魔神が 歩みだす 日   作:歩暗之一人

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OPのトラックでルルが倒れてクッションにボフってなるとことか、食事のシーンでドアがしっかり固定されたりしていたのを見てC.C.も苦労したんだろうなって。



泥 の 匂い

 

トラックを転がし、舗装もままならない道を往く。

常に小刻みに振動する車内を、ひと際大きな揺れが襲った。

悪路にうんざりしながら、ハンドルを安定させる。

「ぅあっ!」

荷台から大声がして、反射的にミラーを覗く。

先ほどまで座り込んでいたルルーシュの姿が死角に隠れて見えなくなっていた。

トラックを減速させて路肩に停めてエンジンを切り、急いで荷台へ回る。

「大丈夫か!?ルルーシュ」

「ぅぅっ」

揺れにまかせて倒れこんでしまったらしいルルーシュの元へ駆け寄る。

額を打ち付けたようで、血が滲み出ていた。

「すぐ手当てしてやるからな。他に怪我はないか?」

救急箱を開けながら声をかける。

今後揺れが激しい道を走るときは横に布団かクッションを敷いておかなければ。

傷口を消毒すると、また大声を出して暴れはじめる。

「大丈夫だ。すぐ済むから、じっとしていろ、な?」

幼児をあやすようになだめ、言い聞かせる。

絆創膏を貼って、落ち着くまで抱きしめる。

「もう大丈夫だぞルルーシュ。すぐに痛くなくなるからな」

 

 

そうしているうちに時間が経ってしまい、日も落ちてきた。

空模様も怪しく、雨が降り出してもおかしくない。

今日中に門のある場所へたどり着ける予定だったが、手前の街で宿をとることになりそうだ。

 

数時間の運転を経て、目的の小さな街へたどり着いた。

治安もさほどいいとは言えない雰囲気を感じたが、長時間の運転とルルーシュの世話で疲労感は拭えない。ちゃんとしたベッドで睡眠をとりたくて仕方がない。

ルルーシュとともに夕食を取り、入浴を済ませて寝かしつける。

そのころには、自分の方も睡魔に抗えず泥のように眠っていた。

 

――明日こそは、ルルーシュを。

そう呟いて、微睡みの淵から堕ちていく。

 

 

 

 

ふと、夜更けに目が覚めた。

窓を叩く雨音がじわじわと輪郭を伴ってくる。

重い瞼をゆっくり開き、肌寒さを感じて布団を手繰り寄せる。

嫌に軽いその手ごたえと、焦点があってきた視界が、急激に意識を覚醒させた。

「ルルーシュ!」

ベッドの上にも、部屋の中にもいない。

見回すと、入り口のドアが半開きになっていた。

 

弾かれたように飛び起き、上着もとらずに走りだす。

「ルルーシュ!どこだ!?」

 

よりによって治安の悪そうなこの町でルルーシュを見失ってしまうとは。

建物の間、路地裏や往来、橋の下、川のほとり、あちこち探しまわるが、ルルーシュの姿はない。

土砂降りほどではないが、雨も降り続けている。

 

こんなことなら、入り口を紐で縛るなりして固定しておくべきだった。

そんな後悔とともに、嫌な想像が脳裏をよぎる。

変な奴に絡まれたり、暴力を振るわれていないか。どこかでこけて大けがしていないか。心配と不安で、胸が詰まりそうになる。

 

息も上がってきた。不本意だが、警察の手を借りるべきか。面倒なことになるが、ルルーシュを失ってしまっては元も子もない。ひとまず連絡を――

 

そう考えた瞬間に、視界の端に目的の人影を捉えた。

道端の花壇の前にしゃがみこんで、何かを見つめているようだった。

 

大きく息をついて、急いで駆け寄る。

「ルルーシュ!」

首だけこちらへ向けて、生気のない視線を寄越すその顔は、間違いなくルルーシュだった。

「何をやってたんだこんなところで。早く宿に戻るぞ」

「ん」

ルルーシュが、泥にまみれた手を突き出してくる。

その手には、一輪の花が握られていた。

「これは―――」

 

今のルルーシュに、以前の人格はない。

だが、当たり前に身についた常識や習慣はある程度残っている。

ストローは使えるし、万華鏡を回してみることだってできる。

だがしかし、他人に花を贈る、ということがあるだろうか。

いや、考えても仕方がない。

私が勝手に、送られたことにしよう。

 

「ありがとう、ルルーシュ」

 

だから、その生気のない表情が、ほんの少し笑顔を浮かべたように見えたのも、私の気のせいなのかもしれない。

 

それでもいい。お前がいつか、私との約束を果たしてくれる時が来ることを信じて、私はこの絶望の旅路を往くのだ。

自信たっぷりに、尊大に、不敵な笑みを浮かべて、人を、世界を欺いてきた、誰よりも真っすぐに明日を求めたお前が帰ってくるその日まで。

 

「さあ、帰ろう。ルルーシュ」

薄氷の上を歩き続けるような不安も、暗闇の中を進む孤独も、その積み重ねが、明日を造ると、私は知っているから。

 

泥だらけの手を取って、歩き始める。

いつか、ルルーシュの方から手を差し伸べてくる日が来ると信じて。

 

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