【完結】借金から始まる前線生活   作:塊ロック

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聞き及ぶ笑顔はどこへやら。
彼女の顔はずっと固まってしまったまま。


誓約 UMP9

 

実は、UMP9と言う人形が俺の前でだけ笑わないのは……ただ単に俺に対して恥ずかしさと言うか、照れがあった為にガチガチに緊張していただけだと言うのが発覚した。

 

「おーい、ナイン?……何処にもいナイン……」

 

白けるギャグを呟いてしまったが、かれこれ一時間は探している。

こういうときに45も見つからない。

 

「どこに行ったんだ……?」

 

404は時たま偵察にふらっと居なくなる。

今日は416もG11もいた為そういった事は無いはずだ。

 

ポケットに仕舞った指輪を確認する。

……あの姉妹にも、俺は指輪を渡すつもりでいる。

ナインも俺に対して好意を抱いていた事にはやはり驚いた。

 

「ナイーン……?」

 

呼んで出てきたら苦労はしない。

……が、がたっ……。

 

「うん?」

 

今、背後で物音がしたような。

振り返ると、特にめぼしいものは無い。

強いて言うなら見覚えの無いダンボールが置いてあるくらい……。

 

「ナイン?」

 

びくっ。

ダンボールが少し動いた。

 

しばし、無言。

 

「そこかっ!」

「ひっ!」

「あっ!?」

 

ダンボールを奪う。

しかし、中から飛び出したナインが俺にタックルを仕掛け、押し倒してそのまま窓から飛び降りた。

 

ここ、二階……!

 

「待てっ!ナイン!」

「……!!」

 

窓から飛び降りようとして、冷静になった。

怪我するわ。

 

「あっちは……キルハウスか!今日は誰も使ってなかった筈……!」

 

走り出した。

何で追いかけっ子になっているのかは誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーS-12地区キルハウス。

 

修繕不可能レベルまで朽ちた建物を敢えて利用しようと考え、市街戦闘訓練所として利用してみたエリアの総称だ。

 

中に入ると、バンガードが座っていた。

 

『あ、指揮官』

「……バンガード?何やってるんだ?」

『雨の日に傘をささずに濡れながら踊る……自由ってのはそう言うものだと、あたい……そう思うんだ』

「要するに暇なのか」

『あっ、笑ったなー!?』

「悪い悪い……所で、ナインを見なかったか?」

『UMP9かい?……それならそこに……』

「えっ」

 

指をさされた(指は無いので腕部)方向を振り向くと、ナインが慌てて走り去るのが見えた。

 

「……バンガード。リンクする」

『……指揮官?大人げ無いんじゃない?』

「向こうは義体スペックをフルに使ってるんだ。こっちだって本気出さないとフェアじゃない」

『あいあいさー……操縦権を指揮官に移譲。ライフリンクを確立』

 

興奮剤を挿してバンガードを装着する。

 

『シーケンス完了、スタンバイオーケー』

「了解、行くぞ!タイタン」

『フォール!!』

 

強化された脚力で、床を蹴った。

 

崖から飛び降り、ナインの目の前に着地した。

 

「えっ、指揮官!?それに40……バンガードまで!?」

「鬼ごっこは終わりだ!ナイン!」

「う、うう、にゃー!!」

 

何かを地面に……訓練用のフラッシュバン!?

 

『UMP9逃走!ルート検索中!』

「任せた!」

 

閃光が収まる。

訓練用なのでただ光るだけだ。

キルハウス内に備え付けてある備品で、充電して使う代物だ。

 

「やってくれたなナイン!」

 

走り出し、壁に向かって跳躍。

そのまま壁を走り更に加速。

 

『指揮官!そこのT字路は左!』

 

左に曲がり、特徴的な栗色の上が通路に引っ込むのが見えた。

 

「バンガード、新装備を試すぞ」

『えっ、アレ使うの?……うわ、指揮官悪い顔してる』

「ちょっと脅かすだけさ」

 

あの角の先はこの位置から遠回りになるが、回り込める。

なので……走るナインに向かって手を突き出すと、()()()()()()()

 

『ホロパートナー起動』

「OK、周り込むぞ」

 

勿論、()()()()()()()

ホログラム技術とジャミング技術の複合兵装、『ホロパートナー』。

人形のセンサーすら欺くデコイを産み出す。

 

その効果は折り紙付き……だが、一度使用すると再使用に少し時間が係るのが難点だ。

 

……通路から回り込む。

案の定後ろから追い掛けてくるホログラムを見ていたナインは、俺に気付かなかった。

 

「えっ、指揮官!?」

「捕まえた!」

「ぎゅむっ」

 

勢いがついて止まれなかったナインが飛び込んできたので、そのまま抱き止めて拘束した。

ナインの顔が真っ赤に染まっている。

 

「ふぅ、ナイン。どうして逃げたんだ?」

「だ、だって……ジョージが、追いかけてくるから……」

「そりゃ追うさ。お前に用事があんだから」

「よ、用事?」

「ああ……ナイン、誓約しよう」

「ぴゃっ……!?」

『ひゅーひゅー!やるねぇ!指揮官!』

 

ボン、とナインの頭から蒸気が飛んだかと思った。

そのくらい顔が赤熱している。

 

「わ、わわわわ私と!?何で!?」

「お前を愛すと決めたからだ」

「だから、どうして……」

「誰かを愛するのに理由は要らない」

「えっ……」

「さぁ、ナイン。答えてくれ」

「わ、私は……」

 

ナインは黙る。

そろそろ離すか。

ゆっくりと降ろしてやる。

 

ナインは逃げなかった。

 

「指揮官は、私と……家族に、なりたいの?」

「ああ」

「……そうなんだ。……いひひ、家族、家族かぁ」

 

嬉しそうに微笑んでくれた。

 

「ナイン」

「なに?」

「手を出してくれ」

「……うん」

 

左手に、指輪を通す。

 

「これからは、皆家族だ」

『……いいなぁ』

「ふふ、バンガードも家族なの?指揮官」

「そうだな、お前も家族だ」

『ありがとう、二人共』

 

こうして、俺は何とかナインと誓約出来た。

 

……この後、キルハウス無断使用、訓練用のフラッシュバンやら興奮剤投与、ついでに業務をほっぽり出した事で副官のカラビーナにめちゃくちゃ怒られたのだった。

 

 

 

 




UMP9と、誓約締結。

彼女はやっと、ジョージの前で笑える様になったのだった。
残り、二人。

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