メモリーズコネクト!~プリンセス達の四方山話~   作:上月 ネ子

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やはり世間はキミを中心に形成する(前編)

山中に構える【牧場】。

そこへ裏手の山から徒歩で目指す少女の姿があった。

 

 

「今日は久々にシオリンに会いに行く日なのだー☆」

 

 

スキップで駆けるハツネは、妹のシオリに会える楽しみでテンションが上がり、思わず超能力が出そうになるのをグッと堪える。

 

ハツネは本当なら超能力を使って【牧場】まで飛んでいきたいところだが、基本的にハツネは超能力を自分のために使おうとはしないので、己の歩で山を登っていく。

 

牧場主のマヒルが飼っている牛たちが見え始めた頃、ハツネは駆け足を早めて向こうに見えるギルドハウスを目指す。

 

ギルドハウスまで登りきったとき、ハツネの心を癒すあの優しい笑顔のシオリが――

 

 

「…………んー? えっと、しおりんのお姉さんだっけ?」

 

 

――出迎えてくれることはなかった。

 

槍を杖がわりにして気だるそうに立っているリスの獣人――リンはハツネの顔を見て首をかしげる。

 

 

「えっと確か、【牧場】のリンちゃんだっけ?」

 

「厳密には【自警団】だけどね~。説明が面倒くさいからそれでいいや」

 

「ねえリンちゃん、シオリンは?」

 

「いないからあたしがこうして見回りしてるんだよね……。いたらしおりんに……いや、なんでもない」

 

 

シオリがいたら見回りの仕事を押し付けていただろうが、それを姉のハツネの前で堂々と口にするのはリンには流石に憚られた。

 

 

「え……シオリンいないの?」

 

「うん、今日は調子がいいからってランドソルへ下りてったよ。ちょうど一時間前かな?」

 

「そんなあ~! せっかくシオリンに会えると思ったのに……」

 

 

オーバーリアクションとも思えるくらいに頭を抱えて、両膝をつくハツネ。

リンはそれを軽く呆れながら見ていると、不意にハツネは目を見開いて立ち上がった。

 

 

「…………え? どうしたの急に?」

 

 

リンが呼び掛けるが、ハツネの耳には届いていない。

 

何故ならハツネの脳裏にはあるビジョンが映し出されているからだ。

 

――ランドソルの大通りをふらふらと歩くシオリ。そして前のめりに倒れてしまうその瞬間を。

 

 

「シオリンが危ないッ‼」

 

 

ハツネの体はふわりと浮かび上がり、上空まで飛び上がると、そのままランドソルの方向へと全速前進するのだった。

 

それを見上げることしか出来なかったリンは、

 

 

「……あたしは何も見なかった。うん」

 

 

面倒な臭いしかしなかったので、見て見ぬふりをすることにしたのだった。

 

 

 

 

 

今日は体調が良い。そう思っていた。

だが甘かった。比較的体調が良くとも、時間が経てば急に気分が悪くなることなど、過去に何度もあった筈だった。

にも関わらず、シオリがランドソルまで下りてきたのは、彼に誘われて甘味の屋台に連れていってくれる、とテンションが上がっていたのだ。

 

ならば、きっと調子に乗りすぎた自身への報いなのかもしれない。

 

 

「はぁ……はぁ…………っ」

 

 

ふらふらと覚束ない足取りで待ち合わせの場所を目指すが、視界もまともに見えず、今にも倒れそうだった。

 

そして、石の出っ張りに躓き本当に前のめりに倒れてしまった。

 

 

「うぅ…………、ユウキ……さん……、お姉ちゃん…………っ」

 

 

思わず名前を溢したのは、本能的に助けを求めたのか、それとも。

 

考えすらまともに纏まらず、意識も黒く塗り潰され始める。

 

最後に聞こえたのは、

 

 

「――んー? 誰かお姉ちゃんのこと呼んだ?」

 

 

年上の女性の声だった。

 

 

 

 

 

目を覚ましたときに一番最初に見た光景は、全く知らない天井だった。

 

自身の額には湿ったタオルが置かれており、ベッドに寝かされていた状態のシオリは、上体を起き上がらせて周囲を見渡す。

 

 

「……ここ、何処?」

 

「――あ、目が覚めたんだね」

 

 

ドアを開ける音と共に、エプロンを身につけた薄青髪の女の人が入ってきた。

 

 

「あなた、は……?」

 

「私はシズル。ここは私の親戚の家なんだ。応急処置ってことでベッドを借りたの」

 

「……シオリです。あの、わたし、どうしてこんなところに……?」

 

「覚えてないの? 道のど真ん中で倒れてたんだよ?」

 

 

言われて、シオリは少しずつ頭が覚醒する。

最後に覚えているのは、前のめりに地面に倒れたところまで。

 

 

「えっと、助けてくれて、ありがとうございます……」

 

「気にしないで。お姉ちゃん的には困った子供は見捨てることなんて出来ないから!」

 

「お姉ちゃん? 弟妹(きょうだい)がいるんですか?」

 

「うん。弟と妹が一人ずつね」

 

 

へえ、と相槌を打ちつつ、シオリは彼女の雰囲気を観察する。

柔和な笑みを浮かべて、シオリを甲斐甲斐しく看病する人の好さ。

シオリにとって姉はハツネだが、確かに彼女とはまた違った姉であることは間違いない。

 

 

「とにかく、起きたならちょうど良いや。ひとまずお粥食べちゃって」

 

「わざわざ用意してくれたんですか……?」

 

「当然だよ。……それに、まだまともに動けないんじゃないかな?」

 

「……っ」

 

 

シオリは言われて、ただ身体を起き上がらせただけで少し汗をかいたことを自覚する。

足を動かそうとするが、まるで疲労がどっとあふれでるように痺れている。

 

 

「まあそういうことだから、お粥食べてまずは元気になること。よく食べてよく寝たら動けるようになるよ」

 

「…………はい」

 

「ところでシオリちゃんってこの辺りじゃあんまり見かけない子だけど、何処に住んでるの?」

 

「わたしは山の方の【牧場】で療養しているんです。体調が良い時は今日みたいにランドソルまで下りてきて……」

 

「なら今日は何の用事で下りてきたの?」

 

「それは……人と待ち合わせしてたんです。美味しい甘味屋台を紹介してくれるって」

 

「………………………ふうん」

 

 

含みのある間を持たせてシズルは相槌を打つ。

 

 

「まあその辺りの話は後でゆっくりじっくり(・・・・・・・・)聞かせてもらうとして、お粥を持ってくるね。そのあとアルバイトで留守にしちゃうから、ゆっくり待っててね」

 

 

一瞬シオリの背筋が凍るような雰囲気を出したあと、シズルはニッコリと笑って部屋を後にした。

 

シオリはそれを見送ったあと、窓から見える住宅を見やる。

そこから見える通りを越えるとユウキと待ち合わせの大通りが見えてくる筈だった。

 

 

「ユウキさん、心配してるよね……」

 

 

こんな状況になった以上、事実上のドタキャンになってしまうだろう。

せっかく彼から誘ってくれたのに……。

そして、こんなことを知れば一目散にすっ飛んでくるハツネの顔が思い浮かぶ。

 

 

「お姉ちゃん…………」

 

 

その呟きは誰にも届くことはない。

 

 

 

 

 

日が少し傾き始め、空が茜色とのグラデーションを作る頃。

 

 

「――シオリちゃん、具合はどう?」

 

「あ、シズルさん……」

 

 

アルバイトから帰ってきたのか、エプロン姿ではなくまるで聖騎士のような雰囲気の姿で部屋に入ってくる。

 

 

「はい、少し楽になりました。シズルさん、ありがとうございます」

 

「礼には及ばないよ。お姉ちゃんとして当然の事をしたんだから」

 

「お姉ちゃんですか……。確かに、わたしのお姉ちゃんとはまた違った感じのお姉ちゃんでした」

 

「でしょ? 何なら今だけ私のこと、本当のお姉ちゃんだと思ってくれても良いんだよ?」

 

「ふふっ、シズルお姉ちゃん、ですか。何だか近所のお姉ちゃんって感じですね」

 

 

そんな話をしていると、ドタドタと家に入ってくる足音が響く。

 

 

「し、シズルお姉ちゃん、ただいま戻りました……」

 

 

体が傷だらけで、今にも泣きそうな表情のリノが部屋に入ってくる。

 

「お帰りリノちゃ……、って、どうしたのその体! ボロボロじゃない! それに弟くんは?」

 

「病院に送ってきました……。私より酷い怪我だったので……」

 

「病院⁉ いったい何が――」

 

「シオリンッ‼」

 

 

何故かボロボロになっているリノを押し退けるように入ってきたハツネは、シオリの顔を見るとうるうると目を滲ませる。

 

 

「シオリーーーーン‼」

 

「はーい、そこまで」

 

「ぐえぇっ⁉」

 

「お姉ちゃん⁉」

 

「あ、相変わらず容赦ないですねぇ……」

 

 

シオリに飛び付こうとしたハツネの首根っこをシズルが引っ張り、ハツネの首が絞まる。

 

 

「な、何するの!」

 

「何するの、はこっちの台詞。いきなり部屋に入ってきて病人に飛び付こうだなんて非常識じゃないかな?」

 

「だ、だって本当ならもう二時間くらい前にはランドソルについてる予定だったから……シオリンに今すぐ会いたくて」

 

「だからって逆に刺激させるようなことをしちゃダメだよ。貴女もお姉ちゃんなら、妹のために本当にやるべき事を考えること。いい?」

 

「は、はい……」

 

 

しゅんとハツネは小さくなった。

 

 

「じゃあこっちの話はいったん終わりで……、リノちゃん。例のものは?」

 

「ああ、それならハツネさんに預けてます。私のポーチ、ボロボロになっちゃいましたから」

 

 

言われてハツネはハッと顔をあげ、懐から木の実を取り出した。

 

 

「シオリン、これ食べて。これを食べれば元気になるはずだよ」

 

「これって……エナの実?」

 

 

図鑑で見たことあるその木の実を手に取り、シオリは口に頬張った。

すると、しゅわり、と口の中で弾けてしゃくしゃくと咀嚼していく。

すると体がポカポカと発熱し、痺れが取れなかった足が動かせるようになった。

 

 

「これなら、立てるかも……」

 

 

シオリは足をベッドの外へ出し、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

「‼ シオリン、よかった~~~~!」

 

 

元気になったシオリにハツネは抱き付く。

仲睦まじい姉妹の光景を尻目に、シズルは傷だらけのリノの前に立つ。

 

 

「えっと、シズルお姉ちゃん?」

 

「それで、何があったのかな? どうして弟くんが病院に?」

 

「そ、それは話せば長くなると言いますか……」

 

「いいよ、なら歩きながら話そっか。すぐにその病院に案内して」

 

「はい……」

 

「あっ、待って! 私もついていっていい?」

 

「ハツネお姉ちゃん?」

 

「私もその場に居たから……心配で……」

 

「お姉ちゃん、いったい何があったの?」

 

 

深刻な顔をするハツネは、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「実は……――」

 

 

――ユウキ君、意識不明の重体なの。




シオリ
前作「プリンセスコネクト!」より続けて登場する。ホワイトタイガーの獣人の少女。ハツネという、種族が違う血の繋がったエルフ族の姉がいる。
体が弱く、体調を崩しやすい体質であり、部屋から全く出られない日があるのも珍しくない。そのため少食であり体もかなり軽い。
読書が趣味であり、体調が良いときは療養場所の【牧場】からランドソルに下りてきてまで本を買いに来るというフットワークの軽さを併せ持っている。



半月ぶりです。
そして前後編なので続きます。
書いてから思いましたが今回名前だけで主人公一回も登場してないですね。
さて、現実だと意識不明はかなりの重篤ですが、はたしてユウキはいったいどうなってしまうのか。
次回は誰回なのか何となく想像ついてそうですが、次回もお楽しみに。

以下のキャラの中で誰を優先的にお話しを書いて欲しい?

  • エリコ
  • クウカ
  • ナナカ
  • リマ
  • ヨリ

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