正直なところ、若葉にリーダーをやらせるなら、幹部自衛官や管理職の人間が受ける講習ぐらいは受けさせるべきだと思う。時間がないのは分かるが、彼女は想像以上にリーダーの責務に苦しんでいることを知っているのだろうか。

若葉には人を引っ張っていく才能がある。だからこそ『大社』から勇者たちのリーダーを任されているのだが、それをサポートする、後ろから押し上げる存在がいないことが致命的なのかもしれない。

 

「年齢が一番上の悠岐さんにリーダーを変わってほしいのは正直な気持ちです」

 

「私はだれかを引っ張っていくのは柄じゃないよ。それに私と千尋は『大社』から好かれていないからね」

 

私と千尋は諸事情があって、『大社』から一歩引いた組織にも属している。そのため、『大社』からしてみれば操りにくい勇者と巫女でもある。

 

「ただ、今のチーム内の不和はそのうち解決できるとは思う」

 

「どうしてそう思うのですか?」

 

「それぞれの戦いへの覚悟の違いがあるから齟齬や不和が生まれているんだと思うよ」

 

「覚悟、ですか?」

 

私と若葉にはバーテックスと戦う覚悟ができている。少なくとも私は死ぬ可能性は必ず頭の片隅には入れている。厳しいことを言うが、杏たちにはその覚悟ができていないのではないかと思う。当然だ。数年前まで普通の小学生だった少女たちに戦う覚悟なんてあるわけがない。

私と若葉は進化体とも戦い、バーテックスに何度も殺されかけている。戦いの経験も彼女達とは桁違いに上である。

 

「どんなに嘆いても、どんなに恨んでも、私たちは勇者になった。勇者になってしまった。戦う力を与えられてしまった。何百万の人間の命を背負うことになってしまった。その運命を呪っても勇者を辞めることなんてできない。だから戦って、戦って勝ち続けるしか私たちが生き残る道はないんだ」

 

「だから、戦いが始まれば自ずと理解するはずだよ」

 

「私たちには、‘戦い’しかないことが」

 

これが、私が3年間の戦いと鍛錬の中で導き出した答えだ。神に選ばれた?人類の守護者?きれいな言葉を並べたところで成人にも満たない少女を戦場へと投入することに変わりはない。だったら奴らを皆殺しにして、生き残ればいい。そうすれば私たちはお役目から解放される。

 

「若葉、あなたは何のために戦う?」

 

「私は……私は、クラスメイトの命を、人類の誇りを奪ったバーテックスに報いを受けさせる。そのために戦うつもりだ」

 

乃木家の家訓は‘恩義や情けには報いを。攻撃されたら報復を’である。正直物騒すぎる家訓であるが、若葉の強い意志の中には常にこの家訓を意識しているようである。

 

「伊予島杏は性格的に戦いには向いていないかもしれない。だけど自身を救ってくれた球子が戦えば、彼女は絶対に戦うはずだ。二人は助け助けられつつの関係だから。同じことが友奈と千景でも考えられるよ」

 

正直、友奈の事はほとんどわからない。気難しい千景をあれだけメロメロにしてしまうほどの人たらしであるが、私生活や心の底で何を思っているのかが全く読めない。ただ、争いごとや友人同士の不和やいざこざが嫌いらしく、嫌な空気を変えることができる人間でもある。チーム内の調整役としてはかなり有能な人物である。正直サブリーダーは彼女が務めたほうがいいと思うぐらいだ。

 

「だからさ、戦い始めたらきっとチームはうまく機能するはず。百の訓練より一の実践。もし誰かが怖気付いたなら、私と若葉で敵を蹴散らせばいいだけの話だよ」

 

「私たちがその身をもって覚悟を示す、か」

 

「そうそう。で疲れたらひなたに耳かきしてもらえばいいの」

 

「そうだな、って耳かきのことは忘れてください!」

 

これで若葉の不安も少しは減ったかな。まあ彼女の心のケアはひなたに任せればいいかな。

若葉がいなくなり、空き教室には私一人だけになる。

 

「みんな戦いが始めればわかるさ。私たちには戦うしか未来が無いってことが……」

 

勇者のメンバーは、誰一人として欠けてはならない。バーテックスを殲滅するためには、絶対に誰かを失ってはいけない。

 

戦いはすぐそこまで迫ってきていた。

 

 

 

 

 




主人公は自衛隊の人たちと関わりすぎたせいか覚悟完了系の主人公になっています。
若葉を覚悟完了系に巻き込もうとしているのでさらに厄介です。

あと基本的にあだ名で呼ぶ高奈ちゃんが悠岐のことを先輩と呼ぶのは、作者が友奈に先輩と呼んでほしいという理由だけで、特に意味はありません。


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