メモリーズコネクト!~プリンセス達の四方山話~   作:上月 ネ子

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メインストーリー第二部を見届けた私
「ウワアアアアアアア!!!▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂」


キミの希望を灯し続ける人たちがいるから

「……本当に出来るんですね?」

 

「無理してないですか?」

 

 

二人にそう気遣われる。

表情には遠慮がちな、複雑そうな感情が渦巻いている。

心配しているのは二人だって同じなのに。

 

けれど、二人は動揺しつつもやることを選んだ。

二人をこの世界へ連れてきたのは私だ。

だったら――

 

 

「――……大丈夫。私はやるよ。やるって決めたから」

 

 

だったら、私一人がいつまでもくよくよして立ち止っている訳にはいかない。

私は私に出来ることをやるって決めたんだから。

 

 

「行くよ」

 

 

そう言って、私達はステージへと飛び出す。

 

 

「みんな、お待たせーっ‼」

 

 

 

 

 

 

 

死んだように眠るユウキ君を、私はじっと見つめる。

隣には簡易ベッドでコッコロちゃんが眠っている。

 

コッコロちゃんの顔色はあまり良くない。

涙の跡が沢山あるし、目に隈も出来ている。

コッコロちゃんはずっとここで寝泊まりしているようだけど、寝顔を見るに全然疲れはとれていない。

 

コッコロちゃんをここまで追い詰めてしまった原因も私にある。

 

 

「ユウキ君……っ」

 

 

思わず謝罪の言葉が出そうになった。

それじゃ駄目。エリコちゃんが言った通り、それは私が楽になるための謝罪。ただの自己満足。

 

だから、私が言うべきことは……。

 

 

「ユウキ君……、私ね告知ライブやることにしたよ」

 

 

初めに出たのは、ユウキ君の容態とは関係ない報告。

 

ライブ予定地のステージ区画はキマイラとの戦闘で荒れて、スタッフ達との話し合いの結果ステージ区画ではライブが出来ないと判断された。

 

キマイラが暴れたことによって地面が凸凹になったのもあるけれど、一番の原因はイリヤさんの破壊魔法によって地面が深く抉れてしまったこと。

イリヤさんがすごい魔法が使えるのは知っていたけれど、あの威力は相手に相殺されてなかったらステージ区画が吹き飛んでいたかもしれないほどのものだった。

 

だけど、このままじゃ終われなかった。

このままライブを中止にしてしまうことは、どうしても受け入れられなかった。

 

だから、機材運びの事情やギルド管理協会への許可など、可能な限り考えてランドソルで一番大きい公園広場でライブを行うことになった。

ステージは区画のそれと比べると簡易的なものになっちゃうけれど、その後の活動のことを考えるとギャップがあってサプライズ感も高まるだろうかと考えた。

もっとも、簡易ステージのレイアウトにツムギが頭を悩ませちゃうことになったのは色々と忍びなかったけれど。

 

 

「……それでも、私はやるよ」

 

 

ユウキ君達はこれから大きな戦いに身を投じることになる。

私達も本来ならその戦いに協力するべきなんだろうけれど、ライブツアーはもう予定を組んじゃって、先方の方々にも連絡を入れちゃっていたから、遅れさせる訳にはいかない。

 

だから、私達はユウキ君達と一緒に戦うことは出来ない。

そう思うと、益々申し訳なくなっちゃうけれど。

 

 

「だったら、私達も私達なりに戦うだけだよ」

 

 

今回の事件の根幹はペコリーヌちゃんにあることは聞いている。

あの子こそこの国の本当のユースティアナ様で、これから偽物の王様と戦うためにも、ペコリーヌちゃんを取り戻さなきゃいけないって。

きっと大きな戦いになるかもってイリヤさん達は話していた。

もしかしたら街の外にまで影響が出るかもしれないって。

 

 

「私達はユウキ君達の戦いで、皆が混乱しないように、希望を持ってもらえるようにライブを届けに行くよ」

 

 

そのためにも、まずはこれからやる告知ライブを成功させる。

 

 

「……もし、目が覚めたなら」

 

 

軽々しく言っていいものではないと分かっていても。

 

 

「ライブツアーの第一回目はランドソルの上空でやるんだ。新しい衣装を着て、これまでとは違ったライブになると思う。

だから……私達のライブ、少しの間で良いから見に来てほしいな」

 

 

輝いている姿を、キミには絶対に見てほしいから。

 

 

 

 

 

ユウキ君が倒れてから、一週間と二日が経った。

目覚める兆しは……ない。

 

 

「…………」

 

 

隣で眠るコッコロちゃんを見る。

目の隈が前に見たときより酷くなっているのは、きっと気のせいじゃない。

 

ユウキ君が倒れて一週間が経ったとき、ユウキ君が目覚めたかどうか確認しに病室にやって来たら、ユウキ君の傍で佇んでいるコッコロちゃんを見た。

その表情はきっと一生忘れないだろう。

 

全てを失って、全てに絶望したような、感情のない顔。

まだ十一歳の女の子があんな表情をするのかと愕然としたくらい。

 

ミツキ先生の診断では、目覚める兆候が一週間経っても見られないのなら、余命はもう残り一週間。

ミツキ先生も最後の手段を取るべきか、と言っていた。

みんなも覚悟の準備をしておいてほしい、と集まった私達に言ったくらいのことだ。

これ以上はもう、限界なんだろう。

 

 

「………………っ」

 

 

涙が出そうになるのを堪える。

ユウキ君が目覚めるのを信じている人は何人もいる。

たとえ余命がもう一週間を切った今でも。

 

……怖い。

怖いよ。

ユウキ君の顔を見るのが、これで最後になるんじゃないかって。

もうユウキ君が目を覚まさないで、死んじゃうんじゃないかって。

そう思うと、どうしようもなく怖い。

体が震えて、足元から崩れ落ちて倒れそうになってしまう。

 

 

「私の中のユウキ君って……こんなに大きな存在だったんだね」

 

 

ふと、ユウキ君と初めて出会ったあの日を思いだす。

ファンの追っかけに悩まされる毎日。

そんな時にふとユウキ君と出会った。

不審者に追われていると勘違いされて、ユウキ君に無理やり人通りの少ないところに連れられた。……無理やりって言っても本人は善意でやってたんだけどね。

しかも、ユウキ君って私のこと誰か知らないって言ったっけ。

アイドル活動が日常となってから、私を知らないなんて言う人はユウキ君が初めてだった。

あとから聞けば、ユウキ君は記憶喪失でランドソルに移住してきたばかりだったらしいから、私の事を知らなかったのも無理はなかったんだけれど。

 

でも、そんなユウキ君が私を「アイドルのノゾミン」から「普通の女の子ノゾミ」にしてくれた。

ユウキ君の傍にいると私は普通の私でいられたんだ。

恥ずかしいところも見られたり、楽しい思い出を共有したり、アイドル活動を手伝ってもらったり。

ユウキ君との日々は楽しくて、心地よくて、充実していた。

 

 

「……まるで走馬灯みたい」

 

 

私が死にかけている訳じゃないのに、これまでのユウキ君との出来事が頭の中でフラッシュバックする。

それが走馬灯のように感じて、思わず笑っちゃった。

 

…………ああ、でも。

このままユウキ君が本当に死んじゃったら、私も―――――

 

 

「――……って、危ないこと考えてるな、私」

 

 

危険な思考が脳裏を過ぎって頭を振る。

その考えに大して忌避感を抱いていない自分にも失笑する。

 

 

「ほんと、すごいねユウキ君は。責任取ってほしいくらいだよ」

 

 

なんて言っても、ユウキ君は反応しない。

 

……そんなふうに百面相していたら、病室のドアがガチャリ、と開く。

 

 

「……あら、ノゾミちゃん来ていたのね」

 

 

病室に入ってきたのはミツキ先生。

今日もユウキの容態を確認しに来たんだろう。

 

 

「……ってあら、どうしたのその格好? 前に見たのとは随分違うわね」

 

「これですか? これは、ライブツアーでお披露目する新しい衣装です」

 

「そう……」

 

 

ユウキ君は見ての通り眠ってるから、せめてこうして新しい衣装を着た私の姿で会いたかった。

私のことを、私との日々を、私の輝く姿を、キミと共有したかった。

 

 

「…………!」

 

 

ふと、私は一つ思いついた。

私はミツキ先生に頼み込み、あることをしてもらった。

 

…………()()がしっかりとユウキ君に身につけられているのを確認して、私もそろそろライブツアーの準備に戻ることにした。

 

そして、最後に一言。

謝罪じゃなくて、本当に伝えるべきことだった言葉を紡ぐ。

 

 

「ユウキ君、あの時私を助けてくれて、ありがとう―――――」

 

 

 


 

 

 

『みんな、お待たせーっ‼』

 

 

ランドソルの上空から快活な声が響く。

人々は顔をあげると、大きな飛空艇が宙に浮かび、そこに複数の映像魔法が投影される。

 

 

『ランドソルの皆さ〜ん! やっとこの日がやって来ました!』

 

 

一つ目の映像魔法に写ったのはツムギの姿。

彼女は赤い煌びやかなドレスのような衣装を身に纏い、映像越しに住民に向けて大きく手を振る。

ツムギを応援しているファン達は特に興奮し、割れるような歓声があがる。

 

 

『ふふん、どうですこの衣装? 似合ってますか?』

 

 

肯定するように歓声が湧き上がる。

 

 

『ありがとうございます! これ、結構自信作だったんですよ!』

 

『今回のライブツアーを記念に新しく用意した衣装なんです。いわゆる、サプライズですね』

 

 

次に二つ目の映像魔法に写ったのはチカの姿。

彼女は青と白を基調とした動きやすそうな衣装で、これまでの【カルミナ】のライブ衣装から正当に進化したようなイメージを持つ。

予想通り、チカを応援するファン達は特に喜びの声を上げる。

 

しかも、ツムギとチカはそれぞれ違った個性を出したライブ衣装をお披露目した。

なら当然最後の一人も、とファンは期待する。

 

 

『みんな、私達のライブに注目してくれてありがとう‼』

 

 

三つ目の映像魔法に写ったノゾミの姿に、住民の声は更に湧き上がる。

彼女はまるで学院の制服のようなコートを纏い、全体的にクリーム色に近い黄色の衣装となっている。

何より、

 

 

『えへへ、どうかなこの髪型? ライブツアーに合わせてイメチェンしてみたんだ』

 

 

普段ノゾミは髪をツーサイドアップにしているが、今日のノゾミは髪の片側をリボンで纏めたサイドテールにしている。

それがさらに歓声を沸き立たせるアクセントになった。

 

 

『ねぇみんな、これから歌う前にちょっとだけでいいから私の話を聞いてほしいの』

 

 

ノゾミの言葉に、住民たちは何事だろうか、と歓声が静まっていく。

 

 

『最近色々と大変な事が起きてたよね。シャドウのこととか、街中のトラブルとか、この前もライブ予定のステージだって魔物に襲われて荒れちゃったし……』

 

 

記憶に新しいことばかりで、住民たちの顔が曇る。

そんな彼らに対して、だけど、と続ける。

 

 

『どんなに大変なことが起こっちゃっても、これからどんな大変な事に巻き込まれちゃっても、みんなにはどうか希望を捨てないでほしいの!』

 

 

ノゾミは続ける。

 

 

『もし、私達のライブがみんなの希望の一つになれるのなら、私達はこれから大陸中にありったけの希望を届けに行くから!』

 

 

私達の事、応援してくれる?

 

その言葉を肯定するように、応援するように歓声が湧き上がる。

 

 

『みんな、ありがとうー‼』

 

『……では、挨拶もこの辺りにして早速行きましょうか』

 

『まずは、私達のお馴染みの曲で、オープニングを飾りましょう‼』

 

 

三人は準備するように静まり、そして歌う。

 

 

『今すぐに――

――走り出せ――

――Let's Go‼』

 

 

 


 

 

 

主さま。

 

主さま。

 

主さま。

 

何度寝て、起きて。その繰り返し。

 

そんな日が一週間と五日。もう、主さまに猶予は残されていません。

にも関わらず、主さまはお変わりなく眠っておられます。

………………まるで死んでいるように。

 

嫌です。

そんなこと認めたくない。

 

お願いです。

わたくしが起こしに主さまの寝顔を見に来た時のように、眠たそうな顔をしながら起き上がって下さいまし。

 

…………そんなことを、一週間経つまで考えていました。

 

病室で寝泊まりして、目が覚めたらいつものように起き上がって、主さまがわたくしに笑顔を向けてくれていたら、なんて。

そんな甘い考えが、たった一週間で粉々に砕かれました。

 

 

「あるじさま……」

 

 

嗚呼。

こんな思いをするくらいなら。

あの日主さまに無理矢理にでもついて行くべきでした。

重体だからとイリヤさまに止められましたが、主さまがこんなことになるのを黙って受け入れるくらいなら、主さまの傍にいて命をかけてお守りするべきでした。

 

 

「あるじさま……っ」

 

 

過ぎた後悔に意味はなくとも、払拭など出来ようはずがありません。

 

この一週間と五日。

わたくしにとってあまりにも短い時間でした。

ただただ後悔ばかりが募り、何もする気力が起きず、時折病室にやって来た方々がどなただったのかも気に留めぬほど、静かな時間でした。

 

そんな時間がもう終わるかもしれない。

最悪な形となって。

 

 

「……ぃゃ」

 

 

嫌です。嫌です。嫌です!

お願いです、目を覚ましてください。

 

 

「こんな終わりは、いやです……っ!」

 

 

主さま。

主さまに何度呼びかけても、目を覚ましてくれない。

 

 

「お願いです、目を開けて……っ」

 

 

主さまのお顔にわたくしの涙が落ちてしまう。

もうそんなことを気にしていられない程に、わたくしはもう限界だった。

 

 

「主さま、あるじさま、あるじさまぁ…………」

 

 

 

 

 

―――――ぽふっ

 

 

 

 

 

「…………ふえ」

 

 

どれだけ泣いたか。

わたくしの頭に何かが乗りました。

わたくしの頭頂部を簡単に覆うことが出来るくらいの、大きな、なにか、が……。

 

 

「あ、ああ……」

 

 

わたくしに伸びる腕。

眠そうにまぶたを開ける、あなたの瞳が……。

 

 

「あるじ、さま……っ」

 

 

 

> ただいま……。

 

 

 

マスクでくぐもっていましたが、間違いなく聞こえました。

 

 

「主さま、主さま、主さま―――――」

 

 

 

わたくしは思わず主さまの胸に飛び込んでしまって……――。

 

 

 


 

 

 

「……本当に、医者として無責任な物言いだけど、奇跡としか言いようがないわね」

 

 

目覚めたユウキの問診をしながら、ミツキはポロッと呟く。

 

ユウキの目覚めに居合わせたコッコロの絶叫に似た泣き声を聞き、ミツキは大急ぎでユウキの病室に駆け込み、ユウキの起き上がった姿に驚愕の声を上げてしまった。

 

 

「はいどーぞ。大急ぎだったからこんなのしか用意できなかったけど……」

 

 

ミツキの手伝いをしていたナナカはお椀を差し出す。

お粥を用意してくれていたようだ。

 

 

「むしろお粥くらいが丁度いいわ。一週間以上飲まず食わずの寝たきりだったのだから、食道も細くなって胃も不安定でしょうし」

 

「あ、味はあんま期待しないでね? リアルでメシマズなんて全く需要無いと思うけどさ……?」

 

 

 

> 塩からくて丁度いい。

 

 

 

「あ、塩入れすぎちゃったかな。あ、アハハ……」

 

 

気まずそうにナナカは笑う。

ユウキとしては問題ないと言ったつもりだったので、サムズアップを送る。

 

 

「それより、その状態苦しくない?」

 

 

ナナカの言うその状態、とはコッコロの事だろうか。

 

 

「すぅ、すぅ…………」

 

 

コッコロはユウキに飛びついて泣き腫らしたあと、疲れたのか眠っている。

しかもユウキに抱きついたまま離さないため、コッコロをベッドの上に乗せてそのまま寝させることにした。

 

 

「……まあ良いでしょう。ユウキ君が倒れてからずっとそばを離れなかったし。医者としては顔色が日に日に悪くなっていたのをそろそろどうにかしないといけないって思っていた頃だったからね」

 

 

まあこれも男の子の甲斐性ってやつでしょう。

ミツキはそうすまし顔で正当化してくれた。

 

……ユウキはお粥を食べ終えたあと、改めて自分がどこに居るのかを確認する。

ここはミツキの病院だと把握したユウキはゆっくりと立ち上がろうとしてミツキに止められる。

 

 

「待ちなさい。まだ動けるようになるまで体力は回復していないはずよ」

 

 

 

> ギルドハウスに戻らなきゃいけないんです。

 

 

 

「ギルドハウス? なんで?」

 

 

 

> 僕宛に届け物が来てるから。

 

 

 

ユウキがそう言うとミツキとナナカは怪訝な表情で顔を見合わせる。

 

 

「……えっと、それって急ぎの用事なのかしら。そうでないなら許可できないのだけれど」

 

 

 

> ペコさんを取り戻すために戦うんですよね?

 

 

 

「それは……」

 

 

ユウキの表情は真剣である。

眠っていた間にどのような心境の変化があったのか二人には知る由もないが、ふざけて言っている訳ではないのは伝わってくる。

 

 

 

> きっと、それが必要になると思うんです。

 

 

 

二人は沈黙する。

このままユウキを行かせて良いものか悩んだが、やがて沈黙を破りミツキは口を開く。

 

 

「ならこうしましょう――」

 

 

 

 

 

 

 

人気のない深夜の街をゆっくりと歩く。

キョロキョロと人目のないことを確認しながら、ミツキは車椅子を押して【美食殿】のギルドハウスを目指す。

 

ミツキが提案したのは、車椅子にユウキを乗せてギルドハウスまで連れて行くこと。

本調子ではないユウキを一人で帰らせることはできず、かと言ってユウキも何やら真剣に急いでいるのを気になったミツキは車椅子に乗せてついて行くことにした。

 

 

「すぅ、すぅ……」

 

「ふふ、よく眠っているわね」

 

 

ミツキはユウキの胸に抱かれて眠っているコッコロを見て微笑む。

目の隈が酷く、疲れは取れていないだろう彼女はギュッとユウキに掴まり離そうとしない。

 

 

「今日はそのまま一緒にいてあげなさい」

 

 

うん、とユウキは頷く。

ユウキは目が覚めてどれだけ時間が経ったのかをミツキ達に聞いてから、コッコロに心配をかけさせてしまったと申し訳なさそうにしていた。

疲れて眠るほど泣きじゃくる姿を見て、年の割に大人びていたがやはり子供だとミツキが苦笑していたのも印象深い。

 

 

「…………ここでよかったのかしらね」

 

 

そうこうしているうちに、ミツキ達は【美食殿】のギルドハウスにたどり着く。

ユウキにとっては久々のギルドハウスだ。

最近は色々あってギルドハウスに立ち寄る暇もなかったために、ギルドハウスの外観を見て懐かしさすら感じた。

 

 

「…………特に罠や待ち伏せも無いみたいね」

 

 

【王宮騎士団】から目をつけられているのを聞いているミツキは、ギルドハウス周辺に怪しいものが無いことを確認してから、ギルドハウスの扉を開く。

 

 

「誰もいないと思うけど、失礼するわよ――」

 

「――ユウキ‼ 戻ってきたのね!」

 

「きゃあっ⁉」

 

 

中に入ったミツキ達を出迎えたのは、パタパタと羽を忙しなく羽ばたかせる小さな少女。

少女はシュッとユウキの顔の前まで飛び、ユウキの頬を軽く引っ張る。

 

 

「ったく! 全然戻って来ないんだから! 待ちくたびれちゃったじゃない‼」

 

「な、何なのこの生き物……?」

 

 

グニグニとユウキの頬を引っ張るその少女を見て、ミツキは顔が引き攣る。

一しきり頬を玩具にされたあと、ユウキは口を開く。

 

 

 

> ただいま、ネビア。

 

 

 

「……はいはい、お帰りなさい」

 

 

ネビアは視線を上下に動かしたあと、訝しげに呟く。

 

 

「……魂がアバターから離れた痕跡がある? あいつ……はそんなことできないか。じゃあ……」

 

 

 

> 僕宛に届け物が来てると思うんだけど。

 

 

 

ブツブツと呟くネビアにユウキは尋ねる。

んん、とネビアは首を傾げたあと、

 

 

「……ああ、もしかして3階にいきなり転移してきたアレのこと?」

 

「……よくわからないけど、本当に届け物があったのね」

 

 

ネビアは上を見る。

つられてユウキとミツキも見上げるが、

 

 

「上の階にあるのなら、代わりに私が取ってきてあげようかしら?」

 

「止めといたほうが良いわよ」

 

 

ミツキが階段を登ろうとしたのをネビアが止める。

 

 

「どういうことかしら?」

 

「ユーザー認証……、って言ってもアンタ達は理解できないでしょうけど、ユウキ以外の奴が触れないようにプロテクトされちゃってるのよ。お陰でアタシもあれを部屋から動かすことも出来ないわ」

 

「……気になる単語がいくつが出てきたけれど、要はユウキ君自身が回収しなきゃいけないってことね」

 

 

参ったわね、とミツキは頭を抱える。

車椅子に座っているユウキはまだ自力で動けるような状態ではない。

 

 

「……別に急ぎの用事じゃないのなら、落ち着いてから取りに行けばいいだけの話じゃないの?」

 

「それはまあ、その通りではあるのだけれど……」

 

 

 

> 出来れば早く確認したい。ラビリスタさんからの贈り物だから。

 

 

 

「ラビリスタですって⁉」

 

 

ラビリスタの名前を聞いてネビアは過剰反応する。

その後納得したように何度も頷いてブツブツと何かを呟く。

 

 

「そういやあいつの話じゃ……じゃあ対抗策ってこと……」

 

「何をブツブツと言っているのかしら?」

 

 

埒が明かない、とユウキは立ち上がる。

コッコロを抱えているのでバランスが乱れ、傍にいるミツキに支えられる。

 

 

「焦るんじゃないの! まだ動ける体ではないってさっきも言ったでしょう⁉」

 

 

 

> でも!

 

 

 

「医者の言う事を聞かないなら……お仕置きが必要かしら?」

 

 

途端にミツキの目つきが鋭く変わる。

ユウキは一瞬怯むが、ユウキも引けないとミツキを見つめ返す。

しばらく二人の睨み合いが続くが、

 

 

「まったく、さっさと行かせてあげなさいよ」

 

「他人事みたいに言わないでもらえるかしら?」

 

 

咎めるようにミツキは睨むが、ネビアは知らぬ顔で受け流す。

 

 

「ここで睨み合いしてる方がユウキの体に障るんじゃないの?」

 

「……っ、けれどねぇ」

 

「それに、アタシとしてもできる限りユウキのサポートしてくれってアメスから言われてるのよね」

 

 

 

> アメスさまっ?

 

 

 

「コッコロから聞いてない? あいつと全然話ができないって。実はアタシが目覚めて間もない頃に、あいつから頼まれたのよ。それ以来音信不通」

 

 

ユウキはラビリスタとの話を思いだす。

アメスの身に何かがあったのは間違いないとユウキは確信した。

 

 

「あれは、きっとそんなアメスのトラブルとかを解決するのに役立つものなんじゃないの? よく知らないけれど」

 

「………………」

 

 

ミツキはこめかみを押さえ、しばらく唸ったあとコッコロに手を伸ばした。

 

 

 

> ミツキさん?

 

 

 

「これはまた、力強く握ってるわね……っ」

 

「…………ん、ゃ……」

 

 

ユウキから手を離すことを無意識に嫌がっているのか、いやいやとコッコロは眠ったまま首を横に振り、その手にきゅっと力が入る。

 

 

「ああ、もう。本当に仕方ないわね。……ユウキ君しばらく息を止めてなさい」

 

 

言われたとおりにユウキは息を止めると、ミツキは懐から香水とハンカチを取り出した。

ハンカチに香水を吹きかけて、そのハンカチをコッコロの顔に近づける。

 

すると、コッコロからゆっくりと力が抜けていき、ユウキから手が離れた。

それを見逃さず、ミツキはコッコロを横抱きにする。

 

 

「あ、アンタ何を嗅がせたの?」

 

「軽い弛緩作用のある効能の香水よ。治療薬を早く嗅がせないといけないから、その間にユウキ君は荷物を取ってきなさい」

 

「弛緩作用って……あいつが見てたらブチ切れてそうね……」

 

 

 

> ありがとう!

 

 

 

「その代わり、後でベッドに寝かせてお説教だからね?」

 

 

にっこりと背筋が凍る笑みを浮かべるミツキ。

ユウキは顔を引きつらせるが、すぐに表情を戻しフラフラとした足取りで階段を登っていく。

 

ネビアに先導されて入った部屋の奥に、布で包められた長めの荷物がある。

 

ユウキはそれの布を外し、手に取った。

 

瞬間、ユウキの頭の中に声が響いた。

 

 

 

――コレが聞こえてるってことはアタシのプレゼントがちゃんと届いてるって事だよね。良かった良かった!

 

――キミに渡した剣はキミの新たな力とかつての力、そしてその使い方をインプットするための役割を持っている。

 

――……少年には悪いけれど、これは少年にとってかなり危険なことなんだ。それでももう時間はあまり残されていない。

 

――お願いだ。どうかアタシ達が生み出したアストルムを、ミネルヴァを、ユウキの大切な仲間たちを。

 

――アストルムを、アストルムに生きる人々を救ってほしい。

 

 

 

…………そこまで聞こえて、声は止んだ。

 

ユウキは改めて手に取った剣に目を落とす。

 

 

 

> ……僕はやるよ。

 

 

 

ギュッと、ユウキはその剣を胸に抱いた。

その瞳に、強い決意が漲った。




ノゾミ
前作「プリンセスコネクト!」より続けて登場する、街でもトップレベルの有名アイドル。自分に注目を浴びせて、味方の支援をするのが得意。
【カルミナ】として活動する前からアイドル活動をしており、ファンから追いかけられている所にユウキと出会う。その後アイドルとして成長の余地があると感じ、【カルミナ】を結成した。
ユウキと出会うまでは毎日をアイドルとして振る舞っていたが、ユウキの前では普通の女の子として振る舞えていることに幸福を感じている。



だいぶ遅れました。
そしてメインストーリー第二部完結おめでとうございます!
本当にあの結末は前書きのような反応をしてしまいました。
ちょっとここでラストの感想でも書き落とします。

エリス:いつかは決着がつくとは思いましたが、思っていたよりも普通に退場しましたね。アメスの発言からしてもう登場しないだろう事を考えると悲しいボスキャラでした。

ユイ:実はこの作品でもユイVSエリスを考えているのですが、ユイに言わせたいことの半分くらいを公式で言ってくれました。ちょっと悩んでます。

幻境竜后(ビジョンズエンプレス):ついに出ましたね最後の七冠(二つ名だけ)。晶と真那の話じゃ独特な倫理観を持ってるそうですが……。

ネア:何故か終炎のエリュシオンでカリザもろとも影も形もなかったキャラ。いつの間にかフェードアウトしてましたよね? 多分ですけれど、こいつ第三部の世界から来たんじゃないんですかね? キャラストでも現実世界に馴染みがなさそうな態度してましたし。

シェフィ:作者の情緒にダメージを与えた娘。バカヤロウと思わず言ってしまいました。あんなの騎士くんトラウマになっちゃうよ。

覇瞳皇帝:今最も作者の頭を悩ませているキャラ。お前本当になんでプレイアブルキャラになれたんだ……。覇瞳皇帝のプレイアブル化を喜んでいる方々にはこれから先この作品で悲惨な結末を迎えてしまう事を先に申し上げます。

ミソラ:騎士くんをロックオン宣言した娘。でもそう簡単にプレイアブル化はしてほしくないなぁ。プレイアブル化するには彼女の功罪が多すぎる。しかも多分あの子エリスやシェフィと同じ結末を臨んでるよね。

ティア:皆さんも何者なのかを考察しているであろうガイド妖精(?)。既に騎士くん達とも出会っているそうだけど……。現状の予想としては、本命幻境竜后のナイト。対抗ミネルβ。大穴カリンと見てます。根拠なんてない。

ペコリーヌ:王国から亡命してきたであろう悲しきお姫様。王族処刑されたとか言ってるけど、影武者用意されてないなら現実でもペコリーヌを巡ったいざこざ絶対に起きるよね。

第三部の展開予想:次回予告と幕間ⅩⅦからして、たぶん結構早くまたアストルムにダイブするんでしょうね。皆落ちてたし。幕間でもひっくり返ってたし。
しかし、アストルムが何か風景様変わりしてましたね。ランドソルが再々構築でなくなって、まったく別の世界になったと考えるのが自然でしょうか。

ここで幻境竜后の考察になりますが、こいつは既にあの世界をあらかじめ用意して、再々構築で生み出したんでしょうね。ネアもその世界のキャラで、どんな方法を使ったかアストルムに介入させて幻境竜后の都合のよい世界に変えられるように手引していたと考えられます。それに、明らかアンドロイドみたいなキャラがいましたし、種族ももっと増えてるんでしょうね。

今度はアストルムと現実を交えた大規模な異変が発生する感じでしょうか。スケールが大きくなりそうで把握しきれなくなりそうなのが不安です。

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