メモリーズコネクト!~プリンセス達の四方山話~   作:上月 ネ子

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エースバーンレイド難しすぎぃ‼
あれソロは絶対無理だわ。

だからってマルチに潜るのは迷惑かけそうでやりたくない……。


たとえキミが理不尽に打ち砕かれようとも(後編)

突如として現れた秘境の魔物キマイラ。

辺りを震撼させる程の咆哮は思わず耳を塞ぎたくなるほどである。

 

キマイラは先手必勝と言わんばかりに腕を振り上げて、ユウキ達に飛びかかって振り下ろす。

それを見て、イリヤはユウキを抱えその場から飛び去る。一同も同様に回避し、キマイラを前後から挟み撃ちにする立ち位置に変わる。

 

 

「こ、こんな大きな魔物一体どこから……⁉」

 

「分からぬ。じゃが想定しうる中で最悪の事態じゃ……!」

 

 

キマイラを睨み付けながら、イリヤは歯噛みする。

 

キマイラがここにやって来る終始は恐らく街の別区画からも見えているはずだ。

そうなれば、【王宮騎士団】の耳にも入りいずれ騎士団員達がここにやって来る。

潜入作戦が失敗に終わってしまう。

 

 

「ど、どうするんスか⁉」

 

「逃げる……は最悪手か」

 

 

転移魔法などでこの場を退避しても、次にランドソルに入るには相手側からの警戒レベルが上がっていて困難になっているだろう。

そもそも、キマイラが街を暴れ回って情報収集ではなくなってしまう。

 

 

「妥協策は、こやつを速攻で倒してこの場を去ることじゃ!」

 

 

イリヤは鎌を構え、魔力を最大まで貯める。

 

 

「初めから全力じゃ――ヴァーミリオンバイトッ‼

 

 

赤黒い魔力の奔流がキマイラに叩きつけられる。

しかし、軽く怯んだ程度でキマイラはまったく堪えていない。

 

 

「ちぃ、魔物の分際で生意気な……!」

 

「反撃が来ます! 皆さん、避けて!」

 

 

お返しと言わんばかりに、キマイラは両腕を振り回して暴れまわる。

一同は後方に退避するが、今度はキマイラから続けて攻撃が飛んでくる。

 

キマイラはノゾミ達に目を向け、勢いよく飛びかかる。が、

 

 

「アイドルに軽々しくお触りするなんてご法度ですよ――!」

 

 

一歩前にツムギが踏み出し、糸を構える。

 

 

「逃しません――フェイタリティバインドッ‼

 

 

瞬間、キマイラの四肢が何重もの糸によって拘束される。

ただ拘束されるのではない。ギリギリと魔物の体を千切らんとするほどの強い拘束によってキマイラも苦悶の声をあげる。

 

 

「今ですイリヤさん! さっきの強力な一撃を――」

 

「いや、待つッス! あいつの尻尾が……」

 

 

キマイラは動けなくなったが、全身がまったく動けなくなるわけではなかった。

蛇の頭の尻尾がギョロギョロと先端を動かし、グパァ、と口を広げるように裂けた。

 

 

「――ッ! 総員防御魔法で防げ! 瘴気ブレスが来るぞ‼」

 

 

イリヤの一声に、防御魔法が使えるイリヤ、ノゾミ、チカは防御魔法を唱え、衝撃に備える。

同時に、尻尾からどす黒いブレスが防御魔法に叩きつけられる。避けるように散るブレスは、直撃しなくても嗅いだだけで気分が悪くなりそうで、思わずユウキ達は顔を押さえ呼吸を止める。

 

 

「……あのブレス厄介だね。何度もやられちゃったら……」

 

「だったら切り落とすッス‼」

 

「出来れば早めにやってくださいね……ッ。そろそろ糸が持たないです……ッ!」

 

 

ツムギはずっと糸で拘束させ、振りほどかれないよう踏ん張っているが、糸の方からブチブチと千切れる音が聞こえてくる。

 

 

「なら速攻で決めるよ! チカ!」

 

「準備は出来ています――!」

 

 

チカは魔法杖を構え、詠う。

 

 

「聖なる夜の輝きよ……風の加護となりて、我らを祝福し給え――!」

 

 

歌に喚ばれるように、チカの周りに風の精霊たちが顕現する。そして一同に力を貸すように寄り添う。

 

 

シルフィードキャロルッ‼

 

 

風の精霊の力がイリヤ達に分け与えられる。

それを感じたノゾミは一目散に飛び出し、剣を横に構えて魔法の力を剣に纏わせる。

 

 

「フロストスラッシュ!」

 

 

ノゾミは氷の魔法を纏わせた剣による一撃を、キマイラの両足に叩き込む。

ツムギの拘束から解放されかかっていたキマイラは、今度は足が動かなくなり困惑する。

 

そこを、イリヤとマツリがとびかかり、尻尾へと攻撃を振りかぶる。

 

 

「オオオオオッ‼」

 

「はああああっ‼」

 

 

咆哮するように尻尾に向かって攻撃を叩き込むが、痛みに悶えるだけで切れなかった。

 

 

「くぅ、浅いッス……」

 

「――いいや、上出来さ」

 

 

マツリ達を横切るように、緑の影が走る。

 

銀の閃きが孤を描いた刹那、キマイラの尻尾はばたり、と地面に叩きつけられるように切り落とされた。

 

 

「おお、おぬしは――」

 

「話は後さ! ミツキ、アンナ‼」

 

 

現れた剣士は合図を送る。

 

 

「お任せあれ♪ ブラッディローズッ‼

 

「ククク……螺旋霊撃疾風飛剣(ヴォルテックスソーン)ッ‼」

 

 

紅と銀の鎖がキマイラの体に突き刺さり、キマイラをそのまま上空へと持ち上げる。

そして、無防備になったところを赤い影が飛び出し、大きな斧を振り上げる。

 

 

「骨すら砕いてあげるわ――デッドリーパニッシュ‼

 

 

鋼さえあっさりと砕けそうな強力な一撃がキマイラに叩きつけられる。

衝撃でキマイラは後ろに吹き飛び、赤い影が着地のために落下するのに合わせて、ステージの上から魔力が放たれる。

 

 

「ナナカ、行きまーす! ナナカ・(インフィニット)・ブラストッ‼

 

 

強力な魔力砲が斧を叩きつけられた場所を貫き、キマイラは悲鳴をあげて、地面へと墜落した。

 

突如として加勢した五人組はそのままユウキ達の前に集まり、中央に立っていた女性が刀を前に突き出し、ニヤリと微笑む。

 

 

「黄昏の淵より、【トワイライトキャラバン】ただいま見参。……なんてね」

 

 

【トワイライトキャラバン】のリーダー、ルカはそのままユウキ達に振り返る。

 

 

「よっ、お前さん達。間に合って良かったよ」

 

「【トワイライトキャラバン】か。正直に言うと助かったぞ。あのままではもっと手こずっていたじゃろうな」

 

 

ほう、とイリヤは胸を撫で下ろす。

 

 

「し、死んだッスかね……あの魔物?」

 

「……まだ魔力は消えていないわ。息があると思ったほうが良いでしょう」

 

「しぶといですわね……あまりユウキ様の手を煩わせないでほしいのですけれど」

 

 

ミツキが冷静に魔力を感知し、エリコは舌打ちをして斧を構え直す。

しかし、思わぬ加勢により状況は好転した。このまま一気に畳み掛けよう。

 

一同の心がそう一つに纏まったとき、ユウキの視界の端で何かが蠢いていた。

ニュルニュルと、それは蛇のようで――

 

 

 

> ノゾミ!

 

 

 

「え―――――」

 

 

それは、ノゾミが気づいたときには既に彼女に飛びかかっていた。

口を開いたそれはノゾミに食らいつこうとして―――――

 

 

「…………ぁ、ぁぁ………………っ」

 

 

 

 

 

―――――割って入ったユウキの首に、思い切り噛み付いた。

 

 

 

 

 

「なっ……⁉」

 

「ユウキ様ッ‼」

 

 

皆が気づいたときには手遅れだった。

蛇の頭は離すまいとユウキの首に噛み付いたままで、ユウキはショックでよろめいてしまう。

しかし、イリヤ達が駆けつける前に、ユウキの体は引き寄せられるように持ち上がり……キマイラの元へと運ばれた。

 

立ち上がり待っていたとばかりに、キマイラは片手でユウキを掴み取り、

 

 

――ばきり、ばきり

 

 

と握り潰した。

 

それが骨が砕ける音か、剣が砕けた音か。

どちらにせよ、ユウキは甚大なダメージを受けて、ぐてっと頭が倒れてしまった。

 

 

「尻尾が再生した……⁉」

 

「馬鹿な……キマイラに、そんな能力など……」

 

 

ユウキと一緒に運ばれたキマイラの尻尾は、切断部分に戻って完全に元通りに再生した。

それだけではない。ナナカの魔法によって撃ち抜かれたキマイラの胴体も、穴が塞がったように傷が再生していた。

 

ミツキとアンナは知識にないキマイラの能力を見て愕然とする。

 

 

「そんなことはどうでもいいですわッ‼ ユウキ様――ッ!」

 

 

エリコはユウキを助けようと駆け出すが、ルカに肩を掴まれて止められる。

 

 

「止めないで下さいッ!!!」

 

「気持ちは分かるが落ち着け! 自分が今どんな状態なのか分かってないのかい⁉」

 

「今は私のことなど――⁉」

 

 

言われて、気づく。

先程まで有り余るほどの力が湧き上がっていたのに、今は握っている斧さえ重く感じてしまうほど体が鈍くなっている。

 

 

「ユウキがやられて、剣も折れた。アタシ達の強化が切れたんだ……」

 

「っ……!」

 

 

ギリ、とエリコは歯軋りする。

 

 

「でも、このままじゃユウキさんが……‼」

 

「分かってる。だからやるなら一斉にやるよ!」

 

 

各個で当たっても勝ち目はない。

同時に全員でかかって、少しでもユウキを助けられる可能性を上げる。

多少の焦りこそあれど、ルカは冷静に判断していた。

 

 

「行くよ、みんな――!!!」

 

 

【トワイライトキャラバン】の五人とマツリは一斉に並び、なおもユウキを握りつぶそうとするキマイラに進撃する。

 

その時、キマイラはどういうわけかユウキの握る力を緩め、明後日の方向に投げ捨てた。

 

 

「なっ…………?」

 

「ユウキ様!」

 

 

突然の行動に一同は足を止め、ルカとマツリ以外はユウキに駆け寄る。

 

 

「……ツムギ。ノゾミをお願いします」

 

「は、はいっ」

 

 

青白い顔で呆然としているノゾミの傍にいたチカは、同じく傍にいたツムギにノゾミを任せ、ユウキに回復魔法を掛けに行った。

 

 

「ゆ、ユウキさんを解放してくれた……?」

 

「……あまりに不自然な行動だ。何かあるに違いない」

 

 

一方で不自然な行動を取ったキマイラに対して、ルカとマツリはその場で警戒し、大人しくなったキマイラを睨む。

 

そんな二人の疑問に答えるように、キマイラの後ろから黒い影が音もなく現れた。

 

 

「……虫の知らせ、とでも言えばいいのか。嫌な予感がして駆けつけてみれば……面倒なことをしてくれましたね」

 

 

全身を黒いローブで覆うその男は、キマイラと倒れたユウキを交互に見て、呆れたように呟く。

 

 

「だ、誰ッスか⁉」

 

(こいつ、いつからそこに……⁉)

 

 

まるで気配を感じず、突然現れたその人物にルカは軽く狼狽する。

 

 

「まったく、こんな面倒事を起こすのならば、もう少し厳し目に調整するべきでしたね。あるいは彼女に調整を手伝って貰っていたほうが良かったか……」

 

「何をごちゃごちゃと……!」

 

「いやなに、貴方がたには関係のないことです。どうぞ、そのまま彼の治療を最優先してください」

 

 

男は両腕を広げ、クツクツと笑う。

 

 

「このキマイラは、私の方で回収しておきますので」

 

「……さっきから聞いていれば、まるで事情に詳しいような口ぶりをするのね」

 

 

ユウキに駆け寄っていたエリコは立ち上がり、斧を構えて男を睨みつける。

 

 

「もしかして、その魔物をけしかけたのもオマエなのかしら……!」

 

「確かに、現れたタイミングも良すぎるし、ちょ〜怪しいってナナカちゃんのゴーストも囁いておりますぞ……‼」

 

「よくもシグルドを……!」

 

 

続けるように、ナナカとアンナも立ち上がり、男に向けて武器を構える。

 

 

「……やれやれ、予想通りの反応ですね。私には魔物を意のままに操るすべなどありませんよ」

 

 

男はふるふると首を振る。

しかし、次に男はクツクツと愉快そうに笑う。

 

 

「……まあ、全くの無関係とも言えませんが、ね」

 

「ほざきなさい――ッ‼」

 

 

エリコ達が男に攻撃しようと駆け出し――すぐに足を止めた。

 

出来なかったのだ。

 

エリコ達はあの男を許せないと怒り心頭だった。

だが、その感情が塗りつぶされるほどに、その気配の存在感が強かったのだ。

 

 

「お、オーンスタイン卿……?」

 

 

アンナはおそるおそる、その人物の名を口にした。

 

カツ、カツ、と足音が不自然なほどよく響く。

彼女の纏う赤黒い魔力の奔流は、やがて彼女の姿を塗りつぶすほど溢れ、やがて元の姿に――夜を統べる王の本来の姿へと変わっていく。

 

イリヤは腕を前に伸ばす。

 

 

「まずいっ」

 

「うあっ――」

 

 

ルカは瞬時に駆け出し、マツリを抱えて斜線上から大きく離れる。

 

刹那――キマイラもろとも、男の姿は破壊魔法の光に飲まれた。

 

 

 

 

 

マツリはその気配を感じて、ふと後ろを振り返った。

 

ユウキがキマイラの手によって重症を負ってから、目を見開いて固まっていた。その姿も子供の姿へと戻っていた。

 

だが、尻尾の毛が逆立つほどの強い魔力を、殺気を放つ彼女は、クリスティーナから発せられた殺気とは比べ物にならないほどの濃度だった。

 

そして、イリヤが腕を前に伸ばしたと同時にルカに抱えられ、大きく横に距離を取る。

そうしなければ、彼女から放たれた破壊魔法に巻き込まれていただろう。

 

 

「…………やってくれましたね」

 

 

破壊魔法の光が収まり、砂煙から無傷の男が現れる。

その声音は少々面白くなさげだった。

 

 

「あれ程の強力な魔物は今では中々見つからないと言うのに……――」

 

 

 

 

 

 

 

――おい

 

 

 

 

 

 

 

男は思わず声を止めた。

底冷えするような声は、はっきりと男を捉えている。

 

 

貴様、なぜ生きている

 

「…………これは」

 

 

男はため息をついた。

怒りを向けられた事に対してではない。

人ならざる気配を感じ取り、驚愕で言葉をなくしているのだ。

 

 

駄猫は潔く死んだぞ? ならば飼い主である貴様も潔く死ぬのが礼儀だろう?

 

 

カツ、カツ、と足音は響く。

一歩ずつイリヤは男へと歩を進める。

 

 

それとも、念入りに教えなければわからぬか?

 

 

イリヤは大鎌を振り上げ、爛々と妖しく輝く赤い瞳で男を捉える。

 

 

誰の眷族に手を出したのかを!!!!!

 

 

大鎌に魔力が貯められ、先程の破壊魔法に引けを取らぬほどの威力を持つ斬撃が放たれる。

衝撃で地面が抉れるが、男へと斬撃が命中する直前、それは霧散するように消えた。

 

 

……なんだと?

 

「どれだけ絶大な威力を持っていようが、何度私に叩き込んでも無駄ですよ。私に魔法の類は通用しませんので」

 

猪口才な

 

 

イリヤは駆ける。

それは転移魔法と遜色ないスピードで男に詰め寄り、鎌を振り下ろす。

 

男は残像のように消え去り、近くの樹木の天辺へと下り立つ。

 

 

「……くく。興味深い」

 

 

男は愉快そうに、嬉しそうに笑う。

 

 

何が可笑しい?

 

「貴女のような理外の存在が目の前に居ることですよ。叶うならばじっくりと解析したいところなのですが――」

 

まだ戯言を言う余裕があるか――

 

 

イリヤは鎌を構え直し、再び飛びかかろうとする。

男も両腕を広げ、迎え撃とうとして、

 

 

「ユウキさん、ユウキさんっ!」

 

「吐血が止まらない……これは、もう……っ!」

 

 

チカとミツキの焦燥の声が耳に入り、二人の動きは止まる。

 

 

「…………まったく」

 

 

何かを逡巡するように、男は首を振ったあとにローブの裾に手を伸ばす。

取り出したそれは注射器であり――おもむろに、男はユウキに向けて投げた。

投げられた注射器はユウキの腕に突き刺さり、中の薬物がゆっくりとユウキに注入される。

 

 

貴様――!!!

 

「貴方、ユウキ君に何を――」

 

「ご安心を。それは即効性の高い治療薬です。それを投薬すればたとえ致命傷でもすぐに治りますよ」

 

「……どういうつもり?」

 

 

突然ユウキを助けるような行動に、ミツキは思わず質問を口にした。

 

 

「その少年に死なれるのは私も困るのですよ。これまで時間を費やした手間、手に入れたもの、それと天秤に賭けても全く割に合いません」

 

 

はあ、と男はため息をついた。

 

 

「敵に施しを与えようなど、本来ならするつもりなどなかったのですがね」

 

 

男は背を向け、ふわりと浮遊する。

 

 

「それでは皆様、ごきげんよう」

 

逃がすとでも――!

 

 

イリヤが飛び掛かり大鎌を男に振るう前に、男の姿は完全に消えた。

 

 

「消えた……。転移魔法か?」

 

「いや、魔法の詠唱は感じなかった。多分マジックアイテムとか、別の方法で転移したんじゃないかな……」

 

 

アンナとナナカがそのような会話をし、イリヤもこれ以上は無意味と判断し、殺気を心奥に押し込める。

それと同時に、体も子供の姿へ変化する。

 

 

「ユウキ!」

 

 

イリヤはすぐさまユウキに駆け寄る。

 

 

「眷族の容態は?」

 

「……信じられないけど、さっきまであれだけ酷かったのが嘘のように回復しているわ」

 

 

ミツキは息を呑むようにユウキを診る。

 

 

「けれど、体温も低いし血も流しすぎた。早く然るべき処置をしないと同じことよ」

 

「くっ……」

 

 

離れていたルカとマツリが駆け寄ってくる。

マツリはおずおずと手を上げ、口を開く。

 

 

「あ、あの〜お取り込みのところ悪いんスけど、早くこの場を離れたほうがいいかもしれないッスよ」

 

「……確かに、あれだけ暴れれば【王宮騎士団】ももうすぐやって来るか」

 

「うげ、それはまずいですぞ! 私らお上には結構睨まれてますからなぁ」

 

「……なら、こうしましょうか」

 

 

ミツキの提案で、ユウキをとある場所まで運ぶことになる。

 

 

「……ノゾミさん、私たちも行きましょう」

 

「………………………」

 

 

ノゾミは青白い顔をしたまま、何も言えなかった。

 

 

 

 

 

移動した場所は、街の死角に構えるミツキの診療所。

 

ギルドメンバーに連絡を取ると言って離れたイリヤ以外は、寝かされたユウキを沈痛な表情で見つめている。

誰も口を開かない。目の前にある事実が受け入れがたい。

 

埒が明かない、とルカはゆっくり口を開く。

 

 

「……本当なのかい、ユウキの容態は?」

 

「ええ……――」

 

 

ミツキも一同が中々受け入れられないのを察しているのだろう。

続く言葉が中々出てこない。

しかし、彼女は医者の矜持としてゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

 

「このままだとユウキ君の余命は、もって二週間よ」

 

 

――がたり

 

 

一同はその物音に顔が向く。

 

病室のドアが勢いよく開いた音であり、

 

 

「……ぇ」

 

 

イリヤについてきたコッコロが、あまりの動揺にその場で膝をつく音と重なった。

 

 

「こ、コッコロちゃん⁉ イリヤちゃん、呼んだのは回復魔法が得意なアカリさんだけじゃなかったんスか⁉」

 

「そのつもりだったのじゃが……無理やりついてきてな」

 

「イリヤさんとの通信魔法、コッコロちゃんも聞いてたみたいで……」

 

 

複雑そうにイリヤとアカリは目を逸らす。

 

 

「ぁ、あぁ……」

 

 

震えながら、床を膝で這うようにコッコロはユウキの寝ているベッドへと近づく。

カタカタと顎が上下に揺れ、カチカチと歯と歯を叩く音が小さく漏れる。

 

瞳孔の開いた目でコッコロはユウキを見つめ、その腕を取ろうとする。

 

 

「あるじさま――」

 

「触らないでッッ!!!」

 

 

咎めるように、ミツキの劈くような声が病室内に響き、コッコロは驚いて後ろに飛び退き、そのまま尻餅をつく。

 

 

「おい、ミツキ。そんな怒鳴らなくても」

 

「意地悪したい訳ではないの。けれど、迂闊に触って万が一のことが起きないようにしなければならないほどに、今のユウキ君は重体なのよ」

 

 

コホン、とミツキは一息つき、コッコロを椅子に座らせる。

 

 

「コッコロちゃん。今のユウキ君の顔につけられているマスクみたいなの、あるわよね?」

 

「…………」

 

「これは医療現場などで使われているマジックアイテムの一つで、酸素吸入や二酸化炭素の放出を手助けするための物なの。今のユウキ君にとって、唯一の命綱なのよ」

 

 

ミツキは一旦そこまで話して、一度病室内にいる全員を見渡してから話を続ける。

 

 

「今来たばかりでユウキ君の容態を聞いてない人もいるから改めて説明するわ――」

 

 

ミツキはユウキの様態を詳しく説明し始める。

 

結論からして、ユウキは意識不明の重体。

それも自力での呼吸すら出来ないほどの危険な状態であり、今ユウキの顔につけられている呼吸を手助けするマジックアイテムが無ければならない程である。

 

 

「脳死……いや、呼吸が出来ていないからそれよりも酷い状態ね」

 

「……原因は?」

 

 

受け入れがたい事実を受け止めきれないコッコロは、フラフラと上体が揺れ倒れそうになるのを傍にいたアカリに支えられる。

それを横目で見ながら、イリヤはミツキに問う。

 

 

「そもそもとして、生物は脳からの電気信号で腕脚を動かしたり、言葉を話したり、視界に映るものを正しく認識するようになっているの。呼吸も同じこと。つまり、脳の信号が正常に送られていないから呼吸もまともに出来ていない……と、判断することは出来る」

 

「その、あんまり医学には詳しくないんですけれど、脳の電気信号……というのを回復させることは、出来ないんですか?」

 

 

誰もが中々口を開けない中、ツムギは何とか言葉を絞り出してミツキに質問する。

 

 

「……ユウキ君の容態の、厄介な点はまさにそれなのよね」

 

「どういうことだ?」

 

「先に言うと、ユウキ君の肉体は例の治療薬のおかげ……と言うのも癪だけど、とにかく健康体そのものなのよ」

 

「そんなまさか!」

 

 

納得出来ない、とエリコは声を荒げる。

 

 

「ならばなぜユウキ様は目が覚めないのです!」

 

「話はまだ終わっていないわよ。……骨、筋肉、内蔵、脳。どれを調べても健康体に間違いはないの。なのに脳が正常に働いていない以上、迂闊に外部から脳に作用させるような事をするのは、医者としては少し躊躇われるわね」

 

「……ミツキ氏は闇医者ですし、正道以外の治療方法も知ってるのでは?」

 

「もちろん知ってるわよ? でも同じこと。例えば、外部から電気信号に近い雷の魔法を直接脳に流して、脳を働かせてユウキ君を無理やり起こす、なんてのも考えたけど……」

 

「おい、あまり外道な方法を口にするでない……」

 

 

イリヤはガタガタと震えて俯くコッコロを尻目に、恐ろしい事を言い出すミツキを咎める。

 

 

「同じこと、って言ったでしょう? そもそもそんなの一度も試したことないし。被検体にやるならまだしも、ぶっつけ本番でユウキ君にやって成功させる自信は流石に私もないわ。なにせ、少しでも出力を間違えば、ユウキ君の脳は焼き切れてしまうわ」

 

 

だからこそ、とミツキはユウキの顔に被せられたマスクを見つめる。

 

 

「今言ったのは最悪のケースにおける、最後の手段。……まずは一週間様子を見るわ」

 

 

次に、ミツキはマスクを指して説明をする。

 

 

「これは酸素吸入や二酸化炭素の放出を手助けすると同時に、装着者が自力で呼吸出来るようになったら少し膨らむようになっているわ」

 

 

そうなれば、ユウキは快復に向かっていると判断し、直に目を覚ますだろう、とのこと。

 

だが、呼吸出来ていない場合は――

 

 

「一週間その兆候が見られない場合は、ユウキ君の余命はもって二週間……。つまり、残り一週間しかなくなることになるわ」

 

「そんなに短いのですか……っ」

 

 

チカは息を呑む。

 

 

「……自力で呼吸も出来ず、寝たきりの状態なんてどんどん体も衰弱していくわ。長くは保たない」

 

「………………っ」

 

 

チカの隣でずっと俯いているノゾミから、小さく歯軋りの音が聞こえた。

 

再び、病室に重苦しい沈黙が訪れる。

しばらくの沈黙の後、すすり泣くようなコッコロの声が小さく泳ぐ。

 

 

「どうして……どうしてこんなことに……っ」

 

 

コッコロは死んだように眠るユウキを、涙で溜まった瞳で見つめる。

 

 

「わたくしが故郷に戻る前は、主さまも、ペコリーヌさまも、キャルさまも、【美食殿】のみんなが揃って……美味しいものをたくさん食べて、色んな所に冒険して……」

 

 

ポロポロ、と大粒の涙が頬を伝い、コッコロの手や脚に落ちる。

 

 

「なのに、どうして……どうしてなのですか……っ」

 

 

コッコロはガタン、と椅子から崩れ落ち、その場で膝をついて手指を組み、祈るように吐き出す。

 

 

「あぁ、アメスさま……。わたくしは何かわるいことをしてしまったのですか? だからこんなことが……」

 

 

それは懺悔だった。

届いているかも分からぬ女神へ向かって、何度も頭を下げる。

 

 

「おねがいします、アメスさま……どうか、どうか主さまを助けてください……!」

 

 

祈りは続く。

 

 

「おねがいします、おねがいします……っ。主さまを、ペコリーヌさまを、キャルさまを返してください……。【美食殿】の日常をかえしてください……っ。ペコリーヌさまの笑顔を、キャルさまの優しさを、主さまの温もりを、かえしてくださいまし……!

 

おねがいです、おねがいですから……!」

 

 

コッコロの痛々しさすら感じる懺悔に、誰もが目を逸らす。

見ていられなかった。

 

 

「あるじさま、あるじさまぁ……。起きてください、目を開けてください、コッコロに声をかけてください……! 子ども扱いしないで、なんて言いません、また頭をなでてください……! 他の女性の知り合いを作ることに文句など言いません、だから戻ってきてください……!

わたくしを、ひとりにしないで…………っ」

 

 

それ以上はもう何も言えず、何度も嗚咽が漏れ出る。

 

そんな嗚咽の悲曲に、別の声音が流れた。

 

 

「…………ごめんなさい」

 

「ノゾミ?」

 

「ノゾミさん?」

 

 

それまでずっと黙っていたノゾミは、絞り出すように続ける。

 

 

「わたしのせいで……、ユウキくんがわたしをかばったせいで……こんなことに……」

 

 

それまで我慢していたのか、ノゾミの足元にポトポト、と水滴が落ちる。

俯いたまま肩が震えて言葉が聞き取りづらいが、ノゾミの言葉は続く。

 

 

「ぜんぶ、ぜんぶわたしのせいなんだ……っ。わたしがライブのてつだいをユウキくんにたのんだから……、さいしょからそんなことしなければ、こんなことは……」

 

 

ごめんなさい、とノゾミは何度も口にする。

 

そんなノゾミの姿に近づくものが一人。

 

 

「ごめんなさい、ユウキくん――」

 

「それ以上、心にも無いことを口にするのは止めてもらえるかしら」

 

 

ノゾミの懺悔にも似た謝罪を、エリコは一蹴した。

 

 

「ちょ……!」

 

「あ、あなたは……ノゾミに何てことを……!」

 

「黙って聴いていれば……、貴女は今どんな気持ちでユウキ様へ謝罪の言葉を口にしているのですか?」

 

「ぇ……」

 

「え、エリコ?」

 

 

ノゾミはそこで初めて顔を上げ、エリコと目が合う。

射殺すようなその目がノゾミには直視することが出来ず、目を少し逸してしまう。

 

 

「…………」

 

「わたしが……、わたしのせいで……いまユウキくんがこうなって……ぜんぶわたしのせいで……」

 

「語るに落ちたわね」

 

「ぇ……?」

 

 

エリコは鼻で笑う。

 

 

「貴女はさっきからユウキ様への後悔ではなく、自分のしたことへの後悔に対する謝罪ばかりしている自覚はあるかしら?」

 

「……ッ!!!」

 

「加えて、さっきから私と目を合わせようとしない。私の言ったことが正しいと認めている証拠です」

 

 

目を見開いて、ノゾミは言葉を失くす。

何も言えないノゾミを失笑するように、再びエリコは鼻で笑う。

 

 

「そんな貴女に、ユウキ様のために涙を流す資格などありません。そこのエルフの小娘同様天に懺悔でもしていなさいな」

 

 

エリコはその言葉を最後に、病室を退出しようとする。

 

 

「どこへ行くんだい?」

 

「ここでただ待っていても状況は好転しません。私は私なりにユウキ様が一日でも早く目覚める方法を探します」

 

「……! 待てエリコ! 私も手伝う‼」

 

「エリコ様待って〜‼」

 

 

アンナとナナカもエリコについて行き、病室を出ていった。

 

 

「……ふむ、エリコの言う通りじゃな」

 

「イリヤさん?」

 

「そもそもわらわ達はペコリーヌを奪還するためにランドソルに潜入したのじゃ」

 

「そういえば、ここに来る途中そんな話をしてたね」

 

 

ルカはミツキの診療所に来る途中、人目を気にしながら行動するイリヤ達が気になり、事情を聞き出した。

その内容を思い出して、ルカは頭を掻く。

 

 

「……ユウキがこんなことになっちまった以上、ユウキの繋がりを最大限に利用してユウキ達を助けなければならない。そうだろ?」

 

「うむ……。本来なら眷族には橋渡しを頼むつもりじゃったが、わらわたちでやるしかなかろう」

 

「なら、一度アジトに戻るんですか?」

 

「だ、だったら! 自分も一緒に行くッス! トモねーちゃん、起きてるかもしれないし……」

 

「アカリはお兄ちゃんの知り合いのギルドの人たちを当たってみますねぇ」

 

「アタシもそうするかねぇ。レイのやつ、街に戻ってきてると良いけど」

 

 

ルカ達は気丈に振る舞い、前向きに異変解決に向けて自分達に出来ることをする。

そのために、各々病室を飛び出していった。

 

ルカは病室を出る前に、ミツキに一言声をかける。

 

 

「行ってくるよ。ユウキが目覚めたら呼んどくれ」

 

「……ユウキ君が目覚めるって、欠片も疑わないのね」

 

「状況は最悪だ。でも何故だろうね」

 

 

フッ、とルカは笑う。

 

 

「ユウキなら、どんな絶望的な状況も、ひっくり返してくれるかも、って思うんだ。なにせ、涙を流すほどユウキを思ってくれる娘()()がいるんだからね」

 

「え…………」

 

 

たち。つまり、自分も含まれていることに気づき、ノゾミは呆ける。

ルカはノゾミに向けてこう言う。

 

 

「エリコはああ言ったが、お前さんだってユウキを思って心を痛めているのは本当の事だろう? だったらお前さんも、ユウキのために自分が出来ることをしっかりとやんな」

 

 

ルカはそう言い残して、後ろ手を振りながら去っていった。

 

 

「わたしに、できること……」

 

 

ノゾミはふと、今もすすり泣くコッコロが目に映る。

あの場にいなかった彼女は誰よりもユウキを思い、心を痛めている。

なら、あの場にいたノゾミに出来ることは…………。

 

 

 

ノゾミの手に、ギュッと力が入った。

 

 

 


 

 

 

ユウキの霊魂がアストルムの何処にも存在しない……?

何が起きているの……? というか、そもそもこんな事態が起こりうるものなの⁉

 

……いえ、いるわね。ユウキの霊魂を、アストルムの外部に持ち出せそうな奴らが。

 

アンタの仕業なんでしょ――迷宮女王(クイーンラビリンス)

 

 

 


 

 

 

ユウキは目を覚ますと、視界が真っ黒になっていることに首を傾げる。

ちゃんと目を開けているのに、目を擦っても視界が真っ黒のままだ。

 

 

 

> ここはどこ……?

 

 

 

そう呟いても、答えるものは誰もいない。

 

だが、しばらくしてからどこか遠いところから声が聞こえてきた。

 

 

『…………あれ、もしかして起動してる?』

 

 

女性の声が聞こえ、ユウキはそれを何処から聞こえたのかキョロキョロと周りを見渡す。

しかし何処もかしこも真っ黒にしか見えず、誰がいるのかも分からない。

 

 

 

> 誰ですか……?

 

 

 

『……! 少年の声が聞こえた⁉ ユウキ、本当にそこに居るのかい?』

 

 

そこにいるのか、という問いかけにユウキはおずおずと肯定する。

 

女性の声が嬉しそうに、複雑そうに返ってくる。

 

 

『そうか、そうか……。少年が来たんだね……』

 

 

ユウキとしては周りが真っ黒にしか見えないので、誰が喋っているのかも分からない。

ユウキは思わずそう言うと、女性の声は慌てたように待ってて、といい、カタカタと音が響く。

 

すると、次第に周りが明るくなり、青白い景色がユウキの視界一面に広がる。

そして次に、赤い髪の女性がユウキの視界の真ん中に大きく現れる。

 

 

『久しぶりだね、少年。もっとも、リセットが起きて忘れちゃってるから、初めまして、になるのかな』

 

 

赤い髪の女性は、苦笑するようにユウキに微笑んでいた。

じゃあ自己紹介だ、と女性は続ける。

 

 

『アタシの名前は模索路(もさくじ)(あきら)。またの名を七冠(セブンクラウンズ)が一人――迷宮女王』




ルカ
前作「プリンセスコネクト!」より続けて登場する、流れ者の剣士。流れるような剣の閃きは、黄昏への道を切り開く事ができるかもしれない。
トーゴクからやって来た剣士であり、黄昏の都という都市を探すべく目的が一致したミツキ達と協力し、【トワイライトキャラバン】のリーダーとしてギルドを結成することになる。
趣味は釣りと昼寝。自分のペースを崩すことはないが、困った人を見捨てない性格。彼女に助けられた人からはルカの人柄から「姉御」と呼ぶようになる。実はお化けが苦手。



ギリギリ今年中に間に合いました。
もっとも、これを読んでる人はもう年が開けているかと思いますが。
なので、良いお年を!

そして年明けから読んでる方へ、明けましておめでとうございます!(フライング)
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