【完結】借金から始まる前線生活   作:塊ロック

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走り去るトカレフを追う。
その背に掛ける言葉を違えてはいけない。


説得

 

トカレフは、倉庫の隅で啜り泣いていた。

 

「…トカレフ」

「………やっぱり、追いかけて来てくれましたね…♡」

「…えっ」

 

声を掛けると、彼女は振り返る。

…瞳から涙を流している。

しかし、顔は…笑っていた。

 

「嬉しいです、ジョージさん…貴方はやっぱりわたしを選んでくれた…」

「トカレフ、聞いてくれ。スプリングフィールドとは何も無かった」

「大丈夫です…わたしはジョージさんを信じてます」

「そ、そうか…」

「だから、ジョージさんもわたしを信じてくれますか」

「…そうだな。その銃を俺に渡してくれたら信じよう」

 

トカレフが後ろ手に持ち、トリガーに指を掛けていた拳銃を見せた。

 

「…なぁ、トカレフ。君の指揮官は?」

「………ジョージさんが助けてくれた直前に、目の前で亡くなりました」

「そうか…」

 

だからフリーなのか。

…目の前で指揮官を失い、メンタルに損傷を負った人形がここに集められているらしい。

そんな噂を耳にした。

なまじ戦闘経験が有り熟練しているからこそ初期化に踏み出せない人形達。

トカレフ…恐らくスプリングフィールドもだろう。

 

「辛いことを聞いた」

「大丈夫、です…もう終わった事ですので」

「トカレフ。スプリングフィールドと仲直りしてくれないか?」

「それは、どうしてですか」

「君は彼女に銃を向けてしまった。彼女もショックだったと思う」

 

人形に真摯に向き合っていた事も相まって割と彼女達から好印象を貰っていた。

…だからだろうか、ここで関わる人形達が少し情緒不安定だった事に気が付いたのは。

 

「トカレフ」

「お願いが、あります」

「何だ?」

「私と…どこか遠くで暮らしませんか…グリフィンも鉄血も関係ない、どこか遠くで。もう、目の前で誰かを失うのは嫌なんです…」

 

トカレフは、その場にへたり込んでしまった。

…前の指揮官より以前に、やはり誰かを失っていたのだろうか。

 

「それは出来ない」

「…っどうして!やっぱりスプリングフィールドの方が良いんですか!?それともM4!?」

「トカレフには話してなかったっけ。俺にはさ、借金あるんだ」

 

M4やスプリングフィールド、45や416…は知ってるか。

人形に、初めて、自分の身内を語った。

 

「え…そんな、酷すぎます…」

「こんなの人間同士ならよくある話だよ」

「だからって…ジョージさんを切り捨てるなんて」

「…まぁ、なんだ。やっぱり人間より人形の方がまだ信じ易い」

「……」

「トカレフ。君と一緒に生きていく事は出来ないけど…今、一緒にいてあげる事は出来る」

 

何となく、クルーガーの意図が読めてきた気がする。

メンタルカウンセリング…俺にそれが出来るらしい。

研修と称して人形達に俺の情報を流して接触させ、少しずつ復帰を促す。

だから俺の研修は長いだろうし、恐らく指揮官になってからこういった人形達を回されるだろう。

能力としては高いが、戦闘不能な傷を抱えた彼女達を治すための先行投資。

それが、俺の借金を肩代わりしている。

 

「だからさ、行こう」

「あ…」

 

トカレフの手を取り、立たせてやる。

そのまま、自分より頭2つ以上小さな彼女をだき止める。

 

「一人で謝るのが怖いなら、ついて行ってあげるよ…お嬢さん」

「…ありがとう、ございます…ジョージさん…もう一つ、お願いが」

「ああ」

 

屈んで、彼女と目線を合わせる。

すると、彼女が飛び込んできたので受止めた。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…わたし、わたし…貴方にも、銃を向けて…」

「許すよ…だから、大丈夫だ。俺はここに居るよ…」

 

背中を優しく叩く。

小さな子をあやすように。

 

トカレフが泣き止むまで、俺はずっとそこに居た。

 

 

 




感情があれば、心がある。
人形だって心が傷付いてしまう。

だから、寄り添う。
彼女達が再び戦えるようになる迄。

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