この元傭兵、女運なさ過ぎじゃない…?
「ハァイ、ジョージィ?」
ある日。
資材整理の為に倉庫の中に入った時だった。
…頭の上から自分を呼ぶ声がした。
「…こんな所で遊んでるのはどこの子猫だ」
「あら、久しぶりに会った戦友にご挨拶ね」
積み上げられた木箱の上から、それこそ猫のように飛び降りて着地した。
…灰色がかった髪と、左眼に縦一線の傷跡。
「久しぶりだな、UMP45」
「久しぶりね。元気してた?」
独立人形部隊、404小隊の小隊長…UMP45が朗らかに笑っていた。
416と同じ様に傭兵時代何度か背中を預けた戦友だ。
冷静で冷徹、小隊長として求められる理性的な思考回路を備えた彼女は、人間や他の人形に対して友好的に接する。
…まぁ、そんなんじゃないけどなこいつ。
「416から聞いてびっくりしたわ。貴方指揮官になるのね」
「成り行きでな」
「ふふっ、貴方らしいわ」
段々と、此方に近付いてくる。
何となく後ずさってしまう。
「ねぇ、M4A1に困ってるんでしょ?」
「な、」
何でそれを。
と言う言葉は出なかった。
あれだけべたべたされているのだ、404の面々が知らない筈がない。
「…いや、大丈夫だ」
「責任感じてるのかしら」
「っ…」
責任。
そう、責任…M4をあんな風にしてしまった責任。
「…楽にしてあげようか」
「どういう意味だ」
笑顔のまま、UMP45は続ける。
「貴方の重荷を私が壊してあげ」
「ふざけるな」
最後まで聞くつもりは無かった。
「何故?」
「誰かじゃない、俺がやるべき事だ」
「プランはあるのかしら」
「…無い」
「代案の無い反論は、とてもネガティブだとは思わない?」
そのとおりだ。
俺には策も何もない。
後ろ立ての無い元傭兵なのだから、正式に指揮官にならない限り何も出来ない。
「だが、俺にできることなんて…アイツが思い出すまで傍に居て、受けるべき罰を受けるしか無い」
「…優しくて、残酷ね」
「ただの自己満足だよ」
「貴方がそう決めたならそれで良いわ。でも忘れないで…私は、私だけは…いつまでも貴方の味方よ」
UMP45の表情を見る。
いつもの様に、貼り付けた様な笑顔。
「…俺なんかに肩入れしたら駄目だろうが。お前は小隊長だろ」
「ふふっ、だって貴方は人形に優しいから。つい」
「苦労してるみたいだな…それもそうか」
裏の仕事を引き受ける小隊の小隊長。
本人は笑って流すが、やっぱりストレスはかなり溜まるのだろう。
「…愚痴なら聞いてやるよ。その分酒貰うけど」
「んー、飲みのお誘い?良いわよ…勿論、二人きりよね?」
「?まぁ、他に誰か居たら言い辛いだろうし、構わない」
「約束よ?楽しみにしてるわ…それじゃ」
やけに上機嫌になったUMP45は、軽い足取りで倉庫から出ていった。
「…あいつ、そんなアルコール好きだっけ」
時計を見ると、指示されていた時間をとっくに過ぎていた。
「…やっべぇ」
404とは結構一緒に死線をくぐってたりするので、割りかし懐かれている借金指揮官だった。
次回、「до свидания(また会いましょう)。ジョージさん、ご安心を…♡」