魔神が 歩みだす 日   作:歩暗之一人

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蜃 気 楼 とは別解釈のゼロレク前夜
ひどい顔がどんな顔なのかは想像にお任せします。


白 夜

 

窓の外から差し込む夕日が傾いで、室内を美しい茜色から夕闇へと染め上げていく。

次第に陽は落ち、地表を照らすは人々が暮らす街の明かりに移ろいゆく。

それをただ、眺めていた。

これが、俺が目にする最後の夕焼け。俺が暮らしてきた街並みとこの風景は、明日俺がこの世を去ってからも続いていく。だが、それを認識する俺という主体が居なくなるのだから、俺にとってこの世界は最後の夜を迎えたともいえる。

その明日がどんな風に、それだけ続いていくのか、もう知る由はない。

世界の行く末など、それこそ不老不死にでもならなければ、誰にもわからない。

それでも俺は、明日を望んだ。

数多の死の責任を取るため、愛する人々の安寧を願って、なんて綺麗事は実際のところ口実に過ぎないのかもしれない。ただ自分がそう望んだから、そうあってほしいと願ったから。そのための悪逆皇帝。そのための、ゼロレクイエムだ。

 

らしくない、といえばそうかもしれない。

明日の計画の為の準備は既に整った。計算と演出、情報の根回しと把握、奇跡を迎える条件は既にクリアされた。だから特にやることもなく、地表から遠く離れたこの皇室から世界を眺めていた。考え事はいつものことだが、少しセンチメンタルに酔っているかのようだ。薄々は分かっている。その感情が、確かに胸の内に燻っていることを。

明日、俺は死ぬ。

その単純な恐怖を鎮めきれずにいるのだ。

計画に不安などない。自分がいない世界で明日を求める人々の想いの力も、今の俺は疑わずに信じることが出来る。それでも、これまで多くの死を見てきた自分が、遂にそちら側に立つのだと思うと、怖れが首をもたげる。

撃たれる覚悟は出来ている。だがそれは、怖れを感じないわけではない。

 

いつの間にか夕日は完全に地平線の向こう側へと沈み、俺は静寂に包まれる昏い部屋で一人、ベッドに腰を鎮めた。

もし全てが終わった後で、俺の魂のようなものがCの世界に向かうのなら、そこで会えるだろうか。殺してしまった人々、守れなかった人々、そして明日より続く後の世界で死を迎えた人々に。それも、悪くないかもしれない。

次から次へと頭をめぐる考え事で、無為に時間を消費していくらか経った頃に、背後で部屋の扉が開いた。ギアスをかけた兵士たちにはここに近寄らないように指示を出している。つまり来客の正体はこの建物において唯一ギアスの効かない、わがままな共犯者だ。

 

「なんだ、照明もつけずに。起きているんだろう?」

「ノックぐらいしたらどうだ。相変わらず自分勝手な女だ」

「そうさ、私はC.C.だからな」

C.C.は真っすぐベッドに歩み寄ってきて、俺と背中合わせになるように腰を下ろした。

仰け反って、こちらに体重をかけてくる。まるで日本での決戦前夜のように。

「慰めに来たとでも?今の俺には、不安も迷いもない」

「ああ、だが恐怖はある」

あっさりと、否定しようのない事実を口にする。

「別に、慰めに来たわけではないさ。お前のその感情は、私がはるか昔に忘れてしまったものだ。共感してやることは出来ない」

ああ、そうだろうとも。お前は死にたくても死ねなくて、死の恐怖から最も遠いところに存在している。それはこれから先も、未来永劫続く苦悩の道程。だからこそ、俺はお前との約束を果たしたかった。それが今の俺にとって、唯一の心残りでもある。

「C.C.――俺は」「謝る必要はない」

約束のことを切り出そうとして、その先を塞がれてしまう。

「私はお前にいろんなものを貰ったよ。おかげで私も、経験という積み重ねは止めようと、そう思えるようになった。ここに来たのは、そうだな。少し永い別れになるから、その前に共犯者の顔でも見ておこうかと思っただけだ。ただこうして少し談笑して、小気味良い軽口を叩きあって、旅に出る前の思い出を少しばかり増やそうか、とな」

「フッ、本当にお前はどこまでもわがままな女だよ」

自然と笑みがこぼれる。胸の奥の恐怖も鳴りを潜めた。

完全に消え去ったわけではない。それでも、俺の心には窓を開け放ったように安らぎともいえる心地よい風が吹いた。

「いいだろう。世界をその手に収めた皇帝の最後の夜をくれてやる」

「ああ、精々私を楽しませてくれ、ラストエンペラー殿」

 

そのまま俺たちは背中合わせのまま、他愛無い話を続けた。

不思議なほどすらすらと言葉が紡がれていく心地よさの中に揺蕩うように。

 

気づけば朝陽が顔を覗かせるほどに時が流れ、そこで会話は途絶えた。

永遠のように感じられる、しかし実際には一分にも満たない沈黙を破り、重い腰を上げる。

「そろそろ、行かなくては」

「ああ。主役が遅刻するわけにもいかないだろう。私のことは気にするな」

互いに立ち上がり、C.C.が部屋を訪れてから初めて顔を向かい合わせた。

 

「ふん、ひどい顔だぞ、魔女」

「お前こそ。しっかり映像に残るんだからきちんとおめかしすることだな、魔王」

 

互いに見つめあって、最後の最後まで悪態をついて、少し微笑む。

 

「さようなら、C.C.」

「ああ、さようなら、ルルーシュ」

 

俺は振り返り、部屋を後にした。

真っ暗な部屋で過ごしたのに、陽の光がずっとそこにあったかのような最後の夜を胸に秘めて、明日を迎えるために。

 

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