メモリーズコネクト!~プリンセス達の四方山話~   作:上月 ネ子

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たとえキミが理不尽に打ち砕かれようとも(前編)

 

 

 

> ここは…………。

 

 

 

目が覚めたユウキは、少々ボロボロの天井が視界に広がり、怪訝な表情を浮かべる。

 

体を起き上がらせようと腕を動かすと、

 

 

「ぁん……♪」

 

「ひやぁ、どこ触って……」

 

 

と、両側から少女の矯声が奏でられる。

 

驚いて声の方向に顔を向けると、薄着の少女たちがユウキを挟むように寝転がっていた。

 

 

「あ、お兄ちゃん。目が覚めたんですね。良かった〜♪」

 

「…………っ」

 

 

嬉しそうにこちらを見上げるアカリと、恥ずかしそうに顔を赤らめて目を合わせないヨリがいた。

 

この二人は【悪魔偽王国軍】のギルドメンバー。であればこの場所は……。

 

 

「そうですよお兄ちゃん。ここはアカリたちのギルドハウスだよ」

 

「……というか、そろそろ手を離しなさいよ〜‼」

 

 

この状態で真面目な話を続けるのが限界に達したのか、ヨリはユウキの腕を掴んで振り払う。

 

 

「いつまで変なところ触ってるのよ! ……アカリもいい加減ユウキの腕を振り払いなさい!」

 

「え〜? だって、お兄ちゃんがこんなに密着して、アカリの恥ずかしいところをこんなにも触ってくれる機会なんて全然ないし。なんだかドキドキしてポカポカするもん」

 

「だからそれを止めなさいっていつも言ってるでしょうが‼」

 

 

ヨリはユウキの腕を掴み、アカリから引き剥がす。

 

 

 

> それより、どうして二人が?

 

 

 

「それは……っ」

 

 

ヨリは恥ずかしそうに顔を背ける。

 

 

「お兄ちゃん、雨の所為で体がすっごく冷えてたからアカリ達が人肌で温めてあげようかな〜って思って」

 

「わ、私はこんなことするつもりはなかったのよ⁉ なのに、アカリはそんな格好に着替えてユウキの寝てるベッドに潜り込もうとするし、……そう、監視のために私も一緒に居ることにしたのよ!」

 

「そんな格好に着替えて?」

 

「アンタがむりやり着替えさせたんでしょうが!!!」

 

 

先程ヨリとアカリの格好を薄着だと形容したが、よく見ると二人の着ている服は微妙に透けている。

服の裏側は二人の肌色と、それぞれ白と黒の高級そうな下着が――

 

 

「ジロジロ見るなーーーーッ‼」

 

 

ヨリに思い切り突き飛ばされ、ユウキはベッドから転げ落ちる。

 

 

「あっ、しまっ……⁉」

 

「お、お姉ちゃん! お兄ちゃんは怪我人だよ⁉」

 

「――そうじゃぞ」

 

 

ガチャリと、扉の開く音が響く。

 

 

「まったく騒がしいから様子を見に来れば……、何をしておるのじゃおぬしら」

 

「イリヤさん」

 

 

赤と白を基調としたレオタードの少女――イリヤは呆れたようにため息をつく。

 

次にイリヤは尻もちをついたユウキを見やる。

 

 

「起きたようじゃな眷族よ。おぬしは軽症な方じゃったが、動けるか?」

 

 

ユウキは立ち上がり、問題ないとマッスルポーズをとる。

それを見てイリヤも問題ないだろうと頷く。

 

 

 

> そうだ、皆は?

 

 

 

「……そうじゃな。起きておる者もいる。真面目な話は広間でしようぞ」

 

 

イリヤは踵を返して部屋を出ていこうとし、その前にヨリとアカリに注意する。

 

 

「……おぬしらは着替えてから来るのじゃぞ?」

 

「「は、は〜い……」」

 

 

二人は気まずそうに顔を赤くして背けるのだった。

 

 

 

 

 

ユウキはイリヤに連れられて、広間へとやって来る。

そこには【悪魔偽王国軍】の残りのメンバーと――

 

 

「あ、イリヤちゃん! ユウキさん連れてきたんスね」

 

「イリヤちゃんと呼ぶなと言うておろうが! おぬし大人の姿のわらわを見たじゃろう!」

 

 

マツリはソファから立ち上がり、イリヤに駆け寄る。

次に、

 

 

「あるじさま……っ」

 

 

よろよろとユウキに駆け寄るコッコロ。

体の所々がガーゼで手当されており、足が覚束ないのか前のめりに倒れそうになるのを、ユウキに抱きとめられる。

 

 

「ああ、主さま……ご無事でなによりです……」

 

「コッコロ、おぬしは寝ておれと言ったじゃろう。まだ動ける体ではないであろうに」

 

「主さまがお目覚めになられたのであれば……寝たきりになど……」

 

 

コッコロは気丈に振る舞うが、体は少し冷たく、ふるふると震えている。

ユウキはコッコロを横抱きにして、

 

 

「あ、主さま……っ?」

 

「どうぞ、ユウキさん。コッコロさんはこちらに寝かせてください」

 

 

ソファに座っていたシノブは端に寄り、隣をポンポンと叩く。

ユウキはシノブの隣にやって来て、そのまま腰を下ろし、コッコロを膝枕の体で横に寝かせる。

 

シノブはあらかじめ用意していた毛布をユウキに渡し、ユウキはコッコロに毛布をかける。

 

 

「……これなら、コッコロさんも安心できますでしょう?」

 

「……ぅぅ、わたくしは主さまをお世話するのが本来の使命ですのに……」

 

 

恥ずかしそうに、コッコロは毛布で顔を隠す。

それで良かろう、とイリヤはひとまず納得し、着替えてきたヨリたちも交えて話を始める。

 

 

「……さて、何から話し合うべきかの」

 

 

 

> ……サレンちゃん達は?

 

 

 

「目が覚めたのはお主ら三人だけじゃ。サレンとトモ……特にトモは酷い。治療がもう少し遅ければ間違いなく死んでおったぞ」

 

「……ッ!」

 

 

ギリ、とマツリは歯軋りをする。

 

 

 

> あの後、何が起きたの?

 

 

 

「わらわ達も状況を確認したのは昨日のあのときの一瞬だけじゃ。アジトにおったときに、高密度の魔力を感じてな。方向を確認すれば【サレンディア救護院】じゃったから急いで転移魔法で駆けつけてみれば……死屍累々とはあのことじゃった」

 

「……ペコリーヌさまは?」

 

 

先程話に出てこなかったのを疑問に思ったコッコロは、おそるおそる口にした。

 

 

「……今ごろ【王宮騎士団】に連れて行かれておるじゃろうな」

 

「そんな……! なぜ……」

 

 

なぜペコリーヌを助けてくれなかったのか。

コッコロの言葉を遮るようにイリヤは手で制止する。

 

 

「……許せ。あやつは既にキャルに取り押さえられていた。魔力で捕まえようとすれば、キャルまで巻き込む可能性があった。ペコリーヌは……見捨てざるを得なかった」

 

「……ペコリーヌさま、……キャルさま……」

 

 

色々とぐちゃぐちゃな思いを抱えてしまったのか、コッコロは涙を流して俯いてしまう。

 

 

「マツリから話は聞いた。あのペコリーヌこそが、この国の本当のプリンセスじゃと」

 

「……正直、自分はまだ頭の整理が追いつかないッスけど……」

 

 

マツリは首を振りながら、吐き出すように続ける。

 

 

「ヒューマンと獣人族の関係を知って、それでも【王宮騎士団】に入って自分もヒーローみたいになりたいって思って……! でも、守るべき王族が偽物で、しかも獣人族で……ヒューマンと獣人族の関係を悪化させた人物なんて……! もう何がなんだかわかんないッスよ‼」

 

 

頭を抱えてマツリは俯く。

最後の方は悲鳴のようにも聞こえた。

 

 

「……今は最悪のケースを考えるべきじゃ」

 

「最悪のケース?」

 

 

アカリが首を傾げる。

 

 

「本来のプリンセスが蹴落とされ、偽物にすげ替えられた。その偽物の手先が本物のプリンセスを捕まえたとあらば……次にやるのは……」

 

「…………まさか!」

 

 

シノブは察したのか、口を手で抑えて驚愕する。

 

 

「……口封じ、つまりは正当な方法で消し去る事じゃろう」

 

「正当な方法……」

 

「王家によって正当に消し去られる事を民衆に認知させる――つまりは公開処刑じゃ」

 

「……なっ!!!」

 

 

コッコロは目を見開き、飛び起きる。

 

 

「そのようなこと……認められるわけが……! つぅ……」

 

 

 

> コッコロちゃんは寝てて。

 

 

 

痛みで蹲り、ユウキによってコッコロは再び寝かされる。

 

 

「……じゃが、【王宮騎士団】がペコリーヌを捕まえた理由はそれ以外考えられん。ただ殺すだけなら、わらわが駆けつける前にも出来たじゃろう」

 

 

それだけ、イリヤの目から見ても【王宮騎士団】の戦力は圧倒的だった。

クリスティーナはランドソルでもトップレベルの実力者であり、ジュンは王宮の盾と形容されてもおかしくない程の実力を持つ。

何より、イリヤが焦りを見せるほどの魔法を使ったキャルがいる。

 

とても彼女らはたった6人だけでどうにか出来る相手ではなかった。

 

 

「……? 結局オマエらはどうしたいの? ミヤコがプリンを食べてる間にちゃんと考えてほしいの」

 

「おぬしは……」

 

 

ミヤコはふよふよと、手慰みと言わんばかりにプリンを食べながら話半分に聞いている。

 

 

「よく聞けミヤコよ。このままペコリーヌが国家反逆者として処刑されれば、名実ともに偽物のユースティアナが本物の国王として民衆に周知される。そうすれば、ランドソル国内は全てそやつの思い通り。生かすも滅ぼすもそやつ次第じゃ。最悪プリンを食べられるかどうかの話ではなくなってくるかもしれぬのじゃぞ」

 

「ええ⁉ プリンを食べられなくなるのは嫌なの〜! そんなやつミヤコが呪ってやるの〜‼」

 

「呪いでどうにかなるならドクロ親父がなんとかするじゃろうて……」

 

『それであのボインな姉ちゃんが戻ってくるなら今からでもやるぜ』

 

「お父さん、真面目な話をするから黙ってて、って言ったでしょう?」

 

 

少しずつ事態の深刻さが全員に浸透し、一同は深刻な顔つきになってくる。

だが、どうすればペコリーヌを取り戻せるのか。

きっとこの異変の鍵は彼女になっている。

 

そんな折に、魔力による波長がこちらに届けられるのを一同は感知する。

 

 

「これは……通信魔法か? 眷族に向けられているようじゃの」

 

 

ユウキは頷いて、声をかける。

 

 

 

> 誰ですか?

 

 

 

『っ、ユウキさん! ようやく繋がりました! 救護院に向けて通信魔法を送っても誰も反応してくれなくて――』

 

 

通信者はスズメだった。

声だけでも慌てているのがわかる。

 

 

 

> 子どもたちはみんな【フォレスティエ】に?

 

 

 

『ええ。ミサト先生が子供たちを寝かしつけてくれて……。通信魔法でユウキさんを昨日から探してたんですけど……――』

 

『『お兄ちゃんっ!』』

 

 

スズメに割り込むように、声が二人分流れてきた。

 

 

『お兄ちゃん、大丈夫ですかぁ⁉ きゅ、救護院の方から凄い光が見えて……!』

 

『ママ・サレンは⁉ 救護院は⁉ 皆は無事なの⁉ 向こうで何があったの⁉』

 

『わわわ、クルミちゃん、アヤネちゃん! 落ち着いてください〜!』

 

 

スズメよりも慌てているのか、二人は勢いよく聞いてくる。

スズメはクルミたちを止めようとするが……。

 

 

『黙ってろガキども‼ おい、キイロ! 話が進まねえからこいつら連れてけ‼』

 

 

ぷるる、と小さく粘液が揺れる音が聞こえた。

その後、ぎゃあぎゃあとアヤネとクルミの悲鳴に似た文句が遠ざかっていき、次に話し始めたのはカリザだった。

 

 

『おいデクノボー。そこにいるな?』

 

 

 

> カリザくん、子供たちを連れて行ってくるてありがとう。

 

 

 

『余計な話は良いんだよ。簡潔に答えろ、向こうで何があった? こっちじゃ雷みたいな強い魔法の音が何度も聞こえたが……』

 

 

ユウキは一度全員の顔を見る。

一同は頷き、救護院で起きたことを話し始める。

 

 

 

 

 

 

 

『そ、そんな……お嬢さまが……、キャルさんに……っ』

 

 

話し終えると、スズメは震える声で返し、どさりと小さく発した。

ショックで膝をついたか、倒れたか。通信魔法では分からない。

 

 

『………………………おい』

 

 

しばらく黙って聞いていたカリザは絞り出すような低い声で尋ねる。

 

 

『キャル、って……前にてめーと腹ペコ女が話してた【美食殿】のギルドメンバーじゃなかったか……? てめーらの仲間じゃなかったのか⁉』

 

 

 

> …………?

 

 

 

何かに狼狽えているように聞こえ、ユウキは首を傾げる。

 

 

『…………クソっ』

 

『か、カリザくん……? どこへ……』

 

 

何処かへ行くように、カリザの足音が遠ざかっていく。

入れ違うように、コツコツと別の足音がゆっくりと近づいてきた。

 

 

『……さっき、カリザ君とすれ違ったけれど何かあったの? ちょっと怖い顔をしていたわ……』

 

『ミサト先生……』

 

 

どうやらやってきたのはミサトだったようだ。

ここでユウキは一つ思いつき、ミサトにあることを頼む。

 

 

『……治療して欲しい人?』

 

「うむ、そうじゃな。わらわ達の方でもありったけの回復魔法は掛けたが、それでも予断を許さぬ者がいてな。出来れば手が空いているものにこちらに来て治療してほしいのじゃが……」

 

 

意図を察したイリヤは事情を簡単に説明する。

 

 

『まあ、それは大変だわ。分かりました、出来るだけ早くそちらに向かいますね』

 

『お、お願いしますミサト先生……』

 

 

スズメもミサトに頼みこみ、スズメとの通信魔法はこれで終了することになった。

 

 

「ひとまず、怪我人の心配はこれでなくなったのかしら……」

 

「そうですね……」

 

 

しかしここで間髪入れずにまたしても通信魔法が送られてくる。

どうやらまたユウキ宛らしく、スズメが伝え忘れたことでもあるのだろうか、とユウキは考えながら返事をする。

 

 

 

> ……誰ですか?

 

 

 

『……私です、ユウキさん。チカです』

 

「……え、チカって……【カルミナ】のチカさん⁉」

 

「おお、聞き覚えがあるかと思えばおぬしか」

 

『あ、あれイリヤさん? なんでイリヤさんの声が?』

 

『……というか、騎士さん以外の声が多すぎないです……?』

 

 

今度は【カルミナ】から通信魔法が来たことで、一同が衝撃でざわつく。

それを受けて呆れたようにツムギが呟いた。

 

 

 

> ノゾミたち、どうしたの?

 

 

 

『個人的にはこっちがどうしたの、って聞きたかったんだよね。救護院の方に通信魔法を飛ばしても誰も反応してくれなくて』

 

『それに救護院の方からかなり高密度の魔力を感じまして……。何かトラブルでもあったのかと』

 

「……既視感があるのう」

 

「同じ説明をする必要がありそうですね……」

 

 

先程スズメたちにしたように、救護院での出来事をノゾミ達にも話す。

すると、通信魔法の方から何も聞こえなくなってしまった。

 

 

 

> ……みんな?

 

 

 

『だ、大丈夫! ちゃんと聞こえてたから……』

 

『ど、どうしましょう……情報量が多すぎます……』

 

『まさかプロデューサーさんが……』

 

 

どうやら情報を噛み締めている最中だったようだ。

 

 

『でも、それなら仕方ないかな……』

 

 

 

> 仕方ないって何が?

 

 

 

『ライブまでもう一週間切っちゃったし、リハーサルを本番までやって行くんだけど、キミにも手伝ってもらいたかったな、って』

 

『……無理強いは出来ませんね』

 

 

ノゾミとチカは残念そうに呟く。

ユウキも出来ることなら手伝いに行きたかったが、ペコリーヌの事が気がかりで仕事に集中できなくなるだろうし、治療が必要なコッコロ達に……せめてミサト達が来てくれるまで近くにいたい。

 

 

「いや待て。これは……アリかもしれぬぞ?」

 

「アリ? 何の話なの?」

 

 

何かを閃いたイリヤはニヤリと笑う。

 

 

「街は……【王宮騎士団】はユウキ達を警戒しておるじゃろう。真正面から街中に入るのは難しいじゃろうし、万一入れてもすぐに見つかるやもしれん」

 

 

じゃが、とイリヤは続ける。

 

 

「らいぶのすたっふとやらに扮して街に紛れ込めば、すぐに見つかる可能性は低くなるはずじゃ。ランドソルが今どうなっているのか、ペコリーヌの行方を探るチャンスになろう」

 

「でも、どうやってランドソルの中に入るんスか? 【王宮騎士団】の自分が言うのもあれッスけど、多分街道の門は【王宮騎士団】の見張りがついてて素通りは無理になってると思うッスよ?」

 

「ふん、舐めるでないわ。こんな時のために地下道からランドソルに侵入するルートを前々から探しておったのじゃ」

 

「え、ええ……?」

 

 

この人もしかして危ない人なのかも、と思うマツリであった。

 

 

「目星はつけておる。後はそこから【カルミナ】と合流出来ればすたっふとして振る舞っておれば良い」

 

 

どうじゃ、とイリヤはユウキに提案する。

……確かに、このまま手をこまねいていればペコリーヌがどうなるか分からない。

イリヤの言った通り、今回の件はランドソルに潜入するチャンスになるかもしれない。

 

 

 

> 分かった。行くよ。

 

 

 

『うん、なら私達も協力するよ。最近街がちょっとギスギスしてるし、何か変えられるのなら私も何とかしたい』

 

『そうですね。私も異存はありません。ランドソルで異変が起きたなら、唱喚士として全力を賭すと以前から決めていましたので』

 

『覚悟決まりすぎですね……。でも、あのだっさい傭兵たちが街をうろつき回るのをただ見ているよりかはマシですかね』

 

 

こうして、【悪魔偽王国軍】と【カルミナ】による合同作戦が始まる。

 

 

『ところで、来るのはユウキ君だけ?』

 

「主さまが行くのであれば……わたくしも……、あうっ」

 

「阿呆。おぬしは体を治すのが先じゃ」

 

 

またしても立ち上がろうとするコッコロを、イリヤが小突いて寝かせる。

 

 

「わらわが行こう。もとより侵入経路を案内するつもりじゃったからな」

 

「……自分も行くッス!」

 

 

次に立ち上がったのはマツリだった。

 

 

 

> マツリちゃん?

 

 

 

「……自分だけなんにも出来なかった」

 

 

懺悔するように、マツリは目を閉じて呟く。

 

 

「あの時、おばさんに凄まれて……、怯えて戦うことすら出来なかった。トモねーちゃんも、サレンねーちゃんも、あんなになるまで戦って、守って……」

 

 

マツリは目を見開き見開く。

 

 

「だから、もうあんな情けない自分でいたくないッス‼ 今度こそ自分は、自分の信じた正義の為に戦うッス! トモねーちゃんたちの為にも‼」

 

「……そうか」

 

 

イリヤは意気や良し、と頷きノゾミ達に三人で向かうことを告げた。

 

 

 

 

 

イリヤに連れられて、ユウキ達は地下道をゆっくりと歩いていく。

 

あれから翌日。

【悪魔偽王国軍】秘密の地下道じゃ、とイリヤに案内され、早朝からずっと地下道を歩き続けている。

 

外の景色を長い時間見ていないので、自分達がどれだけ歩いてきたのか距離感覚が鈍ってきた頃、イリヤはふと立ち止まる。

 

 

「……眷族よ。わらわと手を繋げ」

 

 

そう言って、イリヤはユウキに手を伸ばした。

 

 

「あれ、もしかして暗いところを歩き続けて心細くなっちゃったっスか、イリヤちゃん?」

 

「おぬしはいい加減わらわを子供扱いするのをやめい! ほれ眷属よ早うせい」

 

 

ユウキは言われたとおりにイリヤと手を繋ぐ。

イリヤはほんの少しだけ頬が赤く染まり、目を閉じる。

次の瞬間、イリヤの姿は先程までの子供の姿と異なり、ユウキよりも背が高く、スタイルも抜群の女性へと変化した。

 

 

「おお、本当にすごいッスね。子供の姿になったり、大人の姿になったり」

 

「大人の姿になったり、は余計じゃ。これがわらわの本来の姿なのじゃからな」

 

「でもイリヤちゃんの今の姿、とっても美人ッスね! クリスティーナおばさんみたいッス」

 

「……おぬし、クリスティーナのことをおばさん呼ばわりしておるのか? なんと命知らずな……」

 

 

おばさん呼ばわりされたクリスティーナの姿を夢想したイリヤは、普段からそう呼んでいそうなマツリを呆れた顔で見つめる。

 

 

「ほれ、マツリもわらわと手を繋げ」

 

「ん? 別に自分は心細くはないッスけど……」

 

「いい加減その話から離れい……」

 

 

イリヤは半ば強引にマツリの手を取る。

 

 

 

> どうして急にこんな?

 

 

 

「一度しか言わぬからよく聞け」

 

 

続くイリヤの言葉は真剣なものだった。

 

 

「……どうやら、ここから先は地下道の至る所に認識阻害魔法がかけられておるようじゃ」

 

「ええ⁉ なんだってそんな……」

 

「どうやら地下を通って侵入するのも想定済みのようじゃの……」

 

 

認識阻害魔法ということは、この地下道は魔法によって迷いやすくなっているのだろうか。

いきなり作戦が躓いたかと思われたが、イリヤはニヤリとほくそ笑む。

 

 

「じゃが、相手が悪かったのぅ。夜を統べる王たるわらわの前ではこの程度児戯にも等しいわ」

 

 

しかし、とイリヤはユウキ達を見る。

 

 

「おぬしらはそうではない。故にここからは目を瞑ってわらわに盲導されるのじゃ。そのために手を繋いでおけ」

 

 

おお、とマツリは感心する。

こうして、イリヤの誘導のもと、ユウキとマツリは目を閉じて地下道を歩いていくことになる。

 

 

「おい、そこはもう少し左に寄れ。壁にぶつかるぞ――」

 

「あだっ⁉ も、もっと早く言ってほしいッス〜……」

 

「そこは天井が少し低くなっておる。……おい眷族よ、それでは頭をぶつけるぞ――」

 

 

 

> (天井に頭をぶつけてしまう)

 

 

 

「……このあたりは少し暗いのう。足元に注意せねば――ぎゃっ⁉」

 

「ちょ――ぐえっ! て、手を繋いだままこけないでほしいんスけど……!」

 

 

 

> 痛い……。

 

 

 

…………険しい道のりを越えて、ユウキ達は地下道から地上に上がるための梯子までたどり着く。

 

 

「……ふう、長く険しい道のりじゃったな」

 

「ダメージ受けたの、イリヤちゃんの誘導が甘いせいッスけどね……」

 

「やかましいわ! それはさっきも謝ったじゃろう!」

 

 

それにしても、とマツリは首を傾げる。

どうかしたのかユウキが尋ねると、

 

 

「途中、なんか聞き覚えのある声が聞こえた気がするんスけど……」

 

「何じゃそれは?」

 

 

イリヤとユウキは顔を見合わせ、首を傾げる。

二人にはそんな声は聞こえなかった。

 

 

「……まあ、自分は二人より耳が良い自信あるッスからね」

 

「それはおぬしが獣人族だからじゃろう?」

 

「えっ⁉ な、なんで分かったんスか??」

 

「むしろそれで隠せておった気になっておるおぬしに驚きじゃ……」

 

 

イリヤはヘルメットに隠された獣人族の耳と尻尾を交互に見る。

 

 

「隠すならもっと上手く隠せ。クリスティーナあたりなら既に気づいておろうよ」

 

「そ、そうッスかね〜……?」

 

 

本当は団の大半がマツリの種族に気づいているのだが、マツリにはそんなこと知る由もない。

 

そんなやり取りも程々にし、ユウキ達は地上に上がる。

 

出てきた場所は薄暗い路地裏。

ユウキ達は周りに人がいないことを確認してから、通信魔法で連絡をとる。

と言ってもあくまで簡易的な合図なのですぐに通信魔法を止める。すると、路地裏の奥から大きなフードを羽織った人物がこちらにやって来る。

 

イリヤとマツリは警戒するが、その姿を何度か見たことあるユウキは声をかける。

 

 

 

> ……お待たせ、ノゾミ。

 

 

 

ユウキがそう言うと、その人物はフードを脱ぐ。

 

 

「ううん、時間通りだよ。むしろ私が早く来過ぎちゃったかな、って思ったくらい」

 

 

フードを脱いだノゾミは笑顔でユウキに駆け寄ってくる。

次に、後ろにいた二人に声をかける。

 

 

「イリヤさんもお久しぶりです。……キミがマツリちゃんだったんだ。今日からよろしくねっ」

 

「は、はいッス! ……すごい、本物のノゾミンだ……」

 

 

マツリはアイドルよりもヒーロー系の作品の方が好みではあるが、それはそれとして目の前に有名人がいることに感激する。

ノゾミはいつかのクリスマスで出会った少女がマツリだったのか、と思い出す。

マツリの反応にノゾミは微笑んでから、肩に提げていた鞄を手渡す。

 

 

「早速これに着替えて。中に臨時スタッフ用のコートと帽子が入ってるから」

 

 

ユウキ達は中からそれぞれ自分たちにあったサイズのコートと帽子を取り出す。

 

 

「うへえ、ちょっとぶかぶかッス……」

 

「ご、ごめんね。一番小さいサイズがそれだったの……」

 

「ほう、今のわらわに合ったサイズを持ってきてくれるとは気が利くではないか」

 

「正直、イリヤさんはどっちの姿で来るのか最後まで悩んじゃったけど……サイズがあってるなら良かったです」

 

 

 

> 似合ってる?

 

 

 

「うん、完璧! 完全にうちのスタッフにしか見えないよ!」

 

「それは褒めておるのか……?」

 

 

着替え終えたあと、ユウキ達はノゾミに連れられて人通りの少ない道を選びながら、ライブ予定地のステージ区画へとやって来た。

まだ早い時間帯なのか、待っていてくれたチカとツムギ以外誰もこの場にはいない。

 

 

「お待ちしてました、皆さん。大変な目にあったそうですが、ご無事でなによりです」

 

「まったく、騎士さんってよくトラブルに巻き込まれますね〜、……なんていつもなら茶化してるところですけれど、今回ばかりは本当に大変そうですね」

 

 

こちらを気遣うように遠慮がちに微笑む二人。

一同がそれぞれ自己紹介が終わる頃に、ライブ設営の業者がステージ区画へとやって来る。

 

 

「……それじゃ、まずライブで使う装置を指定位置に運んで――」

 

 

挨拶も程々に、ノゾミの一声でリハーサルの準備を始める。

その間に、イリヤは魔法を使ってコウモリを呼び出し、何かを指示する。するとコウモリ達は散り散りに飛び去る。

 

ユウキはそれが少し気になったが、それ以上に重労働が大変であり、ステージ上に立って色々な確認をしている【カルミナ】を横目に見ながら、機材運びを続けるのだった。

 

 

 

 

 

時間は流れ、黄昏時。

ユウキとマツリはステージ裏の休憩室でぐてっと姿勢を崩し休憩していた。

 

 

「あ゛〜〜〜〜っ、疲れたッス〜〜……」

 

 

声が濁るほどマツリは疲れを吐き出すように呟く。

ユウキも気持ちはわかるので苦笑を浮かべる。

 

そんなころに休憩室野ドアが開き、イリヤが戻ってくる。

 

 

「あ゛〜〜〜〜っ、疲れたのじゃ〜〜……」

 

 

スタミナ切れか、あるいは魔力切れが原因か、イリヤのは子供の姿になっている。

そのせいか着ていたコートや帽子がサイズが合わないためにずれ落ちそうになっている。

 

イリヤはそのまま椅子に腰を下ろし、ぐてっと姿勢を崩す。

 

 

「あれ……子供の姿に戻ってるッスね」

 

「戻ってると言うでないわ……わらわはわらわで下僕共を使って情報収集をしてたのじゃぞ。もう魔力切れじゃ」

 

 

 

> 午前中のコウモリのこと?

 

 

 

うむ、とイリヤは頷く。

 

情報収集の結果、どうやら【王宮騎士団】は救護院での戦いの後、王宮に戻りまた何やら良からぬことを考えている可能性があるらしい。

おそらく、イリヤが予想していた公開処刑の件なのだろう。

 

次に、【王宮騎士団】が抱き込んだとされている【リッチモンド商工会】だが、連れてきた傭兵たちはこれまでとは嘘のように街で見かけなくなったようだ。

どうやらギルドマスターの意向だそうだが、現時点では詳しいことは分からない。

 

 

「しかしこれはチャンスじゃ。例の傭兵共――【王宮騎士団】の息が掛かった奴らが街を出歩いていないのであれば、顔が割れていない者たちを召集してペコリーヌ奪還の作戦を立てられるやもしれぬぞ」

 

「顔が割れていないっていうと、別のギルドの人たちッスかね? イリヤちゃんってそんなに顔が広いんスか?」

 

「何を言うとるか。顔が広いやつならおぬしのすぐ隣におるじゃろう」

 

 

イリヤはビシッとユウキを指す。

ああ、とマツリは納得した。

 

 

「此度の【カルミナ】とて、眷族とも知己のようじゃしのう」

 

「国民的有名な【カルミナ】とあんなに親しいとか、ユウキさん何したんスかね……?」

 

 

偶然知り合っただけなのだが……、とユウキは首を傾げる。

歌の練習に付き合ったり、素材集めに協力したり、ダイエットを手伝ったりと大した事もしていない、とユウキは思っている。

 

 

「【カルミナ】で思い出したが、あやつらまだ歌と踊りの練習しておったぞ。もうすたっふは帰ったというのに……」

 

 

 

> みんな沢山努力してるから。

 

 

 

「はぁ〜、やっぱり初めからなんでも出来る、なんて都合のいい話はないんスね〜」

 

 

そういえば、とユウキは思い出す。

ノゾミ達は今後ライブツアーを行うそうだが、今回のリハーサルで着ていた衣装はこれまでに何度も見た【カルミナ】のライブ衣装だ。

チカからは新しいライブ衣装を用意していると聞いていたが、告知ライブではお披露目することはないのだろうか。

 

そんな風に考えていたとき、

 

 

「……っ、なんじゃこの気配は……!」

 

 

それまで力抜けたような態度のイリヤの表情が一瞬にして強張り、部屋の外を険しく睨みつける。

そして、飛び出すように休憩室を出ていった。

 

残されたユウキとマツリは顔を見合わせ、何事かと怪訝な表情をするが、イリヤのあの慌てようからして緊急事態が起きたのかもしれないと判断し、二人も追いかけるように部屋を出る。

 

イリヤを追いかけてたどり着いた場所はステージの前。

険しい表情で明後日の方向を睨みつけるイリヤに、それまで練習していたであろうノゾミ達もステージを降りてイリヤに駆け寄っている。

 

 

「イリヤさん、どうしたんですか?」

 

「お〜い、イリヤちゃ〜んっ」

 

「……眷族も来たか」

 

 

イリヤは追いついてきたユウキを見ると、早口でユウキに言い放つ。

 

 

「眷族よ、今すぐわらわ達を強化せい」

 

 

 

> えっ。

 

 

 

「早うせい! 間に合わなくなっても知らんぞ‼」

 

 

ユウキは言われて慌てて剣を構え、この場にいる全員を強化する。

それと同時に、イリヤと同じ方向を見たチカが愕然としたように呟く。

 

 

「……向こうから、強い魔力の塊が……!」

 

 

……強化が終わると同時に、ドスドス、と地響きが聞こえてくる。

それはまっすぐに、どんどん響きを強くしてこちらに近づいてくる。

 

そして、そいつは現れた。

 

 

――グオオオオオオオオオオッ!!!

 

 

猛獣の頭。鳥獣の鉤爪。蛇の頭のような尻尾。

それはステージと同じくらいの背丈を持っている。

 

 

「こやつは……秘境の魔物か!」

 

 

ランドソルから遠く離れた古塔に住まうと言われているキマイラが、このステージ区画に現れた。

目の前で困惑するユウキ(獲物)を狩るために。




イリヤ
前作「プリンセスコネクト!」より続けて登場する、夜を統べる王たる吸血鬼。自身の体力を削りながら戦い、相手の体力を啜る戦い様はまさに戦慄の吸血鬼である。
自らを夜を統べる王たる吸血鬼と名乗る。古来より長い眠りについていたが、シノブ達によって眠りから解かれる。その影響か、自身の姿は子供のそれになってしまった。
ユウキの強化や心の昂りによって元の姿に戻れるようだ。本来のイリヤは魔物を操り、見たものを魅了し、血を啜ったものを眷族とする絶対的な力を持っていたようだが……。実はかなり初心。



長くなりそうなので分けました。
前後編か、あるいは前中後編になるか。
とにかく、今年中にはもう一本投稿する予定です。
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