弦巻家の彼は普通になりたい!   作:オオル

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お久しぶりです!今回は話書くの滅茶苦茶大変でした…早くシンには元気になって欲しいですね

それではどうぞ!

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弦巻シンと変わった日常

 いつもと変わらない日常がそこにある。とは言いずらかった。

 

「……今日も弦巻姉弟は休みか」

 

 花咲学園1年4組のクラスには空席が2席あった。それは他ならない弦巻姉弟の席だ。

 

「こころんとシン君もう何日も学校来てないけど大丈夫かな…」

「香澄連絡はしてるんだよね?」

「……うん」

 

 おたえに聞かれた香澄は携帯を取り出しシンとのトーク履歴を見せる。そこには電話をかけたあとがたくさん残されていた。

 

「こんなに連絡してるのに気づかないって…携帯の電源落としてるよね、これ」

「美咲ちゃんこころんの様子はどうだった?」

「ッ!」

 

 美咲を含めハロハピはあの後こころの部屋へと向かったが…そこにいたこころはこころなんかじゃない別人のような変わり果てたこころだった。

 

「こ、こころ?」

「……………………」

 

 ベットの上で体操座りをしているだけ、美咲の問いかけにも応えようとしない。目は光を失い、表情からは生気を感じ取れない。

 

「こころのあんな姿は初めて見たね」

「ど、どうしよう、こころちゃん前みたいに戻るかな?」

「戻るかなじゃなくてはぐみ達が何とかしないと!」

「……でも、どうやって?」

「そ、それは…」

 

 いつも明るくて元気で笑顔だったこころはそこにいない。

 

 それにすぐ元気出しなよ、なんて無責任な言葉をかけることも出来ない。

 

『……………………』

 

 みんなは分かってるのだ。自分の母親がなくなったらどうなるか…と、自分もそうそうすぐに立ち直れないことも

 

「……こころ、今日は帰るよまた来るね」

「……………………」

 

 返事もせず表情も変えず、こころはそのままの姿で美咲達も見送ることもなく美咲達はこころの部屋を後にした。

 

 そして今に戻り

 

「……こころ、うんまた前みたいに戻ってくれるって信じてる」

「そんな状態なんだ…」

「あのこころがね…」

 

 香澄とおたえはそれぞれの反応をする。今まであんなに元気だったこころがそんな状態なら驚くのも無理はない。

 

「……じゃあシン、は?」

「アギトさんの話によるとこころより酷いって」

「ッ!私達で何かできないの?」

「山吹さん、私達でできることがあるならとっくにやってますよ…」

「……そう、だよね」

 

 シンの家を知っている人は極わずか、沙綾は知らないため何かをしてあげれない。それにシンは学校に来ようとしない。話すことさえできないのだ。

 

「シン…お願いだから戻ってきてよ…!」

 

 沙綾の携帯にはシンとのトーク履歴が表示されていた。そこには香澄とは比べ物にならないほどの電話をかけた履歴が残っていた。

 

 そしてそのまま弦巻姉弟は来ずにその日が終わった。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「……………………」

 

 千聖は無言でシンの家のドア前にて深呼吸をしていた。

 

 息を落ち着かせ、集中するかのように

 

 意を決した少女は扉を開け中に入る。廊下を歩きリビングのドアを開けると

 

「ッ!」

 

 わかっていた。彼のことだからこうなってるんじゃないかって、だけどいざ目の前にその光景を目の当たりにすると精神的にキツくなる。

 

 千聖の目にはシンの姿がある…がシンもいつものままではない。

 

 制服を着たまま壁によっかかって座り下を向いたままだった。

 

 こころと同様その姿から生気を感じれと言われても無理があるものだ。

 

「……………………」

 

 千聖はそっと近づき手を伸ばした。

 

「シン学校に行きましょう、もう何日も来てないわ」

「……………………」

「あなたお風呂には入ってた?念の為お風呂に入りましょうか」

「……………………」

「……お風呂沸かして来るから待っててね」

 

 千聖は立ち上がりお風呂場へ向かい準備を始める。風呂か沸くまでに時間がかかるためその間に軽食を作る。しかしシンの家に食材があるかと言われたら少ないため一旦自宅に戻り材料を運びシンの家で調理をする。

 

「お風呂が湧きました」

 

 電子声がお風呂が沸いたと知らせてくれたためシンの元へ行き

 

「お風呂が沸いたわ、入りましょう」

「……………………」

「そうだお風呂上がったら何か食べましょう、お腹、空いてるでしょ?」

「……………………」

 

 彼女がこんなにも話しかけているのにシンは返事なんかしない。普通の女子ならこんなに態度取られた時点で話しかけないと思うだろう。

 

 しかし千聖は違う。彼女は他の誰よりもシンに無視され続けていたのだ。中学時代何度千聖が話しかけてもシンは返事しない。だけど千聖は諦めることなく話しかけていたからこそ今こんな状況でも平然と話すことができるのだ。

 

「はいバンザイして」

「……………………」

 

 シンは無言のまま千聖の問に答える。千聖は少し驚いたがすぐに制服を脱がす。

 

「……ズボンはどうする?」

「…………いい」

 

 小さい声でシンは答え一人で脱衣所へと向かう。そのままシャワーの音が聞こえだしたところで千聖はご飯の準備へと取り掛かる。

 

 シンはすぐに風呂から上がってきたが髪は濡れたまま、ドライヤーなんてせずに来たもんだから髪の毛から雫が垂れる。

 

「髪、乾かしましょうか」

 

 千聖がシンの手を取り洗面所にて千聖がシンの髪をドライヤーにて乾かし始める。

 

「……小さい頃よく千歳の髪を乾かしてたわ」

「最近は帰って来る時間が違うから今みたいなことはできないわ」

「……………………」

 

 千聖は千歳との思い出を語るがシンは返事なんてせずただ黙って髪を乾かされてるだけだ。

 

 そのあとご飯を食べるもシンは千聖が作ったサンドイッチを一口だけ食べると

 

「……ごちそう、さま」

「…………もう少し食べないといけないわ、せめて一つだけでも食べとかないと」

 

 シンは首を振って拒み千聖も諦め二人で学校に行くことになった。

 

 しかしシンがそう簡単に行こうとしない、千聖が来る前までずっと居た壁際に戻りまたそこに座り出したのだ。

 

「学校に行くわよ」

「…………行かない」

「ッ!また前に戻るの?あなたは過去を克服したんじゃなかったの?」

「……………………」

「はあ、行くわよ」

 

 千聖はシンの手を取り無理やり家から出させ学校へと連れて行った。

 

 連れていくのはいいがその光景を登校中の生徒には見られてしまう。

 

 千聖がシンの手を握って一緒に歩いている。こんな光景を見た生徒達は

 

「な、なんだあれ」

「千聖さんがなんで実行委員長君を?」

「あの二人の関係ってなんだ?」

「前も彩ちゃんとなんかなかったけ?」

 

 と、思っても仕方が無い。なんせ千聖はアイドルであり女優でもある、そんな彼女が男子生徒と、シンと手を繋いで歩いているなんて週刊誌の人達にでも見られていたら騒動になるだろう。

 

 

 

 

「……やっぱりシン君今日も来ないのかな?」

「どうなんだろうね…」

 

 香澄とおたえが教室にてそんな話をしている時教室のドアが開く

 

『ッ!シン君!?』

 

 シンが学校にやって来た、けど千聖の手に引かれてだが

 

 香澄やおたえだけでは無い、クラスのみんなが驚いていた。それはシンが学校に来たからという理由もあるが別の理由もある。

 

 あの白鷺千聖がシンを連れてきたこと、そしてシンの表情を見て驚いているのだ。

 

 何度も説明するが瞳には光がなくその表情からは生気を感じられない。

 

 そんな様子を千聖は気に求めずシンの席へ向かい座らせる。

 

「昼にはご飯持ってくるからここで待っとくのよ?」

「……………………」

「……それじゃあね」

 

 千聖は教室から出ていくが誰も止めようとしない、香澄やおたえは話しかけようと思ったがシンがシンなだけにすぐに言葉を発せれなかった。

 

「……千聖さん、ちょっといいですか?」

「…………なに?沙綾ちゃん?」

 

 教室ではない廊下で沙綾は千聖を呼び止め話しかけた。

 

「なんであんな状態のシンを無理やり学校にこさせたんですか?」

「……なんで、ねー」

「ねえ沙綾ちゃん」

「……なんですか?」

 

「あなたシンのこと好きなんじゃないの?」

「ッ!……だったらなんですか」

 

 千聖からの質問はあまりにも直球すぎた。しかし沙綾は素直にシンのことが好きだと答えた。

 

「私もよ」

「……え?」

「私もシンのことが好きなのよ」

「ッ!」

 

 彩とひまりがシンのこと好きだってことは知っていた。けど、まさか千聖までがシンのことを好きとは知らなかったようだ。

 

「私は好きな人があんな状態でほっとくなんて無理なのよ」

「……でも」

「でもじゃないわ、あなたシンのこと好きなのよね?」

 

 千聖は沙綾に顔を近づけ問いかける。

 

「本当に好きだったら無理矢理でも彼を元に戻したいって思うはずよ」

「……………………」

「あなたのシンへの愛はその程度だったのかしらね?」

「ッ!」

 

 何も言い返せなかった。沙綾はシンのことが好きだ、しかし千聖なみの愛はそこにはなかったのだろうか…

 

「シンは私のヒーローなんです」

「……そう」

「……だからシンは私だけの正義のヒーローになって欲しいんです」

「頑張ることね」

 

 千聖はシンがみんなの正義の味方になりたいことを知っているから頑張ることねと言ったのだ。

 

 しかし沙綾もそれは知っているが、知っていても自分だけの正義のヒーローにさせたいのだ。

 

 彼女が一体どういった経緯でシンにそこまで執着するのか…それはただ単に独占したいだけなのか、それは沙綾自信しか知りえないことなのだ。

 

 沙綾は教室に戻るとシンの周りに人だかりができていた。

 

 興味本意に近づくものがいれば心配して近づくものも、色々あったがシンは何も返事をせず一点を見つめたまま

 

「シン」

 

 話しかけようとした時にちょうどよくチャイムが鳴り

 

「よーす、HR始めるぞ」

『……………………』

 

 担任の秋月先生が来てHRが始まる。

 

「弦巻姉弟は本日も休み……じゃないみたいだな、弟の方は来たのか」

「……………………」

 

 シンを見るが特にこちらを見返す様子がない。

 

「……今日は特に伝えることは無い、1限目の準備しとけよー」

 

 HRはすぐに終わり午後の授業が始まる。各授業の担当教師達はシンが来ていることに一瞬驚くも何事もなく授業を始める…が、シンが当てられることは1度もなかった。

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 昼休みの開始のチャイムが校内に鳴り響き生徒達が活発に行動し始める中シンはやはり動かない。

 

『……………………』

 

 そんなシンを見つめるのは香澄、おたえ、美咲、りみ、イヴ、はぐみ、そして沙綾の同じクラスのメンツ達だ。

 

「昼には千聖さんが来るって言ってましたよね?」

「でも遅いね」

「はぐみ嫌だよ…!こころんとシンくん元気になって欲しい」

「それはみんな同じ気持ちだよ」

 

 美咲の発言にみんなが頷く、でもどうやればシンが元通りになり笑顔になるかなんてわからない。

 

「よーす、シンのやつ来てんだろ?」

「有咲、うん来てるけど、ね」

「…………ふーん」

『有咲!?』

 

 有咲はすぐにシンの元へと近づこうとした。

 

「久しぶりに来たかと思えば元気ねーじゃん?」

「……………………」

「お前の気持ちよく分かるよ、前にさあたしの両親が亡くなった話したよな?」

「あたしも当時はすごく落ち込んだ、なんであたしだけ生き残ってるんだろうって」

「……………………」

「えっと、そのーなんだお前みたいに誰かを励ます力は持ってないけどさ」

「お前のことあたしはちゃんと理解してるから」

「……ッ!」

 

 シンが少し反応した。それに対してみんなはやった!と、思ったが

 

「……違うんだ有咲」

「ッ!な、何がだ?」

「……………………」

「おい!なんとか言えよ!何が違うんだよ!おい!」

 

 有咲がシンの方を握り揺さぶるがそれ以降シンは話さなくなってしまった。痺れを切らした有咲はみんなの所へ戻ると同時に

 

「皆さんこんにちは」

「こんにちは、です」

 

 紗夜と燐子がシンの様子を見に来たのだ。

 

「あれがシンさん、なのですか?」

「べ、別人に見えます…」

 

 燐子に関してはついこないだあんな話をしてた人が目の前にいるにも関わらず別人に見えると言っていた。

 

「……事情は聞いています」

「何とかして元に戻って欲しいですけどね」

 

 燐子がなんで戻って欲しいと言っているのか理由は置いといて、みんながそう思っているはずだ。

 

「あのーシン先輩いますか?」

「……り、リオ君!?」

「ぬあー!燐子先輩!?は!氷川先輩!実はこの」

「リオ君!し、シン君にようがあるんじゃな、ないんですか!?」

「……そうでした」

 

 リオが突然現れ戸惑う燐子であったが咄嗟にリオの組に手を置き喋らせまいと止めだし話を無理やり逸らした。

 

「えっと、誰なんですか?燐子先輩?」

「今井さんの弟さんです」

『えー!?』

「そ、そんなに驚くことですか?」

 

 まさかのリサの弟登場で驚く一同そんなことは気にせずリオはシンの様子を見ては

 

「あれはやばいっすね、あはは」

 

 などと言い帰ろうとするが

 

「どこ行くのよリオ」

「げ、明日香」

「あっちゃん!?」

 

 リオに続き香澄の妹との明日香、そして

 

「あらあら、先輩とんでもないことになってますねー」

 

 明日香の後ろにいた千歳が教室の窓に手をかけシンの様子を見てそう言っていた。

 

「千歳の言う通りとんでもないことになってるわね」

「ッ!姉さん」

 

 次は千聖が現れ教室の前ではシンの関係者だらけが集まっている形になっていた。

 

「みんなは何してたの?」

「シン君を元に戻せないかって考えてて」

「……それはそうね」

 

 千聖は弁当を手にシンの元へと向かい何やら話している様子だった。

 

「…………つまんないの」

 

 千歳は誰にも聞こえない声でそう呟く

 

「帰りましょう明日香」

「う、うん、お姉ちゃんまたね」

「……うん、あっちゃんまたね」

「…じゃ、じゃあ俺も帰ります。燐子先輩さ、さようならです」

「はい、さようならです」

 

 千歳を含む中学メンツは中等部の校舎へと戻って行った。

 

「白鷺ってシン先輩と知り合いだったん」

 

 話の途中で遮るように千歳は思いっきりリオの胸ぐらをつかみ

 

「白鷺って誰?私のこと言ってるの?ねえ?」

「千歳!落ち着いて!」

 

 明日香が助けに入りリオは助けられた。

 

「千歳は苗字で呼ばれることを嫌ってるって知ってるでしょ?」

「だけど急に下の名前で呼んでも…」

「じゃあ私もあなたのことリオって呼ぶから気安く千歳さん、いや千歳様と呼ぶことね」

「……やっぱり女子って怖い」

 

 リオは改めて女子が怖いということを感じたのであった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 午後の授業なんてものはあっという間に終わってしまう。学校なんてそんなものなのだろ。

 

 帰りのHRも終わり生徒は帰宅、もしくは部活へと足を運ぶものだ

 

 シンは朝とは違い自分で席から立ち上がり一言を発することなく下駄箱に行き靴に履き替え帰ろうとする。

 

 校門をくぐろうとしたその時だ

 

「シン君!」

「……篠崎、先輩?」

 

 現れたの篠崎愛奈、弦巻家の新しいメイドの彼女がシンの目の前に現れたのだ。

 

「みんな元気がないの」

「……………………」

「確かに奥様が亡くなって悲しくなるのはわかるよ、私だって悲しい…!」

「けどさ!ずっとクヨクヨしてたって何も変わらないんだよ!」

 

 愛奈は周りのことなぞ気にせず大声で話し続けた。

 

「アギトさんはアギトさんで何考えてるかわからないしさ!」

「アレックスさんはこころちゃんとシンジ君の面倒見ててさ!」

「もう弦巻家のみんなが、みんながさ…!」

「……………………」

 

 愛奈は泣いていたのだ。ついこないだ弦巻家の一員になったばかりなのかもしれない、だけれど愛奈誰よりも弦巻家のことを心配してくれてるのだ

 

「私達で何とかしようよ!シン君と私でみんなを元気にさせようよ!ね!」

 

 手を取り愛奈は言うもシンは返事をしなかった。

 

「私実はシン君達が羨ましかったの」

「奥様に愛されてて、家族が仲良くて羨ましかったの」

「でも最後に奥様が私を愛してるって言ってくれたからさ、私も愛されてたんだって思って嬉しいかったの」

「……………………」

「奥様が亡くなって家族が減ったことは悲しいけど乗り越えないと何も始まらないよ!」

「ッ!」

 

 やっとシンが反応を見せたかと思った愛奈は一瞬嬉しそうな顔になるも

 

「……そうだ、家族が減ったなら増やせばいいんだ」

「ッ!し、シン君?」

「ありがとう篠崎先輩、ちょっと行ってくるよ」

「ちょっとシン君!」

 

 シンは振り返ることなくどこかへと向かって行ったのであった。

 

 

 

「はあ、面倒くさ」

 

 美竹蘭は日直であるため1人教室にて日報を書いていた。1限目がなんで2限目がなんで、と6時限目までの授業を書きその感想、そして1日の感想と聞くだけで書くのが面倒臭いとわかるだろう。

 

「今日は練習もないし、みんなバイトだし帰りは1人、だね」

 

 別に1人が嫌だってわけじゃない。ただみんなと帰る方が楽しいから少し寂しいだけ

 

「…………シン、大丈夫かな」

 

 書く手は止まりふと好きな人なことを考えてしまう

 

 母親が亡くなってからシンが学校に来てない話はつぐみがイヴから聞いたらしくその話をつぐみが蘭達に話していたのだ。

 

「また前みたいに戻って欲しいな」

 

 そんなに独り言を言い少し雑に書いた日報を担任に提出し帰宅しようと校門をくぐると

 

「ッ!シン!」

「よお、蘭」

 

 シンが羽丘の校門付近に立っていたのだ。それはまるで誰かを待っているかのように

 

「もう大丈夫なの?」

「……蘭」

 

 蘭の質問に答えることなくシンは蘭に抱きついていた。

 

「え、え?ちょ、ちょっと何!?」

 

 顔を赤くした蘭が慌てふためく

 

「蘭」

「は、はい」

「……俺と結婚してくれ、ないか?」

「ッ!え?」

 

 シンから放たれたのその言葉は衝撃すぎたのだ。

 

「俺頑張るよ、蘭にはあまり負担かけないように頑張るからさ」

「は?いや、ちょっと話が読めない」

「子供は1人でもいいよ母さんに見せれるなら人数なんて関係ないさ」

「…………あのさ、ひとついい?」

 

 蘭はシンから離れ質問をした。

 

「それってさ私のことが…す、好きだから結婚したいの?」

 

 少し期待していた。自分のことが好きでそう言っているのではないかと、だけどシンの返事は

 

「?別に母さんが蘭のこと気に入ってたからだけど?」

「……あっそ、ならあたしはあんたと結婚なんてできない、いやしたくもないね」

「ッ!なんでさ」

「なんでって、あんた本気で言ってるの?」

「…………さよなら」

 

 蘭はシンの横を通りすぎ家へと向かう。

 

「私が好きになったシンはあんなシンじゃない…!」

 

 1人でそう呟く蘭は悲しそうに表情で家へと向かったのであった。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「……………………」

 

 蘭に振られた、とで言っておこうか、蘭に振られたシンは公園のベンチに1人で座っていた。

 

 自分がなんで蘭に嫌われたのさわからなかったのだろうか、今のシンにはそんなことを考える余裕がないのだ。

 

「……シン、君?」

「…………ひまりか」

 

 バイトの帰りであろうひまりが偶然シンと出会ったのだ。

 

「どうしたの?こんな所でさ」

「…………別に、なんでもない」

「話、聞いたよ」

「……………………」

「元気出しなよ、シン君らしくないでしょ?」

「じゃあひまりが何とかしろよ」

 

 シンは立ち上がりひまりの前へと移動してひまりの顎に手を当てて

 

「俺の事好きなんだろ?だったら俺を癒せよ」

「し、シン君…」

 

 ひまりはシンとキスしようと一瞬思った。だけどすぐにそれはダメだと判断した。

 

「ッ!離して!」

「ッ!」

「しっかりしてよシン君!シン君はそんなことする人じゃないでしょ!?」

「私が好きなったシン君はそんな人じゃない!このバカ!」

 

 断られなおかつバカにされたシンはその場から動くことが出来なかった。

 

バシャ!

 

「……これで少しは頭を冷やせれると思うよ!じゃあね!」

 

 近くにあった子供が忘れたであろうバケツに水を入れシンに頭からかけていたのだ。

 

「…………なんだよ、本当になんだよ」

 

 1人で立ったままそんなことを嘆いていたら

 

「し、シン君!?どうしたの!?ずぶ濡れだけど!?」

 

 突然現れたの彩が焦りながらシンに近づく、ひまりと彩はバイト先が同じため終わる時間が一緒だったんだろうか、彩もその公園を通った際にシンを見かけたのだ

 

「このままだと風邪ひいちゃうし、え、えーと!」

「そうだ!私の家近いからシャワー浴びよっか!」

 

 彩に手を引っ張られる形で公園を後にし彩の家へと向かった。

 

「なんで濡れてたの?」

「……ひまりに水をかけられた」

「な、何かしたの?」

「………………別に、なにも」

「気になるんだけど!?」

 

 そんな話をしてたらすぐに彩の家に着く

 

「ちょっと待っててタオル取ってくる」

 

 シンは玄関にて立って待っていたら

 

「ただいまー!……あれ?お兄さん誰?」

 

 彩と似ている女の子が丁度よく帰ってきたのだ。

 

「シン君タオル持ってきたよー!って!彩音!か、帰ってきたの?」

「うんさっき帰ってきたの」

「……………………」

 

 彩音はシンと彩を交互に見て何かひらめいたような反応をして

 

「姉ちゃんが彼氏連れ込んでるー!」

「ち、違うよ!いや違わないかも?んー!わからないよー!」

「お兄さん姉ちゃんの彼氏なの?」

 

 彩はタオルで顔を隠しているが内心では彼氏だよって言って欲しいと期待していた。でもシンは

 

「俺が彩と付き合えるわけないだろ」

 

 と、言っていた。

 

「……ごめん、俺帰るよ」

「髪ぐらい乾かさないと風邪ひ」

「おじゃましました」

 

 彩の話を聞くことなくシンは家を出てどこかへと向かって行った。

 

「……もしかしてギスギスしてるの?」

「……そうじゃなくて!あと帰ってくるの遅いよ!母さんがいないからってこんな遅くまで遊んでたら危ないよ!」

「彼氏連れ込んでた姉ちゃんに言われたくないよ!」

「な、何も言い返せない!」

 

 丸山姉妹は仲がいいようだ。

 

 シンはまた1人になりどこかを歩いていた。家に帰る様子もなければどこかに向かっている様子もなかった。

 

 ただただ適当に歩いている、そんな感じだった。

 

「シーン君」

 

 そんなシンを呼び止めたのは

 

「モカ?」

「うん、シン君の大好きなモカちゃんですよー」

 

 モカはバイト後にシンを偶然見つけたため話しかけたのだ

 

「ねえ、少し話さない?」

 

 モカはシンの手を取って公園に連れて行った。

 

「そう言えばここはモカちゃんとシン君ここでキスした思い出の場所ですなー」

「…………そうだな」

 

 でもそこはひまりにバケツいっぱいの水をかけられた公園でもあるがシンはその事に気づいていなかった。

 

「もう1回キスする?」

「…………そうだな」

 

 シンは適当に返事をしたのだがモカは本気だと捉えたらしく

 

「ッ!」

 

 モカとシンはまた同じ場所でキスをしていた。

 

 シンは最初抵抗しようとしたがモカがそれを逃がすまいとシンの頭に手を置きずっとキスをしていた。

 

 シンもシンで先程ひまりとキスをしようとしていたためその分を取り返すかのように2人で濃厚な時間を共有していた。

 

「……えへへ、シン君ノリノリだったね」

 

 夜中の公園でそんなことはしてはいけないがこの2人は気にせずに行っていた。

 

「また新しい思い出できたねー」

 

 とモカは言うがその顔は耳まで赤くなっていた。

 

「…………なあ、モカ」

「んー?」

「俺さ、もうわからないんだ」

「……何が?」

 

 モカとのキスで目が覚めたのか、シンは普通にモカへと話しかけていた。

 

 なんでモカに打ち明けたのだろうか、他の人達にも、なんなら最初に話しかけてくれた千聖先輩に言えばよかった。

 

「俺は正義の味方になりたかった、なのにもうなれない、これから俺は何を目的にして生きていけばいいのかわからないんだよ…!」

「……そうだったんだ」

「俺は母さんを守れなかった!母さんの変化に気づけていなかった!」

「……そんな俺が正義の味方を目指すことはおこがましいこと」

「いや、そもそももうなれないんだよ…!」

「……シン君」

 

 正義の味方になりたい気持ちの半分、もうなれないと諦めている。その気持ちがシンの眼に現れたの左右瞳の色が異なっていた。

 

「シン君、今日家泊まってく?」

「ッ!な、なんでさ」

「いいから泊まるの!レッツゴー!」

「お、おい」

 

 またモカがシンの手を握り次はモカの家へと向かって行った。

 

 着いてモカが親に事情を話せがモカの父さんが怒ったがモカとモカの母さんが沈め強制的に許しを得たうえで急遽モカの家でお泊まり会が始まった。

 

「な、なんだよ俺をこんな所に連れ込んで」

「こんな所ってモカちゃんの部屋だけどねー」

「……まあ男女が同じ屋根の下で2人っきりになったらすることはひとつだよねー」

「な!?まさかお前!」

「ゲームしようか」

「……そ、そっちか!」

 

 徐々に調子を取り戻したシンはいつも通りモカにツッコミをする形で楽しくゲームをやり始めていた。

 

「……シン君さ」

「んー!な、なんだ!」

 

 ゲームをしてる途中にモカが話しかけてくるが集中してるから少し口調が強くなってしまう。

 

「元気になってよかったよ」

「…………元気、ねー」

 

 その話をした途端シンの指が止まり敵キャラにやられ画面にはゲームオーバーと英語で書かれていた。

 

「ねえシン君」

「なんだよ」

「……エッチしたらさ、元気でる?」

「なっ!え?な、なんて!?」

「うっそー」

「なんだよそれ!?」

 

 モカがゲーム機を片付けているなか携帯を見てみる。その時気づいたが千聖先輩のモバイルバッテリーを借りていたことを思い出した。

 

 けどあのひまりにかけられた水のせいでモバイルバッテリーは壊れており充電されているマークが表示されていなかった。

 

 少し罪悪感がある中通知を見ると沢山電話がかかってきておりつい先程にも電話がかかっている様子だった。

 

 何故かマナーモードになっていたため気づくことがなかったため急いで千聖先輩に電話をかけなおした。

 

 って、特に話すことないのに何してんだろう、俺は

 

「もしもしシン!今どこにいるの!?」

「……あーもしもし、その色々迷惑かけました」

「……そう、元に戻ったのね」

「いや、んーまあ、はい」

 

 まだ解決したわけじゃないが千聖先輩にこれ以上心配をかけないように嘘をついた。

 

「それで?今何処にいるのかしら?」

「……モカの家です」

「ッ!……へー、そう、元に戻ったならいいわ、さようなら」

「?は、はい」

 

 シンとの電話が終わった千聖は

 

「……またあなたなのね、モカちゃん」

 

 千聖は悔しそうに枕に顔をうずめてそう呟いていた。

 

 そんな中モカもひとつ行動をしていたのだ

 

「……あ、もしもし蘭?」

「モカ、こんな時間に何?」

「少し頼みがあるから力を貸して」

「ッ!わ、わかった」

 

 いつものモカではないと気づいた蘭はモカの話を真剣に最後まで聞いていた。

 

「……わかった、みんなに伝えとくよ」

「あたしもできるだけ連絡するからよろしくね」

「……モカ、あのさひとつ聞いていい?」

「ん?なーに?」

 

 いつものようにモカは気の抜けた返事をする。

 

「モカってシンのこと好きなの?」

「…………さあ?どうでしょうねー、それじゃあ蘭殿ー頼んだよ〜」

「ちょ!モカ!」

 

 電話が切れたことを確認してモカは口を開いた。

 

「誰よりも先にシン君に恋してるよ」

 

 そんな独り言を言った直後にシンが部屋に戻ってきたためモカは少し驚いたがすぐに元に戻った。

 

「(なるべくシン君に悟られないようにしないと)」

「シン君ーもう夜も遅いし寝る?」

「……そうだな」

 

 ベットがひとつしかないため一緒に寝る2人だが向かい合うことなく背中合わせで寝ていた。

 

「シン君明日休みだしさ?デートしない?デート」

「いや明日はみんなに謝るよ、色々迷惑かけたし」

 

 謝るのは当然さ

 

「その前にちょっーと行きたいところがあるの」

「……まあ少しだけなら」

「やったーシン君とデートだ」

 

 その後モカは静かにすーすー寝息を立てている中シンは寝ることなんてせずずっと考え事をしていた。

 

 モカの前では普通に振舞っていたがまだ完全に調子を取り戻したわけではない。

 

 だけど、なんでだろうモカの前だけでは普段通りにしたいと思ったんだ、本当になんでだろうな

 

 まだ立ち直れてない、正義の味方になりたいけどなれない、母さんは俺が原因で亡くなってしまった。それにしても正義の味方を諦めることにしてもこれからどうすればいいのかもわからない。

 

 ああいつもこれだ、このことがずっと頭の中にあるから寝ることなんてできないし他の人の話なんて全然聞こえない。

 

 なのに、なんでだ?

 

「なんでモカのいるとこんなに落ち着くんだ」

 

 今は寝てるからなのかさっきよりも心細く感じてしまう。

 

 ダメだ、気が緩むとまた考え込んでしまう…!

 

 1人で悩んでいる時

 

「んーシン君ー」

「ッ!も、モカ?」

 

 モカが急に後ろから抱きついてきた。

 

「シン君ーえへへ、結婚しようねー」

「……また寝言で言ってんのかよ」

 

 前にモカが風邪を引いた時もそう言えば言ってたな

 

「……シン君、大好きだよ」

「ッ!も、モカ今なんて!」

「すー、すー、」

 

 モカが抱きついてくれているからなのだろうか、落ち着いて来てだんだん眠くなってきた。

 

 思い返せば母さんが亡くなってからあんまり寝ていなかったけ?

 

 思考が止まり急に睡魔が襲ってきて久しぶりに気持ちのいい寝にはいることができたと思った。

 

「(モカに対するこの気持ちってなんなんだろうな)」

 

 寝る前にシンはそう思ったのであった。




モカがしようとしているこては何なのか、それは次回でわかります。シンの時間で完全復活ってところですね

あと少しで綺羅との話も決着がつきます!後2.3話ぐらいかな?お待ちください!

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