ジョージ、404の重いやつと飲む約束をする。
最近、視線を感じる。
いつもM4の視線を気にしているから気が付かなかったが、M4が居ない短い時間だけ新たな気配がするのだ。
「指揮官、ちょっと害虫駆除に行ってきますね」
「おい馬鹿やめろ、ステイ、ステイ!」
あ、くっそコイツ力つえーな!
「恐らくグリフィンの人形だろうから手は出すな頼むから!」
「…わかりました」
最近ちょっと不機嫌だ。
いろんな人形と話すような事が多かったからかもしれない。
「あー、なぁM4。お前今は外出出来るの?」
「はい、申請さえ通れば」
「申請か…」
恐らく俺と一緒なら大丈夫だろう。
「今度の休みに、出掛けよう」
「…!(ガタッ」
おかしい、今二人共並んで歩いているのにたった音がした。
M4ちゃんの瞳がかつて無いほどに輝いていた。
キラッキラ…普段からそんだけ輝いていたら可愛いのに。
「それは、でっ、でてででで、デートのお誘いですか!?」
「え?あー、この間の埋め合わせだよ。そんな大したものじゃない」
「指揮官とデート…ふふふ、デートかぁ…」
「聞けよ」
相変わらずの激甘思考回路。
まぁ、でもこのぐらいで機嫌が治るなら安いものである。
「楽しみにしてますからね」
「大したことはしてやれないから、あんま期待すんなよ?」
見習い指揮官って割と薄給だからなぁ…。
気配を感じて振り返った。
…曲がり角へ!綺麗な銀の髪が引っ込むのが見えた。
「待て!」
「!」
古来より、待てと言われて待つ馬鹿はいない。
しかし、犯人はアッサリと判明した。
「うおっと」
曲がり角でお淑やかにニコニコしていた人形が立っていたのだから。
「えっと、君は?」
「初めまして、トカレフTT-33自動拳銃と申します」
銀の長い髪をアタマの後ろのリボンで結っている少女だ。
立ち姿が育ちの良い女性、と言った印象を受ける。
「…つかぬ事を聞くけど」
「はい、何なりと」
「君、ずっと見てた?」
「…はい」
視線の犯人はこの子だった様だ。
「何でこんな事を」
「えっと…その、以前戦場で貴方を見かけて以来わたしの記憶なら貴方の横顔がずっと離れなくて」
うん?
「またジョージさんにお会いしたいと思っておりました…♡」
「えっ、戦術人形にそんなことあんのか…!?」
一目惚れってあーたまた古典的な。
「こんなオジサンの何処が良いんだよ…」
「そんな事はありません!以前前線でご一緒した時に損傷した私を引き摺ってまで連れ帰って下さった事には感謝しきれません…!」
「え、君あの時の?…そっか、あのときはボロボロだったから気が付かなかった。君の本当の姿はとても綺麗なんだな」
「えっ、きっ、きれ…!あ、あの時は本当にありがとうございませんでした…ずっと、ずっとお会いしたかったです」
「もう俺がここに来てから割と経ったけど、ずっと見てるだけだったのは?」
「お話したかったのですが…怖い方がずっと近くにいて」
M4、言われてるぞお前ェ。
「あ、あの!ジョージさんはあの人形と…誓約されてるのですか!?」
「誓約って…話が飛躍しすぎてるな。俺はまだ指揮官じゃないよ。M4の事はあの子のリハビリを付き合ってるだけだ」
「そうなのですか?…良かった」
うーん、なんか割と人形達からの好意が最近多過ぎないか?
そろそろ作為的な物を感じてきてしまう。
「ジョージさんは指揮官見習いなんですよね」
「ああ、まだな。研修が終わればここを離れて別の基地に配属される」
小耳に挟んだところ割と激戦区に投入されるらしい。
俺の配下の戦術人形の希望を取られた時にそんな事を言っていた。
「その時は是非ご指名お願いします。一応かの時代にはスタンダードとして実力を認められていたんですよ?」
「へぇ、そりゃ心強い。考えとくよ」
「約束、ですからね?」
「約束か…あんまり期待しないで欲しい。基本的に新造された人形と1、2体のフリーな奴を引き抜いて貸してくれるだけらしいから」
新人指揮官のサポートの為に前線を経験しかつ、それなりに腕の立つ人形を付ける…要するに最初の副官だ。
「…そう、ですか」
「すまない、俺には何も力は無いんだ」
「…でも、諦めません。いつか必ず、貴方の下に行きます」
「その時は、頼む。」
「はい!」
なんと言うか、俺が傭兵時代にやって来た事がここに来て縁を繋いでくれたって事なのだろうか。
…スプリングフィールドはなんか別ベクトルな気がするけど。
「до свидания(また会いましょう)、ジョージさん」
「ああ、またな」
なんか、久しぶりに普通な会話をした気がする。
…ん?
「…………何であの子ずっと銃を握ってたんだ」
握られていたハンドガン。
刻印によって義体と結ばれている戦術人形達の得物だから常に携行しているのは基本なのだろうと勝手に思っていたけど。
…いつでもこちらを撃ち抜ける様になっていたと言うのは、考え過ぎだろうか。
自分はまだ指揮官ではない。
ヘッドハントで抜かれているため正式な契約をいくつかすっ飛ばしている。
…そして、その中に友軍…もっと言うと人間に対するセーフティの登録から漏れているとしたら…?
「…ひえっ」
あの子ももしかしたら要注意なのかもしれない。
ーside Anotherー
いけないいけない。
見てるだけだったのに、あの人が追いかけて来るから嬉しくなってしまった。
「ふふ…えへへ」
ああ駄目だ。
自分の感情がコントロール出来ない。
あの日、あの人は半壊した私を半日背負い撤退ポイントまで歩いていた。
意識は半分飛んでいたけれど、あの背中とずっとわたしを励ましていた声だけはいつまでも中枢に残っていた。
完全に修復された自分の姿を見せたかったけど、あの人はまたどこか経行ってしまった。
それからずっと、わたしの演算装置はあの人に逢うために働き続けた。
グリフィンの本部で見かけたときは思わず電脳がショートするかと思った程だ。
それから、ずっとあの邪魔な人形が消え、必ずこちらを追いかけるタイミングを伺っていた。
「ジョージさん…わたしが、一生お世話しますから…足がなくなっても大丈夫ですよ…♡」
欠損したわたしの面倒を見てくれたあの人。
だから、もしあの人が万が一に一人で生きていけなくなったなら。
わたしが、ずっと…。
トカレフちゃん好きなんで出しました(勢い
あれ、なんか俺の書く人形ってバグってる気がする…。
次回、ジョージ、デートするってよ。