魔神が 歩みだす 日   作:歩暗之一人

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オリジナル要素強め 復活数年後 最後ちょっぴりルルC
反響があれば続くかも?


キュウシュウ 防衛線

 

「もうここはダメだ!撤退を―」

「戦線がもたないぞ。食い破られる!」

「駆動系が死んだ!動けない!誰か!誰かっ!」

 

飛び交う怒号。折り重なる悲鳴。混乱する戦況。

誰がどう見ても、私たちの敗北は疑いようもなかった。

崩れ往く街並みと燃え盛る戦火。

次から次へと湧いて出る無人KMF。

上がる息。額を伝う汗。残量僅かなエナジーフィラー。

 

周囲を徐々に囲まれ始め、私が落とされるのも時間の問題だった。

ごめんなさい、カレンさん。私もここまでかもしれない。

圧倒的な物量差と減り続ける味方。

どうあがいても覆せない状況が、私の乗るKMFに突き付けられる銃口という分かりやすい現実になってモニターに映し出される。

多分気のせいだけれど、平和が去っていく足音が聞こえた。

 

 

――開戦28時間前

 

ハシュベスの戸惑い以降、世界には争いの火種が広がった。

2年続いた奇蹟の明日は終わりを告げて、様々な思想や政治的な背景から散発的な抗争や紛争、テロが起こり始めた。世界は小さな火種と、それを吹き消して回る黒の騎士団とのもぐらたたきのような情勢になってもうすぐ5年が経つだろうか。

終わらない闘いの日々に身を投じていると、平和だったあの日々に帰りたくてたまらなくなる。それでも今の世の中は悪逆皇帝ルルーシュに統一される以前の世界よりも、まだ戦火は少ないほうなのよ、とカレンさんは言っていた。

紅月カレン。悪逆皇帝を討ち果たした伝説の英雄ゼロが率いる黒の騎士団のエースパイロットで、今は一線を退いて後進の育成に励んでいる。私もカレンさんに手ほどきを受けた一人だ。彼女のような人になりたいと憧れて、私の今あると言っても過言ではない。まあ少し、人に教える才能はなかったようで、くらいついていくのは死に物狂いだった。天性の才能というのはああゆうものなんだろうか。

「ま~や!」

後ろから聞きなれた声が私の名前を呼ぶ声がして、次の瞬間には両手でがっちり抱き着かれてしまった。

「ちょ、あぶないよアーネット。ジュース零れちゃう」

「なーにぼーっとしてたの?」

「カレンさんのこと考えてた」

「うげ、あんたまたそれ?確かにカレン教官は色んな意味で凄かったけど、あんた好きすぎるでしょ」

彼女はアーネット。私と同じ黒の騎士団のKMFパイロットで、カレンさんに一緒に習った、いわゆる同期の友達。

「だって、私の目標で」

「憧れだから、でしょ?はいはい聞き飽きた―」

「自分から聞いてきたくせに」

 

私たちは同期というだけでなく、歳も近くて、卒業後の配属先が同じ日本エリアだったということもあって今も一緒の寮で暮らしている。今日はオフで、共用スペースでのんびりテレビを眺めていたところだった。朝9時スタートの毎週欠かさず見ている『かわいいペット大集合!ハプニング映像集!!』、みたいなほっこりする番組を見ていた、まさにその時だった。映像が突然切り替わり、ニュース速報が入る。画面には忙しない様子のスタジオと金髪で美人で利発そうな女性キャスターが映った。たしかお天気お姉さんで有名な人だったか。しかし今は緊張感の漂う面持ちのまま、良く聞こえる凛とした声で話し出した。

「速報です。ただいまネオ・ブリタニアを名乗るテロリストから犯行声明がネットに公開され、その宣言通り、旧中華連邦の都市3つが壊滅状態となってしまいました。繰り返します――」

 

目を見開き、鼓動が跳ねる。

「アーネット」

「わかってる、急ごう」

 

休日はここまで。中華連邦は日本からそう遠くない。襲撃された3都市のうち一つは日本海側にある大都市だった。私たちは急ぎ身支度をして指令室へと向かった。

 

 

――開戦20時間前

 

先のテロが発生してから数時間のうちに、黒の騎士団内部では情報共有と対抗策の立案がされていた。1時間後には私たちはトウキョウ租界からキュウシュウ防衛線に参加するために出立する予定になっていた。そう、やつらテロリストはここ、日本エリアへの侵攻を声明で発表したのだ。伝えられた情報を整理してみる。

ネオ・ブリタニアを名乗るテロリストのリーダーは豪奢な皇帝服に身を包んだ青年だった。その見た目やしぐさから、悪逆皇帝ルルーシュを模倣、崇拝しているのが見て取れた。実はこういった輩は少なくない。悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは世界の破壊者としてその汚名を歴史に刻んだ。しかし、その圧倒的なカリスマ性と行動力、世界を手にした知略と眉目秀麗な容姿からある種の信仰を作り出してしまった。その行いに心酔する者や模倣犯は後を絶たず、巷ではそういった犯罪者たちをルルーシュチルドレンなどと呼んでいるそうだ。

たしかに、無理からぬ話ではある。あれほどの傑物は人の歴史においてもそうそうお目にかかれるものではない。人々を魅了する資質と、従える才能に溢れていた。

今回のテロリストもそうした類のものだ、というのが上の判断だ。

最悪なのは、そこに大量の資金と技術力が合わさってしまったこと。

やつらはAIによる自動操縦技術を用いて、ナイトメアフレームの無人機化に成功。

疲れ知らずで判断や操縦も正確なキリングマシーンを大量に保有していらしい。

並のパイロットでは歯が立たず、対抗手段は遠距離からの狙撃が最も有効との予測がたてられた。私は近接戦よりも狙撃のセンスがいい、というのはカレンさんからの言葉だけど、今回の作戦では役に立てそうだ。

 

「まや!出る前に狙撃仕様の兵装のことで確認だって、整備班から電話だよ」

「わかった、今行く」

 

キュウシュウ沿岸部に位置する防衛拠点まで数時間。テロリストの好き勝手にはさせない。日本を、カレンさんの故郷を、守ってみせる。

 

 

――開戦10分前

 

キュウシュウまでの移動で睡眠をとり、そこから現地の守備隊の指揮下に入った私たちは警戒を続けていた。無人機の軍団ということは兵士の士気や休息などを考慮せず、補給と運搬さえできればいつでも最大戦力を投入可能であるということ。ユーラシアの大地を荒らしたその足ですぐさま海を渡ってくる可能性は十分にあった。

が、その警戒の目は思わぬものを見つける。

それは護衛艦とさえ距離を空けて浮遊する敵の旗艦だった。指令室のやり取りが通信に流れてくる。

「レーダーに感あり、機影照合、光学センサー補足、モニターに出します。これは、ブリタニア帝国フロート艦、アヴァロンです」

「なんだと?」

 

モニターに映し出されたそれは、確かにデータにあるアヴァロンの機影にそっくりだった。ここまで徹底して模倣するとなると、テロリストのリーダーは相当こじらせているに違いない。

 

直後、オープンチャンネルで敵のリーダーからの通信が届く。

「ごきげんよう。黒の騎士団の諸君。私はネオ・ブリタニア帝国皇帝、ジーベック・ユィ・ブリタニアである。諸君には既にご理解いただいてると思うが、私は亡き皇帝ルルーシュ様の跡を継ぐもの。その力は中華連邦の件でよく味わっていただいたと思う。私は彼のように、この世界を再び一人の人間のもと、一色に染め上げたいと考えている。だからこそ、日本をターゲットとして選ばせていただいた。理由はもちろん、おわかりだろう。日本こそ皇帝ルルーシュの決戦の場。私は逆に、そこから世界を収める第一歩を踏み出したい。そのために中華連邦の土地も壊滅だけして占領はしなかった。しかし、私の力を示しておかなければ君たち黒の騎士団は本気で私を止めにかかってこないだろう?そのためのデモンストレーションだったというわけだ。さあ諸君!このネオ・ブリタニア皇帝の侵攻に抗って見せてくれたまえ!」

 

なんともまあ自分勝手によく吠える。だが、テロリストとはこういう人種だ。他人を踏みにじるエゴの塊。

 

でも、この時私たちはすでに敵の策に嵌っていた。

大げさな演出によって目を引き付け、その間にことを為す。そういう意味では戦法さえルルーシュじみていると言えたのかもしれない

 

「レーダーに感あり!敵ナイトメアに上陸されました!」

「馬鹿な!敵の旗艦は遥か彼方の海上だぞ!周囲の艦影からもナイトメアが発信した様子など」

「海底です!無人ナイトメアフレームの大群が、海底を歩いてきました!」

 

技術は発展し、ナイトメアのフロート装備も標準化されたこのご時世に、海底を、徒歩で。合わせてリーダーによるオープンチャンネルの演説による陽動。

私たちは狙撃という有効手段を塞がれながら奇襲を受けるという最悪の形で、開戦を迎えた。

 

 

 

――開戦3時間後

 

そこはもう、地獄と呼ぶのも生ぬるい戦場だった。

「もうここはダメだ!撤退を―」

「戦線がもたないぞ。食い破られる!」

「駆動系が死んだ!動けない!誰か!誰かっ!」

 

飛び交う怒号。折り重なる悲鳴。混乱する戦況。

誰がどう見ても、私たちの敗北は疑いようもなかった。

 

沿岸部での奇襲を受け、私たちは防衛ラインを下げつつ応戦。

しかし敵の勢いは止まらず都市部まで侵攻を許してしまった。

住民の避難は事前に行われたが、街並みは悉く崩壊していく。

残弾もエナジーも残りわずか。

集中力が切れたわずかな隙に、三機編成の敵機に囲まれた。

モニターに映る、敵ナイトメアの銃口。逃げ場はない。

こんなところで――

 

ごめんなさい、カレンさん。

 

諦めに心が折れた時、空から鮮やかな緑光の雨が降り注いだ。

三機の無人ナイトメアフレームは瞬時に行動不能に陥り、沈黙した。

 

空を見上げると、先ほどと同じ色の閃光が戦闘空域を縦横無尽に閃いて、あとから遅れて敵が爆散していく。

あれは――ジルクスタンの紛争以来、黒の騎士団の窮地に現れる白金のナイトメア。

かつてナイトオブゼロの称号を掲げたある騎士が駆った、最強の機体――ランスロット。

敵陣の中央で瞬くその翼は、誰にも追いつけないほどに速く、戦況は一変した。

 

だがしかし、都市部に上陸した敵部隊はじわじわと攻めてきている。こちらの対処も急がなければならない。部隊を再編制し、戦線を立て直さなくては。まずは味方と合流を―

 

「西口だ」

突然、内部用の通信回線に指示が流れる。だが、聞きなれない声だ。ここの守備部隊の人間でもない。

「線路を利用して、西口方面まで移動しろ」

「誰?なぜこのコードで通信を」

「誰でもいい。勝ちたければ私を信じろ」

「勝つ?」

護るのでさえ精一杯の、それすら危ういこの状況で、勝つ?

謎の声は、私たち残存部隊に次々と指示を出してきた。

それと同時に敵の情報を送信され、私たちはその声を信じるかどうかの判断を下す前に、その指示が的確であることを受け入れざるを得なかった。生き残るために、護るために。

そのあとはまるで魔法にかかったか、奇蹟が起きたかのようだった。

敵機を次々に撃破し、戦線は回復。損害も少なく、まるで未来予知できているかのようなワンサイドゲームが繰り広げられた。

そうして都市部を制圧するころには、敵の本体はそのほとんどがランスロットに沈められていた。

 

「おい」

「はい!」

謎の声からの通信に思わず上ずった返事をしてしまう。

「狙撃仕様の兵装を装備しているな。ちょうど敵旗艦がランスロットに追われて逃げ込んでくるからフロートを狙撃して不時着させろ。ポイントはC2だ。」

「呼んだか?」「茶化すなよ。もうすぐ終わるから。わかったな?あとは任せるぞ」

「ちょ、ちょっとまっ――」

なんだか通信機の向こう側で、恐らく女性、の声と会話したと思ったら、一方的な指示を残して交信は切られた。

 

指示されたポイントに向かうと、教えられたとおりに敵の旗艦のアヴァロンもどきが流れてきていた。フロートシステムを狙撃し、海上に不時着させたところでこの戦闘は終わりを迎えた。

 

 

――終戦後

 

「まや!よかった無事だったのね!」

「アーネット!」

拠点に帰還すると、先に帰投していたアーネットと無事再開できた。

 

「ねえきいた?あの変な声の指示」

「やっぱりそっちにもあったのね。でもあのおかげで私生き延びることが出来たわ。ホントに感謝よ」

そのとおりだ。謎の声とランスロット、二人の英雄が居なければ、今頃私たちは戦死し、被害はさらに大きく拡大していただろう。

 

「もっと強くならなくちゃ」

「憧れのカレン教官みたいに?」

「それは、そうなれればいいけど、でも、どういう風にでも構わない。今日思い知ったでしょ?強さの在り方は一つじゃない。きっと私だけの」

「はいはーい、そゆのは後にして、まずはやすもーよー。ほんっとに疲れちゃった」

 

アーネットに背中を押されながらシャワー室へ向かう。

うん。このことはまたカレンさんに相談しよう。

 

無傷、とはいかなかったけれど、何とか守り切った街を背に、今日のことを心に刻んだ。

 

 

 

************

 

 

「やっと終わったか?」

「ああ、これで少しはすっきりする」

 

通信機をおきながらC.C.の問いかけに返事をする。

日本を襲うというのもそうだが、俺の模倣犯などと言われては捨て置けない。

「しかし無人機とはな。時代は進んでいるんだな」

「とはいえ、機械故に人間よりも行動は読みやすい。何といっても間違えないからな。常に最適解で行動するし、命欲しさに撤退もしない。あとは行動パターンさえ読めれば、な。」

とはいえ、今後AIが進化すると同時に柔軟な対応をしてくるようになれば明らかな脅威となるだろう。スザクに報告しておくべきかもしれないな。

「それにしてもあの模倣犯、傑作だったな」

「まったくだ。俺はあんなに中二病臭い恰好や発言はしていなかったのに、見ていて痛々しいほどだったな」

「え?」

「ん?」

 

一拍間をおいて、C.C.は盛大に笑いだした。

「おいなんだ、何がおかしい」

笑いをひきつったまま、息も絶え絶えといった様子でC.C.がしゃべる。

「今のは皮肉じゃないぞ...クッ...あはは...本当にお前そっくりだったから傑作だと言ったんだ。まさか自覚がないとはな」

「なっ あんなに変じゃなかっただろう、俺は」

「はいはい、そういうことにしといてやるよ。ほら、旅の続きだ。行くぞ」

「おい待て!この性悪女め。いつまで笑っているつもりだ」

 

こうして俺たち二人の旅は、時折何かと交じり合いながら、今日も続いていく。

今日も、明日も。

 


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