魔神が 歩みだす 日   作:歩暗之一人

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復活一周年!作品内のちょうど一年後に、訳あってジルクスタンに舞い戻った二人。


魔神 と 歩む 日々

照りつける陽光に潤いを奪われた乾いた大地に、二人分の足跡が轍のように並んでいる。

一年前のあの日は、寄る辺を求める難民に紛れるようにここを後にしたが、今日は私たち二人だけがその思い出をなぞる様に入国した。

「着いたぞC.C.。一年ぶりのジルクスタンだ」

小高い丘を踏破し、眼下にはナナリー奪還作戦の拠点となった国境沿いの小さな村落が見えた。ナナリーを救いたいという思いと、仮面を脱いだルルーシュの願いによって集った戦士たちの一夜の思い出が刻まれた土地。そしてルルーシュが、ゼロとして復活した場所。

「あれからちょうど一年か。あっという間だったな」

「そうか?私にとっては、長い一年だった」

私の言葉が意外だったのか、ルルーシュは驚いたようにこちらを見つめた。

常人の何倍もの時間を生きてきたお前が、そんな風に感じるのかと言わんばかりの表情をしながら。

「私も意外だよ、こんな感覚を覚えるなんて。不老不死になって長らく、過去と未来は同じくらい曖昧で、時の流れは残酷なほど私を置いていくばかりだった。変わり映えのしない経験。死という終わりのない積み重ねの連続。Cの世界でも話をしただろう。限りある命だから人生なんだと。そうして死を望んでいた私に、お前がくれたんだ、笑顔を」

「だが実際には、約束だけ残して俺はお前を置いていった」

「そうさ。やはりお前は稀代の詐欺師だよ。でも私は、その約束を本気にした」

言葉にはしないが、私にとって本当に永かったのはこの一年ではない。そこから始まった門を巡る五里霧中の道程。ルルーシュを取り戻すための旅こそが、私の経験したどんな時間よりも永く、辛く、終わりの見えない不安の日々だった。

「ああ。お前のおかげで、俺は帰ってくることが出来た。その約束を果たす機会を、もう一度手に入れた。二度と手放さない。」

繋いだ手が、少しだけ強く握られる。

この一年で私たちの関係が劇的に変わったということはない。むしろ変わらなかったからこそ、私はたくさんの笑顔を貰った。二人を取り巻く環境から闘争は鳴りを潜め、お互い少しだけ素直になって、自然と手を繋ぐようになった。いつもというわけではない。その必要があるときに、どちらともなく自然と手を伸ばすことに抵抗がなくなった、という程度のものだ。あとはいつもと変わらない悪態と軽口の小気味良い応酬。

ギアスの欠片を探す私たちの一年間の旅は、おおよそそうした平和な日々だった。

それが、ここで始まった。情けない声で私の名を呼びながら走ってきたルルーシュが、息切れしながら私に声をかけたここから。

「なあC.C.、前から聞きたかったんだが、なぜ俺をL.L.と呼ばない?人前では使い分けてるが、どこで誰が聞いてるか分からないだろ。それとも、L.L.というのはやはりその」

「違う。そう言ってくれたことは嬉しかったよ。だがな、私とお前が出会ったとき、私はC.C.でお前はルルーシュだった。私が必死に取り戻したのは、ルルーシュだ。私に人生をもう一度始めたいと思わせてくれたのはルルーシュ、お前なんだよ。だから私は、お前を呼ぶときはこの名前が良い。それだけのことだ」

これも言葉にはしないが、そう――私が愛したのは、L.L.じゃなくてルルーシュなんだ。

これを素直に口に出すには、まだ少し覚悟が足りない。カレンにあんなことを言っておきながら、私はこんな日常が続くことを、明日が来ることを待ち望み、それに甘えている。

ルルーシュはそうか、と一言だけ口にすると、私の手を引いて歩き出した。

 

この国を訪れたのは感傷に浸るためではない。集めたギアスの欠片をCの世界に返すため、私たちは再び門を構成する技術が必要になった。今の私たちは相変わらずCの世界に自在にアクセスは出来ない。散った欠片を回収するか、あるいはそれを他者に授けるかの二択だ。乱れてしまったCの世界の理を元に戻すためには、シャムナの技術が必要なのだ。

 

あの日からちょうど一年。振り返ればたくさんの思い出が浮かび上がり、モザイクのように脳内でひしめき合っている。そのカケラは、きっとこれからも増えていく。

ルルーシュと二人で歩む日々が、いつか私に、私の気持ちを素直に言葉にできる勇気をくれることを祈って。私は今日も、一年前より少し歩幅の乱れと額に流す汗が少なくなった高慢なもやし男の隣を歩く。

きっと、明日も。その先の未来も、ずっと。


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