メモリーズコネクト!~プリンセス達の四方山話~   作:上月 ネ子

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エイプリルフールだからだいぶ攻めたオリジナル展開を書いてやるぜ!
と、1日に投稿する予定でしたが、この通り大遅刻しました。

あ、今回は今までで一番長いです。


キミの目に見えない異常事態

ランドソル王宮内のある広間。

地下水道から高く立つ白い橋の奥に白と黒の影が見える。

 

一人は黒猫の少女――キャル。

そしてもう一人は…………。

 

 

「―――――陛下。先程ユウキとペコリーヌの二人がエルピス大陸へ渡航したのを確認しました」

 

「そう…………」

 

 

さして興味もないように相槌をうつ『陛下』。

頬杖をつき明後日の方向を見る『陛下』に対し、キャルは意を決して口を開く。

 

 

「あの、陛下。本当に……よろしかったんでしょうか?」

 

「何が?」

 

「っ、あ、あの二人の監視です。陛下が命令されるのなら、今からでも追いかけて――」

 

「キャル」

 

 

ぴしゃり、と音が死んだ。

同時にキャルは震え上がり、その証拠に尻尾がピンと張り毛が逆立つ。

 

 

「ねえキャル。今回私が貴女に命じた内容は、当然覚えているわよね?」

 

「……そ、それは」

 

 

『陛下』は顎でキャルを指し、返しの言葉を無言で要求する。

 

 

「……今回に限り、エルピス大陸へ向かうユウキとペコリーヌの監視は中断。しばらくの間は陛下の腕足としてそばに控えること」

 

「ちゃんと覚えているようね。だからって褒めたりはしないわよ? 貴女は私の命じたことはろくにできないのに、私が命じていないことは勝手にやるんだもの。困っちゃうわ。

ねえ、キャル?

 

 

じとり、と重苦しい殺気が当てられ、キャルの目尻に涙が溜まる。

震えが段々と強くなり、語調にも表れる。

 

 

「あ、あ、あたしは、陛下の命じられた通りに、陛下の望むままに……」

 

「この私に嘘をつくなんていい度胸ね」

 

 

取り付く島もない。

『陛下』は吐き捨てるように、愉快そうにキャルを見下ろしながら言葉を続ける。

 

 

「キャル。私が元々貴女に命じた内容を今ここで復唱しなさい」

 

「っ……? た、立場をおいやられたペコリーヌと、ユウキの、監視……」

 

「そう、監視。()()、よ。あの二人の行動、身の回りで起きた事態、二人のバイタル。そういった状況を逐一確認する事よ。()()()()()()()()()()()()

 

「……!!!!!」

 

 

何か思い当たる節があったのか、キャルはビクリと跳ね、顔が真っ青になった。

 

 

「そういえばいつかのときに、単独行動しているあのお姫様に肉食ネズミの群れが襲いかかったことがあったわね。あいつらは元々地下や洞窟など陽の光が当たらない場所に生息している魔物だけれど、どうしてあんな森の中にいたのかしらね?」

 

「ぁ……あ、あの、それは…………」

 

「ああ、先に断っておくけれど、良かれと思って、はナシよ」

 

「…………ッ!!!」

 

 

出かかった言葉が引っ込んだ。

キャルの思考はぐちゃぐちゃになっていき、それでも何かを話さなければいけないという強迫観念にとらわれる。

 

 

「あ、あたしは、ただ、陛下にとってペコリーヌが、邪魔だ、と…………」

 

「……それはどうして?」

 

「だって、だってあいつはこの国の……! だから、陛下の支障にならないうちに、って……!」

 

「見くびられたものね。あんな小娘、例え彼の強化を貰ったとしても、小娘一人にやられるほど私は柔じゃない。それにどうせ真っ向から立ち向かうことしか能のないお転婆お姫様よ? ()()()()()()()()()のよ」

 

 

それはその通りだ、ともキャルは思う。

故にキャルは俯き、何も言えなくなってしまった。

 

 

「言い訳はそれで終わり?」

 

「…………も、申し訳ございません」

 

「謝るだけなら誰にでも出来るのよ。……でも運が良かったわね。今日はお仕置きはなしにしてあげる」

 

「…………へ」

 

「生憎と、今の私には一々お仕置きを施すほどの時間的猶予はないの。早く奴を……」

 

 

『陛下』は口を閉じる。

その視線が謁見の間の出入り口に向けられる。

つられてキャルも振り返ると、出入り口から声が響く。

 

 

「陛下、失礼いたします。お時間よろしいでしょうか?」

 

「…………入りなさい」

 

 

大きなため息をついたあと。『陛下』な入室の許可を出す。

 

カチャリカチャリ、と金属どうしが叩く音が鳴り、黒い影がやってくる。

全身を鎧でまとった【王宮騎士団】団長ジュンは『陛下』の前に傅き、口を開く。

 

 

「陛下。例の件なのですが……」

 

「何度も言ったはずよ。あれは野放しにしなさいとね」

 

「しかし、奴らは街の中にも現れます。最近はその頻度も目に見えて増えました。既に団員にも被害が出ております。どうか、どうか人員を増やす許可を!」

 

「よく聴きなさい騎士団長」

 

 

『陛下』は玉座から腰を上げ、ジュンを見下ろす。

 

 

「時間の無駄よ」

 

「なっ、何を……!」

 

「私はシャドウが急激に人の前に姿を現すようになった原因となる歌声の正体には、あらかた検討がついているわ。けれどそれに対処する時間が惜しいだけ」

 

「……では、このままシャドウの脅威に怯えながら生きろと仰るのですか?」

 

「あら、これは【王宮騎士団】のためでもあるわよ。()()に貴女達が束になってかかったところで返り討ちにあうだけ。だから時間の無駄だと言ったのよ」

 

 

またしても取り付く島もない、と傍から聞いていたキャルは心の中で呟く。

しかし、キャルには同時に疑問が浮かび上がった。

それはジュンにとっても同じであり、

 

 

「……お言葉をかえすようですが、陛下」

 

「……?」

 

「何に対して時間がないのです?」

 

「一々質問すれば答えが返ってくるとでも思っているのかしら? 私は貴女の教師じゃないのよ」

 

「先程陛下はシャドウの大量発生の直接的原因となりうる存在に心当たりがあると仰っておりましたが、把握していながら対処をされないということは、それ以上にランドソルに対して甚大な危機が迫っているのかもしれないと推測できます。それは一体何なのですか?」

 

「貴女達に話したところで理解を得られないものよ」

 

「煙に巻くような言葉で誤魔化すのはやめていただきたい。【王宮騎士団】団長としても無視できる内容ではございません」

 

 

『陛下』の威圧は会話中に強くなっていく。

だが、ジュンも譲れないものがあり、その威圧に負けないように凛とした態度で返す。

 

 

「もし仮に、陛下を脅かす何かが迫っていると言うのであれば、【王宮騎士団】が総力をもってお守りいたします。ですので、どうか我々にお教え頂きたいのです。我々を頼っていただきたいのです」

 

「………………」

 

 

聞いていたキャルも、『陛下』が何かに焦っているように見受けられた。

故にキャルもその真意を確かめるべく『陛下』に視線を移す。

 

だが、長い沈黙の後に口を開いた『陛下』は、

 

 

「……残念だけれど、貴女達の警護もたった今信用が失くなったわ」

 

「それは、どういうっ」

 

「騎士団長、貴女はもう下がりなさい」

 

「陛下!」

 

「もう一度言うわよ、下がりなさい。さもないと――潰されるわよ」

 

「え」

 

「――上よッ‼」

 

 

キャルの大声につられ、ジュンは見上げる。

 

すぐそこまで、緑のなにかが迫っていた。

 

 

「なあっ⁉」

 

 

咄嗟に飛び退いて潰されることはなくなったが、音もなく現れ、自身を踏み潰そうとした目の前の緑の巨体にジュンは動揺する。

 

 

「な、なによこのキモいの……!」

 

「魔物……いや、これはまるで」

 

 

自身を見下ろす焦点の合わない瞳。

いやそれどころか取ってつけたような顔のパーツはまるで人形のようだ。

だが、着地したときの謁見の間を大きく揺るがす地響きが、ジュンの考える人形と欠片も一致しない。

 

ジュンは緑の巨体と睨み合っていると、ククク、と笑い声が聞こえた。

 

 

「陛下……?」

 

「ようやく、ようやくお出ましね。長かったわ」

 

 

キャルの目に映った『陛下』の表情は嬉しそうに、それでいて仇敵を見つけたかのように殺気立って見えた。

 

 

「ミネルヴァも手に入らなくて、アストルムは勝手に再構築されて、『七冠』の与り知らぬところで勝手に拡張して、()()()()()()()()奴にとっては全て出来の悪い茶番でしかない。挙げ句私は道化(パフォーマンス)扱い……」

 

「何を言って……」

 

 

『陛下』はカツカツ、と足音を立て上座から降りていく。

 

 

「どうしてここまで酷い目に遭わなければいけないのかしら――

 

―――――ねえ、貴女もそうは思わないかしら?」

 

 

そう言って、『陛下』――覇瞳皇帝は出入り口から近寄ってくるその存在に言葉を投げかけた。

 

 

「―――――う〜ん。残念ですけど、わたしはあなたに同情する気は全く起きないですね。だって、あなたは全然可愛そうじゃないですから★」

 

「「⁉」」

 

 

キャルとジュンはまたしても動揺する。

再び音もなく現れた侵入者に目を向けると、それは一見ただの少女だった。

 

白い服に、紫がかった黒髪。

腰についている人形のポーチは、今対峙している巨体とそっくりで。

 

 

「き、貴様何者だ! 何処から現れた⁉」

 

 

出入り口が開く音はしなかった。

ならばどうやって。

そう考えているうちに、目の前の少女は手を前に翳す。

 

 

「う〜ん、悪いですけどジュンさんには用はありませんので、しばらく退場していてくださいね♪」

 

「ふざけるな! 今すぐ拘束して――」

 

 

ジュンの言葉は続かなかった。

何故なら体が持ち上がっていく異変に気づき、藻掻こうとしても体が動かないからだ。

 

 

「こ、これは、一体……⁉」

 

「はい、ドッボ〜ン★」

 

「うわあぁッ⁉」

 

 

そのままさらに勢いよく持ち上がり、少女が前に出した手を下に降ると同時に、ジュンは地下水道へと落下した。

 

 

「何今の……不可視の拘束魔法? でも詠唱してるようには見えなかった……」

 

「ふうん、なるほどね……」

 

 

覇瞳皇帝は興味深そうに落ちていくジュンを見届けた後、少女に向かって口を開く。

 

 

「こうして会うのは初めてかしらね、【レイジ・レギオン】」

 

「あ〜、出来ればギルド名で呼ぶのやめてもらえますか? ()はそのギルド存在しないんですよ」

 

「……ああ、そうだったかしら。なら()()を野放しにするのは失敗だったかしら?」

 

………………………★

 

 

少女から殺気が漏れたと同時に、覇瞳皇帝に影が差した。

 

 

「……ッ」

 

 

覇瞳皇帝が飛び退いたと同時に、覇瞳皇帝が立っていた場所にもう一体の巨体の腕が振り下ろされた。

 

 

「陛下‼」

 

「騒がないで、気が散るわ」

 

「もう、駄目ですよ。折角こうして会いに来たんですから、わたしの相手をしてもらえますか?」

 

「コイツッ!」

 

 

キャルは歯ぎしりをしたあと杖を構えて魔法を発動する。

 

 

「サンダーボールッ‼」

 

「止めなさいキャルッ‼」

 

 

覇瞳皇帝の制止の声も届かず、キャルは雷の魔法を少女に向けて放つ。

 

少女はノールックで難なく躱し、姿が消えた。

 

 

「え――」

 

「ガラ空きですよ★」

 

 

キャルの後ろから声が聞こえたと同時に、キャルの背中に強い衝撃が何度も叩き付けられる。

そのまま前に吹き飛び、転がりながら前に倒れてしまう。

 

 

「が、あぐっ、げほ、ぅぅ……」

 

「……本当に愚図ね。私の言うこともまともに聞けないなんて。つくづく貴女をプリンセスナイトに選んだのは失敗だったと考えさせられるわ」

 

 

倒れるキャルを尻目に覇瞳皇帝は杖剣を構える。

 

 

「全くひどい言い草ですね。仮にも自分のナイトさんなのに」

 

「言わせてもらうけれど、飼い主の手を噛んでくると知っている上で手元に置くだけでも私は寛大な方よ」

 

「なるほど、そうやって自分の仕出かしたことも棚に上げて被害者面しているわけですね。ますます同情できそうにないですね」

 

「……何が言いたいのかしら」

 

「忘れたなんて言わせませんよ。一体誰が原因で『ミネルヴァの懲役』なんてのが起きたのか」

 

 

覇瞳皇帝は鼻で笑う。

 

 

「誰が原因ですって? そんなの全ての元凶たる――」

 

「――草野優衣さん、ですって?」

 

 

遮るように少女は口を挟む。

 

 

「それを本気で言っているのなら、()()()()()があなたに見向きもしないのも納得です」

 

……なんですって?

 

「確かに草野優衣さんの願いの結果がこの世界だというのは事実です。それを忘れて悲劇のヒロインみたいな顔をする彼女のことは好きになれません。でも……」

 

 

少女は機関銃のような魔導杖を構える。

そして、ニッコリと笑みを浮かべて吐き捨てる。

 

 

「でもそれ以上に、彼女の願いを歪めておきながら、自分のしでかした事を全て棚に上げて被害者みたいな顔をするあなたのことはもっと好きになれそうにないです★」

 

「…………」

 

 

もはや言葉は不要。

覇瞳皇帝は杖を構えて魔法を放とうとするが、2体の巨体に妨害を受ける。

 

ぶんぶんと単調に腕を振り回すかと思えば、宙に浮いて覇瞳皇帝を追尾する。その動きもそれなりに機敏であり、無視することも難しい。

 

 

(直接あの子の後ろに転移したいけど……無理そうね)

 

 

いつの間にか転移を妨害する結界が展開されているのを確認した覇瞳皇帝は唱える魔法を変える。

 

 

「一々大真面目に相手してられないわ……!」

 

 

無数の杖剣を召喚し2体の巨体の周囲に展開する。

そして電撃のような結界が展開され、巨体は結界の中で動きを封じられた。

 

 

「あらら……」

 

「よそ見をしている場合かしら?」

 

 

覇瞳皇帝はそのまま少女に突進するが、少女は涼しい顔で姿を消し、覇瞳皇帝の後ろを取る。

少女は機関銃を構えて、魔力弾を連射するが、杖剣を展開して全て防がれる。

 

 

「そのガトリング型の魔導杖もあいつの賄いでしょう? あんな奴の下についたところでこの世界からは出られないわよ」

 

「あいにくと、わたしは()()()に帰りたいわけではないので★」

 

 

少女は魔導杖を複数展開し、覇瞳皇帝を包囲するように構えて、魔力弾を連射する。

 

覇瞳皇帝はその軌道が全て見えているように躱しながら少女に接近し、杖剣を前に突き出す。

 

少女は身構えるが、覇瞳皇帝は杖剣を前に飛ばし、少女を掠めるようにその後方へと発射する。

何をするつもりか、少女は思考し始めて、すぐにその異変に気づいた。

 

バリバリ、とガラスが崩れ落ちた音。

それと同時に覇瞳皇帝は目の前から姿を消し、少女は危機を察知してその場から飛び退く。

覇瞳皇帝は少女の後ろに回り、杖剣を突き出していた。

つまり、転移したのだ。

 

 

「結界を破壊されましたか……」

 

「私に聡られずに結界を展開した手腕は中々のものだけれど、強度は杜撰だったわね」

 

「…………★」

 

 

少女は無言で笑みを浮かべるだけ。

 

 

「まだ続けるかしら?」

 

「さあ、どうしましょうか……ねッ!」

 

 

少女はなおも魔導杖で弾幕を打ち続ける。

覇瞳皇帝はつまらなそうに難なく躱しながら接近する。

そして――

 

 

――()()()()()()()()()

 

「…………ッ⁉」

 

 

ピタリ、と覇瞳皇帝の体が宙で停まる。

まるで全身を杭で壁に磔にされたように身動きが取れなくなってしまう。

 

 

「これでゲームセットですね♪」

 

 

少女は微笑み、無防備となった覇瞳皇帝に魔導杖を構え、撃ち抜く。

魔力弾は覇瞳皇帝に命中し――覇瞳皇帝は霧散するようにその姿が消えた。

 

 

「えっ」

 

「ええ――これでゲームセットね」

 

「しまっ――ッ⁉」

 

 

少女の後ろから声がして、咄嗟に魔導杖で背中を防御したが、後ろからの強力な衝撃によって少女は前に吹き飛ばされる。

 

 

「…………ったたたっ……。分身魔法、ですか……」

 

「いい判断だったわよ。()()()()()()()()()()をもって私の動きを封じ込めようとする作戦は。実際私には視えなかったしね」

 

 

カツカツ、と後ろに転移していた覇瞳皇帝は距離を詰める。

 

 

「けれど、私の前で何度もその力を使ったのが敗因だったわね。たとえ視えなくてもどのタイミングで使ってくるのか予測することはできるわ」

 

「……なるほど。油断していたつもりはないんですけどねぇ」

 

「実力はなかなかのものだけど、七冠を舐め過ぎよ。貴女じゃ私には勝てないわ」

 

「どうやらそのようですね。ちょっぴり悔しいです……」

 

 

悔恨の言葉を口にする少女に、覇瞳皇帝は気分を良くする。

 

 

「命は取らないわ。貴女はあいつを倒すのに重要な情報源となる。骨の髄まで絞り出して――」

 

 

 

 

 

「――だから、この勝負は()()()()()の勝ちですね★」

 

 

 

 

 

ぐさり。

 

小さく、鈍い音が響いた。

 

 

「………………ぁ、あ……?」

 

 

覇瞳皇帝は自身の背中に何かが突き刺さっているのに気づくのが遅れ、ギギギ、と錆びたブリキのように後ろを振り返る。

 

全身を黒のローブで隠した男は、注射器のようなものを覇瞳皇帝に突き出していた。

 

 

「お、おまえは、いったい……⁉」

 

「フフ……」

 

 

ローブの男は軽く笑い、注射器を吸引させる。

 

 

「がッ、あ゛あッ‼ うあぁ…………ッ⁉」

 

 

抵抗しようとして、覇瞳皇帝は力が吸い取られていくのを感じ、膝をついて倒れ込む。

 

粗方吸引し終えたのか、男は注射器を覇瞳皇帝から抜き、懐にしまう。

同時に、覇瞳皇帝の体はまるで抜け殻のように動けなくなってしまった。

 

 

()()()()()。どうですか?」

 

「ええ、予定通り覇瞳皇帝のデータはほぼ全て抽出できました。()()()()()が注意を惹きつけてくれたおかげです」

 

 

ミソラと呼ばれた少女と、ミロクと呼ばれた男は笑い合いながら、倒れた覇瞳皇帝を見下ろす。

 

 

「……おまえは、いったい……わたしのめには、どこにもうつってなかった……っ」

 

「無理もありません。あなたの()は私には通用しませんので」

 

「…………まさ、か。さっき、けっかいをてんかいしたのは……」

 

「フフフ……」

 

 

ミロクは意味深に笑うだけ。

だが、それが何よりの答えだった。

 

 

「学習しませんね。どうしてあなたが騎士さんたちに負けたのかもう忘れちゃったんですか?」

 

「なん、だと…………っ?」

 

「あなたは独りだからですよ。ナイトさんも、手駒にした騎士団も頼らず、全部独りでかたをつけようとする。そういう無駄にプライドが高いところは人間臭くて嫌いじゃないですけど★」

 

 

覇瞳皇帝は今すぐミソラに魔法を打ち込みたくなったが、自身の力とともに魔力も吸い上げられており、腕一本すら動かせない。

 

 

「さて、奇しくも私達の目の前に空になっているリソースの塊があるわけですが、どうしますか?」

 

「う〜ん……」

 

 

ミソラは少し考え込んで、愉快そうに口を開く。

 

 

「エリスさまの話では、覇瞳皇帝さんのアバターは再構築前にロストしかかっていた状態で再構築に巻き込まれてしまったせいで、現在かなり不安定な状態だそうです。ですので、リソースに割り当てるには強度に問題があり、このリスクは無視できない。だから当初の予定通り抹消(デリート)する、ですって」

 

「……っ、あいつは、どこまでもうえからめせんに……‼」

 

「でも、このまま抹消するのはこの世界のあり方としてもちょっぴりまずいので、有効活用する方法を予め考えてきました★」

 

「……ほう? それは、私に()()()()()()()()()ことと何か関係が?」

 

「はい♪ おかげで強い魔物がリポップするようになりましたから、たくさんの魔物のデータが手に入りました★」

 

 

そう言ってミソラはポーチから注射器を取り出す。

そして――その針を勢いよく覇瞳皇帝に突き刺した。

 

 

「ぅ……ぁ、がっ……」

 

「ふふふ、空になったアバターデータに魔物のデータをこれでもかと流し込んじゃいますね。きっと、内側からどんどん魔物に変質化するかもですけど……」

 

 

クスクス、とミソラは愉快に嗤う。

 

 

「題して、力を求めたあまり魔物になっちゃった魔王様! 騎士さんの敵として丁度いいですね★」

 

「ぅ、ぐ、グア、アアァAaa――ッ‼」

 

 

謁見の間に、苦悶に染まる白狐の雄叫びが響き渡る―――――。

 

 

 

 

 

「へ、へいか……っ!」

 

 

これらの一部始終を、倒れていたキャルは見ていた。

 

ミソラという少女を圧倒していた覇瞳皇帝を。

その覇瞳皇帝を後ろからあっさりと無力化したミロクという男を。

そして、覇瞳皇帝に何かをしたミソラを。

 

 

「よくも、よくも陛下を……ッ‼」

 

 

魔導杖をついてなんとか立ち上がり、キャルは二人を睨みつける。

 

作業を終えたミソラはキャルに振り返り、思い出したようにぽかんとする。

 

 

「ああ、キャルさん。起きてたんですね」

 

「今すぐ陛下から、離れなさい! さもないと、今すぐぶっ殺すッ!」

 

「……ふ〜ん」

 

 

むき出しの殺意を向けられて、しかしミソラはどこ吹く風と笑みを浮かべたまま。

 

 

「覇瞳皇帝さんのプリンセスナイトだったキャルさんって、こんな感じなんですね〜」

 

「何を訳のわかんないことを……」

 

「なんていうか、全然惹かれませんね。お人形さんみたいというか。騎士さんのところに居た頃のほうがよっぽどイキイキしてましたねぇ」

 

「なっ……!」

 

 

騎士さん、という人物が誰を指すのか気づいたキャルはその表情が歪む。

 

 

「まあ、蛙の子は蛙とも言いますし。それより、どうします? 彼女は目撃者ですが」

 

「問題ありません。キャルさんにも用事があったので★」

 

 

ミロクと短く会話して、ミソラは一歩一歩と、キャルに近づく。

 

 

「来るな! く、来るなら、撃つわよ⁉」

 

「ふふ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………ッ⁉」

 

 

優しく撫でるようなミソラの声音を聞いた瞬間、キャルの体から力が抜ける。

 

膝から崩れ落ち、それでもミソラから目をそらせなくなったキャルに、ミソラは一歩一歩とまた近づく。

 

ミソラはポーチから仮面のようなものを取り出しキャルの前に構える。

 

 

「そんなに人形でいたいのなら、望み通りに操り人形(マリオネット)にしてあげます★」

 

「ぁ、ぁぁ…………っ」

 

 

仮面がどんどんキャルの顔に近づく。

何故かはわからないが、あれをつけると自分でなくなってしまうような、そんな得体のしれないものを本能で感じる。

 

最後にキャルの脳裏によぎった顔は――

 

 

「たすけて、みんな」

 

 

――敬愛する覇瞳皇帝ではなく、【美食殿】の仲間たちだった。




ジュン
前作「プリンセスコネクト!」より続けて登場する、全身を鎧と兜で隠す騎士。国を守る騎士団の団長として矢面に立ち仲間と国と民衆を守る。
【王宮騎士団】の団長であり、普段は王宮の城門で警備をしているため、城下町にあまり出歩くことがない。そんな折に迷子になったユウキと出会う。
顔を隠すことは家訓で決められており、何があっても人前で素顔を晒すことはない。そのためいらぬ誤解を受けて一悶着あったが。意外と家庭的なところもある。



さて、メインストーリーの第二部もクライマックスに入りましたからこのSSも第一部をクライマックスに舵を切っていきましょう。
まだまだ続けていきたいですから、せめてメインストーリーが第三部入る前にこっちの第一部終わらせたいなぁ。

以下のキャラの中で誰を優先して書いてほしい?

  • アユミ
  • イリヤ
  • スズメ
  • マホ
  • ルカ
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