深夜。
仕事を片付けて俺は久しぶりに大浴場に来ていた。
たまの贅沢として…まぁ残り湯なんだけど、ちょっと使わせてもらっている。
「はぁー…疲れた」
湯船に浸かり、疲れを癒やす。
俺の中にある東欧の血が、風呂を求めている。
唐突に、電気が切れた。
「あん?」
確か、今日は当直に使うって言っておいたんだけど…?
がらり、と戸が開く音がした。
そして、ひた、ひたと足音。
「
「9A-91?」
この声は、彼女のものだ。
…ははぁ?電気を消していたずらでもしたつもりなのだろうか。
「悪い子だな9A-91」
「はい、私は悪い子です」
ちゃぷり、と隣に座る。
まだ俺は夜目が利かない…が、彼女の瞳が爛々と俺を捉えていたのは見えた。
9A-91が俺の手を取り…自分の胸に押し付けた。
水分を含み、しっとりした肌。
掌の一点だけに感じる、少しだけ硬い感触。
「指揮官…今夜は、私だけを見て…」
「お誘いが、大胆過ぎるな…」
「ふふ、嫌いですか?」
「いや、燃えるね…むしろ」
彼女の腰に手を回し、自分の元に引き寄せる。
空いた手は9A-91の手を取り、指を絡ませる。
「けど、ここはダメだ。風邪を引く」
「…お預け?」
「後で部屋に来い。鍵は開けておく」
抱き寄せて、額に口づけする。
「風呂はゆっくり堪能するもんだぜ?」
「わかりました…一緒に、温まります」
決して狭くないのに、二人で肩を寄せて温まった。
窓から射す月明かりが、ベットで横になる俺と9A-91を照らしていた。
先程まではここで情熱的に絡まり合っていたが、それも済み、シャワーを浴び直して裸で抱き合っていた。
「ふふ…指揮官…」
「ん?どうした…?」
「私、幸せです」
「また、唐突だな」
「私…指揮官に一つ嘘をついていました」
嘘。
何となく察しはついている。
…AR小隊救出の際に初対面だとしたら、余りにも都合が良すぎるからだ。
迫ってくるのが速すぎる。
その前に、何らかの形で俺と会っていたと考えるのが自然だ。
「私は元々人形娼婦だったんです」
「そうなのか?…あ、そうか…だから愛情表現というか…スキンシップが過激だったのか」
割と直接的に迫ってくるのが多かった。
何より、夜の技術は俺が手も足も出ない程卓越していた。
「人形だったので、多少なりと乱暴にされてたんですけど…ある日、ストーカー紛いな目に遭って」
建物から出てきた所を数人がかりで囲まれて、路地裏に連れ込まれた事があったらしい。
あわや乱暴されかけた時…。
「たまたま俺が、通りかかったと?」
「はい」
酔っ払っていた俺がそいつらと乱闘騒ぎを起こしていたらしい。
なんとも恥ずかしい話だ。
その時はかなり酔っていて、乱暴されかけていた9A-91の事を覚えていなかった。
「そうだったのか…」
「それから、私はずっと指揮官を探しました。けど、見付からなくて…」
自由を求めて、戦術人形へと転向した。
グリフィンの本部になんとか籍を起きながら、各地を転々としながら俺の事を探していたらしい。
「…手間、かけさせちまったみたいだな」
「いいえ…貴方は、こうして…私と一緒に居てくれています…私だけじゃないのが、少し悔しいですけど」
「それは…」
言い訳は、9A-91のキスで塞がれた。
すぐに離れたが、彼女は艶っぽく笑う。
「気にしません。私達は人形…人間の倫理とか、そう言うのに縛られない存在ですから」
「…駄目だなぁ。腹くくったつもりだったのに」
「私は、そういう所見せて貰えるようになって嬉しいとおもいます」
「俺はカッコつかなくて嫌なの…まぁ、何だ。9A-91…手を出してくれ」
はてなマークを浮べて、右手を差し出してきた。
ずっと求めていたクセに、こういう事に疎いのがちょっとおかしかった。
「違う、左手」
「左…それって」
枕の下に隠してあった指輪を、9A-91に見せた。
「指揮官…」
「9A-91…俺は、お前を愛したい。受け取ってもらえるか?」
「はい…はい!」
彼女の左薬指に指輪を通す。
9A-91はその光景を恍惚と眺めていた。
「指揮官、指揮官!」
「うおっ、はは…これからも、よろしく」
「はい!指揮官!
瞳に涙を浮かべて、9A-91に唇を奪われる。
…その後、まさかの2回戦に突入するのだった。
これが、俺の限界…。
ちょっとえっちにしようかなと思いつつ心がチェリー過ぎて泣きそうになっていた作者です。
こんな奴が健全書ける訳ないので諦めてください。
9A-91と、誓約完了。