……視線を感じる。
執務室の中を見渡しても、ここに居るのは俺とUMP40とアニーだけ。
ドアも閉じている。
なのに、視線を感じる。
「………………」
「手に付かなさそうね」
「そう見えるか?」
「とても気にしているみたい」
アニーにバインダーで頭を軽く叩かれる。
「指揮官、何か今日せわしないね」
「なーんか……落ち着かん」
「ずっと、見られてるわね」
「……やっぱり?」
戦術人形としての機能が全て削ぎ落とされているにも関わらず、アニーは察知している。
40は……ぽけーっと俺に笑いかける。
「指揮官なら出来るよ」
「適当だな……」
「ううん、適当じゃないよ。だって今までそうしてきたんだから、これからもそうなんだよ」
「……40」
『緊急連絡!救援要請!』
「「「!!!」」」
この声は、バンガードか。
「どうしたバンガード!」
『不明、何者かが私のネットワークに侵入し……コントロール不能、指揮官……ジョージ!』
ブツっ、と通信が途絶えた。
俺はウィングマンが懸架されているのを確認する。
「行ってくる」
「気を付けて」
――――――――走って格納庫まで来てみれば。
『指揮官!救援要請……!』
「貴方、ここはどうなってるのかしら……」
『速やかな退去を提案』
「……あら、このパーツは」
『接触禁止!接触禁止!』
「へぇ……民間も面白い物作るわね……」
……AK-12が、バンガードをねぶっていた。
いや、語弊。
AK-12がバンガードをひたすら見ていた。
「お前ら……」
「あら、ジョージ。仕事は?」
「こんな事されたら手に付かねーっての……」
「……何をするの」
手にしていたバインダーでAK-12の頭を叩く。
「勝手にハッキングすんなっての。こいつも大事な仲間なんだから」
「これ、強化外骨格よね。どうしてAIなんて搭載してるのかしら」
「聞けよ。これは俺が着けるからだ」
「……人間用か」
合点が行ったようにバンガードをじっとり見詰めている……様な気がする。
「……なぁ、AN-94に何があった」
気が付けば、そんな言葉が口から出ていた。
「何、とは?」
「惚けるな。最後に別れてから変わり過ぎだろ……アイツのメンタルに変調をきたす原因、何か心当たりは」
「………………」
AK-12は黙る。
俺も、彼女が喋り出すまで口を閉じる。
「……結局、貴方以外に良いように扱われなかっただけよ」
「……そうか」
「貴方が中途半端に希望を見せたせいで、あの子は追い詰められたわ」
「………………」
彼女に手を差し伸べた人間は居なかった。
ただそれだけの話。
「だから、親父について来た?」
「……かもね」
「そうか……で、お前は?」
「私?そうね……つまらなかったもの。あそこでの生活は」
「……お前らしいよ、それは」
『……そろそろ戻してくれませんか』
「「あ」」
この後、四苦八苦しながらバンガードを元の場所に戻すのだった。
モナークにめちゃくちゃ怒られた。
「……AN-94」
中途半端に俺を信じて、現実に耐え切れなくなった。
彼女にも、手を差し伸べなきゃいけないんだろうな。
「……出来るのかな、俺に」
それに答える者は、誰も居なかった。
AN-94の闇は深い。
彼女に手を差し伸べるには、どうすれば良いのだろうか。