場内に響き渡る、割れんばかりの喝采を浴びて歩みを進める。
傍らには、相変わらずの漆黒に染め上げられたスーツを纏った仮面の騎士。純白のドレスに包まれた私とは正反対で、コントラストが何だかおかしく思えてきます。腕を組んで歩くスザクさんも緊張しているのか、足運びがいつもと違って、余計にそう感じます。
どうしても今日この日この時を自分の足で歩きたかった私は、ニーナさんにお願いして自律歩行補助の為の装身具を作成してもらい、お陰であの事件以来初めて、自分の力で歩いています。
ヴァージンロードを進みながら、その両脇の座席に座る皆さんの暖かい拍手と祝福の言葉を噛み締める。
その多くは、私自身ではなくて、お兄様が紡いでくれた縁。お兄様の創り上げた、優しい世界がそこに凝縮されたようで、それだけでとても嬉しくて、涙が出てしまいそうです。
行く手に待っているのは、私の旦那様。平凡な出会いをして、ただ互いに惹かれあって、明日を一緒に歩いていきたいと思った、素敵な人。
外見はスザクさんに似ていますが、内面はお兄様に近しいところが多いかも知れません。私に一途すぎるところとか、繊細で傷つきやすいところとか。
でも、お二人とは全然違うところもあって、私が彼を愛したのは2人の影を見たからというわけでは決してなくて。正直で明るい性格は自然と、私や周りの人を幸せにしてくれるのです。
もうすぐ壇上に上がるという所までやってきて、ほんの少しだけ、表面には出さないまま落胆してしまいました。
場内の皆さんのお声に応えながら視線を走らせてみたものの、お兄様の姿が何処にも見えなかったから。
事情はあれど、今日の日のことはスザクさんから知らされているはずなので、もしかしたらお会い出来るかもと期待していたのですが、どうやらその期待は外れてしまったようです。
遂にその短い旅路は終わりを迎え、新しい門出を宣誓する時がやって来ました。
牧師様の役割を快くひきうけて頂いたシュナイゼル兄様の案内で、ゼロの仮面を被ったスザクさんが組んでいた腕を解いて、私を正面に見据え、少しの間膠着していらっしゃいました。
「ゼロ?」
その問いかけに、お顔を耳元に近づけたゼロは、一言。
「結婚おめでとう、ナナリー」
目を見開き、呼吸が止まり、今度は私の方が膠着してしまいました。
だってその声は間違いなくーーー
ゼロはマントを翻し、最前列の空席に腰を下ろしました。
その隣には黒いドレスに身を包む、艶やかな緑色の長髪の女性が佇んでいて、さらにその隣には変装と言うにはお粗末なサングラスをかけたスザクさんが満面の笑みで拍手をしてくださっていました。
そしてその女性の左手の薬指には、確かに指輪が嵌っています。ゼロは手袋をしていますが、きっと、そうなのでしょう。
緊張とはまた違う理由で、胸の鼓動が高鳴ったのがハッキリと感じられ、私は最高の笑顔で一礼し、踵を返します。
シュナイゼル兄様がお決まりの言葉を述べる間、向かい合った彼が小声で呟く。「ナナリー、月並みで悪いけど、今日の君の笑顔は今までのどんな時より眩しく見えるよ」
「ええ、私今、人生で1番幸せですから」
本当にありふれた、でも嘘偽りのない言葉を重ねる。
指輪を嵌めた薬指が、少し強く熱を帯びたように感じる。
「では、誓いの口付けを」
お兄様、私はまだ、たくさんの人の支えがなくては1人で満足に歩くことも出来ません。でも、この人となら、どんなに険しい道でもその歩みを止めることなく進むことが出来ます。
より良い明日を、幸せを求めて。
お兄様もスザクさんも、そして愛する人のいる明日を。
ナナリーが望む時、ルルーシュは必ずそこに居る。