メモリーズコネクト!~プリンセス達の四方山話~   作:上月 ネ子

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特撮界隈ではクリスマスの時期に衝撃的なストーリーを視聴者にお届けする風潮があるようですね。

つまりはそういうことです。


キミは希望を忘れない

ユウキ達が帰ってくる少し前。

ペコリーヌは救護院に来てから日課のように料理の準備をしていた。

子供たちにも魔物料理を振る舞ってあげようとしたことがあるが、見た目がトラウマになりかねないとスズメに全力で止められており、普通の料理を準備している。

 

 

「ペコリーヌさ〜ん、今いいですか?」

 

「スズメちゃん?」

 

 

ペコリーヌは火を止めて、後ろを振り返る。

救護院のメイドであるスズメは慌てたように、

 

 

「雲行きが怪しいですので、洗濯物を回収するの手伝ってもらえますか?」

 

「あっ、はーい! ちょっと待って下さいね〜?」

 

 

ペコリーヌはスズメと一緒に中庭に出て、干されている沢山の洗濯物を用意した籠に入れていく。

 

 

「すみません、料理をしている最中でしたのに……」

 

「いえいえ、気にしないでください♪ これくらいならお安い御用です☆」

 

 

ペコリーヌは笑顔で答えながら、ふと空を見上げる。

まだ時間帯としては4時。日が傾いてくる頃合いだが、分厚い曇り空の所為かかなり暗い。

 

 

「ひと雨降りそうですね……。ユウキくんたち、夕立に遭わないといいですけど……」

 

「そうですね。こんなことならお嬢さまに傘を持っていただくべきでしたね……」

 

 

これからの天気の荒れ模様を予想し、心配する二人。

だが、そんな憂鬱の最中に来客者が現れる。

 

 

「……ごめんください」

 

「……ん? この声……、すみませんちょっと待って下さ〜〜い!」

 

「いえ、中庭に居たんですね。私たちがそちらに向かいます」

 

 

スズメが玄関の方に向かうのを制止して、中庭に二人組がやって来る。

片方は午前中にもサレンを訪ねにやって来て……――

 

 

「どうも、スズメさん。サレンさんは……まだお帰りになられてないようですね」

 

「やっぱり、【王宮騎士団】のトモちゃんとマツリちゃんですね!」

 

「えっ……」

 

 

ペコリーヌの声は三人には聞こえていなかった。

トモとマツリはスズメに挨拶をしたあと、奥にいたペコリーヌにふと目が行く。

 

 

「あのおねーさんは?」

 

「最近救護院で働いているペコリーヌさんですよ」

 

「ど、どうも〜……」

 

「……? 彼女、どこかで見たような……」

 

 

トモの呟きにペコリーヌは肩が少し震える。

トモはペコリーヌに何か既視感を覚えたが、今は捨て置くことにして、スズメに向き直る。

 

 

「すみません、サレンさんがお戻りになるまで救護院でお待ちしてもいいですか?」

 

「え? ああ、それは構いませんけど……」

 

 

ひと雨降りそうだし、このまま帰すのは少々忍びないと判断したスズメは二人を救護院の中へ招き入れる。

 

 

「………………………」

 

 

ペコリーヌの居心地の悪そうな顔を、誰も見ることはなかった。

 

 

 

 

 

時間は戻る。

 

トモは深く頭を下げて、サレンに副団長として騎士団に復帰してもらうよう頼み込む。

サレンは怪訝な表情で口を開く。

 

 

「…………色々と言いたいことはあるけれど。まずそれは【王宮騎士団】の指示?」

 

「いいえ、これは私個人のお願いになります」

 

「……それは」

 

「皆まで言わずとも理解しています。私にそんな権限はありません」

 

 

サレンは口を開きかけて、やめる。

そのままトモの言葉の続きを待つ。

 

 

「……先程サレンさんが仰ったように、今の【王宮騎士団】はあまりにも歪です。サレンさんは【リッチモンド商工会】というギルドをご存知ですか?」

 

「えっ」

 

 

 

> 【リッチモンド商工会】?

 

 

 

それまで黙っていたペコリーヌとユウキが反応する。

 

 

「んん? ユウキさんたちは知ってるんスか?」

 

「え、ええ。前にギルド管理協会からの依頼でご一緒したことがあります……」

 

 

マツリの質問にペコリーヌは遠慮がちに答える。

ユウキはそれを横目で確認しつつ、同意するように頷く。

 

 

「……あたしも前にアキノさんから聞いたことがあるわ。お世辞にも商人としてマナーのよろしくないギルドマスターだった、って。クレジッタって言ったかしら?」

 

 

あのアキノさんが商談の仕事で愚痴をこぼすなんてよっぽどの事よ、とサレンは付け足す。

トモはそれなら話が早いと、言葉を続ける。

 

 

「サレンさんも既にご存知だと思いますが、王宮を出入りしているあの傭兵達はそのクレジッタ・キャッシュが連れてきたそうなんです。王宮の仕事を手伝う代わりとして、我々が王宮に出入りする事を認めてほしい、と」

 

「……無茶苦茶な事を言っているわね。……まさかとは思うけど」

 

「ええ、あろうことがそれをジュンさんが認めたそうなんです」

 

 

サレンの顔が険しくなる。側にいたスズメも驚きで固まってしまった。

 

ユウキはかつてジュンに言われたことを思い出す。

王宮は基本的に貴族しか出入りを許されず、トモのような騎士団の団員でも平民ならば王宮内に入れないらしい。

 

 

「クレジッタ・キャッシュは成り上がりの商人ですが、貴族ではありません。どんな交渉があったかはわかりませんが……結果として【リッチモンド商工会】は出入りを認められています」

 

「でも、連れてきた傭兵たち、すんごいガラの悪いやつで。街でも見回りなんて言って度々問題を起こしてるみたいなんスよね。自分たち【王宮騎士団】はランドソルを守る正義のヒーローなのに、これじゃ悪の組織っスよ〜……」

 

 

素性の分からない傭兵たちを王宮内に出入りしているのを許しているために、貴族からの風当たりも強く、街で問題を起こすため住民からも批判が出る。

【王宮騎士団】の立場はかなり厳しくなっているようだ。

 

 

「…………ッ」

 

 

ぎり、とペコリーヌから小さく歯ぎしりが聞こえる。

ユウキが大丈夫か尋ねると、大丈夫です、と小さく返ってくる。

 

顔は伏せていて分からないが、大丈夫そうには見えなかった。

 

 

「私たちなりに何とかしようとはしたんですけれど、そもそもジュンさんが中々掴まらなくて」

 

「ようやく話ができても、なんかそっけないし。門番の仕事も別の団員に任せっきりで、全然姿を見せてくれないんスよね。まるで人が変わったみたいっス」

 

「団内も連携が取れず、士気もボロボロです。……もうサレンさんでないとどうしようもないんです。お願いです、どうか戻ってきてください……‼」

 

 

トモは、そしてマツリも併せて深くサレンに頭を下げる。

サレンは二人の態度に対し、だんまりと静かに見つめている。

 

院内にさあさあ、と雨音が流れる。

どうやらかなり強めの雨が降り出したようだ。

 

どれだけ雨音が流れたか、その後にサレンは大きくため息をつく。

そして何かを言おうとして口を開け……上からの足音で閉じる。

 

現れたのは、コッコロとカリザだった。

 

 

「……珍しい組み合わせね。どうしたの二人とも?」

 

「……いえ、その。かなり強い雨が降り出して。風の精霊たちも少し騒がしくしているのです」

 

「ああ、確かにかなり強い雨ですね。洗濯物回収しておいて正解でした」

 

「んなのんきな話は良いんだよ。それより気づいてねえのか?」

 

 

スズメのホッとした態度にツッコミを入れつつ、カリザは窓の外を指差す。

 

 

「……外がどうしたの?」

 

「街の方からゾロゾロと何か来てるぞ。アイツら、てめーの古巣の奴らじゃねえのか?」

 

「…………っ⁉」

 

 

古巣、と言われてサレンは嫌な予感がして、窓から外を覗き込む。

 

雨の所為で視界がかなり悪いが、奥から無数の人影がまっすぐにこちらに向かってくる。

その人影は鎧を着込んでいて――

 

 

「スズメ、カリザ」

 

「は、はいっ」

 

「あ?」

 

「子供たちを連れて、裏口から避難して。【牧場】に……いや、【フォレスティエ】に子供たちを匿ってほしいの」

 

「え、ええ?」

 

「おい、なんでオレがンなことしなきゃなんねえんだ!」

 

 

スズメは困惑し、カリザは反抗する。

反応が読めていたと言わんばかりに、サレンはカリザに向き直る。

 

 

「カリザ。あんたはもう体が治ってるわよね?」

 

「それが何だってんだ?」

 

「あんたの実力を見込んで、子供たちを守ってほしいの。道中何があっても良いように。あんたの実力なら任せられる。子供たちも、きっとあんたの後を安心してついていくはずだわ」

 

 

このとおり、とサレンはカリザに頭を下げた。

カリザはサレンのその姿に驚き、何も言えなくなってしまう。

そして数巡の後に、

 

 

「………………オレを顎で使う借りはでけえぞ」

 

「分かっているわ」

 

「ふん……」

 

 

カリザはサレンから目を逸らして、スズメに目を向ける。

 

 

「おら、ダメイド! とっととオレを【フォレスティエ】とかいうところに案内しやがれ‼」

 

「え、ええ⁉ ちょ、ちょっと待ってください! 子供たちを呼んできますから〜〜〜〜……!」

 

 

カリザとスズメは階段を登っていき子供たちを集めに行った。

 

サレンは次にコッコロに声をかける。

 

 

「さあコッコロ、あんたも行きなさい」

 

「お断りいたします」

 

「ちょ……っ」

 

 

即答で拒否された。

 

 

「あのね、コッコロ。あたしの予測では、このあたりはもう少しで……」

 

「戦いの場になるとおっしゃるのであれば、なおのことわたくしは主さまのお側におります」

 

「なっ…………〜〜〜〜っ!」

 

 

サレンはユウキを睨みつけたあと、はあ、と大きくため息をこぼした。

 

 

「……無茶はしないようにね」

 

「大丈夫です! コッコロちゃんはわたし達と一緒に大陸中を渡り歩いて色んな魔物と戦っていますから☆」

 

「子供たちには危険な真似をしてほしくないんだけどね……」

 

 

もはや諦めたようにサレンは首を振る。

次に、蚊帳の外になっていたトモはおそるおそる声をかける。

 

 

「あの、サレンさん? さっき、この場が戦場になるって……」

 

「ええ。【王宮騎士団】は何かに掛かりっきりだったんでしょう? なのにこっちにあれだけ人を寄越すってことは……」

 

 

救護院に攻めてくることが【王宮騎士団】の計画の一部であるということだ。

 

 

 

 

 

ざあざあ、と雨が降りしきる。

 

ユウキ達六人は救護院を出て、ゾロゾロと横に陣を組む【王宮騎士団】と対峙する。

 

 

「ゾロゾロと、随分大所帯ですね。そんな報告事前に受けていませんよ……――ジュンさん?」

 

 

サレンは剣を抜きその切っ先を、陣の後ろ側に立つ団長――ジュンに向ける。

 

 

「……それはすまないね。しかしこうでもしないと……そこにいるお尋ね者はまた逃げてしまうからね」

 

 

返すようにジュンは剣を抜き、切っ先をペコリーヌに向けた。

ペコリーヌはビクリと震え、その表情に焦りが生まれる。

 

 

「ペコリーヌさんが、お尋ね者?」

 

「……そうか。どこかで見た顔だと思えば、ギルド管理協会から張り出された人相書きに似ているんだ!」

 

 

トモはペコリーヌの顔を見て思い出す。

隣りにいたマツリが驚いて、

 

 

「ええ⁉ じゃあこのおねーさん、悪いヤツなんすか⁉」

 

 

 

> 違う! ペコさんは何も悪いことはしてないよ!

 

 

 

「ユウキ、くん……」

 

 

マツリの追及にユウキは大声で否定する。

そのままユウキはペコリーヌの前に立ち、庇うように剣を構える。

 

 

「……それは違うよ、少年。彼女はあろうことか、この国の王であるユースティアナ陛下の名を騙ったんだ。それは世間一般では不敬罪と言うんだよ」

 

 

 

> ペコさんが本当のユースティアナだよ!

 

 

 

「……何を根拠にして言うのかな?」

 

「根拠なら……あります!」

 

 

ユウキの後ろで震えていたペコリーヌは、ユウキの隣に立ち剣を構えながら頭のティアラを指す。

 

 

「この王家代々に伝わる『王家の装備』こそ、わたしが正当なプリンセスとして与えられたものです。アストライア王家は王位を継ぐ前に、この装備を身に着け、武者修行をするのです!」

 

「では、ペコリーヌさまが……本当にこの国の……」

 

 

コッコロは呆けて、ペコリーヌを見つめる。

 

 

「そんな記録は王宮に存在しない。……ユースティアナ陛下の名を騙る狼藉者が王宮に侵入し、『王家の装備』を盗み出した、という記録ならばあるけれどね」

 

「……っ、それは!」

 

「なるほどね……読めてきたわよ」

 

 

噛みしめるようにサレンは何度も頷く。

そして――一歩前に踏み出して、剣を構える。

 

 

「…………何のつもりかな?」

 

「ねえジュンさん? あたしは普段商談の仕事をしてるのは、当然ご存知ですよね?」

 

「ああ。サレンちゃんが【王宮騎士団】を退団してしばらく経つが、特に最近になって君の存在が有り難かったとよく思うようになったよ」

 

 

それはどうも、とサレンは短く答える。

 

 

「……で、商談っていうのは大抵、事情に詳しい人ともお話することもあるわけです。最近あることをよく耳にするようになったんですよね」

 

「………………………」

 

「かのユースティアナ陛下は獣人族だ、と」

 

「…………‼」

 

「なっ、それは……!」

 

 

ペコリーヌは目を見開いてサレンを見つめ、トモは驚愕の声をあげる。

 

トモは思い出す。

それはクリスティーナが【自警団】に対して事を起こした日の事だ。

彼女は言っていた。この国は獣人族との軋轢があるにも関わらず、この国のトップは獣人族であり、その側近も獣人族である、と。

 

何を荒唐無稽なことを、とトモは胡乱な顔でクリスティーナを非難したが……。

それをサレンが言うのであれば話は別だ。

 

 

「さ、サレンねーちゃん? いきなり何言ってるんスか?」

 

「あたしはね、クリスティーナの前任の副団長なのよ。一度だけだけれど、前王陛下夫妻に謁見したこともあるわ。……お二人はヒューマン。特に前王陛下はハニーブロンドの髪だったわ。ちょうどペコリーヌさんと同じ色ね」

 

「……! サレンちゃん、お母様にお会いしたことが……」

 

 

サレンは振り返り、ペコリーヌに微笑んだあとに続ける。

 

 

「そもそも、ヒューマンのお二人から何をどうしたら獣人族が生まれるのかしらね? むしろそっちの根拠を説明してほしいのですけれど?」

 

「……それはあくまで市井の噂話だろう? そんな事実無根の噂についての根拠など説明のしようがないね」

 

「あら、これはユースティアナ陛下に謁見された貴族からの確かな情報なのですけれど?」

 

「………………っ」

 

 

ピクリ、と鎧が小さく揺れる。

表情こそ見えないが、ジュンが少し動揺した確かな証拠だ。

 

ざあざあ、と雨が強くなる。

雨が風に乗って斜めから叩きつけられる。

しかし、そんなものに顔をしかめることなく、この場にいる全員は真剣な表情で見つめ合っていた。

 

そんな雨風に包まれる静寂を切り裂いたのが――

 

 

「ハーッハッハッハ☆ こうもあっさりと論破されるとは、情報というカードが足りなかったようだな、団長?」

 

「なっ――」

 

 

騎士達の陣形を切り裂くように現れたのは、サレン達を驚愕させるほどの存在感を放つ人物だった。

 

 

「あ、あなたは……⁉」

 

「「クリスティーナ⁉」」

 

「おばさん⁉ なんで……――ひいっ⁉」

 

 

おばさん、とマツリが口にした瞬間、クリスティーナからマツリに向けて鋭い斬撃が飛ばされた。

 

マツリは悲鳴をあげながらそれをサイドステップで躱すが、クリスティーナはそれを見てふん、と鼻を鳴らす。

 

 

「……言葉選びには気をつけろよ、仔猫ちゃん? 今のワタシはか な り 機嫌が悪い。迂闊な事を言って剥製になりたくはないだろう?」

 

「ひ、ひいぃ……」

 

 

クリスティーナの低い声音には重厚な殺意が込められている。

明確に向けられたマツリはガクガクと震え、一歩後ずさった。

 

 

「どういうことだ……。なぜあなたが【王宮騎士団】にいる、クリスティーナ!」

 

「そうよ! ノゾミさんの話じゃあんた行方不明だったはずでしょ⁉」

 

 

サレンはクリスティーナの行方を訪ねに来たノゾミの事を思い出して困惑する。

ノゾミの名前が出たクリスティーナは自嘲気味に口の端をわずかに吊り上げる。

 

 

「……まったく。探せなどと頼んだ覚えはないのに……」

 

「質問に答えなさいよ! だいたいね……」

 

 

サレンは前に出てきたクリスティーナの顔を剣で指す。

 

 

「その趣味の悪い仮面は何? あんたが顔を隠すなんてキャラじゃないわよ!」

 

「仮面については触れるな! ワタシが一番自覚しているからな」

 

 

そう、クリスティーナには目を隠すように金の刺繍の入った仮面がつけられている。

 

クリスティーナは不機嫌そうに続ける。

 

 

「……それと、オマエたちは勘違いしているようだから訂正しておこう。ワタシは【王宮騎士団】に出戻りしたわけではない。あくまで個人的に【王宮騎士団】に協力することになっただけだ。……不本意だがな」

 

「はあ? 全然意味が分からないわ……」

 

「分からないならこう言い換えてやろう」

 

 

一転して愉快そうに、クリスティーナは剣を抜きその切っ先をペコリーヌへと向けた。

 

 

「ワタシはそこにいるお姫さまを捕まえるために、【王宮騎士団】と行動している、ということだ☆」

 

「……っ!」

 

「あ、あなたは……今度はペコリーヌさまに火の粉を振りかけるおつもりなのですか⁉」

 

 

コッコロは槍を構え、ペコリーヌを庇うようにユウキの隣に立つ。

 

 

「今のお話で確信いたしました。此度に義があるのはペコリーヌさまです! そのような不当な正義で、ペコリーヌさまを連れて行かせることなど許しません!」

 

「コッコロ、ちゃん……」

 

「ふ、もとより仲良しこよしで拘束できるなどハナから思っていない。そのために、これだけの人数をこちらに寄越したのだからな」

 

 

陣を組んだ騎士たちは、クリスティーナの仰ぎで一歩前に出る。

 

 

「勝手に指示を出さないでもらおうか、クリスティーナ」

 

「おいおい、硬いことを言うなよ。どうせやることは同じだろう?」

 

「……っ?」

 

 

ジュンはクリスティーナの勝手な指示を咎める。

その短いやり取りに、トモは一瞬だけ顔をしかめた。

 

 

「そら、行け団員たちよ! あのお姫さまを捕まえてこい!」

 

 

クリスティーナの号令により、騎士達は出陣を始める。

 

ユウキ達は向かい打とうとするが、後ろから素早く駆け出したペコリーヌが、ユウキに声をかける。

 

 

 

> ペコさんっ⁉

 

 

 

「ユウキくん、いつものお願いします‼」

 

 

いつもの、それが何を指すのかすぐにわかったユウキは剣を構え、ペコリーヌ達を強化する。

 

 

「これだけ雨が強いなら……あの技を使えます!」

 

 

びしゃびしゃ、と地面を浸す雨水を己の足で叩く音を聞いて、ペコリーヌは剣を下段に構える。

 

 

「変則的全力剣技――プリンセススプラッシュ‼

 

 

そのまま地面を切るように切り払うと、雨水は津波のように勢いを増し、扇状に衝撃が発生する。

 

衝撃は突っ込んできた騎士団員たちを呑み込み、そのまま後方へと吹き飛ばす。

ゴロゴロと周りの騎士を巻き込みながら地面を転がっていき、騎士たちは動かなくなってしまう。

それを見たペコリーヌは申し訳無さそうに呟く。

 

 

「ごめんなさい……ですがわたしは……、……⁉」

 

 

言葉は続かなかった。

自身に近づく影を見て、ペコリーヌは剣で防御をとる。

ガキン、と剣と剣がぶつかる音が響く。

 

 

「ハハハ! ようやくこのときが来たな、お姫さま! 何度お前と斬り結びたいと思っていたか!」

 

「わ、わたしはそんなこと、望んでないんですけれど……っ!」

 

 

剣と剣の睨み合いは、クリスティーナがそのまま押し飛ばし一度離れる。

 

 

「しまっ……⁉」

 

 

ペコリーヌの体制が崩れたところを、クリスティーナはニヤリと切り払おうとして――

 

 

「風の精よ――!」

 

 

風の精霊がペコリーヌを守り、クリスティーナの剣は精霊によって受け止められた。

 

 

「なにっ……?」

 

「「はああああっ‼」」

 

 

今度は隙だらけになったクリスティーナを、サレンとトモが斬りかかる。

身動きが遅れたクリスティーナに命中する――かと思われたその時、クリスティーナの姿は幻覚のように消え、ペコリーヌ達からは数歩後ろに下がった場所に立っていた。

 

 

「くっ……」

 

「相変わらず反則じみた回避能力だわ……!」

 

「ふふふ、水を差すような真似を……などと言うつもりはないぞ。むしろ乱戦になるのは好都合だ!」

 

 

ククク、と本当に楽しそうにクリスティーナは笑う。

しかし、と彼女はトモに問いかける。

 

 

「先程から思っていたが、オマエはそちら側で良いのかい?」

 

「……自分なりに考えた」

 

 

トモは独りごちるように呟く。

 

 

「今の【王宮騎士団】に正義はない。街の問題に対処しようともせず、王宮の盾としての最低限の責務も果たそうとせず。あまつさえ、お守りするべき陛下も偽物だというのなら、私は喜んであなた達の敵になろう!

……何より、本物の王家の方がこちらにおられるのであれば、その方を守るための盾となろう‼」

 

「トモちゃん……!」

 

「……ふ、そうか」

 

 

クリスティーナは仮面越しに穏やかな笑みを浮かべる。

しかしそれも一瞬のこと。すぐに獰猛な戦士のように豹変する。

 

 

「ならば言葉は不要か。さあ、存分に―――――」

 

 

 

「―――――そう、ならお前も邪魔者ね」

 

 

 

紫紺の稲光が迸った。

 

ペコリーヌを中心に、上空から無数の雷が振り落とされる。

魔力の流れを感じ取ったペコリーヌ達とクリスティーナはその場から飛び退き、直撃を避けることはできたが。

 

 

「今のは魔法……?」

 

「今の、雷の魔法は……」

 

「まさか……⁉」

 

 

見覚えのある魔力の奔流を見て、ペコリーヌとコッコロは困惑の声を出してしまう。

 

そして、同じく回避したクリスティーナは忌々しげに後を振り返る。

 

 

…………おい、何のつもりだ

 

 

その声には先程マツリに向けた殺気よりも更に重厚な殺意が込められていた。

 

向けられた少女はそよ風に吹かれたように、抑揚のない声で返答する。

 

 

「焦れったい戦いを見せるからよ。だいたい、この程度の戦力であの単細胞女を止められるとでも? 何のために【リッチモンド商工会】を抱き込んだと思っているのかしら?」

 

 

その少女は後ろにゾロゾロと傭兵たちを連れていた。

黒髪の、白いメッシュ。魔導書が乗った杖をフラフラと振りながら歩く姿。

金の刺繍の入った仮面をつけた、黒猫の獣人族。

 

 

「きゃ、キャル、ちゃん…………?」

 

 

ペコリーヌはその少女の名前を思わず口にしていた。

キャルはそれに特に反応することはなく、その視線はなおもクリスティーナに向けられていた。

 

 

「自分たちに任せておけとか偉そうに言うから任せておけば……。時間がかかるどころか劣勢じゃないの」

 

「フン、信頼の置けんヤツに保険をかけるほどワタシは酔狂ではない。邪魔をしにきたのなら王宮に引き籠もっていろ」

 

「黙れ。言葉を慎め。あたしは陛下の名代でここに立っているのよ」

 

 

陛下の名代。

その言葉にペコリーヌ達は各々困惑の反応を見せた。

 

 

「ぇ…………?」

 

「キャルさま……?」

 

「あんた、何を言ってるの……?」

 

 

ペコリーヌはフラフラと、キャルに近づくべく一歩踏み出そうとする。

しかし、

 

 

「いけません殿下!」

 

「……っ、でもあの子はキャルちゃんです! こんなの、何かの間違い……」

 

「その女です! あなたの名を騙る者の側近は! わたしは、そいつが王宮から出てくるのを見たことがあります!」

 

 

トモの言葉に、ペコリーヌは信じられないものを見るような顔で彼女に振り返る。

 

 

「そいつの表側の肩書は王宮勤めの貴族です。しかし、今の国王陛下が偽物であれば、そいつの肩書もどこまで真実か――」

 

 

トモの言葉は続かなかった。

 

雷が落ちるように、先程よりも強化な雷撃魔法がトモ目掛けて落とされた。

雷撃の衝撃で爆発が起き、爆発で上に吹き飛ばされたトモはバシャリ、と地面に叩きつけられ、グッタリとそのまま倒れてしまう。

 

 

「と、トモねーちゃんッ‼」

 

 

後ろで怯えていたマツリは、倒れるトモに駆け寄る。

サレンも急いでトモの側に駆け寄り、様態を確認する。

 

 

「トモねーちゃん、トモねーちゃん!」

 

「……辛うじて息はあるわ。けれどこのままじゃ……」

 

 

予断を許さぬトモの様態にサレンは歯噛みする。

 

 

「キャルさま……なんという、ことを……」

 

 

震える声で、コッコロはキャルを見つめる。

それに応えてか否か、キャルは口を開く。

 

 

「……お前たちは一人残らず全員邪魔者よ」

 

 

キャルは魔法杖で一人ずつ指して、続ける。

 

 

「陛下に追い落とされてなおウロチョロするお前も」

 

「…………ッ!」

 

「陛下の目の上のたんこぶなプリンセスナイトと、その自称従者も」

 

 

 

> ……っ?

 

 

 

「キャルさま……!」

 

「騎士団の一員のくせに、騎士団を裏切って余計なことをベラベラとほざくそこのゴミと、その舎弟も」

 

「あ、アンタ……ッ!」

 

「騎士団の関係者のくせに、陛下の手を煩わせるそこのエルフもね」

 

「……それが、あんたの本性だとでも言うの?」

 

 

震える声で何とか紡ぎ出し、サレンは眦を上げて怒鳴る。

 

 

「答えなさい、キャルッ!!!!!」

 

「違いますッ!!!!!」

 

 

遮るように、ペコリーヌは大声をあげる。

 

 

「キャルちゃんはこんなことしません。確かに、普段からちょっと口は悪いし、好き嫌いもするけれど、こんな酷いことをするような子じゃありません!」

 

 

ペコリーヌは先程と違い、しっかりとした足踏みでキャルに一歩ずつ近づいていく。

 

 

「きっと……、そう、きっと誰かにむりやりこんな事やらされてるんです。本当のキャルちゃんは、とっても優しい子なんです……っ」

 

「………………」

 

 

ペコリーヌの言葉に、何故かクリスティーナは目を逸らした。

 

 

「きっとその仮面ですね? その仮面のせいで、こんな事を……」

 

「それ以上寄るな」

 

 

ぴしゃり、とキャルは切り捨てる。

ペコリーヌの穏やかな笑みが、その一言で凍りついてしまう。

 

 

「黙って聞いていれば……本当に能天気な単細胞女ね。陛下の評価は何も間違ってなかったわ」

 

「陛下って――!」

 

 

それ以上言葉を続けられず、ペコリーヌは目を見開いて剣を構え、攻撃に備える。

 

ペコリーヌが何かを言う前に、キャルの破壊魔法による光線がペコリーヌに叩きつけられる。

衝撃で後ろに滑り、ダメージのせいで剣を杖代わりに支える。

 

 

「キャル、ちゃん……」

 

「……気が変わったわ」

 

 

キャルは次に、空へと浮かんで魔法杖を天に向ける。

そのまま魔法陣が展開され、雨空に大きな雷撃の球が発現する。

 

 

「……! 待て、何をするつもりだ!」

 

「どうせ陛下の邪魔者はみんな死ぬのよ。どこで死のうが、どこで殺そうが変わらないわ」

 

「おいオマエ、何を言っている?」

 

 

味方であるはずのジュンとクリスティーナはキャルの突然の行動に驚き、軽く狼狽している。

 

バチバチと雷撃は大きく迸る。

 

 

「このあたり一帯を全て巻き込むつもりか‼」

 

「陛下の敵は死ね、陛下の邪魔者は死ね、一匹残らず――全部死に晒せッ!!!

 

 

もはやキャルには誰の言葉も聞こえていない。

 

バリバリ、と魔力の質が強くなり、雨が降りしきるように辺り一帯に紫紺の雷が降り注いだ。

 

 

「いけない――!」

 

「主さま、ペコリーヌさま――!」

 

 

サレンとコッコロは直前に行動し、防御魔法を展開した。

 

救護院一帯が、魔力の光に飲み込まれていく―――――。

 

 

 

 

 

強い閃光が収まったあと、一帯は荒れに荒れていた。

 

極大の雷撃魔法の余波で雨雲は吹き飛び、地上とは打って変わって綺麗な星空が広がる。

そして……地上も魔法の残滓によってバチバチと稲光が地面を駆け回っていた。

 

倒れていた騎士団員たちはジュンの防御魔法によってダメージは防がれたが、魔法の余波で散り散りに飛ばされていた。

反してキャルが連れてきた傭兵たちはキャルの魔法に巻き込まれまいと逃げようとしたのか、ジュンやクリスティーナの遥か後方で黒焦げになって倒れていた。

 

そして――

 

 

「……ぅ、く……」

 

「………、かはっ……」

 

 

防御魔法で防ぎきれず、ダメージに呻くコッコロとサレン。

 

コッコロはユウキとペコリーヌを守るために風の精霊たちに集まってもらい、自身に強力な防御魔法を掛けて盾になることで凌ごうとしたが、キャルの魔法の威力が上回り攻撃を受けきれず、所々が火傷のためか焦げ、コッコロは倒れてしまった。

 

 

 

>コッコロちゃん!!!

 

 

 

「サレンねーちゃんッ⁉」

 

 

一方サレンは攻撃がトモやマツリだけでなく、後方の【サレンディア救護院】のギルドハウスにまで飛んでくることを確信したために、広範囲の防御魔法を何とか展開したが、防御魔法を維持するために魔力を注ぎ続けたことと、魔法を受け止め続けた反動により、ダメージが許容量を超え倒れてしまう。

 

 

「まだ生きているのか……大人しく死ねば良いのに……っ!」

 

 

地上に下りてきたキャルは苛立たしいのを隠そうともせず、仮面の奥の表情を憤怒で歪ませる。

 

 

「キサマ……自分が何をしたのか分かっているのか?」

 

「ええ。役に立たない騎士共の尻拭いよ」

 

 

かける言葉が見つからない、とクリスティーナは諦めたように首を振る。

 

この女は一時の感情で大量破壊魔法に近しい威力の魔法を、街から近いこの場所で、味方である【王宮騎士団】を巻き込むことも顧みず無遠慮に放ったのだ。

 

防御魔法を展開した者たちがいなければ、犠牲者が増えていただろう。

 

 

「キャルちゃん、どうして……!」

 

 

もはやキャルの意志の有無は関係ない。

彼女のしたことは許されるものではない。

しかし、これまで【美食殿】の仲間として沢山の冒険と思い出を共有した時間のせいで、ペコリーヌがキャルを憎めないでいる。

 

 

「や、やっぱり誰かに洗脳されてるんです。いつものキャルちゃんなら、こんなこと……――」

 

「とっとと死ねえ――‼」

 

 

有無を言わさず、キャルは破壊魔法の光線をペコリーヌに狙い撃つ。

 

この射線は、自分達を庇ってくれたコッコロまで巻き込んでしまう……!

 

 

「う、ぐぅ……ッ⁉」

 

 

ペコリーヌは自分が前に出て、魔法を受け止める。

直撃した為に、先程剣で受け止めた時よりもダメージは大きい。

 

 

「きゃ、キャル……ちゃん……、もう、やめて……」

 

「死ね、死ね! 早く死ねぇッ‼」

 

 

怨嗟を叫びながらキャルは破壊魔法をペコリーヌに打ち続ける。

 

 

「止せ! それ以上は本当に死ぬぞ‼」

 

「拘束するのが計画の一つじゃなかったのか‼」

 

 

見ていられないとジュンとクリスティーナもキャルを止めに入る。

しかし、

 

 

「……っ⁉」

 

「おのれ……これもまた一興とでも言うつもりか……っ!」

 

 

二人はキャルに数歩近づくと、ピタリと体が動かなくなってしまった。

 

 

「……ぅ、ぁ……っ」

 

 

何度も魔法を受け、ペコリーヌの体はボロボロになっていく。

そしてついに彼女は膝をついてしまった。

 

 

 

> ペコさん!!!

 

 

 

「ユウキ、くん……だめっ、来ちゃ……――」

 

「死ねって言ったら、早く死になさいッ!!!!!」

 

 

次に放たれた破壊魔法は先程よりも威力の高い攻撃魔法であり、太い光線がペコリーヌと、彼女に駆け寄るユウキに目掛けて飛んでいく。

 

 

「ユウキくん……っ」

 

 

ペコリーヌは駆け寄るユウキを、力を振り絞って突き飛ばした。

そして、

 

 

「……っ、あああぁぁッ⁉」

 

 

直撃こそ避けたものの、破壊魔法が着弾したその爆風でペコリーヌは打ち上がり、地面に叩きつけられる。

 

ペコリーヌはそのまま立ち上がれなくなってしまった。

 

 

「ようやく大人しくなったか……」

 

 

キャルは倒れ伏したペコリーヌに歩み寄り、その頭を踏みつける。

 

 

「く……ぐぅ……」

 

 

キャルのヒールがペコリーヌの顔に食い込み、ペコリーヌは苦悶の声をあげる。

とどめを刺そうと、キャルは魔法杖を構えその先端に魔力の奔流を集める。

 

その刹那。

 

 

「や、やあああっ‼」

 

 

キャルの近くを掠めるように、雷撃の魔法が駆け抜ける。

キャルはそちらに注目が行き、ユウキ達に駆け寄る人物に気づくのが遅れてしまう。

 

 

「イリヤさんっ」

 

「問題ない、魔力で捕まえた! 飛ぶぞッ‼」

 

 

ユウキ達を魔力で包み、イリヤは転移魔法を展開する。

その瞬間、イリヤは倒れたペコリーヌを見て躊躇いがちに呟く。

 

 

「今は許せ、ペコリーヌよ――」

 

 

イリヤとヨリは、ペコリーヌを除いたユウキ達と共にこの場から転移魔法で消失した。

 

 

「転移魔法……【悪魔偽王国軍】か……」

 

 

現れて消えていった人物を思い出し、そのギルドハウスがある方向を見やり、歩き出そうとする。

そんなキャルの首筋に剣が二つ当てられる。

 

 

「どこへ行くつもりだ?」

 

「これ以上勝手なことをされては困るな」

 

「下がりなさい。あたしは陛下の邪魔者を狩りに行くのよ」

 

「そもそもこの作戦は、そこに倒れている()()()を拘束するための行軍だろう? ならば目的は達せられているはずだ」

 

 

ジュンの一言に、キャルは大きく舌打ちをする。

 

 

「……だったら、お前たちが捕まえてきなさい」

 

「断る」

 

「…………ああ??」

 

 

クリスティーナが一蹴したことに、またしてもキャルの顔に苛立たしさが浮かぶ。

 

 

「ワタシはあくまでそこのお姫さまを拘束するために協力していただけに過ぎん。それは作戦行動の範疇から大きく逸脱している」

 

「【王宮騎士団】としても、倒れた団員たちを放置して別の作戦に移るという行為は出来ない」

 

「……あたしは陛下の名代よ? あたしの言葉は陛下の言葉に等しいわ。お前たちも陛下に楯突くつもりか?」

 

「粋がるなよ小娘が」

 

 

クリスティーナの声音に怒りが混ざる。

 

 

「ワタシが陛下の名代ごときに従うとでも思ったか? そもそもキサマにはワタシ達を顎で使うほどの権力も、信頼も、責任もない」

 

「そうでないのなら、お前が連れてきたあの傭兵たちを、まずは自分でどうにかしたまえ。連れてきただけで有効活用もせず、徒に犠牲にしたお前を陛下の名代として認めるつもりはない」

 

「………………………」

 

 

キャルの顔から感情が抜け落ちる。

キャルは体を軽く弛緩させ、一度俯いてから、

 

 

「どいつもこいつも……ッ‼」

 

 

足元にいたペコリーヌの顔を思い切り蹴飛ばした。

 

 

「ぐふっ‼」

 

 

それまで気絶していたペコリーヌは覚醒し、震えながら顔をあげる。

かすれる視界で何とかキャルを捉え、絞り出すように声を出した。

 

 

「……どう、して……」

 

「…………」

 

「どうして、こんな、ことを……」

 

 

この短い時間で、ペコリーヌはキャルに対する思いがグチャグチャになり始めていた。

 

 

「コッコロちゃんが、あんなになるまでまもってくれたのに……キャルちゃんはなにも、おもわなかったんですか……?」

 

「…………」

 

「さっき、の……まほうで……、ユウキくん、をまきこむかもって、おもわなかったんですか……? キャルちゃんは……ためらわなかったんですか……?」

 

「…………」

 

「【美食殿】の……わたしたちのおもいでは、すべて、うそだったんですか……? キャルちゃんは、たいせつだって……おもってくれなかったんですか……?」

 

「…………、そうね……」

 

 

キャルは思い出に耽るように明後日の方向を見ながら呟く。

 

 

「散々魔物や虫を食わされて、珍味のために危険な場所に何度も行かされて……。そして、アンタたちと食べたご飯はとっても美味しかった」

 

「……!」

 

「海でやったバーベキューは楽しかった。一緒に正月を祝ったのも大切な思い出だった。そうね、アンタたちとの思い出は、あたしにとっても全部本物」

 

「キャルちゃん……!」

 

 

ペコリーヌの顔に希望の光が差し込む。

 

しかし、

 

 

――でも、それがなに?

 

「………………ぇ」

 

「【美食殿】での活動は全部楽しかったわ。でも、それはあたしが陛下を裏切る理由にはならない」

 

「……なんで」

 

 

ペコリーヌは、ずっと疑問に思っていたことを口にする。

 

 

「どうして、キャルちゃんは……あのおとこを、へいかって……」

 

「丁度いい機会ね。改めて自己紹介しておくわ――」

 

 

 

「――あたしはキャル。この世で最も絶対的な存在である覇瞳皇帝さまのプリンセスナイト。……そう、あたしは最初から()()()()なのよ」

 

 

 

「………………」

 

 

ペコリーヌの顔は、一転して絶望の淵に落とされた表情を浮かべる。

瞳孔の開いた瞳には、ニヤリと笑みを浮かべるキャルの顔が映る。

 

 

「ねえ、疑問には思わなかった? 外に出たら執拗に魔物に襲われるなんて。魔物に襲われやすい体質なんて都合のいい解釈してたけれど、そんな体質の人間なんているわけないでしょ」

 

 

キャルの笑みはペコリーヌを嘲笑するものへ変わっていく。

 

 

「あたしはね、陛下から魔物を操る権能を与えられてるの。それを上手く使えば、あたかもアンタに執拗に襲いかかって魔物の手でアンタが死んだように見せかけることが出来るからよ。

でも運が良かったわね。それはあたしが良かれと思ってやっただけで、陛下の本位じゃなかったのよ?」

 

「…………す」

 

 

ブツブツとペコリーヌは小さく呟く。

 

 

「うそ、です……そんなの、うそです……うそです…………」

 

 

ペコリーヌの目尻に涙が溜まり、肉体のダメージと精神的なショックが限界に来たのか、ペコリーヌは再び気絶する。

 

 

「ふん、気絶したか」

 

 

少しは溜飲が下がったのか、キャルの表情から険がほんの少しだけ取れる。

 

 

「お前たちもいい加減剣をしまいなさい。……お望み通り、あいつらはあたしが処理しておくわよ」

 

 

キャルは鬱陶しげに二人の剣を払い除けて、倒れた傭兵たちに歩み寄り、転移魔法で王宮へと連れて行った。

 

残された二人はキャルが消えた場所を見ながら呟く。

 

 

「……支離滅裂だな。ペコリーヌを拘束して()()()()にかけると言い出したのはアイツだろうに。そのうえ連れてきた奴らまで攻撃に巻き込むなど……」

 

「我々とは洗脳の質が違うのだろう。我々はある程度自由意思があるが、彼女にはあまりそれが感じられなかった。記憶、性格、能力――それらをもって、与えられた命令信号に対し効率的に達成される手段を短時間で更新し続けられている。だからあんな支離滅裂な言動と行動が取れる、といったところかな」

 

「はん、だから操り人形(マリオネット)というわけか……救いようがないほど哀れだな」

 

 

自嘲するように鼻で笑い、もっとも、とクリスティーナは続ける。

 

 

「どうしょうもなく救いようがないのは()()()()の方だがな、そうは思わないか?」

 

「………………………」

 

 

ジュンは答えず、倒れたペコリーヌを頭陀袋の中へ入れる。

そして、次に倒れた騎士たちに歩み寄り、介抱の準備をする。

 

それを見届けてから、クリスティーナは虚空を見つめ、ニヤリと笑う。

 

 

「さあ坊や達よ。ここから反撃できるか、底意地の見せ所だぞ」

 

 

その声はまるでユウキ達に期待している様だった。




トモ
前作「プリンセスコネクト!」より続けて登場する、からかい上手の見習い騎士。古式ゆかしい剣技で巨悪を切り払い、己の正義を信じて戦う。
【王宮騎士団】の中でもまだまだ若い見習い騎士。たまにギルド管理協会での仕事をしており、平民であるため団内での立場は低い方である。
しかし、自らの中にある正義感とその行動力は団長のジュンに高く買われており、ジュンの隣に立って戦うこともある。周りには秘密にしてあるが魔法少女系のサブカルチャーが大好き。



キ ャ ル の 黒 歴 史 決 定
と、大きく見出しにしていいくらいのやりたい放題のキャルでお送り致しました。

次回もお楽しみに。
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