翌日。
キルハウスを押さえて、俺とAN-94の模擬戦の舞台が整っていた。
流石に見学者は無し……って、AK-12は来てるし。
それ以外は来るなって言ってあるから誰も居ない。
「準備は良いな?バンガード」
『万全です、指揮官。二人で戦えば強力です』
「OK」
辺りには誰も居ない。
開始時間まで待機し、時間が来れば前進開始。
遭遇次第発砲……ペイント弾による射撃戦がメインだ。
もちろん近接格闘で捕縛しても可。
「……行こうか」
興奮剤を突き刺し、歩き出した。
―――――――――今回の模擬戦の申し出には、少し困惑していた。
相棒がわざわざ私の実力を試すと言った。
別に、私の事は全部分かってるんだからそんな事必要無いと思うのに。
警戒しながら通路を進む。
「……足音」
あの外骨格……バンガードと言っていた。
相棒とニューラルリンクを確立し共に戦うAI。
彼が前線に出張る理由は知らないけど。
「……?」
相棒だと言うのに。
「……勝てたら、聞こうかな」
通路の先を覗き見る。
……少し、言葉を失った。
相棒が、普通にこっちに向かって歩いてきているのだから。
「……貰った」
どうしてかは知らないけど、好機。
私の半身であるライフルが、ペイント弾を吐き出す。
寸分違わず相棒に向けて飛び……
相棒は光の粒子になって消えてしまった。
まさか、
「ホログラフのデコイ……!?」
「騙されたな!!」
「ッ!?」
その場から飛び退る。
さっきまで立っていた場所に、ペイント弾が着弾する。
「何処から……?!」
「ボーっとするなよ!」
「くっ……!」
視線を上に上げる。
そこには、
「なっ……!?」
何だアレは。
人間か?
相棒はそんな戦い方をしていたか?
「覚えてないのかAN-94!俺は何だって使う!」
「そんな訳……!!」
……
どうして私は相棒と慕う彼の戦闘スタイルを知らない……!?
「く、うぅ……!!」
頭が痛む。
照準がぶれる。
でも、
「私に出来るのは、これしか無いッ……!!」
射撃速度を変える。
相棒は右腕を後方に向ける。
……そこからワイヤーが射出され、相棒自身を引っ張って行った。
「待て……っ!」
私は、追いかける。
どうして、どうしてどうしてどうしてどうして!!
記憶の中の相棒と目の前の標的が合致しない。
混乱で頭がぐちゃぐちゃだ。
……でも、こんな感情……きっと相棒に勝てれば解消されるだろう。
―――――――キルハウスの中心は、かなり広いエリアだ。
障害物が点在しているが、基本的には開けている。
そこで相棒/指揮官は待っていた。
「……」
無言で引き金を引く。
勿論、それはホログラムで出来たデコイだった。
「お前は、誰だ……!!」
「俺は俺さ!ジョージ・ベルロック!それ以外の何ものでもない!」
「嘘だ……!お前は、偽者だ!!」
私は引き金を引き続ける。
「俺が本物かどうかなんて知らないね!俺以外の俺を見てみたいもんだ」
「なんだと……!」
相棒/指揮官の抱えている銃……確か、フラットラインだったか。
それが弾丸を吐き出し続ける。
私は障害物を利用したりして凌ぐ……が、彼は時たま頭上から急襲してくる。
その度に私は地を転がり難を逃れている。
あの壁やグラップルを利用した三次元機動が厄介だ。
どうする、どう対処する……!
「どうした!そのお前の相棒は!こういう時どうしてた!」
「うるさいッ!!」
「お前の中の相棒は助けてくれないのか!」
「黙れッ!黙れ、黙れ、黙れッ!!」
こいつを、黙らせる。
私の頭の中は、気が付けばその事しか無かった。
怒りだ、今の私は憤怒に支配されている。
感情に流されるなんて、戦術人形として失格だ。
だから、私は失敗作だなんて……。
「違う……私は失敗作なんかじゃ」
「自分の中で勝手に作り上げた都合の良い『相棒』に縋るお前がか?」
「貴、様ァァァァァァァァ!!」
近くに飛び込んできたジョージに向かって飛び掛る。
既に撃つ事が頭から抜けている。
けど、私の電脳は、目の前のこの男を殺す事で一杯だ。
「激昂しやがって……!だが、今だ!」
『ブースト、ホロパートナーノヴァ』
「なっ……?!」
突如、ジョージが
驚愕で一瞬止まる。
それぞれが殴り、蹴るモーションに入る。
「くっ……!」
思わずガードの姿勢を取る……が、衝撃は来ない。
「……え…………?」
3人がそのまま私を通過する。
3人は、ホログラフだったのだ。
目の前に、ハンドガン……ウィングマンを抜き放っていたジョージが立っていた。
「チェックメイトだ」
「あ……」
駄目だ。
避けられない。
……あ、れ。
どうしてそれは知っている。
知っている。
なら、この後どこに飛ぶかも理解している。
私は、人形の持ち得る最大限の馬力で無理やり前に飛び込む。
銃声……。
弾丸は、体勢の低くなった私の頭上を通過する。
「うっそだ……がっ!?」
ジョージをそのまま押し倒す。
すぐさま半身を振り被り……グラップルの基部に叩き付けた。
「が、あぁっ?!」
『グラップル損傷!損傷!』
ジョージの悲鳴。
私は構わず顔に拳を叩き付けた。
バイザーが割れる。
もう一度殴りつける。
「撤回しろ……!」
「い、嫌だね……」
「撤回しろ!!」
「ごふっ……!」
ジョージが、ぐったりする。
私は立ち上がり……胸倉を掴んで無理やり起こした。
グラップルユニットの付いている右腕が、だらりと垂れ下がっている。
「はぁ……はぁ……私は、失敗作なんかじゃ、ない……!」
「ごほっ……ああ、吐き出せ……お前の、溜まってるモン全部……」
「私は、私はッ……!!」
「お前は、誰だ……」
「私は、AN-94だッ……!!」
「そうだ、AN-94!お前は何を抱える!」
ジョージが私の腹部に蹴りを入れる。
「ごふっ……!!」
私は溜まらず後ずさる。
ジョージは解放され、なんとか起き上がる。
「よくも、私を……私に、情けを掛けたな!!お前のせいで、お前のせいでッ!!私は弱い私のままだ!!」
頬を暖かい何かが伝う。
「何で私に声を掛けた!どうして私に優しくした!何故私に……希望なんか持たせたんだ!!」
私の中で、感情が決壊した。
次々と言葉が口を出る。
「何で、何でッ!!」
「……お前は、どうなんだ」
ふらふらと、足取りがおぼつかないジョージが、私の元へ歩いてくる。
「ど、う…」
「苦しいか、つらいのか、怒ってるのか、言ってみろ」
「わた、し、は」
私は……。
さっきから流れ出ているもの。
……涙が、止まらない。
「私は……苦しい……!寂しい、寒いの……!誰も、誰も私を見てくれない!!」
「……へっ、言えたじゃ、ねぇか……それに」
ジョージが、左手で私の頬を撫で……涙を、掬った。
「お前……やれば出来るじゃねぇか。強いよ」
「ジョー……ジ……」
「大、丈夫、だ。お前の面倒も……見てやる……認めてやる……」
「ジョージ……?」
「ったく……好き放題殴りやがって。くそいてぇ」
「ごめんなさい……」
「良いんだよ。お前は真面目だから……抱え込んじゃったんだな」
「……ああ」
「AK-12にも迷惑、掛けたくなかったんだよな」
「ああ……」
「頑張ったな……AN-94」
「あ、ああ……」
ジョージが私にもたれかかる。
頭の後ろに左手が回されて……優しく、撫でた。
「ごめん、なさい……!ごめんなさい、ごめんなさい!」
「許すよ……AN-94……お前は、もっと気楽で良いんだ。一緒に、探していこう……」
「ジョージ……?ジョージ、起きて!ああ、ジョージ!ジョージ!!」
ジョージがそのまま目を閉じてしまった。
混乱して揺すってしまっている。
「AN-94」
「え、AK-12……」
声を掛けられて、振り替える。
いつもと変わらない、彼女がそこに居た。
「……彼を、医務室に連れて行きましょう」
「え、ええ……」
「……それと、ごめんなさい」
「え……」
「貴女のこと、分かってて放置して」
私は、何も言えなかった。
……けれど、胸の支えは取れた気がしている。
「……大丈夫。私は、前に進めた気がするから」
AN-94の抱えていたもの。
荒療治だが、これで良かったのかもしれない。
これにて、抱えていたタスクはほとんど消化できました。
あとは今回の話の後日談とジョージの初恋、リサについて話を書いて完結としたいと思います。
あともう少しだけ、お付き合いください。