おぼろげになっていく視界。
遠のいていく声。
最期の力を振り絞って、傍らにいてくれるナナリーに感謝を伝える。
もう、言葉をうまく発せているのかも定かじゃない。
すごいな、ユフィは。
最期のあの時、君はギアスに抗いながら自分自身の言葉を紡いでいた。
ずっと謝りたかった。君に嘘をついたこと。君を守れなかったこと。
遂には何も見えなくなり、弱々しくなっていく自身の鼓動だけが世界の全てになった。
最期に一目、ルルーシュに会いたかったけど、どうやら間に合わないみたいだ。
もうすぐ会えるよ。ユフィ――――
―――風の音が聞こえる。
瞼越しに、陽の光が感じられる。
あの世、というのがあるのかは知らないけれど、Cの世界があることを、僕は知っている。死者の願い、想いが流れ着くあの世界に、僕も来たのだろうか。
それにしては、身体が重い。瞼を開くのも一苦労で、精一杯の力で持ち上げる。
死者の世界で目覚めるというより、生にしがみつく肉体に無理やり起こされたみたいだ。
呼吸さえ辛く、動かずとも痛みが身体を駆け巡る。
「おはよう、スザク。いや、ゼロ」
さっきまであんなに重く感じられた瞼が、自然と見開かれる。
風の音の発生源は病室の窓から入る陽気に揺れるカーテンで、
声の方の発生源はその窓辺に寄り掛かる、僕の友達だった。
あぁ。ジルクスタンを思い出す。
あの時も、僕は重傷で身体は重く、君は窓辺で同じように語りかけてくれた。
「変わらないな、君は。」
「長い間、ゼロという役目ご苦労だった。今ここで、その重責と、生きろというギアスから解放しよう」
そう言って、君は何かを操作したようだけど、僕にはもうよく見えない。
それから後、君が何かを言っていたようだけど、僕にはもうよく聞こえない。
でも、君がなんて言ってるのかは、なんとなくわかるんだ。
僕も君に、言いたいことが、たくさんあるんだ。
良い思い出も、嫌な思い出も、モザイクのカケラみたいに頭に浮かんでいく。
「ルル シュ ありが と 」
――ギアスにかかった証である虹彩の赤い光が明滅し、スザクにかけられた生きろというギアスが解かれたことを示した。瞼をゆっくりと閉じながら、最期の言葉を弱々しく口にする。その声は微かで、うまく聞き取れなかったが、何と言ったかはわかる。
ありきたりで、それゆえ真っすぐに、想いのこもった言葉。
人として当たり前の寿命を全うした、俺の唯一の友達の姿を前に、自然とこみあげてくる感情が頬を伝う。じわじわと、押し寄せてくる哀しみの波が大きくなる。
溢れ出る涙が、重力に囚われて滴っていく。
病室のドアが開いて、廊下で待っていたC.C.が歩み寄ってきた。
「いつか、この日が来るとはわかっていたが、やはり――」
C.C.は何も言わずに、そっと俺の頭を抱きかかえ引き寄せた。
ユフィを喪ったあの日と、同じように。
病室は、情けなくすすり泣く俺の声と、風の音に包まれた。
どうやら、今度こそ僕は、あの世界に別れを告げたらしい。
体は軽く、重力さえ感じない。
遠くから、僕の名前を呼ぶ、優しい声がした。
やっと、会えた。
君に、話したいことが、伝えたいことが、本当に本当に、たくさんあるんだ。
何から話そうか。時間はきっと、たっぷりある。
一番伝えたいことさえ、後回しでもいいかな。
たった今、ルルーシュが会いに来てくれたんだ。
いつものままの、彼らしい見送りだったよ。尊大で大げさで。
うん、君なら笑ってくれると思った。
それからね、ユフィ――――――――