「おはようございます、指揮官殿」
「ほら、見つかったぞ。お前の恩人」
「……誠でござるか」
「ああ。戦術人形一○○式……ここから少し遠い街で目撃情報があった」
「そうか……無事であったか……」
「……行かないのか?」
「拙者には、まだやるべき事がある。それが終わるまでは……」
「……わかった。休みは調整してやるから、いつでも言え」
「感謝します……指揮官殿……」
スコーチと別れる。
右腕が三角巾で吊るされている。
折れてはいないとは言え、やっぱり動かないのだった。
あれから、ローニンに殴られ、春に殴られ、リサにビンタされた。
あれ、殴られてばっかじゃない俺?
でも、AN-94のあの笑顔を見たらなんかどうでも良くなった。
「……カラビーナ?」
「………………」
執務室の前に、Kar98kが立っていた。
顎に手を当てて、何か考えている。
……思案する表情がコロコロ変わるので、暫く眺めていることにしよう。
「…………指揮官さん?女性の顔を、あまりジロジロ見ているものではなくってよ」
「いや何、愛らしい顔をしている」
「褒めても、わたくしは許しません」
「……参ったな。どうしたら赦してくれる?」
「無茶も怪我もしなければ」
「難しい話だ」
カラビーナも怒っているみたいだ。
それもそうだろう。
興奮剤の使用、バンガードごと大破する。
せっかく治った怪我も元通りだったのだから。
「指揮官さんは、もっと自分の事を大切にして下さるかしら」
「……善処する」
そう言うと、カラビーナは頬をふくらませる。
「その言葉は何度も聞きました」
「……あ―――」
「愛を囁いたって駄目ですわ。わたくしは怒っていますのよ」
「手厳しい」
どうも、本気で怒っている様だ。
「……なぁ」
ふと、気になる事があったので聞いて見ることにした。
「今度こそ、ってどうしたんだ?」
「……しっかり、聞いてらしたのですね」
カラビーナが目を伏せる。
……何となく、長くなりそうなので執務室に入る事にした。
「座りな……珈琲でも淹れよう」
「それならわたくしが」
「気にするな。たまには、良いだろ」
喫茶店育ちだから、それなりの珈琲は淹れられる。
「あら、もしかしてわたくしが初めてだったりします?」
「……うん?」
「指揮官さんの珈琲を頂くのは」
「……あー……確かに。お前が最初だな」
「そうでしたの……ふふっ」
カラビーナにカップを渡す。
心なしか少し上機嫌になっている。
「それで……それは、前の指揮官の時の話か?」
カラビーナも、トカレフの様に指揮官を喪っているのだろうか。
「いえ……わたくしは、ロールアウト前の記憶があるみたいで」
「……どういう事だ?」
ロールアウト前の、記憶?
それはどういう……。
「ずっと、誰かの手に抱かれていた記憶……大きな手」
「ふむ……あ」
そういう事か。
「それは……お前の、Kar98kの記憶だな」
「確かに、わたくしはKar98kですけれど」
「違う違う、銃の方だ」
「……銃の」
Kar98kと言う、銃に残された記憶。
おそらく、烙印システム関連で流れたりしているのだろう。
専門家じゃないからそんな事詳しくは判らないが。
「……どうしてでしょうね。もう、その手の温もりを失いたくないと思うのは」
「それは、自然なことだ」
カラビーナの手を取る。
指輪のされている左手。
その手を、俺は両手で包み込む。
「……指揮官さんは、手が少し冷たいですね」
「そうか?」
「でも、どうしてでしょう……胸の奥が、温かい」
「カラビーナの手は、温かいな……人形なのに。本当に、生きているみたいだ」
「わたくしは、貴方のお人形。指揮官さんが生きろと言うのなら、わたくしは生き抜いて見せますわ」
「なら、一緒に生きてくれ。戦場でも、ここでも」
「はい……失くしません、絶対に」
俺達は、暫く寄り添っていた……アニーと40が来て冷やかされるまで。
彼女の記憶の残滓。
感謝しなきゃいけないな……こいつを、大切に扱っていた名も無き射手に。
カラビーナに敷いていた伏線をやっと回収しました。
話が前後してしまって申し訳ありません。
次回はWA2000のお話。