勇者の記録   作:永谷河

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戦いの始まり 2

バーテックスとの戦いが始めると、若葉と悠岐がバーテックスに突撃していき、星屑を次々と蹴散らしていった。その様子を友奈達は樹海化を免れていたビルの上から見ていた。

 

「それじゃあ、私もいくね!」

 

二人の後に続き、友奈がバーテックスの集団に突っ込んでいく。

 

「うわ~、若葉ちゃんたちすごいなあ。私も頑張らなくちゃ」

 

二人の暴れっぷりに関心しながらも、友奈が若葉たちの撃ち漏らしの星屑たちを鍛え上げた格闘技で次々と倒していく。友奈はボクシングや空手といった格闘技から、自衛隊や警察組織などの武装組織で訓練されている戦闘格闘術も鍛練していた。

 

3人が最前線でバーテックス相手に無双をしている中、後方で戦いを眺めている者がいた。変身できず、戦闘能力がない伊予島杏、その杏の護衛をしている土居球子、変身はできたものの、なかなか一歩を踏み出すことができない郡千景であった。

千景は3人が激烈な戦いを繰り広げている場所に行くことができなかった。足がどうしても動かなかったのである。

 

「私は、情けない」

 

若葉は言葉通り、自ら敵に突撃し、多くのバーテックスを屠っていた。悠岐と協力して、3年前には倒せなかった進化体のバーテックスも倒していた。一方の千景は、戦うことへの恐怖心から、動くことができなかった。

 

「ふふ、あれだけ威張っておきながら結局私は動けないのね……」

 

「あの頃と、何一つとして変わっていないじゃないの」

 

友奈以外に対して当たりが強かったのは自らの恐怖心や劣等感の反動であった。そのことは千景自身にもわかっていたことだったが、なかなか素直になることはできなかった。

ふと後ろを見ると怯えながら球子の後ろで隠れている伊予島杏の姿が見える。自分も怖くて動けないのに、杏のことを非難する資格などなかった。

 

「い、伊予島さん、さっきはごめんなさい」

 

「郡さん……」

 

「私も動けないの……あれだけ乃木さんに噛みついておきながら私は戦うことができない」

 

自分は中学3年生で、勇者の中では2番目に年上である。それなのに、中学1年生で2学年も下である杏に強く当たってしまったことを謝れないほど、千景は恥知らずではなかった。

 

「自分を卑下しないでください……私なんか変身すらできていませんから」

「ごめんなさい……」

「でも郡さんにも頼れる味方がいますよ。若葉さんや悠岐さん。それに、友奈さんも」

 

杏が指をさす方向を見ると桜色の人影が高速で接近してきていた。

 

「ぐんちゃーーーーん‼」

 

声を上げて、二人のところへ向かってきたのは、友奈であった。バーテックスを戦っていたこともあり、少し息が上がっており、ところどころに擦過傷が付いていたが、まだまだ元気一杯であった。

 

「ぐんちゃんが来ていなかったから心配になって。大丈夫?」

 

「高嶋さん、ごめんなさい……私、怖くて……」

 

「ぐんちゃんは実戦は初めてだもんね。仕方がないよ」

 

「あれだけ見栄をはったのに、この体たらく……死にたくなるわ。乃木さんや悠岐さんはあれだけすごいのに」

 

千景と友奈は、すでに大半のバーテックスを撃滅した二人の勇者の方を見る。

 

「あの二人は戦闘民族だから参考にしないほうがいいとタマは思うけどな」

 

旋刃盤を投げて、杏や千景に近づいてきていた星屑を倒していた球子が敵の襲来がひと段落したこともあり、杏達の下に駆け寄ってくる。

 

「居合をやっている若葉さんは分かるとして、悠岐さんってなんであんなに強いのかしら……」

 

「う~ん。格闘技とか剣術だと、私や若葉ちゃんの方が強いけど、純粋な力や体力だと先輩が一番強いよ」

 

「意外だな~。タマてっきり杏タイプかと思ってたけど」

 

「タマっち先輩。それって私が本しか読まない根暗なオタクって意味で言ってますか?」

 

杏が少し声のトーンを落として球子に詰め寄る。

 

「そ、そういうことじゃないぞ。ただ、二人とも図書室が似合いそうなタイプってことだけだ」

 

話題に上がった悠岐を見ると、どこからともなくバズーカ砲のようなものを取り出し、棒状の進化体バーテックスに発射していた。

高速で飛翔する弾が棒状のバーテックスに命中するが、バリアのようなもので防がれてしまった。

 

「シールドね。あれでは飛び道具は効かないわね。刀も通用するかどうか……」

 

「結構固そうだね」

 

千景と友奈が敵の性能を観察しながら話す。

 

「だったら、私の拳で叩き潰す!」

 

「高嶋さん!」

 

「ぐんちゃん!ちょっと待っててね。あのバーテックスを倒してくるから」

 

「ええ!ちょっと待って」

 

「私の力ならあいつを倒せるよ。そうすれば戦いはすぐ終わるから」

 

千景に言い残すと、猛スピードで跳躍し、そのまま棒状のバーテックスに手甲をはめた拳を叩き込んだ。

 

「勇者パーーンチ」

 

安直なネーミングであるが、星屑なら瞬殺できる威力を秘めた拳は、進化体のシールドのような組織に当たった。しかし、シールドには傷一つ入っていなかった。

 

「だったらこれで!」

 

戦装束や勇者の使用する武器のほかに、勇者にはもう一つの戦うためのシステムが組み込まれている。それはまさに切り札といってもいいシステムであり、使えば通常の何倍もの力を引き出すことができる力であった。

 

「力を貸して!『一目連』」

 

国津神や土地神の集合体である神樹様には、膨大な量の民間伝承の記憶が宿っている。その中で、自分に最適だと思う記憶を抽出し、自らに与えることが勇者には可能であった。その中で、友奈が選択したのは稲光や暴風雨をもたらす暴風神である『一目連』であった。

台風の如くすさまじいパワーと速度を得た友奈は、猛烈な速度で、両手の拳をバーテックスに叩き込み始めた。

 

「この力があれば……」

 

 

私は圧倒的な力を見せつけている同僚の勇者を見ていた。

 

「あれが精霊の憑依させるってことなのか」

 

隣で若葉が驚いていたが、あまり好ましい状況ではなかった。

この精霊システムは、莫大な力を得る代わりに、体力や精神力をごっそりと奪われるシステムである。まだ解明できていない部分も多いため、できるだけ使用は控えるように千尋やひなたから言われていた。

 

「友奈……」

 

友奈は誰かが困っていたり、悲しんでいるのを嫌がる性格の持ち主だ。だからこと率先して敵を叩こうとしているのだろう。

 

「本当は使いたくなかったけど……」

 

私に力を与えてくれる神様はちょっと特殊だが、一応は神樹様の一員として四国を守護しているらしい。私の戦装束を通じて、神樹様の記憶を探る。

ふむ、刀を使うならこいつがいいかな……

 

「こい!『宮本武蔵』」

 

多くの決闘に勝利し、多くの演劇、小説といった様々な作品の題材になった二刀流の剣士の力を顕現させる。

圧倒的な力と、二刀流に関する知識が頭の中に流入し、頭痛が走るが、耐えられるレベルである。

地面を蹴り、勢いをつけて一気にバーテックスに肉薄し、友奈の攻撃で傷がついていた場所を一気に斬りつける。亜音速に達した一撃によって、シールドに深い傷が入った。そのままもう片方の手に持っていた鞘を傷が入っている部分にフルパワーで叩きつけた。それを繰り返し行うと、シールド組織はボロボロになっていた。

最後の攻撃とばかりに、友奈が猛スピードでパンチを進化体の身体に加えると、進化体の身体はボロボロにひび割れ、バラバラになって消えていった。

進化体を倒すと、すぐに近くにいた残党の星屑を一瞬にして片づけ、残党狩りは終了した。その途中に若葉が問題行動をしたが、後で追及することにしよう。

しばらくすると樹海には化物一匹いなくなっていた。

 

「作戦終了」

 

「悠岐先輩!勝利のはいたーっち!」

 

「「いえーい!」」

 

友奈のノリに突き合ってしまったが、私も友奈も息が荒く、目や鼻から血が流れていた。

精霊を使った代償は大きかったらしい。だが、これなら何日も昏睡する必要はないだろう。

 

戦闘がすべて終わり、私と友奈の下に他の勇者のメンバーが集まる。

 

「高嶋さん!?大丈夫なの」

 

「悠岐さんも大丈夫ですか?」

 

千景と杏が私と友奈の状態を見て困惑していた。

 

「私は大丈夫だよ」

 

精神的にも肉体的にも疲れていたが、倒れるほどではない。それよりも……

 

「若葉、あなたはバカなの?」

 

若葉は何故かバーテックスを斬った後にその体の一部を口にしたのである。本人曰く味のないイカのようなものであり、食えたものではないらしい。

 

「バーテックスは白鳥さんやみんなを食い殺した。だから奴らにも同じことを……」

 

若葉の家は普段一体何と戦っていたのだろうか。この武士娘はバーテックスの襲来が無ければどんな人間になっていたのだろうか……

 

樹海化が解け、丸亀城に戻ると、今日の戦闘報告を若葉が『大社』に行う。私と、友奈は精霊の行使の影響を調べるために、検査入院することになった。若葉も戦闘で負った傷を病院で治療してもらっていた。

 

 

次の日になり、病院のベッドの上でお見舞いにきた千尋とひなたの巫女コンビに、昨日のバーテックス戦について話した。

 

「若葉ったら星屑を口にしたみたい。あの娘って生まれる時代を間違えているんじゃないの?」

 

「若葉ちゃんはいい意味でも悪い意味でも極端だからねえ」

 

「それが若葉ちゃんのかわいいところです。バーテックスを食べるのはいただけませんが」

 

どうやら若葉はひなたに雷を落とされたらしい。さすがの野武士娘も幼馴染には頭が上がらないらしい。

 

「友奈さんですが、悠岐さんよりも肉体的、精神的なダメージが大きいようです」

 

「二人とも同じように精霊の力を使ったのよね。でもなんで?」

 

「おそらくだが、顕現させた精霊の質によって勇者にフィードバックされる負担量も変わるのだと思う」

 

私は『宮本武蔵』という400年前の実在した剣士の記憶を利用した。一方の友奈は『一目連』という稲光や暴風雨をもたらす暴風神を利用していた。精霊の質としては圧倒的に『一目連』の方が上である。一目連は知名度は劣っているかもしれないが、神格も有している。

 

「つまり、あまり強い精霊を使わないほうがいいってことになりますね」

 

「それはそうだが……」

 

このレベルの戦いであれば、勇者の連携能力を強化していけば問題ないだろう。しかし、進化体の更なる進化体が現れた場合、強力な精霊を利用する必要があるだろう。

 

「それでは、私たちは友奈さんのお見舞いがあるのでお先に失礼します」

 

「ゆっくりしていってね、悠岐」

 

二人が友奈の部屋に行き、病室には私一人だけになる。

 

「友奈……」

 

今回の戦いでも彼女は真っ先に精霊の力を行使していた。それもかなり強力な精霊を顕現させた。今後の戦いでは友奈に無理をさせ過ぎないように注意したほうがいいかもしれない。

友奈が倒れれば、千景に影響が出る。それに、勇者の中でもっともコミュニケーション能力が高く、空気が読める友奈がいなくなるとチームワークに支障が出るだろう。

 

病室のテレビをつけると、昨日の勇者たちの活躍を報じていた。四国のテレビ局、新聞社などのマスメディアが次々と勇者を讃えていた。人々は私たちのことを英雄扱いしていた。

諏訪地域もバーテックスの襲来から逃れていたことも報道していたが、諏訪が陥落した可能性が高いという報道は行っていなかった。

 

「報道統制ねえ。『大社』の力は強くなったものだよ」

 

胸糞が悪くなったためテレビを消し、今回の戦いの報告書を作成し始めた。一応『大社』には若葉が報告を行っているが、私は父親達に提出する必要があるためだ。

 

「若葉のバーテックス食いは報告したほうがいいかな?」

 

一通り書き終えた時にはすでに消灯時間となっており、私は戦闘の疲れや精霊の力の影響もあり、すぐに就寝した。

 

 

2日後に私は退院することが出来た。友奈も私が退院した数日後に退院しており、身体のダメージは完全に消え切っていた。

最初の戦いから一週間後には、通常の日常が戻っていた。いつも通り昼食を食べようと食堂に向かうと、珍しく人がいなかった。

 

「今日はみんな忙しいのかな?」

 

誰かいないか探していると、食堂の調理室からエプロンを着たポニーテールの少女が出てきた。

 

「悠岐さん、今蕎麦を作っているんだ。これが結構難しくてな」

 

「若葉ちゃ~ん。火から離れてはいけませんよ」

 

どうやら調理室にはひなたもいるらしい。

部屋に入ると、蕎麦の香りが充満していた。奥には蕎麦打ち包丁を巧みに使いこなし蕎麦をひたすら作っているひなたがいた。

 

「若葉が蕎麦って、バーテックスとの戦闘で頭でも打ったの?」

 

「私は正気だ!失礼な……」

 

「だってうどん王国の王子様って言ってたし」

 

「私はそんなことは言ってません」

 

「冗談は置いておいて、蕎麦は歌野のため?」

 

「……そうです。せめてもの弔いに」

 

諏訪を3年間守護し続けた勇者、白鳥歌野。蕎麦王国の主にして、諏訪を愛した勇者だった。結果的ではあったが、彼女が3年間バーテックスと戦っていたおかげで、四国は迎撃隊背を整えることが出来た。

声しか知らない仲であったが、間違いなく私たちの戦友であった。

 

「……みんなを呼んでくるよ。『大社』の職員も。いま城にいる人全員」

 

「さすがにそんな量は作ってませんよ」

 

「ほかの勇者のメンバーを呼んでくるよ。足りないならスーパーで麺を買ってくる」

 

私が教室に残って課題をこなしていた千尋、千景、友奈、杏、タマに声をかけた。全員うどん王国の人間だったが、蕎麦造りも興味があるらしく、協力してくれるようだった。

調理室に置いてあった蕎麦粉(若葉がどこからか調達したらしい)だけでは時間も人でも足りないので、近くのスーパーで蕎麦の麺と麺つゆを大量に購入した。

若葉たちが調理を行う間に、私と千尋とひなたで『大社』の面々に、今回の若葉の開催する蕎麦会に参加する様にお願いした。諏訪には思うところがあるのは私たちと変わらなかったらしく、特に反対はされなかった。

 

しばらくすると、『大社』の職員や勇者、巫女が食堂に集合し、蕎麦が全員に配られていた。かけそばであったが、それなりに美味しそうな出来栄えだった。

千景と友奈が作ったらしい、壇上の上に若葉が立つと、食堂内の全員が彼女を話しを聞き始めた。

 

「みなさん。今日は集まっていただき、ありがとうございます」

 

「いつもならお昼はうどんを食べるのが当たり前なのですが、今日は蕎麦を食べたいと思います」

 

いつもうどんを食べているのは勇者や巫女だけではない。『大社』の職員も昼ご飯はうどんを食べている。ラーメンや定食を食べるのは私ぐらいである。

 

「諏訪の勇者の白鳥さんとのやり取りが切っ掛けで、皆さんと蕎麦と食べようと思いました」

 

「周知のことかと思いますが、諏訪地方はつい先日バーテックスの攻撃によって陥落しました。同時にそこで戦っていた勇者の白鳥歌野さんも亡くなった可能性が高いです」

 

「彼女は蕎麦が大好きでした。うどんを愛している私に、蕎麦の魅力をたびたび伝えてくるほどです」

 

「いつか私は彼女とうどん、そばを食べ合いたいと思っていました。その約束もしました」

 

「しかし、その約束は果たすことができませんでした」

 

「情報統制によって、四国の人間は諏訪の現状は知らされていません。ですが、彼女達を知っている私たちだけでも、彼女達を弔いたいと考えました」

 

全員が若葉の一言一句に注目していた。

 

「これより、諏訪の人々、白鳥歌野、藤森水都へ黙祷を捧げます」

 

私も含め、全員が立ち上がる。

 

「黙祷」

 

若葉の声と共に私は目をつぶり、諏訪の人々を思いながら黙祷を行った。誰一人として声を発さず、沈黙が食堂内を支配していた。

 

「ご着席ください」

 

一分ほどの黙祷が終わった。目の前には湯気を発する蕎麦が置いてある。

 

「それでは。合掌、いただきます」

 

『いただきます』

 

その日の蕎麦は少し塩辛い味がした。

 




原作だと蕎麦は若葉一人だけで食べていますが、せめて諏訪のことを知っている人ぐらいで黙とうをささげ、蕎麦を食べるくらいはしてもいいかなと思いました。
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