例によってユノちゃんは出ませんが、フットワークがびっくりするくらい軽い行商人が来ます。
「は〜い、スチェッキンさんの移動式屋台、今月も街にやってきたよ〜」
そんな声が、S-12の街に響いた。
「……スチェッキン?」
今日は基地休養日だったので、自分……スカウトチームリーダー、トーン・トラッカーは街に来ていた。
……自分のこと、皆さん覚えていますでしょうか。
「やぁトラッカーくん。久しぶりだね」
「あー、はい。その節はどうも」
このスチェッキンさん、S-09地区という比較的近所……まぁ遠いのだけれど……からわざわざ屋台を引っ張ってこちらに商売に来ているらしい。
この人のお陰でS-12の物流は救われたと言っても過言では無い。
「そちらの指揮官は元気かい?」
「指揮官は……そうですね、元気です」
最近行方不明だった父君が見付かり、安堵していたとか。
その後人形が増えて頭を抱えていましたが。
「そう言えば、そちらのレーダー施設はAIが管理していると聞いていますが」
「え?あー……まぁ、そうだね」
いやに歯切れの悪い。
S-09基地と言えばグリフィンの誇るレーダー施設だ。
そんな場所の人形達は軒並みレベルも高い。
「指揮官が今度挨拶に行きたいと言っておられましたよ」
「そっかー。……オッケーなのかな」
「?」
オッケーとは、何のことだろうか。
「そう言えばトラッカー君」
「何でしょうか」
「例のM1ガーランドとは上手く行ってるのかい?」
「ぶはーーーーーーーっ!?!!?!!」
盛大に吹き出した。
何故!?
何故彼女がその事を知っている!?
「君、思ってる以上に顔と態度に出てるからね……?まぁ、気付いてないのは当人達だけか」
「そ、そんな……」
「大丈夫大丈夫。M1ガーランドは気付いてないから」
「そっ、それは……!それもそれで悔しい……」
「難儀な性格してるね」
たまに輸送車の護衛として同行してくるM1ガーランドと言う戦術人形に、自分は焦がれている。
いつからか彼女を見るのが楽しみになり、会いたいと願う様になった。
生まれてこの方生真面目に責務を全うしてきた自分には、彼女とどう接して良いか分からない。
「そうですね……もう少し、自分に勇気があれば……」
「フフフ、構ってくれてありがとうございます!指揮官!」
「え……」
聞き覚えのある声がして振り向く。
……長い金の髪。
紛れも無く、彼女は……。
「あ、トーンさん!こんにちは」
「こ、こんにちは……!?ガーランドさん、どうしてここに……?!」
「どうしてって、ジョージ指揮官に呼ばれたんです」
「よう、トーン。元気か?」
……あのガーランドさんと、指揮官が一緒に、歩いている。
頭が、真っ白になった。
「それじゃ、ガーランド。後よろしく」
「はい」
ガーランドさんが自分の手を取った。
「……え?」
「トーンさん、今日は私に付き合ってください!」
「えっ、えっ、どうして!?ガーランドさん!?」
「そんな堅く呼ばないでくださいよ?ランで良いです」
え、え、え、え、え、えぇぇぇぇ!?
―――――――――さて。
「……ジョージ指揮官、貴方も人が悪いね」
「なんのことやら」
今回スチェッキンさんに来てもらった理由。
単純に物資補給もあるが……輸送護衛部隊の一員であるガーランドに来てもらうためだ。
「部下のメンタルケアも、俺の仕事さ」
「憎いね、ホント。ただ……後ろの人は、どうするのかい?」
「……指揮官さん?今のは……どこの子でしょうか」
「エッカラビーナ!?違うからな!?スチェッキンさん!?何かアクセサリー頼む!!」
「はいはいまいど~」
「あと、そっちの指揮官によろしくな!!」
ユノちゃんとこのスチェッキンさんでした。
ぽんこつ指揮官とおばあちゃんは最近一周年を迎えた長編ほのぼの系です。
またまた珍しい女の子指揮官のお話です。
多種多様な人形やハイエンドがわちゃわちゃする癒し系物語。
でも、主人公は……。
そんな、やっぱりドルフロらしいシリーズです。
なにとぞよろしくお願いします。