【完結】借金から始まる前線生活   作:塊ロック

170 / 183
私がリサになった日

夜。

私……と言うか、私達はバーに集まっていた。

 

ここ、S-12の女性職員と、時間が合った戦術人形が揃い踏み。

そして……男性の姿は無い。

 

今日は、女子限定の飲み会……要するに女子会だった。

 

「そ、れ、でぇ?リサちゃんはあの指揮官の何処が良いのぉ〜?」

 

隣に座るノーススターがベロンベロンに酔っ払って肩を組んできた。

先日誕生日を迎え、20になったので飲酒が解禁されたのだ。

 

「どこって、そんな事言われても」

「かー!なにしても何されても好きって?愛されてるねぇ!指揮官は!」

 

ばんばんと背中を叩いてくる。

……彼女の恋人のG17はその隣でテーブルに突っ伏していた。

完全に潰れている。

 

「あ」

「こ、今度は何よ……」

「リサっていつから指揮官好きだったの?」

「は、はぁ!?いつから!?」

「面白そうな話の気配!」

「ちょ、40……うぇぇぇ……何で皆集まって来てるのよ」

「ふふふ、やっぱり皆気になるのよ」

「アニーまで……まあ、半分くらいアンタのせいだけど」

「あら本当?じゃあ馴れ初めから聞かせてくださるかしら?」

「えぇ……しょうが無いわね……」

 

気が付けば、バーに居る人々は全て私を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――アイツと初めて会ったのは、ロールアウトした直後だった。

 

ソイツは、指揮官見習いという事で戦術人形の育成実習を受ける為に……丁度、まっさらな私を受け持つ事になった。

 

「初めまして、WA2000。俺は今日から君の担当になったジョージ·ベルロックだ」

「……アンタが?」

「ああ」

「ふーん……」

 

ジョージが、手を差し出してくる。

これに、私は疑問を感じる。

 

「……これは?」

「え?握手だよ握手」

「何でそんな事を」

「これから背中を預ける相手だからな。それにカワイイ顔してる。お近付きになりたいだろ?」

 

私は、無言で差し出された手を叩いた。

 

「いってっ」

「ふざけないで。私は殺しの為に生まれてきた女よ。アンタみたいな男、願い下げだわ」

「おーおー気の強い事……こりゃ前途多難か」

 

―――――これが、私とジョージとの出会いだった。

ファーストコンタクトは、印象最悪だった。

 

 

―――――それから。

 

「これが、WA2000か。複雑な銃だな……」

「あ、あっ、あぁーーーーっ!!アンタ何してんの!!」

 

私は声を荒げてしまった。

何故かって?

理由は簡単だ。

 

私を……WA2000と言う銃を触っていたから。

 

「何って、俺はお前の担当だからな。お前の事を知らなきゃいけない」

「うるさいわね!良いから返しなさい!」

「はいはい……」

 

呆れた顔をしているのが気に障る。

私は言ってやったのだ。

 

「WA2000、あのな……」

「いい!?気安く私の名前を呼ばないで!その汚らわしい手で私の銃に触らないでちょうだい!」

「……判ったよ」

「大体前に言ったわよね!アンタみたいな軽薄な男願い下げって言ったわ!」

「悪いけど、俺は降りないからな」

「何で!」

「(借金を)放っておけないからだ」

「んなっ……!?」

 

……この時点では知らなかったけど、借金が放っておけなかったからみたいなニュアンスだったみたい。

私は正直、この一言で驚いてしまった。

 

「な、なな、自分が何言ったか分かってんの?!」

「ん?ああ……これが俺の気持ちだ」

「え、えぇっ……!?」

「なぁ、WA2000……俺は確かに軽薄だ。だが……真摯に、お前とはやって行きたいと思う。信じて欲しい」

「……私は」

「俺の事は名前で呼び捨てで構わない」

「……ジョージ」

「ああ。よろしくな、WA2000」

 

 

 

 

 

 

 

――――――そして、初めての戦場。

――――――そして、初めての勝利。

 

彼を信頼するには時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねぇ……でもさ、決定的に好きになった瞬間ってやっぱりあるじゃん?」

「好きになった瞬間……か」

 

気が付けば30分も喋っていたらしい。

周囲に酔いつぶれて寝ていたり、帰っている人も増えている。

 

40やアニーも帰っている。

もう、ノーススターくらいしか居なかった。

 

「そうね……代理人とやりあった時かしら」

「え、代理人と……?」

「ええ。ジョージが……指揮官になる前にね。AR小隊の救出任務でかち合ったのよ」

 

あの時……損傷した私を置いて逃げる選択肢はあった。

あの日、初めてジョージに興奮剤を刺させたのは……間違いなく私だ……私のせいなのだ。

 

私が代理人に止めを刺されそうだった時……彼は薬を刺して私を救出した。

 

彼が、私のために……体質を変えてしまった。

それが分かったのが大分後だけれど。

 

「そう、なんだ」

「……ええ」

 

私も、大分深酒しているみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――結局、私にとってジョージという男はどんな存在なのか。

 

私は、一度折れている。

折られて、しまった。

 

今、彼女と一緒に生活しているが……夢想家に、私は完膚なきまでに叩き潰されている。

 

暗闇に閉じ込められ、プライドをへし折られ、希望を根こそぎ奪われた。

 

その私を照らしてくれたのは……間違いなく、彼なのだ。

 

醜く、ボロボロにされてしまった私に……いつもと変わらぬ笑顔で、いつもの様に手を差し出し、「帰ろう」と言ってくれた。

 

私は……あの日から、惹かれていた。

 

そして……彼の実家へ行った時。

 

私と彼の今後を決定付ける誓い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リサ。風邪引くぞ」

「……え」

 

気が付くと、バーには私しか居なかった。

 

「消灯時間、とっくに過ぎてるぞ」

「……あれ、皆は……?」

「帰ったし帰した。残ってるのはお前だけだよ」

 

ジョージが隣に座っていた。

手には、グラス。

 

「……指揮官なのに、消灯過ぎてお酒飲んでるのってどうなの?」

「良いんだよ、一番偉いから」

「職権乱用」

「うっさい。お前と飲みたいってのは駄目か?」

「なら、許す」

「そうか」

 

穏やかに時間が過ぎている。

殺しのために生まれた女が……惚れた男と、こうやってお酒を飲んでいる。

 

「どんな話、してたんだ?」

「知りたい?」

「質問に質問を返すのは……模範解答じゃないな」

「私の模範は、アンタよ」

「おっと、一本取られたか」

 

ジョージが一杯煽る。

私もカルーアを飲み干す。

体がぽかぽかしている。

 

「ふぅ……当てようか」

「ふぅん……?じゃあ、当たったら御褒美あげようかしら」

「お?本当か?なら、張り切っちゃうな」

 

ジョージが不適に笑う。

 

「俺の話だろ」

「……範囲広すぎ。失格」

「えー」

「大体……アンタの事、話さないと思ってるの?」

「ははっ、違いない」

 

簡単に当ててくるんだから、この男は。

 

「……ねぇ、ジョージ。私……弱くなったかな」

「どうして、そう思った?」

「私、さ。もうアンタが居ないと……駄目みたい」

「奇遇だな。俺も……お前達が居ないと、駄目だ」

 

ジョージが私の頭を優しく撫でる。

 

「俺は、お前達が見ていてくれたら……誰にも負けない。お前が居てくれたら、良い男を演じられる」

「私は……アンタが、信じてくれたら……期待に、応えなきゃって思う」

「うん、信じてるよ、相棒」

「……アンタは、ズルいわ。思ったことぽんぽん言えるんだもん」

「そうか?じゃあ……お前の気持ち、聞かせてくれ」

「……私は、あの日から(リサ)になったわ。それは……後悔なんて無いし、私はずっと誇っていくと思う」

 

ジョージの手を取る。

 

「ねぇ、ジョージ。私、貴方を愛して良いの?」

「勿論」

「即答、ね……」

 

だから、私はジョージを信頼できる。

 

「大好き」

「ありがとう」

「好き……愛してる」

「俺もだ」

「ずっと、一緒に居て」

「ああ」

「ジョージ」

「リサ」

「私は、貴方のお人形。貴方の為に……勝利を」

「期待してる……さ、帰ろうか」

 

ジョージに手を引かれて、立ち上がる。

そのまま……ジョージの部屋へ。

 

勿論、一緒に朝を迎えた。

 

 




次回、最終回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。