メモリーズコネクト!~プリンセス達の四方山話~ 作:上月 ネ子
ランドソルから離れた森の奥。
そこにはエルフ族で築かれた里が存在しており、森全体を管理する【フォレスティエ】の活動拠点でもある。
「……そう。そうだったのね」
そのギルドマスターであるミサトは、尋ねに来たユウキとその側にいるシオリ、ランファの話を聞き、噛みしめるように頷いたあと、優しい微笑みで返す。
「ありがとうね、ユウキ君。今のお話、とっても大事なことだったわ。シャドウちゃんを怖がって最近は子供たちや親御さんもあまり保育園に立ち寄ってこないから、どうしたらいいのか先生も困ってたの。シャドウちゃん、先生のお話を聞いてくれないから」
ナデナデと、ミサトはユウキの頭を撫でる。
続いてミサトはランファに目を向ける。
「ランファさんだったかしら。これまで大変でしたでしょう? 大丈夫、あなたは何も悪くないわ。もしもの時は【フォレスティエ】の皆にも手伝ってもらってあなたを保護します」
「そ、そんな……悪い、です…………っ」
気まずそうにランファは目を逸らす。その目の周りはほんのりと赤い。
あれからずっと嬉し涙を流し、疲れて眠るほど泣いていたのだ。
「気にしないでください。ランファさんだって被害者ですもの。困っている人を助けることは何もおかしい事ではないわ。ね、ユウキ君」
うんうん、とユウキは何度も大きく頷く。
それを見て嬉しそうに微笑み、ミサトは頭を撫でる。
「……さて、確かマヒルさんが【自警団】の方に説得しに行ってたのだったわね」
「はい、出来ればその、ミサト先生からの口添え等がありましたら……」
「任せて頂戴! 急いで用意するわ。ただ、すぐにでも送ったほうが良いでしょうし、ここはハツネちゃんを頼りましょうか」
> そういえばハツネちゃんいないね。
ユウキはギルドハウスを見渡すが、ミサト以外の主要のギルドメンバーが見当たらない。
アオイはともかく、ハツネならシオリが来ると聞けばすっ飛んでくるものだが……。
「きっとまた何処かでお昼寝しているのかもしれないわ。最近森の安全のために沢山頑張ってくれていたから。きっと森の何処かに居るはずよ」
ミサトはその間に書状を用意する、とユウキ達にハツネを任せ、ミサトは筆記の用意をする。
ユウキ達もギルドハウスを出て、里の外へと探しに行くのだが。
「……ねえ、エルフの里の……外って……あまり安全じゃ、ないのよね……? そんなところで……寝ているのかしら……?」
「そうですね。狩り場の方は罠を仕掛けていますし、魔物とは別の意味で迂闊に踏み込むと危険な場所もあります」
「…………とても、そんなところで寝ているとは……思えないけど……?」
「普通はそう思いますよね。でもお姉ちゃん、一度眠りにつくととんでもない寝相を発揮するんです」
ランファは首を傾げる。
そんなランファをよそに、ユウキ達はハツネを捜索していると、ふわふわと見慣れたピンク色の塊が宙に浮いている。
> あ、いた。
「良かった、近くにいて」
「……え、ええ??」
まるで人が宙に浮いている事が普通のことのように振る舞っているユウキ達に、ランファは困惑してしまう。
そんなランファをよそに、ユウキとシオリはハツネに近寄り、
「お姉ちゃん、お姉ちゃ〜〜ん‼」
「スヤ……スヤ……スヤリン……、……シオリン?」
愛しい妹が耳朶を叩く音でハツネは覚醒し、大きなあくびをかいたあと、
「……あれ、うああぁっ⁉」
自らを包む浮遊感が無くなり、重力に従って落下する。
そして予想していたようにユウキは腕を広げ、ぽふっという音がとともにハツネは受け止められる。
「……あ、あはは☆ また助けられちゃったね……、……って!」
自分がどのように抱き上げられているのかを気づいたハツネは頬を赤く染め、飛び起きるようにユウキの腕の上から抜け出す。
「も、もう! 今みたいなのはシオリンにしたほうが良いよユウキ君!」
「べ、別に私はしてほしいわけじゃ……。お姉ちゃんだって満更でもなさそうだし……」
「そ、そんな顔してないよ〜!」
ふくれっ面で言い合う姉妹をニコニコとユウキは見守っている。
「なんで……誰も、人が浮いているのに……突っ込まないのかしら……」
ランファの疑問には、誰も答えることはなかった。
その後、ハツネはミサトの書状を受け取り、全速力でランドソルへと向かった。
その飛んでいく姿を見てランファは呆けてしまったのはまた別のお話。
後日、ミサトから連絡があり、ユウキはランファを連れてエルフの森へとやって来る。
「【動物苑】と【プリンセスナイト】とのお話の結果、緊急の会合を開くことになっちゃって。私とユウキ君たちにも参加してほしいとお誘いがあったの」
ランファは渦中の人物なので参加は確定として、ユウキも参加するとはどういうことなのか。
ミサトによると、どうやら二大ギルドとの話の中でユウキの名前が何度か出ており、会合にそのユウキとやらも参加してもらう、という話になったようだ。
そういうことなら、とユウキは快諾する。
そして、その会合の日。
ユウキ達三人はランドソルの獣人族居住区の方へと足を運ぶことになるのだが。
「ぅぅ…………」
「あらあら、ランファさんの顔色が悪いわ。どうかしたんですか?」
「雑音が……うるさくて……っ」
「雑音……? ごめんなさい、よくわからないけれど……人混みに酔っちゃったのかしら?」
ランドソルに来てからランファは耳を塞ぎ、ユウキの背に隠れながら歩いていたのだが、街の中を進むたびに足取りが悪くなってきた所を、ミサトが気づく。
「じっとしてて、ランファさん。今回復魔法をかけてあげますね。少しは楽になるかも――」
「ったく、いつまでこんな仕事続けんだろうな、ギルドマスターも」
「…………っぅ⁉」
ミサトが回復魔法をかけようとしたとき、遠くを歩いている二人組の声が届く。
するとランファは耳を押さえて蹲ってしまった。
「言いっこなしッスよ、アニキ。今までで一番金払いがいい仕事じゃないッスか」
「そりゃそうだが、もう探し回って半月は経つんだぞ。いつまでさせられんだか……」
二人組はそのまま人混みに消えていく。
「…………はぁ、……はぁ……」
それと同時にランファは耳を押さえるのをやめたが、顔は大粒の汗がいくつも滴っている。
今の短い時間で想像を絶するほどの苦痛を味わったのは間違いない。
> もしかして、さっきの二人組が?
「……ん。ここまでで、酷い……雑音、だったわ……」
「……確か、耳が良すぎるんでしたっけ? 聞こえるはずのないものが聞こえてしまうって。それも何とかしてあげたいですけれど……」
当人の先天的なものは中々どうすることも難しい。
こればかりはミサトも困ったように微笑むことしか出来なかった。
「……大丈夫、です……。はやく、行きましょう……?」
「そうですね。……でも、ちょっと待って下さいね」
ミサトはポーチに手を伸ばし、中から華やかな装飾の付いた水筒を取り出す。
コップ状の蓋に水筒から注ぎ込んだそれをランファに渡す。
「エルフの森で取れるミントの紅茶です。少しは楽になると思うわ」
「……ありがとう、ございます……」
おずおずと受け取り、口にすると次第にランファの目が見開かれていく。
「……不思議。あんなに……苦しかったのに、少し……楽になったわ……」
「良かったわ♪ 持ってきて正解だったわね」
顔色が多少良くなったのを確認し、ミサトは優しく微笑む。
「……ありがとう、ございます」
「ふふ、良いのよ。さあ、行きましょうか」
ユウキ達はそのまま歩を進め、目的地である会合の場所――【自警団】のギルドハウスへとやってきた。
ミサトはギルドハウスの扉を叩き、挨拶してから中へ入る。
「失礼します。【フォレスティエ】の代表、ミサトです」
「あら〜、ミサトはん。来てくれはったんやねぇ」
出迎えたのは、【自警団】のギルドマスターのマホ。
マホはお辞儀をして、ミサトに挨拶を返す。
「【動物苑】の代表、【自警団】のギルドマスターのマホどす。マホ姫と呼んでおくれやす♪」
「ふふ、よろしくお願いしますね。マホ姫ちゃん♪」
「ちゃん、は別にいらへんけど……」
少し照れくさく狐耳をピコピコと揺らすマホ。
話題を変えるように、視界に入ったユウキに嬉しそうに挨拶をする。
「王子はん! 王子はんも来てくれはったんやね。突然お呼びして申し訳ないかなぁ、とは思っとったんやけど……」
大丈夫、とユウキはサムズアップする。それだけで、マホはご機嫌になる。
次にマホはランファに視線を向ける。
「あなたがランファはんどすな? マヒルはんから聞いとりますえ。色々苦労されとったようやけど……」
「……その、【自警団】は……街を守る、人たちだって……」
ランファは視線が右往左往する。
果たして【自警団】がランファを受け入れてくれるのか、彼女はその答えを聞くのが少々恐ろしい。
「心配には及びまへん。獣人族は仲間を絶対に見捨てへん。マヒルはんの話も信じますし、うちらもランファはんが悪いとはどうしても思えへんどすわ」
だから大丈夫どすえ、とにっこり微笑むマホ。
優しさがむず痒いのか、ランファはユウキの背中に顔を隠してしまった。
「……ほんに、恥ずかしがり屋の普通の女の子、って感じやなぁ。マヒルはんのいった通りやわ」
「ふふ、そうですね」
それを微笑ましく見つめるミサトとマホだった。
会合の広間へと案内されると、既に何人か広間に集まっていた。
「おっ、来たか。待ってたぜ」
「ランファさん、無事に来れただか。良かったべ〜」
マコト達【自警団】の皆と、一足先に来ていたマヒル。
「スヤ……スヤ……」
超能力の使いすぎが原因か、既に着席して眠っているハツネ。
ミサトの話では、書状の送付や会合案内などのやり取りで頑張ってくれていたらしく、そのまま【自警団】で寝泊まりすることになったらしい。
「あらあら、ハツネちゃんったら。お疲れみたいね」
「……むにゃ、ミサトせんせい?」
クスクスと微笑むミサトの声にハツネは覚醒する。
そして、眠っていたことにハツネは気づき慌てて姿勢を正す。
「おや、貴女があの有名なミサト先生ですか?」
「あら、あなたは?」
突如机の対面から話しかけられたミサトは、そちらに目を向ける。
「お初にお目にかかります。わたくし【聖テレサ女学院】で教鞭を執っております、ヒルダというものです」
「ご丁寧にどうも。改めましてミサトです。【聖テレサ女学院】と言いますと……」
「確か、貴族の居住区の方にある大きな学院だっけ。外から見るだけでも大きくて広いよね〜」
ミサトとハツネは件の女学院について思い出す。
ヒルダと名乗った中年の初老の女性は軽くお辞儀をして、ミサトに友好的に話す。
「ミサト先生のお噂はかねがね伺っておりますわ。まるで聖母のようだと。もしご興味がお有りでしたら我が校で生徒達にご教授していただきたいと……」
「あ、あらあら〜。私をそのように評価していただけるのはありがたいですが……。すみません、私にも親御さんから預かっている子供たちのお世話をしなければいけませんので……」
「そうですか……残念です。しかし機会があれば、いつか特別講師としてどうか教鞭を振るっていただければと」
少し残念そうにするヒルダは、続いてユウキとランファに目を向ける。
「そちらの少年は? 黒髪の女性は頂いた資料である程度把握しておりますが……」
「ユウキ君ですか? 彼はとっても頼りになる男の子ですよ。時々保育園でお手伝いもしてくれるんです♪」
「うちのことも助けてもろうたしなぁ。うちにとっては運命の王子はんなんやで♪」
「【牧場】でも手伝ってくれるべ。大変なときに限って巻き込んじまう時もあったがやな顔せずに力になってくれるべや」
「は、はあ……? 随分評価が高いのですね……気のせいかしら、どこかで見た顔だけど…………」
ミサトに続き、マホとマヒルまでもユウキを好意的に評価するので、怪訝な表情をユウキに向ける。
「そういえばヒルダ先生も会合に参加されるのですか?」
「ええ。私は貴族の代表として立候補致しました。我が校の在校生はご存知の通りほぼ全員が貴族のご家庭出身でして。今回の件について生徒の安全などで親御さんから色々と
そこで、ランファについて緊急の会合を行うと耳にし、こうして参加することとなったようだ。
「かくいう私も親御さんと同意見でして。私の娘も我が校に通っておりまして……」
「あらあら、そうだったのですね〜……」
ミサトとヒルダが世間話を始める一方で、マホはチラチラと広間の出入り口に視線を向ける。
ユウキは気になって尋ねると、
「いや、【プリンセスナイト】からの代表、えらい遅いなぁって思うて。多分来るのジュンはんやと思うんやけどなぁ?」
「まだ時間あるとはいえ、あの騎士団長時間にきっちりしてそうなイメージあったけどなぁ……」
マホに続いて、側にいたマコトも首を傾げる。
そこでカオリが立ち上がり、
「私が様子見てこようかー?」
「――いや、それには及ばないよ」
ガチャリ、と扉の開く音と共に入ってきたのはカスミ。
しかし、いつもの得意げな表情はなく、どこか複雑そうに眉をひそめていた。
「カスミ、何かあったの?」
「いや、ひとまず【プリンセスナイト】からの代表はたった今到着した」
カスミは道を開けるように扉の脇に寄る。
そして、出入り口から入ってきたのは――
「――遅れて申し訳ありません。【プリンセスナイト】代表、【サレンディア救護院】院長のサレンです。本日はよろしくお願いいたします」
「――なるほどね。ありがとうマコトさん」
広間にやって来てサレンは会合の内容について詳しく知りたいと言い、マコトから渡されたランファとシャドウの大量発生についての資料を読み終わると、そのままマコトに返して机に向き直る。
「いや、良いけどさ。サレンお嬢さん、会合について何も知らなかったのか?」
「恥ずかしい事にね。なにせ、あたしがこの会合に参加してほしいと頼まれたのが今日だからね」
「はあ??」
あり得ないことを言い出したサレンに対し、マコトは素っ頓狂な声を上げた。
「……そもそもどういうことでっしゃろ? うちてっきりジュンはんが来るものとばっかり思うとったんやけど……」
「さあね。【王宮騎士団】は最近別件で忙しいみたいだけど、それにしたって違和感があるわ。このことをあたしに伝えてきたのは見習い騎士のトモよ?」
ジュンさん自ら来るならまだしもなんで彼女なのか、と納得のいかない部分があるサレンは首を傾げて思わずぼやく。
この会合に出席することが急遽決まった為に、今日行う予定だった商談を全てキャンセルする羽目になったらしい。
「……まあ、今はいいわ。参加する以上、あたしも代表の一人として振る舞うだけです。……コイツが参加しているのが絶妙に納得がいきませんが」
サレンは横目で当然のように席に座っているユウキを睨みつける。
話ではユウキも当事者だそうだが、この男以上に会合に相応しくない人間はそういないだろう。
「あんた、何話し合うかちゃんとわかってるんでしょうね?」
> 大丈夫、問題ないよ。
「その返答がもう不安だわ……」
サレンは半ば諦め、強引に本題に入るようにランファを一瞥しながら口を開く。
「さて、早速本題に入るけど。結局そこにいるランファさんを【牧場】で保護したい……ということで良いのよね、マヒルさん?」
「んだ。ランファさんはこれまでずっとシャドウに追い回されてたんだべ。これ以上一人にするのは危険だべ」
「しかし、資料の内容が全て真実だとするのであれば、今この状況でも彼女を狙って……いえ、このあたりの住民をシャドウが襲っているのでは?」
やはり黙って見過ごすことは出来ないとばかりに貴族代表のヒルダが口を挟む。
「それが現在起きていないのであれば、彼女を目掛けて襲いかかって来るという情報も些か疑わしいと言わざるを得ません。彼女が無害であり、被害者であるというのなら、なぜもっと早く【王宮騎士団】か【自警団】に庇護を求めなかったので?」
ヒルダはそのまま強い目つきでランファを見つめる。
ランファは怯み、オドオドと視線を彷徨わせながら、ゆっくりと口を開く。
「…………だって……、雑音が……多いし……、それに……人が多くて……いつ襲われるか、私にも分からないもの……」
「ランファさんは優しいから、人のいる場所は出来るだけ避けてたんだべ。どうかその配慮ってもんを理解してほしいんだけんども……」
「疑問点は他にもあります」
ヒルダは資料に一度目を落としてから続ける。
「ランファさんの存在を仄めかすきっかけとなった事件。シャドウの大量発生について調査を行ったという【美食殿】とやらの証言では、歌が聞こえてきたと同時に周囲と街にシャドウが現れたそうではないですか。調査地の山の麓から離れたランドソルでどうしてシャドウが現れたのか、詳しくお聞かせ願います」
「んん??」
「【美食殿】?」
「え、それって……」
ヒルダの質疑を受け、周囲の視線が一斉にユウキに集中する。
「……? そちらの少年がどうかされたのですか?」
「まさか、ユウキが参加してるのって……」
「そうなんよなぁ。王子はんはランファはんを見つけてくれたっていうのもあるんやけど、王子はん【美食殿】でもあるからなぁ。ギルド管理協会から【美食殿】から代表一人呼んどくれ、って言われて。うちから王子はん推薦しときましたわ」
「はっ?」
マホがにこやかに話す。
これに対し、ヒルダは呆けてマホとユウキを交互に見る。
「ま、待ってください。そちらの少年が【美食殿】?」
「正確には【美食殿】のギルドメンバーですね。ギルドマスターは別にいるそうですが、ギルド管理協会から何度も依頼を受けて大陸中を渡り歩いているそうですよ」
そうよね、とミサトはユウキに声をかけると、ユウキも頷いてサムズアップする。
「…………なぜよりによってこんな……」
「ペコリーヌさんは入れ込むと無条件で味方するタイプだし、コッコロは子供だし、キャルは行方不明だし……。こいつ以外に適任がいないのね……」
ヒルダとサレンは頭を抱える。
諦めたように頭を振って、ヒルダはユウキに問う。
「…………では聞きますが、貴方は現場から離れたランドソルにシャドウが現れた件についてどう考えているのです?」
> シノブちゃんの話だと……――
あの後、シノブから聞いた事をユウキは思い出す。
あの歌声、もといランファのあの歌は普通の歌とは違い、ドクロ親父のような幽霊や、シャドウのような普通の生物とは決定的に違う存在にとって知覚しやすいものなのかもしれない、と話してくれた。
実際、街で調査をしていたドクロ親父にもあの歌は聞こえていたようだ。
「だから、余計にシャドウに狙われるようになる、と」
「きっと唱喚魔法の事だべな。唱喚魔法は歌に魔力を乗せて精霊や魔物を呼び出す魔法ってシオシオから聞いたべ」
「唱喚魔法というと、【カルミナ】のチカさんが扱う事が出来ると聞きましたが、同様の事が貴女にも出来ると?」
「そういや、リンからアンタは滅茶苦茶強いって聞いたぜ。呼び出した魔物も含めてな」
再びランファに視線が集中し、居心地が悪そうにランファは顔を伏せる。
「……まとめると、ランファさんは人一倍知覚能力が高くてシャドウを感知しやすく、同時にシャドウは自身を感知するランファさんを認識して襲かかり、ランファさんは唱喚魔法で迎撃。そしてその歌声で別のシャドウも呼び寄せてしまう……と」
「負のループに陥っとりますなぁ」
「あらあら、一体どうすればいいのかしら……」
ランファに味方をしてくれるマホとミサトは困ったように頭を抱える。
「……真相は分かりました」
ふう、と一息吐いて、ヒルダは言葉を続ける。
「ランファさんに一切の咎がないのも事実。しかし彼女を中心としてシャドウの被害が拡大しているのもまた事実」
「ちょ、それって……!」
何を言い出すのか察してしまったマヒルは立ち上がり、息を呑む。
「であれば、貴族として、ランドソルの一住民としてランファさんが人里周辺に……【牧場】に常在するようになるのは賛成とは言えません」
「待ってほしいべ! ランファさんは本当に何も悪くねえんだ! なのに一方的に立ち退いてくれ、なんてあんまりだべ‼」
「これは彼女のためでもあります」
マヒルが必死に食い下がろうとも、ヒルダは平静に対応する。
「【牧場】は今やランドソルの観光地の一つです。貴族、平民を問わず不特定多数の住民がやって来るでしょう。そんな折に……彼女を目掛けてシャドウが襲いかかれば、それを住民たちが目撃すれば。彼女はどうなりましょうか?」
「………………っ」
「……ん、んだども……」
「残念だけど、これについてはあたしもヒルダ先生と同意見だわ」
ヒルダに援護するように、今度はサレンが続く。
「そんな、サレンちゃん!」
「マヒルさんには悪いですけど、うちは【牧場】の近所ですからね。うちの子達も良く遊びに行ってますし、子供たちを預かっている身として、あたしは子供たちの安全を優先させてもらいます」
「だったら【フォレスティエ】ならどうかしら? うちなら、シャドウちゃんへの対抗策も色々と考えられるわ」
「【フォレスティエ】も認められません。ミサト先生はお優しいですのでお気持ちは大変わかりますが、貴女の保育園でもランドソルの住民が行き来されるでしょう。そのリスクは見過ごせません」
「……あらあら〜……」
早々に二の句が告げなくなってしまい、ミサトは表情を曇らせてしまう。
一同は何も言えなくなってしまい、このままランファは【牧場】から追放されてしまう。
そう思われたとき、
「でしたら、ランファはんは何処に行けばええんでしょ?」
「それは……」
「【自警団】やセントールスで保護する、言うてもヒルダ先生は同じこと仰られるでしょうなぁ。でしたらランファはんは何処に行けばええんどすか? まさかとは思うけど……アストライア大陸から出ていけ、とは仰りまへんよね?」
「…………ッ」
ばつが悪いのか、ヒルダはマホから視線を逸らしてしまう。
マホに続いてカスミも口を開く。
「例えそれでも現実的ではないね。それこそ、現在開拓中のエルピス大陸に行ったとしても、向こうにも原住民はいる。住民たちの被害を避けると言うのならそもそも国外追放という措置はあまりにも無責任だ」
「しかし…………」
それ以外に思いつかないのか、ヒルダも何も言えなくなってしまう。
その中で何か思いついたのか、ハツネがふと口を開いた。
「……そもそもランファさんがシャドウに狙われるのって、ランファさんがシャドウを認識しやすい状態になってる、って事だよね?」
「……え? ……そう、なるのかしら……」
唐突に問われたランファは顔を上げ、相槌を打つ。
だったら、とハツネは手を叩き妙案を思いついたと朗らかに笑う。
「ランファさんがシャドウを認識しづらくなるような魔法とかかけてみたらどうかな? 多少は効果が出るかもしれないよ!」
「なるほど、あるいはシャドウがランファさんを認識しづらくなるようなマジックアイテム等があれば改善されるかもしれないね。シャドウがランファさんから知覚されていると気づかなければ現れて襲いかかる可能性も減るだろう。……ただ……」
「なるほど……妙案ではありますが、その方法は確かに存在するのですか? 効果は保証されるのでしょうか? やるのであれば確実に効果のあるものでなければなりませんよ」
ヒルダも少々の罪悪感があるのだろう。
ハツネとカスミの提案を否定こそしないが、試すのであれば可能性の高い物を求めてくる。
「あー……」
「……問題はそれなんだよね」
確実性の高い方法を今すぐに用意することが極めて難しいということを受け止め、ハツネとカスミは困ってしまう。
しかし、会合の流れはほんの少しでも良い方向に向かっている。
この場にいる全員が、ランファの為に頭を悩ませているのだ。
「みんな…………」
ランファもこの空気に心を打たれ、自分自身で方法を考えてみようと首を傾げて思考に耽る時、出入り口の扉が叩かれる。
一同は一斉に扉へ視線が向き、マホが声をかける。
「どちら様でっしゃろか?」
『いやはや、突然失礼。【動物苑】よりランファ嬢なる方について会合をされていると伺いましてな。居ても立ってもいられず馳せ参じましたぞ』
「はあ……?」
要領を得ない、とマホは首を傾げる。
『おっと、申し遅れました。ワタクシ【アムルガム貿易】代表取締役、アゾールドというものです』
「…………っ?」
「【アムルガム貿易】……! お父様から聞いたことあるなぁ。最近【動物苑】の傘下に入った商会ギルドやって」
興味が出たマホはアゾールドと名乗った男を広間に招き入れる。
アゾールドは一言挨拶を入れてから、扉を開き中へ入ってきた。
「―――――――――っ?」
「お初にお目にかかる方もいらっしゃいますので、改めましてご挨拶をば。【動物苑】が傘下、【アムルガム貿易】代表取締役のアゾールドと申します。見知り置き願いますぞ」
現れたのは金色の鎧を身に纏う、豚の獣人族の男。
そのアゾールドを、目を見開いて見つめているランファの姿が、隣にいるユウキには印象的だった。
ミサト
前作「プリンセスコネクト!」より続けて登場する、母性溢れる保育園の先生。誰にでも優しく、誰も見捨てない聖母のような姿に癒やされる者は多い。
エルフの里の保育園で保育士をしており、ランドソルから預けられる子供たちの面倒を見ている。その聖母のような姿はランドソルでも有名である。
どんなこともポジティブに解釈し、ガラの悪い不良や襲いかかってきた魔物でさえ、彼女の優しさに一度触れてしまえば苛烈さは無くなり、優しくて大人しくなる。
またしても長い。
一話に登場させるキャラが多ければ多いほど、出来るだけ話に絡めるよう描写すればするほど、一話が長くなることはずっと前から懸念しておりましたが、このまま突き進んでいきます。(更新速度から目を逸らす)
以前にも似たような宣誓をしたな……。