夜。
私……と言うか、私達はバーに集まっていた。
ここ、S-12の女性職員と、時間が合った戦術人形が揃い踏み。
そして……男性の姿は無い。
今日は、女子限定の飲み会……要するに女子会だった。
「そ、れ、でぇ?リサちゃんはあの指揮官の何処が良いのぉ〜?」
隣に座るノーススターがベロンベロンに酔っ払って肩を組んできた。
先日誕生日を迎え、20になったので飲酒が解禁されたのだ。
「どこって、そんな事言われても」
「かー!なにしても何されても好きって?愛されてるねぇ!指揮官は!」
ばんばんと背中を叩いてくる。
……彼女の恋人のG17はその隣でテーブルに突っ伏していた。
完全に潰れている。
「あ」
「こ、今度は何よ……」
「リサっていつから指揮官好きだったの?」
「は、はぁ!?いつから!?」
「面白そうな話の気配!」
「ちょ、40……うぇぇぇ……何で皆集まって来てるのよ」
「ふふふ、やっぱり皆気になるのよ」
「アニーまで……まあ、半分くらいアンタのせいだけど」
「あら本当?じゃあ馴れ初めから聞かせてくださるかしら?」
「えぇ……しょうが無いわね……」
気が付けば、バーに居る人々は全て私を見ていた。
―――――――アイツと初めて会ったのは、ロールアウトした直後だった。
ソイツは、指揮官見習いという事で戦術人形の育成実習を受ける為に……丁度、まっさらな私を受け持つ事になった。
「初めまして、WA2000。俺は今日から君の担当になったジョージ·ベルロックだ」
「……アンタが?」
「ああ」
「ふーん……」
ジョージが、手を差し出してくる。
これに、私は疑問を感じる。
「……これは?」
「え?握手だよ握手」
「何でそんな事を」
「これから背中を預ける相手だからな。それにカワイイ顔してる。お近付きになりたいだろ?」
私は、無言で差し出された手を叩いた。
「いってっ」
「ふざけないで。私は殺しの為に生まれてきた女よ。アンタみたいな男、願い下げだわ」
「おーおー気の強い事……こりゃ前途多難か」
―――――これが、私とジョージとの出会いだった。
ファーストコンタクトは、印象最悪だった。
―――――それから。
「これが、WA2000か。複雑な銃だな……」
「あ、あっ、あぁーーーーっ!!アンタ何してんの!!」
私は声を荒げてしまった。
何故かって?
理由は簡単だ。
私を……WA2000と言う銃を触っていたから。
「何って、俺はお前の担当だからな。お前の事を知らなきゃいけない」
「うるさいわね!良いから返しなさい!」
「はいはい……」
呆れた顔をしているのが気に障る。
私は言ってやったのだ。
「WA2000、あのな……」
「いい!?気安く私の名前を呼ばないで!その汚らわしい手で私の銃に触らないでちょうだい!」
「……判ったよ」
「大体前に言ったわよね!アンタみたいな軽薄な男願い下げって言ったわ!」
「悪いけど、俺は降りないからな」
「何で!」
「(借金を)放っておけないからだ」
「んなっ……!?」
……この時点では知らなかったけど、借金が放っておけなかったからみたいなニュアンスだったみたい。
私は正直、この一言で驚いてしまった。
「な、なな、自分が何言ったか分かってんの?!」
「ん?ああ……これが俺の気持ちだ」
「え、えぇっ……!?」
「なぁ、WA2000……俺は確かに軽薄だ。だが……真摯に、お前とはやって行きたいと思う。信じて欲しい」
「……私は」
「俺の事は名前で呼び捨てで構わない」
「……ジョージ」
「ああ。よろしくな、WA2000」
――――――そして、初めての戦場。
――――――そして、初めての勝利。
彼を信頼するには時間は掛からなかった。
「なるほどねぇ……でもさ、決定的に好きになった瞬間ってやっぱりあるじゃん?」
「好きになった瞬間……か」
気が付けば30分も喋っていたらしい。
周囲に酔いつぶれて寝ていたり、帰っている人も増えている。
40やアニーも帰っている。
もう、ノーススターくらいしか居なかった。
「そうね……代理人とやりあった時かしら」
「え、代理人と……?」
「ええ。ジョージが……指揮官になる前にね。AR小隊の救出任務でかち合ったのよ」
あの時……損傷した私を置いて逃げる選択肢はあった。
あの日、初めてジョージに興奮剤を刺させたのは……間違いなく私だ……私のせいなのだ。
私が代理人に止めを刺されそうだった時……彼は薬を刺して私を救出した。
彼が、私のために……体質を変えてしまった。
それが分かったのが大分後だけれど。
「そう、なんだ」
「……ええ」
私も、大分深酒しているみたい。
―――――結局、私にとってジョージという男はどんな存在なのか。
私は、一度折れている。
折られて、しまった。
今、彼女と一緒に生活しているが……夢想家に、私は完膚なきまでに叩き潰されている。
暗闇に閉じ込められ、プライドをへし折られ、希望を根こそぎ奪われた。
その私を照らしてくれたのは……間違いなく、彼なのだ。
醜く、ボロボロにされてしまった私に……いつもと変わらぬ笑顔で、いつもの様に手を差し出し、「帰ろう」と言ってくれた。
私は……あの日から、惹かれていた。
そして……彼の実家へ行った時。
私と彼の今後を決定付ける誓い。
「リサ。風邪引くぞ」
「……え」
気が付くと、バーには私しか居なかった。
「消灯時間、とっくに過ぎてるぞ」
「……あれ、皆は……?」
「帰ったし帰した。残ってるのはお前だけだよ」
ジョージが隣に座っていた。
手には、グラス。
「……指揮官なのに、消灯過ぎてお酒飲んでるのってどうなの?」
「良いんだよ、一番偉いから」
「職権乱用」
「うっさい。お前と飲みたいってのは駄目か?」
「なら、許す」
「そうか」
穏やかに時間が過ぎている。
殺しのために生まれた女が……惚れた男と、こうやってお酒を飲んでいる。
「どんな話、してたんだ?」
「知りたい?」
「質問に質問を返すのは……模範解答じゃないな」
「私の模範は、アンタよ」
「おっと、一本取られたか」
ジョージが一杯煽る。
私もカルーアを飲み干す。
体がぽかぽかしている。
「ふぅ……当てようか」
「ふぅん……?じゃあ、当たったら御褒美あげようかしら」
「お?本当か?なら、張り切っちゃうな」
ジョージが不適に笑う。
「俺の話だろ」
「……範囲広すぎ。失格」
「えー」
「大体……アンタの事、話さないと思ってるの?」
「ははっ、違いない」
簡単に当ててくるんだから、この男は。
「……ねぇ、ジョージ。私……弱くなったかな」
「どうして、そう思った?」
「私、さ。もうアンタが居ないと……駄目みたい」
「奇遇だな。俺も……お前達が居ないと、駄目だ」
ジョージが私の頭を優しく撫でる。
「俺は、お前達が見ていてくれたら……誰にも負けない。お前が居てくれたら、良い男を演じられる」
「私は……アンタが、信じてくれたら……期待に、応えなきゃって思う」
「うん、信じてるよ、相棒」
「……アンタは、ズルいわ。思ったことぽんぽん言えるんだもん」
「そうか?じゃあ……お前の気持ち、聞かせてくれ」
「……私は、あの日から
ジョージの手を取る。
「ねぇ、ジョージ。私、貴方を愛して良いの?」
「勿論」
「即答、ね……」
だから、私はジョージを信頼できる。
「大好き」
「ありがとう」
「好き……愛してる」
「俺もだ」
「ずっと、一緒に居て」
「ああ」
「ジョージ」
「リサ」
「私は、貴方のお人形。貴方の為に……勝利を」
「期待してる……さ、帰ろうか」
ジョージに手を引かれて、立ち上がる。
そのまま……ジョージの部屋へ。
勿論、一緒に朝を迎えた。
次回、最終回。