メモリーズコネクト!~プリンセス達の四方山話~ 作:上月 ネ子
…………はい、私です。
何気にこの作品も4周年です。
そしてプリコネは5周年です。
来るXデイ――ペコリーヌの処刑日。
王宮門前には野次馬根性に駆られるランドソルの住民がすし詰めのように集まっている。
彼らが見る先にあるものはこの日のために用意された高台。
そこに立つものは二人。
全身を鎧で身を隠す騎士団長――ジュン。
不機嫌さを隠そうともしない仮面をつけた黒猫の獣人族――キャル。
高台を守るように周囲には騎士団の部隊が勢揃いである。
……そして、今ゆっくりと王宮から少女が連れてこられる。
「ぅ、ぅ…………」
輝くようなハニーブロンドの髪はボロボロになり、体中もろくに治療されていないのか傷が目立つ。
国家反逆者として拘束されたペコリーヌは、高台にうつ伏せに倒され、四肢を台に拘束された。
「――聞け! ランドソルの民よ!」
ペコリーヌが高台に拘束されたのを確認してから、傍に立つジュンは声高に語る。
「この者はかつて王宮に侵入し、愚かしくもユースティアナ陛下の名を騙り、王家代々に伝わる『王家の装備』を盗み出し、今日まで逃げ果せた不敬者であり国家反逆者である‼」
大声で、しかし淡々とペコリーヌの罪状を接げるジュンに対し、住民はざわざわと困惑の空気が流れる。
「このような大罪人は、命をもってしてその罪を雪がせねばならない!」
言いながら、ジュンは剣を手に取る。
ジュンは剣を振り上げ、ペコリーヌに向けて――
「琉球犬ナックルアローッ‼」
振り下ろすことは出来なかった。
ランドソルの住民達と騎士団員達の間に降り立った少女――カオリはその勢いのまま地面に向けて強力な一撃の拳を振り下ろす。
その一撃は地響きを起こすほどに強く、剣を振り上げていたジュンもバランスを保つべく数歩後ろに下がる。
「皆、今すぐここから逃げろ!」
「この処刑に王家や騎士団の正義はありまへん! 戦いに巻き込まれる前に皆は逃げるんや!」
続けて降り立ったマコトと、抱えられたマホは集まっている住民達へ向けて大声で叫ぶ。
しかし、突然のことで何事か訳が分からず、公開処刑に【自警団】が乱入したという事実がただただ混乱を助長させる。
「案の定ね……」
「………………」
キャルは呆れたように呟き、魔法杖を構えるが、ふと何かを感知してキャルは見上げた。
「今だ、ニノンッ‼」
「忍法・灼熱地獄‼」
広場の上空が赤く爆ぜた。
爆風と熱風が辺りを襲い、戸惑っていた住民達の顔に恐怖が浮かぶ。
悲鳴を上げながら逃げていく住民たちを黙って見送りながら、ジュンはため息をついて後から現れた【ヴァイスフリューゲル ランドソル支部】――その先頭に立つモニカに向けて問う。
「随分大仰なことをしたものだね、モニカちゃん。キミの剣は正義のために振るうものだと思っていたが……」
「少々義に悖る方法を取ったのは自覚している。しかしジュン殿、義に悖る行為をしているのはそなたも同じだ」
モニカは刀剣の切先をジュンに向ける。
「己が正義のために、同胞のために、ランドソルの御旗を取り戻させてもらう!」
「……悪いが邪魔はさせない」
ジュン達【王宮騎士団】とモニカ達、マホ達は武器を構え、睨み合う。
ジリジリと距離を詰め、両者飛びかかろうとしたところに、
「無駄話は終わった? なら殺していいわね」
空から雷撃が降り落ちる。
轟音とともに地響きを起こすほどの強力な魔法は、マホ達目掛けて放たれたが、
「危ないところだった……。あらかじめ魔法の内容を聞いておいて正解だったね」
檻のような魔法障壁がマホ達を包み込む。
カスミは構えた杖を一度おろし、一息ついた。
「キミがキャルさんだね。助手くんから話は聞いているよ」
「……ちっ。防ぎきったか」
自身の魔法が防がれてキャルは舌打ちをする。
その傲岸不遜な態度にマコトは耐えきれずに吠える。
「一体何考えてんだよ、お前は……!」
「あ?」
「お前は獣人族だろ⁉ 何で獣人族の立場を悪くさせた王宮側についてやがんだ‼」
「……わざわざそんな下らないことを聞くためにここまで来たのかしら? 【自警団】って暇なのね」
「んだと⁉」
マホ達【自警団】はサレンより聞いている。
今ユースティアナを名乗る存在は獣人族。その側近も獣人族。
それが何を意味するのかを。
そして、それを察しているキャルはつまらなそうに答えた。
「陛下はお前達獣人族なんて……いや、種族の区別なくお前達ランドソル住民なんてどうでもいいのよ」
「どうでもいいだと?」
「陛下を絶対にして絶世の神……お前達があの方をそう崇め奉れば、陛下はお前達のような些末の存在など一々気にしないのよ。
……逆に言えば、今のお前たちのように立場を弁えず反逆者に与しようとする奴らはその区別も、例外もなく
ここまで言えば分かるでしょ? そんな陛下の忠実な下僕であるあたしも、お前達獣人族の事なんてどうでもいいのよ」
「な、なんて人デスか……!」
絶句して声が出ない【自警団】の代わりにニノンが反応する。
その横でつまらなそうにユキが呟いた。
「……美学ってやつかな? その覇瞳皇帝って人なりの」
「ユキ?」
「でもキャルさん、だっけ? 偉そうに語ってるけど、キミはその覇瞳皇帝の美学に乗っかってるだけだよね?」
「なんですって?」
唐突に突き刺されたキャルはモニカ達の後ろで鏡を見ながら髪を弄っているユキを睥睨する。
「だってそうでしょ? キミはたった今自分の主がそうしてるから自分もそうする、なんて中身のない主張をしたばかりじゃないか。美学に魅入られたのならその美学で自分磨きでもすれば良いのに」
「ゴチャゴチャと……何が言いたいの?」
「ユウキさんからキミの事は聞いてるよ。口は悪いけど悪事を働くような子じゃないって。一緒に大陸中を冒険したこともあるって」
ユキは鏡から目を離し、面白くなさそうにキャルを睨み返す。
「キミのやってることは中途半端だね。覇瞳皇帝の絶世独立を肯定するかと思えば、絆されたように徒党を組んで冒険する……。美学が全然感じられないよ。まるで糸が絡まった操り人形みたい」
「ほう……」
黙って聞いていたジュンは感心したようにため息をこぼす。
それに対して、
「………………………」
キャルの周囲はバチバチと稲光が轟く。
彼女の怒りを表しているようだ。
キャルの感情を姿で感じ取ったモニカはユキを咎める。
「ゆ、ユキ! 無意味に挑発するような真似は……!」
「前言撤回する気は無いよ。むしろボクだって怒ってるんだ。聞けば彼女は王を名乗ってる覇瞳皇帝の代理なんでしょ? こんな人形みたいな人にクリスティーナさんが従わざるを得ないなんて、そう思ったら腹が立ってくるさ」
「その気持ちは私も解るが……!」
二人の会話は強引に打ち切られた。
空から雨のように雷撃が降り注ぐ。
地震のように地面を揺らし、大地を抉り、空が震えるほどの轟音が響く。
モニカ達は全速力で後退し、何とか直撃は免れたが、
「殺す」
雷撃の爆風により飛び散る砂塵の奥で怨嗟の声が泳ぐ。
「殺す……お前だけは真っ先にぶっ殺す……!!!」
「そ、相当頭に来てます〜〜⁉」
よほどユキの言葉が効いたのか、キャルはブン、と杖を振り砂塵を振り払う。
バチバチと、先程よりも大きな音を立てて稲光が彼女の周囲を走る。
その姿に恐怖を感じてアユミは悲鳴を上げた。
「怒るってことは、図星だったって事だよね。ボクって美しいだけじゃなくて聡明でもあるんだね! 天はボクに二物を与えたんだ!」
「なんだコイツ……」
「平常運転だな、ユキ……」
急に自画自賛して悶えだしたユキを見てドン引きするマコト。
モニカは苦笑を浮かべて前を向き直る。
あれだけ強力な魔法を何度も打ったに関わらず、魔力の消費による疲労を全く感じられない。
これは厳しい戦いになるだろうとモニカは歯噛みする。
キャルは激昂し続けざまに魔法を打とうとして、
「そこまでだ」
キャルの首筋にジュンの剣が当てられた。
それを見たこの場にいる一同は困惑して動きが止まってしまう。
「…………どういうつもり?」
「先の件をもう忘れたとは言わせない。この場には敵だけでなく味方もいる。見境なく魔法を繰り出すのは止めてもらおう」
「………………」
仮面越しに睨みつけているのか、キャルはじっとジュンを見つめている。
ジュンは反論を出させないように、畳み掛けるように続ける。
「その有り余った激情は別の場所で振るいたまえ。例えばそうだな……」
ジュンはある方向を指差す。
その方向は……。
「な……っ‼」
「あっちは、先輩が……!」
ジュンが指した方向はユウキ達が通ってくるであろう騎士団の防衛地点。
それに反応したカスミとアユミはすぐに失敗したと悟る。
「へえ……」
先程まで怒髪天だったキャルが一転して嗤う。
キャルはペコリーヌに視線を落として愉快そうに続ける。
「あいつらなら真っ先にここに来ると思ってたから妙だと思ってたけど……。なるほど、そういうことか」
「くっ……」
カスミは確信する。
キャルはこれからユウキの下へ向かうつもりだと。
向こうはただでさえクリスティーナが防衛している。彼女一人を相手するのに戦力不足を懸念しているというのに、そこにキャルが加われば……!
「行かせない――‼」
カスミは杖を構えて拘束魔法を唱えようとするが、
「ふん――」
キャルはそれよりも早く杖を横に振り、魔法が展開される。
魔法陣から雷撃がいくつも放たれ、マホ達を狙い撃つ――
「あ、あっばばばばぁばばばっ!!!」
『…………⁉』
だが、そんな攻撃を前に誰よりも前に出て攻撃を受け止めた少女がいる。
「はあはあはあはあはあはあ…………っ」
受けきった彼女――クウカは砂塵から現れ、コテンと横に倒れた。
「な、何してるさー⁉」
「盾になれなんて誰も頼んでねえよ! おい、しっかりしろ‼」
カオリとマコトは驚愕し、クウカに駆け寄る。
「姫さん、回復魔法を!」
「それなんやけど……その人、傷が治っとるように見えるんやけど?」
「えっ」
二人は恍惚な表情を浮かべるクウカに視線を落とす。
はあはあ、と興奮するように呼吸をする彼女は火傷を負った全身が嘘のように回復していく。
そして立ち上がり、
「ぐふふ、天にも登るような痺れでしたねぇ……。でも、もう打ち止めなんですか? ちょっと物足りないです……」
「お、おい大丈夫か? 動けるのか?」
「フフフ! クウカなら問題ありマセン! どれだけダメージを受けてもクウカならドMパワーですぐに自己回復するのデス‼」
「ドM……え、えっ??」
「信じられないだろうけど、本当なんだ……」
「えらいけったいな人やなぁ……」
遠い目をするカスミを見て流石のマホもドン引きする。
「なあモニカ……お前のギルドメンバー、変なの多くね?」
「触れないでくれ」
モニカはマコトと視線を合わせず、強引に真面目な話に戻そうとする。
「今はクウカよりも、キャルだ!」
モニカは見上げ、飛翔魔法でユウキ達へ向かおうと高く飛んだキャルを見る。
先程の攻撃魔法は目眩ましのようで、その間にあそこまで移動したようだ。
「くっ、あそこまで飛ばれては地上からではもうどうしようもない」
「そういうことだ」
金属音を立てて、ジュンは騎士団部隊の中央に立つ。
それに続くように騎士団部隊もモニカ達を囲うように前に出る。
「ここから先は我々が相手だ。君達のおかげで邪魔者も居なくなったしね、存分に戦えるというものだ」
「……ま、守るべき民を邪魔者だと……⁉」
「……なるほどなぁ」
モニカは顔をしかめて、マホは何かを納得したように目を細める。
「皆はん、ここらが正念場どすえ!」
「総員、迎撃準備! 全力をもって撃退せよ‼」
『おおおおっ‼』
二人の号令に合わせて、一同は迎え撃つのだった。
カオリ
前作「プリンセスコネクト!」より続けて登場する、南国の拳法少女。軽快な動きで素早く詰め寄り、猛獣の如き拳で強力な一撃を放つ。
南国からランドソルに単身でやって来たために、生まれ育った故郷とランドソルとのカルチャーギャップで時折奇想天外な行動で周りを振り回すことがある。
そのためか、異性であるユウキとも距離が近く、ボディタッチの回数が多い。しかし最近はどうやら恥じらいも多少覚えたようで……。ゴーヤーという食べ物が好物。
ペコリーヌ奪還のお話は大分長丁場になるため、一旦ここまでとします。
前書きでも書きましたが、このSSじつはもう今日で4周年なのです。
そんなにやってたの? と思う方がたくさんいらっしゃると思いますが、最初はこんなシリアスな方向に全力で書くつもりはなかったのです。
日常系の話をドンドン書いて、たまにシリアスを挟み込むくらいの軽い気持ちで書いてたら、私自身プリコネのシリアスなストーリーに入れ込んで、結果こんなことになりました。
章分けまでしちゃったし、このSSが完全に完結するにはどれくらいかかることやら……。
最後に、プリコネ5周年おめでとうございます!
新たな世界、新たなストーリーへとプリコネも新シーズンに到来といったところでしょうか。
第三部はこれまでで一番長いストーリーになると思っていますので、2、3年じゃ済まないでしょうね(嬉しい悲鳴)。