メモリーズコネクト!~プリンセス達の四方山話~   作:上月 ネ子

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この話は後編ですが、前編中編との話の繋がりはあまりありません。

ただ、特定のキャラが続けて登場するため、便宜上後編としております。


転換期なんてキミが思っているよりあっさりと訪れる(後編)

「……ぐす、…………ぅぅ……」

 

 

薄暗い山中で、木に背中を預け蹲る。

すすり泣く少女の声が小さく、それでいて遠くまで響き渡る。

 

少女はなぜ泣くのか。

道に迷ったからか……――違う。

記憶がないからか……――解らない。

あるいは――独りだからか。

 

もっとも、

 

 

『――――――』

 

「…………ッ!」

 

 

仮に一人が嫌だとしても、あのような悍ましい()など門前払いである。

 

もはや日常の一部と言って良いほど見飽きたそれらをいつものように魔法で吹き飛ばす。

奴らは行く先々で少女のあとをつけ回す。

そして――周りに被害を拡大させる。

 

 

「…………ぐす」

 

 

薄々気付いていた。

奴らは少女の声に反応し、少女がそれらを認識しているから寄ってくるのだと。

幽霊と同じだ。それらは自身を認識する者に近寄ってくる。

 

だがどうしようもない。

何処へいても、何をしても奴らは後ろをついて回る。

どれだけ静かな場所を探しても。誰もいない場所を求めても。

この言葉に表せない物悲しさが少女の心中に募るばかり。

 

悲しみに諦観が差すのが先か、涙が涸れるのが先が。

いずれにせよ――

 

 

「だれか……たすけて……っ」

 

 

少女はもう、限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

> 大丈夫ですか?

 

 

 

「………………ふえ?」

 

 

思わず間抜けな声が漏れた。

少女が見上げると、黒髪の少年が不思議そうにこちらを見ながら手を差し伸べる。

 

 

「……どう、して……ここに……?」

 

 

 

> このあたりで助けを呼んでる人がいるって言われて。

 

 

 

「……だれに……?」

 

 

さあ、と小首を傾げる少年。

困惑しつつも、少女はその手を取ろうとして躊躇う。

 

 

「……だめ。わたしの……そばに、いちゃ……だめ」

 

 

 

> どういうことですか?

 

 

 

「わたしの……そばにいると……また……――」

 

 

――くぅ

 

 

「はぅ」

 

 

突如可愛らしい音が鳴り、少女はお腹を押さえて顔を赤くする。

それを見た少年はカバンから包を取り出し、その中からあるものを出す。

 

 

「……おにぎり?」

 

 

 

> お腹すいてるみたいだから。

 

 

 

「………………っ」

 

 

そう面と向かってはっきりと言われると羞恥心が抑えきれない。

しかし、この少年からは雑音が全く聞こえない。心からの善意でそうしているのだろう。

それを拒絶するのは良心が痛む。

 

恐る恐る手を伸ばし、おにぎりを……食べる。

 

 

「…………ぅぅ」

 

 

何度か咀嚼してから、少女はポロポロと涙を流す。

渡した少年は狼狽えているが、別に不味かったから涙を流すのではない。

実はこの少女、しばらくろくなものを口にしていない。

人気のある場所が苦手な彼女は人里から離れ、そのせいでまともな食材が手に入らず、かと言って狩りや釣りなど出来ない。

その結果その辺に生えてある食べられそうなキノコや木の実を焼いて食べるだけという粗末な食生活をするたびに、食中りで倒れかけたりという不憫な毎日を送っていた。

 

 

「……おいひい、おいひい……っ」

 

 

米など口にしたのは何時ぶりだろうか。

感極まって少女は夢中でおにぎりに齧り付く。

 

だが、そんな事情を知りようがない少年は少女が食べ終わったのを確認すると、彼女の手を引いて歩き出す。

 

 

「……ぇ、ぇ? どこに……行くの……?」

 

 

 

> この先に牧場があるから保護してもらおう。

 

 

 

「……っ⁉ だ、だめ……! 人がいる、場所は……」

 

 

こんな場所よりはずっとマシ。

少年は少女の躊躇いを半ば強引に押し切り、件の牧場へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

山中の森から抜け出し、【牧場】へと向かうユウキと少女。

目的地に近づくに連れて、少女の抵抗は強くなっていく。

 

 

「お願い……わたしを……一人にして……。これ以上、誰も……巻き込みたくないの……」

 

 

 

> どうして?

 

 

 

「それは…………」

 

「――あんれ、あんちゃんだべ。えらい別嬪さん連れて、デートだべか?」

 

「……っ⁉」

 

 

言いかけた少女は、奥から現れた少女の声に過剰に驚き、ユウキの影に隠れる。

 

 

「おろ? 隠れちゃったべ」

 

 

 

> マヒルさん。この人を保護してほしい。

 

 

 

「保護? いきなりどうしたべ? この辺りで遭難でもしたか?」

 

「ち、ちが……」

 

 

マヒルはユウキのそばに駆け寄り、隠れている少女の顔色を見る。

 

 

「確かに顔色良くねえべなぁ。目に隈も出来とるし。よし、そうと決まれば……エリザベス!」

 

 

――ンモオオオォォォ!

 

 

「えっ」

 

 

突如、牧場の柵を飛び越えてやってきた大きな牛がマヒルの傍まで駆けてくる。

マヒルはエリザベスに指示を出すと、エリザベスは器用に頭を使って少女を背負う。

 

 

「えっ、ええっ……⁉」

 

「エリザベス、そのままギルドハウスまで頼むど。揺らしたらダメだけんな?」

 

 

モオ〜、と一鳴きするとゆったりと歩き出し、【牧場】の坂道を登っていく。

 

 

「心配するこたあねえべ。せっかく【牧場】まで来てくれたんだからお客さんにはた〜んとおもてなしするのが【牧場】の流儀だべ。温泉の準備もしておくかんな」

 

「な、なんで……牧場に温泉……?」

 

 

少女の狼狽を他所に、マヒルは坂道を先に駆け上がり、温泉施設の方に準備をしにいくのだった。

 

その後、【牧場】のギルドハウスについた少女は、ユウキに連れられて中に入る。

 

 

「あっ、来た来た。貴女がマヒルちゃんの話してた観光客さんね」

 

「…………⁉」

 

「あっ、驚かせてごめんなさい。最近私を見てもあんまり驚かない人ばかり会ってるから油断してたわ。普通は変よね……私みたいなの」

 

「…………いえ、見た目には……驚いたけど……嫌な音……しないから……」

 

「…………っ?」

 

 

少女はリマを見て一瞬驚いたが、悪人ではないと分かると表情から険が抜ける。

一瞬リンが顔を顰めるが、それに気づかずリマは話を続ける。

 

 

「そうだ、まだ名前聞いてなかったわね。私はリマ。こっちの茶髪の子がリンちゃんで、黒髪の子がシオリちゃんよ」

 

「……ども」

 

「はじめまして……」

 

「…………え、と。……ランファ……」

 

 

反応が少し遅れたが、名前を聞かれるのに気づくと少女――ランファは恐る恐る名を明かした。

 

 

「ランファちゃんね。マヒルちゃんから遭難したって聞いたけど大丈夫だった?」

 

「……あの、わたし……遭難なんて……――」

 

「温泉の用意できたべー‼」

 

 

またしても、ランファは言葉を遮られる。

笑顔でギルドハウスの扉を開いたマヒルは、ランファが居るのを確認すると、ランファの手を引く。

 

 

「あ、あの……!」

 

「遠慮は要らねえべ。浸かったあとの牛乳も用意してっからなぁ♪」

 

「……ぅ、うぅ」

 

 

拒みきれないランファはそのまま温泉へと案内されるのだった。

 

 

「大丈夫かしら? クルミちゃんよりオドオドしてたけど……。私も様子を見に行こうかしら?」

 

「待った。それよりもっと真面目な話をしない?」

 

 

はっきりとした声でリンは注目を集める。

いつになく真剣な声でリマを呼び止めると、それに便乗してシオリも口を開く。

 

 

「そうですね、私も気になることがありまして」

 

「リンちゃん、シオリちゃんも……どうしたの急に?」

 

 

要領を得ない、とリマは首を傾げる。

 

 

「さっきのランファさんですけど……もしかしたら――」

 

 

 

 

 

どうしてこうなったのだろうか。

湯船に浸かりながらランファは困惑する。

 

 

「いや〜、ごめんなぁ。一人で浸かりたいんだろうけんど、おらも一応汗を流しときたくてなぁ」

 

 

申し訳無さそうにマヒルも湯船に浸かり、柔和な笑みを浮かべる。

 

 

「ランファさんだったか、気にせず寛いでええかんな。……それとも余計なお節介だったか?」

 

「……う、ううん……そ、そんなことは……ないわ」

 

 

あれよあれよとこんなことになってしまったが、マヒルが善意でここまでしてくれていることはすぐにわかった。

先程のユウキという少年と同じで、こちらに向けられる感情に雑音が一切ない。こんな人間がいるのかと思うほどに。

 

ただ、ランファ本人にコミュニケーション能力が乏しいだけだ。

聞けばこのマヒルという少女、ランファと同い年というではないか。

同年代と何を話せばいいのかなど、ランファには分からなかった。

 

 

「……にしても、ランファさんってえれぇ綺麗だべなぁ」

 

「……そ、そうかしら……?」

 

「んだんだ。スタイルも良いし、声もキレイだし」

 

「…………っ」

 

「おらなんてこの見た目だから、初見の人には子供に間違えられんだ。せめてもっと背が高けりゃなぁ……」

 

 

残念そうに自身の身体を見下ろすマヒル。

ランファが一瞬どんな表情をしたのか見落としたようだ。

 

 

「そういやあんちゃんは保護してほしいって頼みに来たけんど、ランファさんホントに遭難したんか? このあたりはある程度舗装されてっからそうそう迷ったりはしねえと思うが……」

 

「それは…………」

 

 

ランファは顔を伏せ、数巡の後に口を開く。

 

 

「わたしは……ただ、誰もいない場所で……静かに、暮らしていたい……だけなの……」

 

「えっ?」

 

「誰もいない……誰にも迷惑をかけない……そんな、静かな……場所で……」

 

「なんだ、それ……そんなの寂しくならねえか?」

 

 

マヒルは困惑する。

ランファの表情は見えないが、このままにしてよいものか、考えて口を開いた。

 

 

「そんな寂しいことするくらいなら、ウチにくるか?」

 

「え?」

 

「うちは来るもの拒まずだべ。リンリンやシオシオは元は別のギルドのメンバーだけんど、こうして【牧場】のためによくしてくれてっし、リマリマも人里から離れてずっとここで暮らしてんべ。ランファさんも歓迎すんぞ? 歌でも歌ってくれりゃ動物たちも喜ぶだろうしな♪」

 

「それは……だめ……っ」

 

「えっ」

 

 

ふるふるとランファが首を横に振る。

ランファの周りの水面が波立つ。

 

 

「……わたし、すぐにでも……ここを発つわ……」

 

「何でだ⁉ まだ碌におもてなししてねえど!」

 

「ユウキくんや、マヒルちゃんには……本当に感謝しているわ……。お米を食べたのも、お風呂に浸かったのも……本当に久しぶり。……だから、これ以上ユウキくんやマヒルちゃん達には……迷惑をかけられない……」

 

「迷惑なんて、何いってんだ! おらたちはそんなこと一言も……」

 

「違うの……! わたしがそばにいると……みんなは巻き込まれる……そんなの、もういや……!」

 

 

波紋が少しずつ弱まるが、なおも続く。

水面に映るのは、諦めにも似たランファの表情。

揺れるせいで、時折泣きそうにも見えた。

 

 

「それに、リンちゃんやシオリちゃんには……薄々勘付かれていたけど、……わたしは……――」

 

 

 

 

 

「――ランファちゃんがあの歌声の主⁉」

 

 

シオリが恐る恐る口にした言葉を、リマはオウム返しする。

 

 

「まだ、そうだと確定したわけではありません。けど……」

 

「あたしはそうだと思ってるよ。あのアヤネって子が見つかったときにしっかり聞いたしね。そっくりだったよ……声が」

 

 

複雑そうな心境が二人の表情に浮き出る。

二人が口にしたことは、あのランファこそがシャドウの大量発生の原因となっている歌声の主、という事だった。

 

 

「待ってよ、それじゃランファちゃんはどうなるの?」

 

「……【王宮騎士団】はどういうわけか調査を打ち切ったけど、【動物苑】はそうじゃない。街ではシャドウが沢山現れて被害が出たし、傘下ギルドである【牧場】の周辺にもシャドウが現れた。ランファさんに原因があると知ったら……まあ、野放しにはしないよね」

 

「【フォレスティエ】でもあの歌声はとても警戒していますし、お姉ちゃんやミサト先生も原因が分かったら教えてほしいと頼まれています。【フォレスティエ】は近所ですし、……隠し通すことは難しいかと」

 

「そんな……!」

 

 

リンとシオリの言葉にリマは愕然とする。

だが、首を傾げて口を開く者が一人。

 

 

 

> ランファさんはそんな悪い人には見えなかったけど。

 

 

 

「……! そうよ、ランファちゃんが悪意でそんなことするような娘には見えなかったわ! 何か事情があるのよ!」

 

「…………残念だけど、本人の事情なんてもう関係ないんだよ」

 

「えっ?」

 

「先のクリスティーナの件と同じ。傘下ギルドに被害があったなら、上層部は対応しなきゃいけない。ただでさえ【動物苑】は傘下ギルドが嵌められて、その上また被害が出てるんだ。ギルドの面目としても放置はあり得ない。……もう、あたしたちみたいな個人じゃどうすることも出来ないんだよ……」

 

「だ、だからって、そんなランファちゃんを売るみたいな……」

 

 

言葉は続かなかった。

リマが何も言えなかったからではない。

 

 

『―――――――――』

 

 

あの無機質な声が、ギルドハウスの外から聞こえてきたからだ。

 

ユウキ達は外に出ると、【牧場】への山道に数え切れないほどのシャドウがゆっくりと登りつめてくる。

 

 

「ど、どうして⁉ あの歌は聞こえてないのに……」

 

「話は後! さっさと対処するよ!」

 

 

ユウキは剣を構え、皆を強化する。

それを合図に、リマ達は武器を構え、シャドウの群れに向かい打つのだった。

 

 

 

 

 

一方、時は少し遡る。

 

ぽつりぽつりと話すランファに、マヒルは少しずつ顔が強張っていく。

 

 

「なんだ、それ……。ランファさんは何も悪くねえべや……!」

 

「…………でも……、わたしがいると……周りを巻き込んでしまうの……」

 

 

ここに至るまでの事をマヒルに話したランファ。

マヒルはそう言ってくれるが、事情を知らぬものからすれば納得できる筈もない。

 

なにせ、巻き込まれて被害を被った人達がいるのだから。

 

お別れの挨拶をして去ろう、そう思いランファは立ち上がると、

 

 

「…………ッ!」

 

 

その表情が一瞬にして険しくなる。

 

 

「ど、どうしただ?」

 

「また……あの影が……! みんなの近くに……!」

 

 

ランファは急いで湯船から飛び出す。

そして急いで着替え、ギルドハウスの方に駆けていく。

 

 

「影……? まさか‼」

 

 

何を指しているのか理解したマヒルは遅れて温泉から飛び出す。

 

視点は戻り、ユウキ達はシャドウの対処をしているが、数が多すぎるせいで押し寄せるシャドウに対して全く攻撃の手が追いついていない。

 

 

「ああ、もう! 数が多すぎて面倒すぎる! ねえしおりん、何か一気にあいつら吹き飛ばす攻撃とか持ってたりしない⁉」

 

「お、お姉ちゃんじゃないので流石に……魔法少女になるのは最終手段だし……

 

 

簡単に見せるわけにはいかない奥の手の姿を想起しながら、シオリは弓の弦を今一度引き絞る。

 

 

「もうリンちゃん! こんな時に面倒くさがりを発揮してる場合じゃないわよ! ……きゃん⁉」

 

 

最前線でシャドウを切り飛ばすリマは、突如横から魔法を打ち込まれ、体制を崩してしまう。

 

 

「いたた、魔法を耐えるのは苦手なのに……って」

 

『シオリン……私……森で……』

 

「お姉ちゃんのシャドウ⁉」

 

 

魔法の攻撃手はハツネのシャドウ。よく見るピースのポーズを取りながら虚ろな表情で杖を構える。

 

 

「いけない、お姉ちゃんの魔法攻撃は……!」

 

「……いや、ハツネだけじゃないっぽいね」

 

 

リンは諦めの境地で続いて迫るそれらを目にする。

 

 

『アンタって……いつも……駆けつけ……』

 

『二人で……一人の……魔法……』

 

「ナナカとヨリヨリのシャドウだ……。これは……覚悟決めた方が良いっぽいね」

 

 

二人の魔法攻撃の威力と範囲を知っているリンは、苦笑いで槍を構え直す。

 

三人のシャドウが体制を崩したリマに狙いを定めるのを見たユウキは、リマの前に立ち剣を構える。

 

 

「ユウキ! 下がっていいよ! そいつらはあたしが何とかするから!」

 

(くっ……止む終えない……!)

 

 

甘えてなどいられない。

シオリは奥の手を使うべく、ユウキに声をかけようとして、

 

 

―――――♪―――♫―――♪――

 

 

「え……」

 

「この、歌声は……!」

 

 

シオリは突如聞こえた歌声に呆けてしまい、最悪の事態だとリンは愕然とする。

しかし、

 

 

『―――――――――』

 

 

予想に反して、シャドウ達の動きは途端に鈍くなり、苦しみだすシャドウ。

何が起きているのか、一同は困惑していると、

 

 

『――アアアアアアァッ‼』

 

 

ユウキとリマの側にいたシャドウが苦しみだしその体が少しずつ結晶になっていく。

結晶が全身を包み、そして独りでにヒビが入りシャドウごと砕け散った。

 

 

「その人たちに……手を出さないで……ッ!」

 

 

 

> ランファさん!

 

 

 

ユウキ達の後ろから現れたランファは、ほのかに怒りが混じる表情でシャドウ達を睨みつける。

 

 

「―――♪―――♫―――♪――」

 

 

続けざまにランファは歌うと、彼女の側に魔法陣が展開される。

その中心から結晶が生み出され、結晶は少しずつ魔物の形を取る。

 

 

「グオオオオォッ‼」

 

 

水晶の魔物――ネフライトワイバーン達は雄叫びを上げると、口に魔力の奔流を溜め込み、シャドウに向けて一斉に放出した。

 

それは瘴気のようなブレス。激流のように押し寄せるそれらはシャドウ達に逃げ場などなく、体が少しずつ結晶へ変化していき、とめどなく襲いかかるブレスの勢いによって砕け、跡形もなく一体ずつ吹き飛んでいく。

 

そして、目の前にシャドウが一体も居なくなったのと同時にネフライトワイバーン達のブレスも止んだ。

 

 

「これで……静かに、なった……」

 

 

シャドウの音が聞こえなくなったのを確認したランファは、その表情から険が抜ける。

 

 

「………………………」

 

「あれは、唱喚魔法……⁉」

 

「一気に吹き飛ばしたいとは言ったけど、強すぎでしょ……」

 

 

リマ達は、ランファ一人で全てのシャドウを倒した事実に絶句する。

 

 

「ぁ…………」

 

 

自身に注目が集まっていることを察したランファは、居心地が悪そうに視線が右往左往する。

微妙な雰囲気になりかけたとき、

 

 

「――待ってけれ〜〜! ランファさんを邪険にしねえでほしいど〜〜!」

 

「まっひー⁉」

 

 

後ろからようやく追いついたマヒルが必死な形相でランファとユウキ達の間に立つ。

 

 

「そういえば、お二人は温泉に入られてたんじゃ……」

 

「い、いきなりランファさんが飛び出して……、じゃなくて! このとおりだ、ランファさんは何も悪くねえだ!」

 

「いきなり何の話?」

 

「さっきのシャドウは、ランファさんのせいでなくて……!」

 

「いいの……マヒルちゃん……。わたしが、話すわ……」

 

 

再びランファに注目が移る。

心配そうに見るマヒルにやんわりと制止して、ランファはぽつりぽつりと話しだした。

 

 

「わたし……昔から……目に見えないものや、何かが……音で聞こえるの……」

 

「音?」

 

「ん……人の雑念……生き物の感情……さっきみたいな……影の気配……」

 

 

影、というのがシャドウを指しているのは一同はすぐに分かった。

 

 

「さっきの影には……わたしの声が……よく聞こえるみたいで……、わたしが認識してるからなのか……ずっと前から……後をつけられてるの……。

前に、わたしを……探してる、と思う……鎧を着た人たちが……近くまで、来たわ……。その時にも、あの影はいて……。影は、わたしから……鎧の人達にも襲いかかったわ……」

 

 

だから、街にいられない。

人のいる場所にいられない。

 

 

「わたしは……ただ、静かな場所で……誰もいない場所で……大好きな歌を、歌っていたい……だけなのに……」

 

「歌……だから、歌声が聞こえたんですね」

 

「カスミ風に言うなら因果関係が逆、ってところかな」

 

「どういうこと?」

 

「歌声のせいでシャドウが現れるんじゃない。シャドウが寄ってくるから、さっきみたいに歌を使った攻撃でシャドウを倒してる。……そんなところかな」

 

「ん……」

 

 

ランファは小さく頷いた。

 

 

「でも、わたしのせいで……迷惑がかかっている、人達が……沢山いるわ……。あなた達にも……迷惑をかけてしまったもの……」

 

 

ランファの目尻には次第に涙が溜まり、ポロポロと決壊する。

膝をついて、両手で顔を隠す。

 

 

「だから……わたし、今すぐにでも……ここを出ていくわ……これ以上……迷惑を、かけたくないもの……」

 

「ぅぅ……ランファちゃん……」

 

 

先程リン達と話していた事が粗方事情に当てはまる為に、何を言えばいいのか解らないリマ。

このまま見送ることしかできないのか。

 

 

 

 

 

「――心の底からそう思ってるなら泣くな‼」

 

 

 

 

 

「ふえっ?」

 

 

マヒルの大きな一喝が空気を切り裂いた。

呆けて思わず顔を上げたランファはムッとしたマヒルに見下されて、オロオロと困惑する。

 

 

「ま、マヒルちゃ……」

 

「その涙でやっと解ったべ。ランファさん、あんたホントは寂しくてしょうがねえんだろ?」

 

「……っ‼」

 

 

まっすぐに、深く突き刺さった。

言葉すら出せずに、ランファはまたポロポロと涙を流す。

 

 

「さっきも言ったべ。寂しいことをするくらいならうちに来るかって」

 

「ちょ……まっひー!」

 

 

流石にそれは勝手が過ぎる。

リンは食い気味に待ったをかけた。

 

 

「悪いけど今回ばかりは真面目にまっひーの肩は持てないよ。……ランファさんは、本人にその意思がなかろうとシャドウの被害が拡大した原因だよ!」

 

「っ……」

 

「大体【動物苑】や【自警団】には何ていうつもり⁉ 流石に誤魔化せないよ⁉」

 

「誤魔化す気はねえべ。商人としても、信用は大事だ」

 

 

ふるふるとマヒルは首を横に振り、堂々と口にする。

 

 

「その二つのギルドにはおらの方から直接話をしておくべ」

 

「え、ええ⁉」

 

「……本気で言ってる? 問題は【動物苑】と【自警団】だけじゃないんだよ? 一番被害が大きいであろうランドソルの住民や【プリンセスナイト】は黙ってないよ。その上【フォレスティエ】や王宮の貴族……王族だって出張ってくるかもしれない」

 

 

王族。

その単語を聞いた瞬間にマヒルの表情は恐怖に歪む。

かつてランドソルのとある王族に出会ったマヒルはとある恐怖を味わい、王宮周辺にはしばらく立ち寄れなくなってしまった。

 

 

「でも……でも! だったらランファさんはどうすればいいだ‼ ランファさんが何したってんだ‼」

 

 

今度はマヒルご涙目になり、ランファの顔を胸に抱き寄せる。

 

 

「こんなに優しい人が……周りを思って孤独になろうとするくらい優しい人が! なのにその上追及されるなんて! そんなのあんまりだ‼」

 

「マヒル、ちゃん…………っ」

 

 

リンも、シオリも、リマも。

本当ならマヒルと同じ意見である。

ランファには助けてくれた恩もある。力になってあげたいが……。

 

 

 

> なら、掛け合ってみよう。

 

 

 

一同はユウキに視線が注目した。

 

 

 

> まずは、ミサト先生に事情を話してみよう。

 

 

 

「……確かに、ミサト先生は優しい人ですし、ランファさん自身に何も問題ない事が分かってもらえれば、【フォレスティエ】は味方につくかもしれませんね」

 

「……! だ、だったら【自警団】はおらに任せてくれ! 【動物苑】は難しいかもしんねえが、【自警団】は何とかおらが説得してみる!」

 

「でも、問題は【王宮騎士団】……【プリンセスナイト】と、貴族連中だろうね……」

 

 

リンの一言が、事態が簡単にはいかないことを証明する。

 

だが、

 

 

「…………あーもう仕方ないなぁ。仕方ないから説得手伝ってあげるよまっひー」

 

「リンリン! いいのか⁉」

 

「あくまで説得相手は【自警団】だけだよ。【動物苑】は後ろ盾がないと流石にキツイ。それこそ、【自警団】くらいの大きい傘下ギルドじゃないとね」

 

「……なんだか、少しずつ何とかなりそうね! 良かったわランファちゃん‼」

 

「ぇ、え……?」

 

 

本人が与り知らぬ間に話が進み、オロオロと視線が右往左往するランファ。

ただ一つだけ把握したのは。

 

 

「わたし、は……ここにいて、いいの……?」

 

「当たり前だべ! ランファさんは何も悪い事してねえんだ。胸張って、堂々としてればいいんだべ」

 

 

――あんたはここにいて良いんだ。

 

 

その一言が、ランファの涙をを再び決壊させるのだった。

 

 

 


 

 

 

彼らのやり取りを茂みの奥から見守っていた少女が一人。

雨降って地固まる。ランファは一先ず落ち着くところに落着しただろう、とため息をこぼす。

 

 

「――フフフ、随分過保護ですねミソラさん」

 

「………………★」

 

 

だが、そんな心境に水を差す男が後ろから声をかけてくる。

 

 

「……居たんですねミロクさん。もうっ、乙女の後ろを付けてくるなんて不躾ですよ?」

 

「それは失敬。しかしそれを考慮しても余りあるほど、彼女に肩入れしようとするミソラさんの姿に疑問が尽きなくてですね」

 

 

大して悪びれもない笑顔を浮かべながらミロクは続ける。

 

 

「ランファさん……どうやら彼女は感能力が高すぎるが故に、発生しかかっているシャドウ(バグ)を感知し、それが原因でシャドウもランファさんを感知して襲いかかってしまうようですね」

 

「そうですね……」

 

「そして、シャドウは自身の存在を確立させるべく覇瞳皇帝に予め書き換えられ、目に付くプレイヤーやNPCに襲いかかる。……その仕組みは覇瞳皇帝が無力化された今でも生きている」

 

「つくづく面倒な事をしますね〜彼も。エリスさまが鬱陶しがるのも納得です」

 

「まあ……今回は特にシャドウの数が多いですけどね。やはり前回でアストルムの住民がほぼ全て死に絶えてロストしたからでしょうかね?」

 

「恐らくはそうでしょう。エリスさまの願いも実現一歩手前まで行きましたからねぇ。リセットで再構築された住民があまりにも多すぎて、発生するシャドウも飽和しているんでしょうね」

 

「ククク……それ故に、最後の最後であの邪魔はエリスさんも堪えたのでは?」

 

 

その時を思い出して、ミロクは意地の悪い苦笑いを浮かべる。

ミソラは思い出して面白くなさそうに、そうですね、と相槌を打った。

 

 

「結局……あの結末は誰にとっても不幸を呼び寄せてしまいました。……ランファさんのようにね」

 

「………………」

 

「そんな彼女が()()()()()ですか?」

 

「………………………」

 

「あるいは元ギルドメンバーとしてのよしみですかね? 他のメンバーがどこにいるのか随分探されておりましたし」

 

「………………………★」

 

「それとも……罪悪感でもあるのでしょうか? 貴女は前回その手で彼女を――」

 

「――ふふふ、黙って聞いていれば好き勝手に質問をしてくれますね★」

 

 

それまでミロクに背を向けていたミソラは振り返り、ミロクに対して氷のような笑みを浮かべた。

 

 

「ねえミロクさん、質問したいのはわたしだって同じですよ?」

 

「ほう、と言いますと?」

 

「あなた、何を考えているんですか?」

 

 

瞬間、ミロクを包囲するようにガトリング型の魔導杖が展開される。

ミソラの声も一層冷たくなりその笑みも引っ込んで鋭くミロクを睨みつける。

 

 

「……ふむ? 質問の意図が図りかねますが?」

 

「とぼけないでください。何を指して質問しているのかミロクさんならおおよそ察しているでしょう」

 

 

ガラガラガラ、と魔導杖が回り出す。

いつでも一斉掃射出来るように。

 

 

「彼女たちを使って()()を手に入れたと思えば、あんな趣味の悪い魔物を生み出すなんて。バグじゃない分マサキさんのバグモンスターより醜悪ですよ」

 

「おやおや。我ながら冴えた考えだと思ったのですがね」

 

「それだけなら個人趣味とスルー出来たんですがね? よりによって騎士さんにけしかけるなんて……。エリスさまが眠っているのを良いことに、鬼の居ぬ間に洗濯ですか? わたしは協力者であってあなたの味方ではありませんよ? 勝手がすぎるとこうなりますよ?」

 

 

魔導杖の回転が早くなる。

だが、魔力弾が発射されることはない。

一転してミソラはニッコリと笑い、

 

 

「…………な〜んて★ 流石に撃ちませんよ、エリスさまならともかく」

 

「フフフ、それは助かりましたね」

 

「反省してないですね、その反応は……? 次は撃ちますよ?」

 

「言い訳のように聞こえますが、あれらも敵としての手駒ですよ? それに、前回のような事がまた起きぬように、騎士の少年を確実に確保出来る存在が必要なのです。彼女らは手荒な部分がありますからね」

 

「ものは言い様ですね……」

 

 

もはや呆れてものも言えない、とミソラは諦めたように首をふる。

 

 

「さて、私もそろそろお暇しましょう。()()の調整がようやっと目処が付きましたからね」

 

「そうですか……、ではそろそろですかね★」

 

「ええ、その時は手筈通りに」

 

 

そう言い残して、ミロクは転移した。

ミソラは見送ったあと、大きくため息をつく。

そして、未だにマヒルの胸の中で泣いているランファを遠目で見やる。

 

 

「ランファさん……あなたはわたしのようになる必要はありませんからね」

 

 

きっとこれが何か少しでも良くなると信じて。

 

 

「騎士さん、わたしの言葉を信じてくれてありがとうございました」

 

 

自分を友達だと言ってくれた彼女の幸せを願って。

 

ミソラは、その場を後にした。




マヒル
前作「プリンセスコネクト!」より続けて登場するお笑いを追究する牧場主。彼女が呼ぶとやってくる牛はエリザベスとは別の牛らしい。
見た目は牛のきぐるみを着た子供だが、二十歳の女性。駄洒落や漫才を追求し、お笑い芸人を夢見ているが、受けているのは小さな子供だけである。
人当たりが良く、牧場で生産している牛乳やチーズを街までやって来て商売をする。自らがそうすることで消費者からは沢山の信頼を得ているが、本人は真面目にやっているだけと自覚が薄い。



前中後と書き終わりましたが、長い。
特に後編は一万文字超えと、これまでで一番長いです。
長くても良いと、以前読者の方には仰って頂けましたが、やはりその分更新が遅くなってしまうのが考えどころですね。
予定では今年中に第一部終わらせるつもりだったのですが、どういうわけか今回みたいにクライマックスに入る前に長めのお話を入れることになってしまったという。

どうしよ……(困惑)

以下のキャラの中で誰を優先して書いてほしい?

  • アユミ
  • イリヤ
  • スズメ
  • マホ
  • ルカ
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