奇跡の明日を享受する人々が、一斉に空を見上げる。
明日への期待と不安を内包する世界中の人々が、その感情の多くを一時忘却の彼方に押しやって、自然現象としては稀有で、あまりにも美しい星の瞬きの数々に見惚れている。
私の周囲にいるものは殊更に騒ぎ立てている。
勝利の美酒を味わいながら、その余韻を彩る最高の名画を目にしたように。
だが、この流星が何を意味しているのか、真の意味を悟るものはこの世界中できっと私だけだろう。人々を魅了するその流星群は、決してそれを見た者の願いなど受け付けない。
それそのものが誰かの願い――命を賭して叶えたかった想いの、それでも叶わなかった心残りなのだから。
私は確かに伝えた。心を残すなよと。シャムナもそれを覚悟したうえで、あの場に残ることを選んだ。最愛の弟が命を落とし、それを見届けることをだ。
しかし、現実には、別れの哀しみに耐え切れずにあの場に澱のように溜まっていた心残りたちが世界に降り注いでいる。
幾度も弟を看取り、その度に己の命を費やすことで甦らせてきた彼女が、遂に迎えてしまった真実の離別に耐え切れなかったのだ。いずれ死ぬと、もう救えないと理解したにも関わらず。
どれだけ固い決意でも、どれほど理性を働かせても、その時が来れば、それは風前の灯火にさえ劣る僅かな抵抗力しか持たない。それを、この鮮やかな夜明けの星々が物語っている。
胸に手を当て、己に問いかける。
お前はどうだ――
ギアスによって、人々から愛され続けた時もあった。永い時間の中で人々は自分を置いていくばかりだった。何度も何度も殺され、必要とあらば殺してきた。
私にとって命は、流れの中でいずれ消える泡のようなものだ。
だが、あいつを同じように定義していられるだろうか。
朝も夜も焦がれて、暗闇をかき分けて、やっと手にしたその命を。
この際だ。自分にくらい正直になろう。
愛してほしい。愛していたい。
でも、愛されれば愛してしまう。愛してしまえば、執着してしまう。
いずれ来る別れの哀しみに、私は耐えられるだろうか。
あいつに愛されない自分に、私は耐えられるだろうか。
詰みだ。私はあいつといると、チェックメイトをかけられてしまう。
私にはあいつしかいないが、あいつにはみんながいる。
この時間にはまだ、あいつを必要とする人々がたくさんいる。
流れ落ちる願いのカケラも、もう少なくなってきた。
荷物をまとめて、このまま立ち去ろう。
また以前と同じになるだけだ。この先の長い時間が、この感情さえ過去のものにしてくれる。そんな時もあったさと。
周囲が落ち着いてきたころを見計らって、荷物を外に持ち出す。
誰にも見られないように、避難民の中に混ざりでもしよう。
ギアスのカケラについても、調査しなくては―――
足を踏み出したところで、荷物を引っ張られて思わずよろける。
心臓の鼓動が跳ね上がった。
考えないようにしていた薄く淡い期待が心の表層に浮上し、そして振り返ったその光景に、一気に落胆した。
「忘れ物」
そういってカレンは私のお気に入りのチーズくん人形を差し出してきた。
少し言葉を交わして、そそくさと逃げるように立ち去る。
あれだけ悩んで、結局期待している自分に少し恥ずかしくなった。
そして同時に、これでいいのだと確信する。
私のこの感情は、私が思うよりも強いらしい。
シャーリーも言っていた。
「想いの力、か」
シャムナがそうだったように、きっと私もその絶望には耐えられない。
一筋の光さえあれば、どんな暗闇でも歩いてこられた。
でも、本当に先がない真の暗黒を前にして、歩いていけるだろうか。
遠ざけてしまう。一人になりたくないのに。
また先延ばしにしてしまう。
それでも、この不安は拭えない。
自分のわがままを、これ以上続ける勇気がない。
「おーい!C.C.!」
遠くから、情けなく息切れしながら近づいてくる声が聞こえた。
思わず足が止まる。
今度こそ、突き放さなくては。
人形を抱きかかえる腕に力を籠める。
なるべく険しい表情で。威圧的な声で。
心の鎧を、仮面を纏って。
この想いが、溢れてしまわぬように。