メモリーズコネクト!~プリンセス達の四方山話~   作:上月 ネ子

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今回のヒロインキャラは、恐らく本ゲームで一番闇が深いであろう、獣人の彼女です。

あと、今回は割りとネタバレ部分が多いです。


ストレイキャットはキミの影を歩く

ランドソルの影を渡り歩く一人の少女がいる。

名はキャル。長い黒髪に白いメッシュ、猫の耳と尻尾が特徴の獣人だ。

彼女は王宮勤めの貴族の一人であるのだが、それを知るのはランドソルでもごく一部のみ。そんな彼女は王宮からある任務を受けているのだが――

 

 

「……う~ん? 今日はあいつ見かけないわね。まだランドソルに来てないのかしら?」

 

 

彼女は気配遮断とステルスの魔法を同時にかけて、ある人物を影から探す。しかしどうやら、今日はすんなりと見つからないようだ。

 

 

「どうしよ……。あいつ気配感じないから、探すのも一苦労なのよね~。全く、人の気も知らないで……!」

 

 

八つ当たりなのだが、キャル本人には一切その自覚はない。

そのまま彼女は影を歩くようにこっそりとランドソル内を移動し、ある人物を探す。

十数分後、ようやく彼女は目的の人物を捕捉することに成功した。

 

 

「やっと見つけた! ユウキったら今日は噴水広場の所に居たのね。……誰かと待ち合わせかしら?」

 

 

追及したいところだったが、キャルは一歩踏みとどまった。

実は彼女、こうして気配を殺しながらユウキの動向を監視しているのだが、その都度彼に気づかれている。たまには気づかれずに尾行したい、と考えた彼女は、できる限り遠くから――少なくとも気づかれてもすぐには駆けつけられない距離を保ってユウキの監視を始める。

 

 

「いざとなれば遠視の魔法を使えばいいしね♪ あたしったら天才ね!」

 

 

複数の魔法を同時に使うのはかなりの負担が掛かるのだが、この時の彼女は気づいていない。

キャルは早速、ユウキの動向を監視しているのだが、早速動きを確認できた。

 

 

「……誰か来たわね。あれは…………――ユイ?」

 

 

この距離からでも分かりやすい、明るいピンク髪の少女――ユイ。【トゥインクルウィッシュ】のギルドメンバーの一人で、初めてユウキと接触した時にも、彼女がユウキの近くにいた。

キャルの目から見ても、あの二人の関係には並々ならぬ雰囲気を感じるが……。

 

 

「ユイって、誰がどう見ても……アレよねえ。一体何が理由なのかしら、あたしにもさっぱりだわ」

 

 

ユイのユウキに対するベクトルの名前は――残念ながら今回では明言を控えておく。……もっとも、分かりやすすぎるので明言するまでもないが。

ちなみに、キャルもほんの少しベクトルが向きかけていることの自覚がない。

 

さて、ユウキとユイのやり取りを遠くから見ているキャル。

 

 

「ん~、何話してるのか気になるけど、これ以上の魔法の重ねがけは、最悪ユイに気づかれかねないわね」

 

 

魔法使いのユイは、当然魔法の気配に長けている。

唐突にユイの顔が赤くなったり、それに対してユウキが首をかしげたり、興味に事欠かないが。

 

 

「……あら、ようやく動きが見えるわ。どこか移動するのかしら? ……んん?」

 

 

噴水広場を離れ、どこかに向かおうとする二人を――というか、ユウキを捕捉した何者かが声をかけてくる。当然、二人は足を止め声の主を確認するが――

 

 

「え、えええええぇぇぇぇぇぇぇっ⁉」

 

 

「声でか過ぎでしょ……。ここまで聞こえたわよ……。っていうか、あのピンク髪の娘って……」

 

 

キャルも女の子なので、彼女が何者かは知っている。

黒い角の魔族――モデル雑誌の表紙に写っているのを何度も見たことがある。そんな彼女は有名モデルのスズナ。

ランドソルでも有名人の一人である彼女が、ピンポイントでユウキと知り合いだということに、ユイは大声をあげて驚いたのだ。

 

 

「……ご愁傷さまね、ユイ。二人っきりになれたと思った途端にこれだからね」

 

 

ユイの心中を察するキャル。

 

それはそれとして、どうやらキャルもあまり面白く感じていなさそうだった。

 

 

「……あいつ、あんな有名人と知り合いだったのね」

 

 

 

 

 

その後、スズナと知り合ったユイは、折角だからとスズナの同行を認める。

恐らく、ユイがユウキを誘ったのだろうが、スズナまで連れて何処へ行こうというのか。キャルは興味の方向をユイの方へ少しシフトチェンジした。

 

 

「……ん、この方向ってエステレラ街道? 街の外に出るの? 不味いわね、街の外に出ると遮蔽物が少ないから見つかるリスクが……」

 

 

そんな不安をよそにユウキはまた何者かと接触していた。

有名モデルのスズナと知り合いだったのだ。最早誰が知り合いだろうとそう簡単には驚かないつもりだったが、

 

 

「ハア⁉」

 

 

今度はキャルも大声を張り上げて驚くことになった。

 

次に出会ったのはアイドルギルド【カルミナ】のリーダーであるノゾミ。言わずと知れたアイドルだ。

 

 

「まさか過ぎるでしょ……! なんなのあいつ⁉ どうなってんの⁉」

 

 

キャルも何に怒っているのか解らないが、腹を立てずにはいられないようだ。

 

 

「今度はアイドルと知り合いかぁ……。…………」

 

 

 

 

 

そのままノゾミを加え、四人になる。主にスズナとノゾミのせいだが、街の角だというのに視線の集まりが凄まじい。

 

 

「ユイ、大丈夫かしら……」

 

 

既に監視どころではなく、キャルもユイを心配していた。それどころか今度は誰と出会うのか気になっていた。

そして、案の定次の接触が起こる。今度は誰か、キャルは目を凝らすと、

 

 

「げっ、あの女ってたしか……!」

 

 

褐色の肌をある程度露出させた獣人の少女。キャルにとってはできる限り接触したくない者の一人――【自警団】のカオリだ。

キャルとカオリは直接的な因縁はない。しかし、以前に【王宮騎士団】が【自警団】に対してちょっかいをかけたことがあるのだ。それも【自警団】に責任が問われるよう、【王宮騎士団】の自作自演として。

キャルの立場は【王宮騎士団】寄りなので、出来れば【自警団】の人間とは接触したくないのである。

 

それはともかく、カオリはユウキを見つけると、人懐っこい犬のようにユウキと距離を詰め、それを見た三人は驚き、困惑し、距離を置くよう諭す。

端から見れば修羅場であった。

 

 

「………………………」

 

 

 

 

 

「心広すぎでしょ、ユイ……」

 

 

カオリの同行も認めたユイは、先導するように前を歩き街道へと向かっていく。……心なしか空元気のようにも見えなくもない。

 

それはそれとして、キャルにはどうして街の外に出るのか、いまいち理由が把握できていない。

やはり聴覚レベルを上げる魔法をかけるべきだったか。そんな後悔が心中で渦巻くなか、ユウキ一行はエステレラ街道に出る。少し歩くと、何やら目立った大きな黒い影が。

 

 

「……ってあれ魔物じゃない‼ あんなデカいのがどうして……⁉」

 

 

そこで、キャルはユイの思惑がやっと理解できた。ユイは最初からこれを目的としてユウキと共に街道に向かったのだ。スズナ達の同行を認めたのも、恐らくこれが理由だろう。

 

 

「……でも、あんなの五人で勝てるの? せめてもう一人くらい――」

 

 

無意識に、彼女は杖を手にした。

最悪、自分が駆けつければ。そう衝動が生まれる。

しかし――それは全く接点のない人間に、ユウキを監視しているという疑念を植えかねない事になる。

それだけが、彼女の手足に迷いを造らせた。

 

どうすれば……、と彼女は辺りを見渡して、ふと空を見上げた。

何かいるのだ。しかも鳥ではない。魔物でもない。何かピンク色の――と、そこまで把握してキャルはようやく遠視の魔法を使用した。

 

 

「………………あれって、エルフ?」

 

 

エルフの少女はまるで空をベッドにしているかのように眠っていた。が、それもつかの間。彼女は体を起き上がらせた――と同時に重力に従って落下した。

 

 

「ちょ、こんな高さから落ちたら――‼」

 

 

確実に肉塊になる。

流石にこればかりは見て見ぬふりは出来ない。そう思った彼女は、重力落下を緩やかにする魔法を彼女にかけた。

 

 

「…………ッ!」

 

 

そして、それがキャルの限界だった。

魔力切れを起こし、眩暈が起こる。

キャルは結末を確認せずに、ユウキに見つからないよう、街へと戻っていった。

 

 

 

 

 

「……はあ、……はあ、……はあ」

 

 

息を切らしながら、彼女はランドソルの路地裏に隠れる。少なくとも、誰かに見つかることは無いだろう。

 

 

「結局今日の監視もマトモに出来なかったわね。……でも」

 

 

ある程度の収穫はあった。

それはユウキの顔の広さ。他のギルドメンバーや、有名人までもが彼と知り合いだった。

 

 

「ただの、普通の男の子だと思ってたんだけどなぁ……。だから、あたしも……」

 

 

まるで、住んでいる世界が違うようだった。

キャルは少しずつ、彼との距離が離れていくような、そんな乖離が彼女の中で膨らんでいった。

 

 

「帰ろ……。……はあ、もう疲れた。動くのも面倒くさいくらい」

 

 

 

> なら、手を貸そうか?

 

 

 

「あら、ありがとうユウキ。………………ユウキ⁉」

 

 

疲労も忘れて立ち上がり、目の前の声の主――ユウキから距離を取る。

魔力切れを起こしたから、当然自分にかけていた魔法もなくなっている。つまり、こうして見つかることも現実的なのだが。

 

 

「……あたしに何か用? 疲れてるのよ、早く帰りたいんだけど?」

 

 

 

> ハツネちゃんを助けてくれてありがとう。

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

> ハツネちゃん、自分に突然魔法をかけられたって言ってた。そんな事が出来るの、キャルちゃんしか思い浮かばなかったから。

 

 

 

ハツネ――あの時、キャルが助けた少女だろうか。

どうしてあんな場所にいたのか、キャルにとっては不明の極みだが、ハツネはキャルが魔法をかけたのだと気づいていたのだ。

 

 

「な、何よそれ……。……あたしは、そんな……っ‼」

 

 

いつからだろうか。

自分がこんなに捻くれたのは。

他者からの感謝の言葉が、こんなにも心を痛くするのは。

 

キャルはユウキの顔をまともに見られず、そのまま路地裏の闇へと走り去ってしまった。

 

 

 

いつまで続くか分からない。

楽しいだなんて思ったことはない。

だがそれが彼女の役目だから。

それを彼女は選べないから。

 

だから、キャルは明日も影を歩く。




キャル
「プリンセスコネクト!Re:Dive」で初登場したメインヒロインの一人。猫の獣人で、数多の魔法を使いこなす謎多き少女。
訳あってユウキの監視をしている。が、いつも彼に気づかれては監視を失敗するような、ちょっとポンコツなところがある。
基本的に打算的な性格だが根っからの悪人というわけではない。【美食殿】のメンバーになったのも、何かの思惑があるが、ギルド活動を純粋に楽しんでいる。



これにてメインヒロインは何とか書ききりました。
キャルは私の主力の一人なので結構思い入れがあるのです。
……メインストーリーでは完全に敵側ですが。
彼女は必ず報われるだろう、そう信じてストーリーを走り付けます。

余談ですが、今回のお話はユイ視点もあります。次回辺り、それを投稿できれば、と考えています。

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