「借金が、無くなった……どういう事だよ、それ」
「詳しく話そう」
親父が取り出したのは、写真。
裕福そうな格好をした小太りの中年だ。
「これは?」
「ハルカさんの元婚約者だ」
「ウェェッ?!!!?」
えっ、婚約者?!
それ親父じゃないの!?
「元々ハルカさん……母さんが割りと裕福な軍人家系の出だってのは、話したことあったか?」
「……初耳なんだが」
「東方の血を引く軍人一家。まぁ今は日本って国も崩壊液の影響下でほぼ消失してる。それで
で、その相手がよりによってこいつか……。
「……だったんだが、何故か俺がハルカさんにアタックされてな」
「口説いたろアンタ」
「いやぁ美人だったし、いかにもお堅い女傑って感じでそそられてね。そういう女が蕩ける表情って言うのも……ガッ?!」
唐突にAK-12が親父を殴った。
とりあえずサムズアップを返しておいた。
「話を戻そう。駆け落ち同然で俺とハルカさんは結婚して……まぁこいつから恨みを買ったらしい」
「そりゃそうだ」
「こいつがやってきた事が……まぁ、でっち上げの借金さ」
「嘘だろ……」
思わず天を仰ぐ。
え、何……じゃあ俺は親父の恨みから生まれた架空の借金を返してたって事か……。
「じゃあ、何でアンタ蒸発なんてしたんだよ……母さんがどんだけ悲しんだと思ってる」
「……それについては、本当に申し訳ないと思っている」
軽薄な笑いが引っ込み、一気に引き締まった歴戦の軍人の顔になる。
思わず身構えそうになる。
……こうしてりゃ一流の軍人なのになぁこの人。
「ただ、俺がハルカさんから離れて姿を消さないと奴らの尻尾も掴めなくてな。お前が返済してくれてたから向こうも油断していた」
「コーヒー、持ってきたわよ」
リサがトレーにマグカップを4つ乗せて入ってきた。
「ああ、私達にはお構いなく」
「人形でも貴女はお客よ。それがうち。受け入れなさい」
AK-12とAN-94に押し付ける。
親父の前にも一つ置いて、俺に手渡してくれた。
「ありがとう、リサ」
「私も居るわよ。構わないわよね」
「ああ」
「……おい、ジョージ。まさかとは思うがその子……」
親父がリサの左手薬指を指差す。
……まぁこの人なら気が付くわな。
「あー……、紹介するよ。WA2000タイプの……リサだ。俺の嫁」
「お初にお目にかかるわ、えーっと……『お義父さま』?」
「フォッ……!!?!?!」
親父が目を見開いたと思えば手で顔を覆って天を仰いだ。
えっ、嘘、それ遺伝なの?マジ?
「おいおいおいおい、待て、ステイステイ……人形と?やるなぁお前……」
「……今時珍しくないだろう」
「そうだが……そうかぁ、これであのクソッタレ共の血も途切れるか……」
「……」
「よくやった、ジョージ」
何となく、俺に祖父や親族の記憶が無かった事に合点が行った。
……ふと、リサがAK-12の顔を見て、呟いた。
「……え、おば様……!?」
「?」
「「あ」」
思わず二人で声が重なった。
ちょっと待て親父、こいつにもしかして教えてないのかよ?!
「……大尉、これはどういう事ですか?」
「ね、ねぇジョージ……髪の色も違うけど、この人おば様にそっくりよね……?」
「………………」
「………………」
無言で親父と視線を合わせる。
(説明しろよ)
(何でこの子ハルカさんに合わせたんだ)
(うるせぇ、だから60前でまだ大尉なんだろアンタ)
(あっ言いやがったなこの馬鹿息子)
この間、僅か2秒。
「……で、まぁ俺が姿を消してこいつらをぶっ潰したって話だ」
「ナルホドナー」
「説明しなさいよ!!」
「大尉、説明を求めます」
あっ、クソ話が逸らせなかった。
「「あ、後でな……」」
まさかの台詞ハモり。
なんなんだよもう。
「クルーガーにも協力して貰って、軍からもこの二人を借りてなんとか叩き潰した」
「……は?クルーガーも知ってたのかよ!?」
「?ああ、知ってたぞ」
「あのクソ髭野郎ッ……!!」
まさかのグルだったのかよ……。
一言もそんな話無かったぞ……。
「いやー骨が折れた。俺ももう引退してハルカさんと田舎で喫茶店をやるよ」
「そうか……いや、なんだ……良かった、本当に」
「ジョージ。今まで母さん守ってくれて……ありがとうな」
……あ、やばい。
今の一言で、ちょっと、決壊しそうだ。
「じゃ、俺は帰る。そうそう……この二人、公的にはMIAなんだわ」
「え?」
「……帰るとこ無いから預かってくれ」
「ふざけんなァァァァァァァ!!!」
は?
これ以上厄ネタ抱えられるか!
AK-12はまだ良い(良くない)
だがAN-94は何だこいつ!?
ずっと俺のほうに首を向けてハイライトの無い瞳で俺を見てる。
時々口が動いてるから何かしゃべってるのだろう。
正直怖い。
「クルーガーにも許可は取ってある。それじゃあ、よろしくな」
「あっ、おまっ!やっぱ一発殴らせろ!!」
「お義父さま、お迎えが来ていますよ」
春が執務室にやってきた。
親父がその姿に目を丸くして、すぐに納得する。
「ありがとうお嬢さん、君も可愛いね」
「あら、ありがとうございます。お義母さまに報告しておきますね」
「ひぇっ……」
「隙有りィッ!!」
「ゴハッ?!」
春が怯ませてくれたので、顔面にドロップキックをかました後、中指をつき立ててやった。
―――――その後、春に二人を部屋に案内してもらった。
執務室に、俺とリサだけが残る。
「ジョージ」
「……ん?」
リサに呼ばれて振り返る。
ふわり、と抱きしめられた。
「え、ど、どうした……?」
「……今は、私しか居ないわ」
「見りゃ分かる」
「ばか、我慢すんな」
……相棒は、お見通しだったらしい。
目頭が熱くなってくる。
「女の前で、かっこ悪いとこ見せられるかっての……」
「私は、アンタの良いところも駄目な所も全部知ってる。今更見せられたって愛想尽かさないわよ」
リサの手が、頭を撫でた。
「……頑張ったわね、ジョージ。お疲れ様」
「こ、の、お前……ずる過ぎる」
「いつものお返しよ……良かったわね」
「あ、ぐ……う、うぅぅ……」
俺は、初めて……人形の前で、泣いた。
リサは穏やかな表情で、ずっと俺を見ていた。
これにて、ジョージの背負っていた父親の借金は消滅するのだった。
……えっ、なんか人形増えたんですけど。