メモリーズコネクト!~プリンセス達の四方山話~   作:上月 ネ子

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半月くらい経ってて草も生えない。
本当は二週間くらい前に投稿したかったのですが、長くなりすぎたので書き直しました。

とにもかくにも、今回は恋が中々進展しない不憫な彼女がメインです。
「ストレイキャットはキミの影を歩く」を先に読んでおくことを推奨します。


キミと成果、二つを追う彼女が得るものは?

「……はあはあ、騎士クン! 遅れちゃってごめんね‼」

 

 

 

> 集合時間にはまだ早いから大丈夫だよ。

 

 

 

待ち合わせに指定した場所で、ユイはユウキと出会う。

今日は、あらかじめ日時を指定し、ユイの特訓に彼が付き合ってもらうよう約束をした日だ。しかし、今日のために入念に準備を整えた結果、遅刻ギリギリの時間にやって来るはめになったユイだった。

 

ユイはユウキと共に早速エステレラ街道へ向けて歩き出し、今日の目的を頭の中で再確認する。

現在エステレラ街道には通常より強力な魔物が確認されている。今回はそれを相手に、ユイの魔法の威力を高める特訓を行うことに決めた。

 

 

(これを機に少しでも自分に自信を持たないと……!)

 

 

引っ込みがちなところのあるユイは戦闘に関しても中々その実力を発揮しづらい。過去に特訓に付き合ってもらったユウキが、それを原因に怪我をしたこともあり、ユイにとってはコンプレックスの一つである。

 

 

(少しでも、騎士クンに頼れるところを見せなきゃ……!)

 

 

ユイはユウキからすれば印象が薄い少女なのでは、と感じている――そんなことはないのだが――ため、そろそろ良いところを見せたいという気持ちもある。

 

 

「騎士クン、今日の修行は確実に成功させてみせるから――」

 

 

「あっれー、ヒデサイじゃん! オフの日に会えるとか超わろー!」

 

 

 

> あれ、スズナちゃんだ。

 

 

 

今日は頼りにしてね、というユイの言葉の続きは、第三者の声によって掻き消された。というか、ユイはユウキの発言内容に気をとられ、一瞬思考がフリーズする。

 

そして、

 

 

「え、スズナちゃんってファッションモデルの……。……え、ええ、えええええぇぇぇぇぇぇぇっ⁉」

 

「うわぁ、なになに⁉」

 

 

絶叫した。

 

 

 

 

 

「――でね、もう騒がしくって全然撮影になんなくてさぁ。リテイクいっぱい出されちゃってまじおこぷんだったの! ヒデサイも、今度うちの仕事見に来るときは気を付けてね、野次馬に厳しくなるっぽいから」

 

 

 

> そうなんだ。また見てみたかったから、ちょっと残念かも。

 

 

 

スズナとユウキは世間話をしながら隣同士で歩いている。人通りの少ない道を歩きたい、というスズナの願いを叶えるべく少々回り道をするユイだが、彼女は二人の話が気になってそれどころではない。

 

そもそもなぜスズナが付いてきているのか。

結論から言うと、ユイが一緒に特訓しよう、と誘ったからだが。

ユイは現在【トゥインクルウィッシュ】のギルドメンバーとして日々人助けをしている。当然荒事に巻き込まれかける事があるので、ある程度の実力は身に付けておかねばならない。

 

そんな時、ヒヨリやレイがいなかったら。スズナのように、今日初めて出会った人と連携を取らなければならなかったら。そう思うと、ユイとしては彼女の同行を拒む理由は無くなった。……もっとも、ユウキの知り合いという彼女を邪険に扱うほどの図々しさを、最初から持っていないだけとも言えるが。

 

 

「…………あれ?」

 

 

人通りの少ない道を選びつつ、少し開けた場所に出ると、何やら人だかりが。……かと思うと、少しずつ人混みは散開していき、中心から掻き分けるように誰かがこちらへとやって来る。

 

 

「――はーい、すみません! これから私他の用事がありますから、それでは! ……ふう。疲れた――あれ?」

 

 

広場から離れ、小道に入ってくるところで、ユイ達とばったりとあったこの少女。少女を何処かで見たことあるような、とユイが怪訝な表情をしていると、

 

 

「ああ! ユウキくん、ベストタイミングだよ‼ ねえねえ、これから何処か行くの? だったら私も連れていってくれないかな?」

 

 

 

> ……だそうだけど、どうするユイ? ノゾミも連れていく?

 

 

 

ノゾミ。偶然にも、アイドルギルド【カルミナ】のセンターアイドルがそうだったような……。

そこまで頭が働いたユイは、

 

 

「わ、わあああああああああぁぁぁぁぁぁっ‼」

 

「え、ええ⁉ ちょっとどうしたの!」

 

 

また絶叫した。

 

 

 

 

 

「――……へえ、ユイちゃんと特訓かぁ。二人っていつも街の外に出て特訓してるの?」

 

「いつもって訳じゃ、ないよ。騎士クンの都合が合えば、付き合ってもらおうかな、って。……私一人じゃ不安だから……」

 

「へえ~。じゃあユイユイとヒデサイって結構仲良いんだね? 普通そういうのってギルメンに頼むもんじゃん? 二人は違うギルドに入ってるんしょ?」

 

「言われてみれば……。それに、ユウキくんのこと"騎士クン"って呼んでたけど、それって渾名?」

 

「あ、うちもそれ思った! ねえねえ、"騎士クン"ってなに発祥? 騎士系男子ってこと? わろ~!」

 

 

ユイは完全に違う業界の人種と話しているのでいっぱいいっぱいになっている。

ただでさえスズナとノゾミに視線が集まっているのだ。人通りが少ない道を選んでいるというのに、だ。さらには、こちらの事情を根掘り葉掘り尋問されているような気がして落ち着きを保てない。

 

それに、彼女としても、ユウキとノゾミの関係が気になりそれどころではない。

そういえば騎士クンってノゾミちゃんのこと呼び捨てにしてたよね、とか、ユウキが呼び捨てにする人物が【トゥインクルウィッシュ】の自分達以外にいたっけ、とかいつもの(恋愛脳)がフル稼働している。

 

居心地の悪さから次第に足早になり、早く街道に出ようと焦る気持ちが募り始めたところで、横から誰かに声を掛けられる。

 

 

「そこの四人、ストップよー! 今街道は強い魔物がいるから街の外に出るのはおすすめしないさー?」

 

 

露出の多い格好をした褐色の獣人。彼女はこちらを一通り視認したあと、ハッと目を見開いた。

 

 

「ってんん? 見たことあると思えば、ユウキだったさー。街道に何か用事さー?」

 

 

> やあ、カオリさん。ちょっと街道で特訓をね。

 

 

「特訓⁉ 止めといた方がいいよー? 結構大きな強い魔物が出たから、今からギルドハウスに報告に戻るところだったからさー」

 

「……えっと、騎士クン。この人は知り合い?」

 

 

ユイはユウキから、カオリが【自警団】のギルドメンバーの一人だと説明を受ける。

親友のマコトが所属しているギルドなので、ユイとしてもその名前には馴染みがある。そういえば躍りが好きなメンバーがいるって聞いたような、とユイが考えていると、

 

 

「ねえ、大きな魔物ってそんなにオニやばなの?」

 

「さっきまで様子を見てたんだけど、街道周辺にはあの魔物以外一体も見当たらなかったさー。多分、あいつを恐れて移動したんだと思うさー」

 

「……思ったんだけど、唐突にそんな強い魔物が現れるものなの? 何か兆候とかは……」

 

「んー……、流石に私からは何とも言えないさー。生態系とかに詳しいわけでもないしねー」

 

 

こんな感じで、真面目な話が始まっていたので、すかさずユイが口を開く。

 

 

「あ、あの! だったら私達が討伐します!」

 

「ええ⁉」

 

「私達で討伐すれば、街道から脅威が去るはずです! 【トゥインクルウィッシュ】のギルド方針に賭けて、私は戦います!」

 

「ゆ、ユイちゃん……」

 

 

カオリはしばし思案の表情を浮かべる。そこに畳み掛けるように、ユウキが口を開いた。

 

 

 

> カオリさんも協力してほしい。来てくれたら、これで五人。十分挑みに行ける戦力だと思う。

 

 

 

ユウキには他と比べて単純な戦闘能力は劣る。しかし、仲間を強化する能力は他の追随を許さない唯一の個性である。

カオリとノゾミが敵を足止めしつつ、ユイが前衛の二人をサポートし、スズナの一撃で確実に仕留める。ユウキの考えた討伐プランはこの場の全員を納得させるには十分だった。

 

 

「――なるほどー。わかったさー! スピードには自信があるから、ユウキ達の役に立つよー。よろしくさー♪」

 

「こちらこそ――って⁉ か、カオリちゃん⁉」

 

 

カオリはニパーっとした笑顔を浮かべながら、まるで人懐っこい子犬のようにユウキと距離を詰める。当然、他の三人は気が気でなく。

 

 

「ちょっと! ち、近すぎじゃないかな⁉」

 

「そ、そうだねー。カオリンって大胆だね~」

 

「あ、あわわわわわわわ…………」

 

「んー、別にユウキが相手なら特に嫌じゃないかなー。ユウキはどうなのー?」

 

 

ユウキは苦笑いを浮かべるだけだった。

 

 

 

 

 

陣形を整えながらエステレラ街道に出るユイ達一行。そして、異常はすぐに目についた。

 

 

「あれが……!」

 

 

遠くからでもはっきりと見える、大きな影。気を散らすように咆哮を放ったり、大きな掻き爪を意味もなく振り回している。

 

 

 

> 大きいな……。二足歩行の猛獣型魔物か……。

 

 

 

ユウキが呟いた内容に、一同息を飲む。しかし、このまま尻込みしてはいられない。プラン通りに、カオリとノゾミが一歩前に出たところで、

 

 

 

> …………あれ?

 

 

 

新たな異変が発生した。

 

ユウキはふと見上げると、途端に目を見開いた。そして、一目散に、見上げた方角に走り始めた。

 

 

「ええ! ゆ、ユウキくん⁉ ちょっとどうしたの――」

 

「う、うわわわわあああぁぁぁぁっ⁉ ど、どうなってるの~~~~~~~⁉」

 

「――‼ 今、何か人の声が聞こえたさー! ユウキが走っていった方向さー!」

 

 

五感に優れた獣人のカオリは、微かな少女の声に気づく。

残った全員がカオリにつられてその方向を見ると、空から何かピンク色の何かが降ってくる。

 

 

「ちょ、あれってもしかして人間じゃない⁉ 超オニやばなんですけど⁉」

 

「…………! だめ、騎士クン――!」

 

 

ユイは気づいた。落ちてくる人に向かう無防備なユウキに、狙いを定めた魔物が近づいてくる。

ユウキは、それに気づいているかもしれない。だが、彼は足を止める素振りを見せない。

 

ユイはすかさず走りだし、魔物に対して杖を向ける。込めるのは、ありったけの魔力と強い意志。

 

 

「騎士クンには、近づかせない――‼」

 

 

渾身のフラワーショット。ユイは気づかなかったが、今までで一番高威力の魔法を叩き出した。その結果、魔物は大きくのけ反り、仰向けに倒れた。

 

 

「皆、今のうちに騎士クンのところへ!」

 

 

この時、ユイはユウキと合流したあと、形成を立て直して魔物の討伐を再開しようと考えていた。しかし、それはあくまでそれだけの準備をする猶予が与えられていた場合に限る。

 

魔物の行動基準は至極単純。弱いものを屠り食らいつく。しかし、敵意を実害で示されたとき、当然そちらに怒りの矛先は向く。

 

 

――グオオオオオオッ‼

 

「――……ぁ……っ⁉」

 

「ユイ、危ない‼」

 

 

カオリの叫びも時既に遅し。魔物は明確にユイを狙い、先程攻撃された腹いせだと言わんばかりにもの凄いスピードで向かってくる。

カオリの撹乱も、ノゾミの防衛も、スズナの一矢も間に合わない。

 

 

(騎士クン…………ッ‼)

 

 

「――こらー! この悪い子め~!」

 

 

突如、魔物は横に吹っ飛ばされ、しばらく動かなくなる。

今のは、いったい何なのか?

すぐさまそちらを振り返ると、

 

 

「……って、ええ⁉」

 

 

ピンク髪のエルフがユウキに担がれた状態で杖を構えている。あれはいわゆる『お姫さま抱っこ』というやつだ。

 

 

「きらーん☆ バッチリ決まったよ!」

 

 

 

> 油断しないでハツネちゃん。ユイ、ここから一気に畳み掛けるよ!

 

 

 

「え、ええっと、うん‼」

 

 

 

こうして、新たにハツネを加えた六人で攻守の主導権を握り、魔物は討伐された。

 

……結局ユイの特訓は魔物討伐によってなあなあになってしまったが、ギルド方針の本分を果たせた、と考えているユイだった。

 

 

 

それはそれとして、時間は進みスズナ、ノゾミ、カオリは解散し、ユイ、ユウキ、ハツネは先程の顛末について話していた。

 

 

「……えへへ、ユウキくんにはまた助けられちゃったね」

 

「またってことは、前にも?」

 

「ちょっと特異体質でね~? あんまり詳しくは話せないんだけど、今回みたいなのが前にもあって、ユウキくんには一晩中付き合わせちゃったというか……」

 

 

いきなり空から降ってくるような事象が過去にもあったというのか、という思考が思わず口に出かかり、ユイは力強く口をつぐんだ。

 

だが、ハツネは首をかしげながら口を開く。

 

 

「でも、今日はなんか変だったなぁ。自分に魔法が掛けられた感覚がしたし……。急に落下が緩やかになったんだよ?」

 

「え……?」

 

 

 

> ………………………。

 

 

 

ハツネの疑問に対してユウキが終始無言だったのがユイにとって気がかりだったが、「明日はシオリンのところに会いに行くから眠っちゃう前に森に帰るね」とハツネは帰っていった。

もし、魔法をかけた本人を見かけたら代わりにお礼を言ってほしい、との伝言つきで。

 

そうして、残ったのはユイとユウキ。図らずも、当初の予定通り二人きりになった。……もっとも、空はもう赤みを帯びているが。

しかし今回のユイはめげない。ここでユイはユウキに一つの提案をする。

 

 

「……ねえ、騎士クン。お腹空いてない? 結局今日は特訓らしい特訓は出来なかったし、付き合わせたお詫びとして、家でご馳走したいな~、なん、て…………」

 

 

我ながら強引だ、とユイは思わず顔が赤くなる。しかし、理には叶っているのでは、と淡い期待が胸のうちに広がるが、

 

 

 

> ごめんね、それは次の機会にさせて。……ちょっとこれから用事が出来ちゃったから。

 

 

 

と、帰っていった。

 

 

「……うぅ」

 

 

また全然進展がなかった。しかも、ライバルが沢山いる事が発覚した。

今日彼女が得たものは、恋のライバルの情報のみ。果たして、恋する少女が報われる日はいつなのか。

 

彼女らを見届ける天は、ただ苦笑いしていた。




ユイ
前作「プリンセスコネクト!」でのメインヒロイン。癒しの魔法が得意な魔法使い。白とピンクを貴重としたドレスと花の杖が特徴的である。
【トゥインクルウィッシュ】のギルドメンバーの一人。表向きのギルド方針は人助けだが、本当の目的はソルの塔の頂上を目指すことである。
押しが弱く、自分に自信がない。夢の中で何度もユウキに助けてもらったシーンを見て、実際にユウキと出会ってから、ユウキに対してある感情が芽生えた。



圧倒的メインヒロインの風格を持つのに、中々報われない。稀有な一例ですね。ちなみに、新春ユイは私の主力の一人です。現在オリジナルの方もチマチマと育成中……。


それはさておき、遅くなり大変申し訳ありませんでした。ここに来て急に忙しくなり始めたので、書き直すのも中々時間がとれませんでした。
ちなみに今回は試験的に沢山のヒロインキャラをゲストとして登場させましたが、これが中々動かしづらく、文字数が多くなる原因の一つでした。
お陰でクオリティが途徹もなく酷いと思いますので、次回からはもっと改善していきたいと思います。

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